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1. サブスタンス
エロとグロは文句なし。ラストはちとしつこいかなと思ったが、悪くはない。これがやりたくて作ったんだろうし、よしとしよう。
残るは恐怖。お化け屋敷のような驚かしはなく、特殊メイクで迫ってくる老いと衰えがメイン。だがそれ以上に心を寒からしめるのが、デミ・ムーアの演じる初老の寂しさだ。
美しさと輝きを取り戻したくてサブスタンスという〝麻薬〟に手を染めるという説明だが、真の原因は孤独だろう。
劇中の彼女の生活は無だ。一緒に食事に行く友人も、職を失ったことを愚痴る相手も、心配してくれる知人もいない。現場の関係者、隣人、お掃除のおばちゃんともコミュニケーションはない。
華やかだったころに近づいてきただろう人々はどこに行ってしまったのか。豪華な部屋の中の空虚な毎日。キッチンにある一人用のテーブルも物悲しい。何かに救いを求めたくなる気持ちはよくわかる。
現実の我々のそばにも〝サブスタンス〟はころがっている。ロマンス詐欺や投資の誘惑、陰謀論やフェイクニュースなどなど。心のすきを狙ってくる悪魔はいくらでもいる。
結局、助けてくれるのは世間と友人なのかな。老人よ、スマホを捨てよ町に出よう。アレクサやChatGPTを話し相手にするようになったら、終わりだぞ。
そして帰ったら口直しにゴーストを見よう。しかし、よくこの役を引き受けたな。[映画館(字幕)] 7点(2025-05-28 17:39:23)(良:1票) 《改行有》
2. ファーザー
映画館だから最後まで観られたが、家だったらおそらく途中でやめていただろう。話が進むにつれ、母に対する申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
私の母も認知症で一人暮らしができなくなり、わが家に来て、施設に移り、最後はホスピスで6年前に亡くなった。彼女の心象風景もこんなだったのだろうか。
「覚えてないの?」「もう忘れた」「さっきも言ったように」―。なんで、こんな言葉を何度も口にしてしまったのか。困惑した母の表情が脳裏によみがえる。物がなくなったとか、家に帰りたいとか必死に訴える姿に苛立ったり、苦笑したりした自分に腹が立つ。もうやり直すことができないだけに、つらく、悲しい。
映画の話をすると、アンソニー・ホプキンスはアンソニーを演じているのではなく、アンソニーその者にしか見えなかった。大俳優に逆に失礼かもしれないが、ドキュメンタリーを見ているようだった。次々とわが身に降りかかる、理不尽で理解不能な出来事の数々。何を言っても否定され、時には怒り、時には泣いて、それでもすべてを受け入れるしかない。ありのままの認知症患者がそこにいた。
認知症。矛盾と不条理に満ちた、時の牢獄にとらわれた日々は、どれほど苦しいか。想像すると、背筋が寒くなる。やがて自分もそうなることを思うと、正視するのが苦しくなる。
身内に認知症患者を持ち、似たような体験をした人は、本作を冷静に観ることはできないだろう。映画好きの女性の友人は「アルツハイマー病の父と娘…、10年ほど現実だったので、観られないですね」と言っている。ほかにも同じ思いの人は多いはずだ。
ただ、父母が元気な方、認知症でもまだ深刻でない方、そんな人たちにはぜひ観てもらいたい。私のような悔いを残さないためにも…。[映画館(字幕)] 8点(2021-06-14 17:01:44)(良:2票) 《改行有》
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