|
プロフィール |
コメント数 |
48 |
性別 |
男性 |
自己紹介 |
小津と是枝はブラックリストに入っている |
|
1. サウルの息子
《ネタバレ》 最初から最後まで続く緊張感に引きこまれた。
特筆すべきところは少ない。アイディアや筋書きも既視感のあるものだし、露骨に詩的なカットも存在しない。
だが各シーンの造形の上手さが、そこらのリアリスティック"コント"とは違った切迫感を表現していた。
起承転結のような流れはない。ある一線が最初から最後まで図太く引かれる。
最初の5分も最後の5分も、劇中から抜き出した任意の5分と同等の価値をもつ、それだけの濃密な表現を成し得ている。
この無個性の良品、そして手に持ったオルゴールのような実感を伴う重たさ。
2015年に作られた作品にしては古典的な匂いが強すぎるきらいはある。絶賛するには地味すぎて、批判するには上質すぎる。
筋書きの分かりやすさから、アカデミー賞を受賞してしまったが、分かりやすさを追って見る場合この作品に魅力は感じない。[DVD(字幕)] 8点(2019-04-19 20:06:41)《改行有》
2. ニーチェの馬
《ネタバレ》 たとえば、トリノの広場での「ニーチェと馬のエピソード」の描写が、続く「ただ馬が嵐の中を突き進むシーン」と響き、尋常でない迫力を生み出している。そのような各シーンの響きが最後まで途切れずに続いていった。
正直なところ、この映画のシナリオにはつまらない発想が多い。じゃがいもを食べる量が減っているだとか、酒を飲む量が増えるなどといった方法で反復性からの脱却を示唆するのはあまりに勿体無い。このことは映画の中核を担う「終末への過程」についても同じように言える。反復性というのはそれ自体が幻想なのだから、一見変化のない生活であっても絶対的な意味で全く違ったものなのだ、という地点で看破されるべきだ。そうでなければ「ニーチェと馬」のエピソードを引用した意味がない。
ただし確かにこの映画に描かれた中には無為な生活を不満も言わず繰り返す父娘というイメージがはっきり描かれており(枯れた井戸を見て「ちくしょう」と呟き面倒臭そうにきっぱり移住の準備をしては、結局諦めて戻ってきたり、突然世界が暗闇に包まれても寝ようと呟きベッドに潜り込んだり)それがある意味で終末をも、終末と感じさせないところで本監督の意図したかもしれない結末とは違った奇跡的な「永劫性」を導き出したように思う。それにはこの監督特有の「長回し」の効果も大きく加担しており、欠点を持ちながらも「人は死んでも生き続けるんじゃないか」といったイメージを観たものへ刷り込むような、凄まじい作品に成っている。[DVD(字幕)] 10点(2019-03-12 01:46:42)《改行有》
|