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1. 抱擁のかけら
《ネタバレ》 異様に嫉妬深い男をめぐるサスペンス、って部分では堪能した。読唇術の場面はもちろん、ホテルのベッドの上で死んだふりして捻じれて横たわっているあたりの、滑稽の極みのグロテスク、あるいはグロテスクの極みの凄惨。ちゃんと階段落ちもあり、嫉妬話だけに絞ればきれいに仕上がった映画だろう。しかしおそらくきれいすぎて現在の作品としては、いささか古典的という印象になっただろう。そこに余分なものが付着してコッテリし、焦点が曖昧になってくるところが、たぶんこの監督の味なんだ。主人公のとこに資本家のせがれライ-Xってのが訪れるところ。主人公はドアの覗き穴から来訪者を確認する。ややっ、実は目が見えているという設定なのか、とハテナを引っ掛けておいて、特別あとにハッキリさせてくれない。医者が失明です、と診断するシーンもちゃんとあったが、彼が自分の意志で映画監督という職業から退場した、という含みも残しているような。この曖昧さで膨らまされた世界の居心地の悪さ、暖色系のニコゴリの中にストーリーが漬けられているようなボンヤリ感、きっとそれがたまらないという悪食好きにとっては、蠱惑的な映画なのだろう。[DVD(字幕)] 6点(2011-02-24 09:47:51)
2. ボーン・アルティメイタム
《ネタバレ》 巨大な組織と個人の対比を見せるためにこのシリーズがしばしば採用するのは、監視網の中で逃げ切る主人公。同じような趣向の繰り返しではあり、CIAがマヌケに見える
ギリギリの線なのだが、サスペンスとしては楽しい。本作では、ウォータールー駅のシーン。携帯で指示を出しながら、ボーンと記者が動き回る。へたなアクションよりも、映画の楽しみが満ちていた。そこでしゃがんで靴の紐を結び直せ、とか。周囲に配置されたカメラの目と、個人とのかくれんぼ。敵が潜んでいるかも知れない群衆だが、そこに隠れることもできる群衆の海。終盤、アメリカに帰還してからは、CIAのオフィスががら空きとか無理が目立つが、その「いよいよアメリカに帰ってきた」という舞台設定自体が、「大詰め近し」のワクワク感を盛り上げてくれているので、許そう。シリーズ全体としては、マリー、ニッキー、パメラと、主要女性キャスティングにハリウッド的美人をいっさい排除した姿勢がよろしい(M・デイモンに合わせたのか)。どれも「美人」としてでなく「顔」としてインパクトがある。ラストのニッキーの笑顔なんて、アン・ハサウェイだったらちっとも効果なかったでしょ。[DVD(吹替)] 7点(2010-08-05 09:42:07)(良:1票) 《改行有》
3. ボルベール/帰郷
《ネタバレ》 東風が人を狂わす、と最初にことわりを入れたことで、全体に古典喜劇のような柔らかなトーンがかかった。かなり悲惨な事件を扱いながら、刺々しくならない。姉と妹が、それぞれ“死人”について隠し事をしながら探り合うあたりのおかしみなど、こういう素直な映画も撮れる人だったのか、と見直した。いつもはそれがかえって落ち着かなくさせる暖色系に埋め尽くされる世界も、今回はそのまま暖かさととっていいような気になる。それにしてもアルモドバルに出てくる男はしょうがないな。ペネロペ・クルスの亭主にしろ、登場はしないが父親にしろ、女たちの世界の邪魔ものでしかない。祖母から孫までの三代の女、近所のかみさん連中も含めての女たちの世界の闊達な連帯の前で、邪魔ものの男どもは、桃太郎で退治される鬼の役割程度の存在。朗々と歌われる女性賛歌を、男は黙って聞くしかない映画だ。母親はお墓で眠ってなんかいない、千の風になんかなってない、風は人を狂わせ、母親はベッドの下に隠れて目玉をぎょろつかせてる。[DVD(字幕)] 7点(2008-03-27 12:16:52)(良:2票)
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