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《ネタバレ》 設定やシチュエーションは違うとはいえ、犯罪で繋がったグレーな人間模様という点で『万引き家族』を思い出した。
後年のダルテンヌ兄弟の作品群と比べても細かいカット割りが目立ち、 全体の粗削りさが嘘臭さのない、イゴールの葛藤に対するリアリティに貢献している。 イゴールは、外国人不法就労者の斡旋、搾取している父親ロジェの命令には絶対で従属的であり、 自動車修理工の見習いも辞めざるを得なくなるほど。 一方で金のある老婆の財布をくすねており、今まで罪の意識すら感じなかった彼が、 アフリカ系難民のアブドゥの事故死を目の当たりにし、 亡くなる直前に「妻子を守る」という約束をしてしまったことで罪の意識に苛むことになる。 ロジェは違法な仕事を続けていくために時折、不法就労者たちの存在を内通者に知らせて警察に売ったり、 アブドゥの事故死を隠蔽して、その妻アシタに真相を悟られないために娼婦として売り飛ばそうと画策する。 そんな非人道的な行いに、イゴールは「これで良いのか?」と違和感を募らせて、 ついに絶対的な存在であるロジェに逆らって、アシタとその幼い子と一緒に逃避行を始めるのだ。 グレーな存在だったイゴールが自らの倫理観に基づき、 今まで一心同体で密接に繋ぎ止めていたロジェの支配から自分自身の人生を取り戻そうとする。 しかし、その勇気ある選択は大きな責任と代償を伴うものだ。 不安だらけで父親にいつ見つかって捕まるか分からない。 そして無事にアシタたちを親戚のいるイタリアへ送り出せるかというサスペンスが浮上する。 母親がいなかったイゴールがアシタを抱きしめる行動は、自ら"孤独"を選んだ彼の偽りのない本心だったのだろう。 血も人種も超えた、新たな繋がりと信頼関係。 イゴールの告げる真相を聞いて、アシタは無言で駅のホームから踵を返し、三人は行く当てもなく歩いていく。 この中途半端とも言える着地点、安易な希望を与えないダルテンヌ兄弟らしい。 突き放したロジェの元には二度と戻れず、今まで以上に苦しい生活が待っている。 事故が明らかになれば、イゴールの服役も、アシタ親子の強制送還も免れないだろう。 ただ、共依存的な親子関係と、犯罪が引き継がれる負の連鎖を断ち切ったとも言える。 「困った難民を助けている、差別から守っている」という某団体の意見をテレビを見ていると、 本当に彼らのためなのかと訝しくなる。 真の優しさとは、人道とは、ネットのエコーチェンバーのように白黒つけるものではなく、 今までの積み重ねから自分自身に問いかけることである。 【Cinecdocke】さん [インターネット(字幕)] 7点(2025-06-14 21:54:05)
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