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1. キプールの記憶
《ネタバレ》 朝方、非常事態宣言下にある無人のイスラエルの街。陽の光の滲む地平線から姿を現すヘリ。
土地の空気を的確に掬い取るレナート・ベルタの撮影がやはり素晴らしい。
本物の雨なので雨滴は画面に映らないが、雨の質感と湿潤の感覚ははっきりと伝わってくる。
ヘリからの圧巻の空撮がある。戦車が残した無数の轍がぬかるみとなって緑の平原に延々と広がっている。
冒頭の絵の具塗りたくりにも相通ずる、緑と茶の網目状模様とその堆積が、戦乱の激しさとともに歴史をも意識させる。
あるいは、数人がかりで負傷者を運ぼうとするがなかなか捗らない様。そのもどかしい時間の重みこそ
アモス・ギタイの伝えんとするものだ。[DVD(字幕)] 7点(2015-11-18 23:56:11)《改行有》
2. 戦場でワルツを
「曖昧な記憶をたどる」ドラマと、「くっきりはっきり」細部まで鮮明なタッチのアニメーションは違和感、大である。主題と形式が噛み合っているように見えない。シンプルに黒くつぶした人物の影が記憶の暗部を仄めかすのは了解するが、描画の細密さが逆にイメージの広がりも損なっているように思う。輪郭をぼかしたノルシュテイン風のタッチこそこの映画にはふさわしいのではないだろうか。動画が抑制的である上、技法的必然性が感じられないこともあって、総じてアニメーションとしての印象度は薄い。結果的に実写のインパクトを強調するための便宜的な引き立て役として機能してしまうのだから、尚更だ。
[映画館(字幕)] 5点(2010-02-08 19:32:33)《改行有》
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