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《ネタバレ》 第一次世界大戦で起こった青島要塞攻略戦は、この大戦で日本が唯一経験した陸戦でかつ日本とドイツが戦った史上これしかない地上戦でもあります。日露戦争での旅順戦の経験がまだ記憶に新しい時期でもあり、陸軍は慎重に攻囲戦を進めて大した損害もなく二か月で要塞を陥落させています。要塞に籠っていたドイツ兵はわずか五千人に過ぎず、補給線が切れた要塞は所詮は陥落するのが運命であり、ドイツ本国も死守させる気はなく捨て駒みたいな存在でした。 日本映画では多分唯一の第一次世界大戦の日本軍を題材にした珍しい映画です。若宮丸という輸送船に黎明期の航空機を積んで要塞攻略戦に参加したという史実を元にして、そこに虚実織り交ぜて『ナバロンの要塞』風の戦争アクションに仕立てたという感じです。やはりこの映画の見どころは実物大のプロップまで製作したモーリスファルマン機の見せ方でしょう。まるで凧にプロペラを付けたような頼りない複葉機で、向かい風になると地上の列車に抜かれるぐらいのスピードしか出ず、1000メートル上昇するのに三十分もかかる様な代物です。二機編隊で飛ぶときにラッパを吹いて意思伝達をするところなんかは、「ほんまかいな」と思ってしまいますがライト兄弟の初飛行からまだ11年しか経っいない頃ですからあり得る話でしょう。対するドイツ軍が運用するのはルンプラー・タウベという単葉機、確かにこっちのほうが遥かに軽快ですよね。ここまでは史実通りなんですが、日独機が空中戦をするのは完全なフィクション、実際には両機は二時間も追っかけっこしたけどけっきょく互いに射撃する機会はなかったそうです。 後半の要塞攻撃シークエンスは完全なフィクションですが、完全な『ナバロンの要塞』調の特殊部隊作戦ですけどけっこうスリリングな展開となっています。ディティ―ルにはそれなりの拘りは見られますが、第一次世界大戦初期でのドイツ兵のシンボル的なプロイセン型ヘルメットを、お馴染みのドイツヘルメットにピッケルを付けて再現しようとしているのは苦肉の策だったのかな。あとよく判らなかったのは中国人スパイ(なのかな?)役の浜美枝の中途半端なキャラで、あまりに尻切れトンボの脚本なので彼女の正体はなんだったのか気になって夜も眠れません(笑)。 青島のビスマルク砲台は加山雄三&佐藤允の活躍で無事に爆破成功となるのですが、もちろんこれはフィクションですが青島攻略戦における海軍活躍自体がそもそもフィクションなんです。史実では海軍は青島戦では海上封鎖が任務でしたが港内のドイツ東洋艦隊にはまんまと脱出を許し、この時に逃した軽巡エムデンは太平洋で大暴れをして戦史に名を残すことになるのです。陸軍は二百三高地で有名な28糎砲まで使って砲撃で要塞を粉砕し、映画にあるような突撃で大損害を出すことなく勝利しています。やっぱこのころはまだ、“海軍優秀、陸軍無能”というステロタイプな旧軍感がはびこっていたからなんでしょうね、その方が観客に受けたんでしょう。
【S&S】さん [CS・衛星(邦画)] 5点(2025-06-03 23:22:03)
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