|
1. ダメージ
「麒麟も老いては駑馬に劣る」という言葉があるが、ルイマルも老いちゃったんだね。
育ちのいい品とセンスの良さを併せ持った、好きな監督さんなんだが、もはや「プリティベイビー」とか「ルシアンの青春」のような鮮烈な映画作りからは離れてしまって、なにかゴタゴタと無理してる感が強い。
女優のせいなのか、男優のせいなのか、そもそも一目ぼれする気持ちが、説得力がない。無理やり一目ぼれという筋を追っているだけ。
それに目をつぶって一目ぼれ話に乗るとしても、安物のテレビドラマじゃあるまいに、女が兄との近親相姦話をぺらぺらしゃべって説明。これで、複雑な家庭の悲しい女です、と思わせようとする安直なつくりはいただけない。
それに、いったんは妻も息子も捨てる決意をして女に向った利己的な男が、息子が死ぬと女をほっといて息子に駆け寄るというのも?と思う。それが息子の死によって現実に引き戻された結果というなら、その後また女を探して訪ねて行くのも腑に落ちない。どっちに話を持っていきたいのかと思う。
また、息子の死と情事が明らかになったら、後は離婚→家族解体は分かり切っているのに、なぜわざわざ奥さんが旦那をなじって嘆く、紋切り型の芝居を長々と見せる必要があるのだろう? 蛇足もいいとこ。
一番、無理があったのは、ギッタンバッタンとアクロバットのような不自然な二人のセックスシーン。しらける。[DVD(字幕)] 5点(2015-11-17 22:59:11)《改行有》
2. 山羊座のもとに
確かに、ありわせのビデオをデジタル化したような最悪の画質。へんな雑音も入ってるし。
この映画にヒッチコックのいわゆるどんでん返しに次ぐどんでん返しのサスペンスを期待すると失望する。
イングリッドバーグマンの精神を患ってるのかと思ったら、ただの酔っ払いだったという演技のまずさもイマイチ。
ではなぜそんな作品が9点かというと、それはひとえにヒッチコックの群を抜いた演出力に捧げた点数。
これはサスペンスというよりは、愛憎劇だ。
それもイタリアの巨匠ヴィスコンティなどが描く愛憎劇に似ているが、ヴィスコンティなどよりはるかに演出技巧が高度。
ワンカットで、外から女中部屋を通ってダイニングへ、さらに居間へ移動して、またダイニングへもどってくるとか・・・
どうやって撮ったんだろうとおもわれるような、あのワンカットの息の長さ。しかも息が長いだけでなく
登場人物の心理に合わせて巧みにカメラサイズを変え、役者を自在に出入りさせている人物さばきのうまさ。
こういう卓越した演出が自然の流れの中で随所に見られ、愛憎劇に深みを与えている。
普通ならこれは重い悲劇に終わる話だが、それをしないで軽いハッピーエンドに終わらせているところが、
いかにもヒッチコックらしい。
結局ヒッチコックは、どんでん返しのサスペンスストーリーに頼らなくても十分重量級の悲劇を撮れる巨匠なのだが、
生涯、観客へのサービス精神に徹した、超一級の職業監督だったんだな、と思った。[DVD(字幕)] 9点(2015-11-16 15:06:48)《改行有》
3. アイズ ワイド シャット
いい映画だったねぇ。
いかにもキューブリックらしく、どこにも破綻なく流れるようなきめ細かな映像が素晴らしい。
明りの使い方が抜群で、売春宿、ジャズバー、上流階級の乱交パーティなどなど、場面ごとに工夫された光が自然で美しい。
あとになってああそうかと思い当たる、伏線の張り方も見事。
観客は、トムクルーズに誘われてトムクルーズの心のままに見事に疑心暗鬼に陥る。
そして最後に・・・・・・・
これ以上はネタばれになるので書けないが、
一言でいえば、これは夫婦の愛情を真正面から描いた話。
だから最後のセリフ「ファック」は、こう言うだろうな、と予想できたw
惜しむらくは、ニコールキッドマンの、いかにもありがちな泣きの演技が、重ったるくてうざかった。
でマイナス1点。
最後まで一級品の映画を撮り続けたキューブリックだが、今後は見れないのかと思うと、つくづく残念。[DVD(字幕)] 9点(2015-10-03 22:31:09)《改行有》
|