みんなのシネマレビュー |
| スポンサーリンク
1. ハッピー・デス・デイ 《ネタバレ》 頭も尻も軽いブロンドちゃんが何度も何度も殺されるタイムリープものな本作は、本筋の犯人捜しサスペンス部分も全体的にまずまずと言える出来なのだが(ラストの二重ドンデン返しは結構出来が良いと思う)、特に面白いのは中盤、殺され過ぎてヤケクソになるバカビッチと、犯人が分かった(と勘違いした)ことからまるで神の啓示でも受けたかの様に真人間と化して人に優しく人生を謳歌するバカビッチを、主演のジェシカ・ローテが素晴らしく好演している部分である。本作には怖がらせるようなホラー描写と言う程のものは無く、ホラーでは無いと思うが、サスペンス・コメディ部分は相当面白い。観て損は無い良作。[インターネット(字幕)] 7点(2019-11-26 21:40:00)(良:4票) 2. ゴジラ-1.0 《ネタバレ》 記憶に新しい監督の『ユア・ストーリー』も、私自身は途中まではかなり楽しんで観れていたのですが、最後の最後に妙な捻りを入れるから台無しに…という感じだったのですよね。んで、今作もそもそもタイトルの『-1.0』がどーにもその手の(余計な)捻りにも最初から見えてしまってたので、正直言って鑑賞意欲がイマイチ湧かなかったのです…が観てみると思いの外非常に楽しめました。娯楽作として、ドラマ部分はごくベタだったと思いますが、それも含めて全体としてごく非常に手堅く・かつ好く纏まった作品だったと思います(怪獣映画としても)。その怪獣映画としての側面においては、特に『シン・ゴジラ』でも根幹であった(+何なら初代ゴジラから受け継ぐ「原点」とも言える)戦争の象徴=人類の敵としてのゴジラをどうやって倒すか、というコンセプトの部分はまたそのまま使って⇒それでもその倒し方&状況設定の部分に更にユニークなアイデアも十分に積めていたと思いましたし、加えて怪獣映画としてのビジュアルの部分が邦画としてこれ以上無い位に好く出来ていた・迫力満載だった、というコトで、重ね重ね楽しくハラハラと観終われました。是非大スクリーンの映画館でどーぞ。 評点自体は、それでも『シン・ゴジラ』よりは一点下げてまして、理由の一つは超・単純に私自身があの「庵野節」がごく好みだというトコロの個人的嗜好の問題ですね。もう一つは、娯楽映画的な観易くハイ・クオリティな質感の映像が出来ていたとは思うのですが、一方でやや小綺麗すぎてリアリティに欠ける部分があって、コレだとちょっと(怪獣映画としては好いケド)戦争映画には見えない…と思ったのですね⇒その上で、内容的に戦争映画側にかなり深く足を突っ込んでいる感じだったのでそれがちょっと違和感に…というコトです。そこを踏まえてのこの点数としてます。 ※蛇足:とは言え、書くかどうか迷いましたがもう一つダケ、上記のとおり私も今作、途中からは完全に娯楽映画として観るコトに徹して居たので敢えて気にしない様にもしていたのですケド、それでもやはり描かれる最大の「テーマ」に関しては、正直あまりしっくり来なかったのですよね。生き残るのが何より大事、とゆーて、一つの考え方として別にそこに異論はありませんが、それでも今回はかなり高度に「たまたま」生き残るコトが出来たダケであって、だから今作はそれを「結果で語ってる」様にしか私には見えんのです。私は、それは「理念」ではなくて「綺麗事」だと、どーしてもそう思ってしまうのでありますね。[映画館(邦画)] 7点(2023-11-07 12:22:57)(良:3票) 《改行有》 3. シャイニング(1980) 《ネタバレ》 ホラーと言うよりビックリ箱な驚かし系や、ただただ大袈裟に禍々しいだけのモンスター系な恐怖描写が蔓延る昨今のホラー映画を観飽きてくると、本作のホラーとしての素晴らしさが良く理解できるというものである。幻覚・幻聴と現実が綯交ぜになった映像空間(敢えて双方の質感を全く同じにすることで、その混ぜこぜ感をより増している)を用いて、何が起こっているのか、何が真実なのかが分からないというシンプルで基本的ながら非常に強力な不安・恐怖を巧みに醸し出すとともに、狂気に陥るジャック・ニコルソンをしてこれも何を考えているのか、何を仕出かすのか分からないという「危険と謎」の恐怖が見事に演出されている。 特にニコルソンの「腹に一物有る」感じ(それは狂気から来る憎悪・殺意その他ではあるが)、そして腹に一物が有りつつも最後の一葉でそれを封じ込めている感(この感じが正に導火線に火の付いた爆弾の如き危険人物感を醸している)と、終盤、終に爆発する狂気の演技は一世一代の名演と言える。加えて、実はシェリー・デュヴァルの怖がる方の演技(それは機嫌の悪い夫を恐れるシーンでも、殺人鬼と化した夫に慄くシーンでも、果ては完全にパラノーマルな現象を目の当たりにしたシーンでも)はこれまた出色な出来。更に言えば、バーテンダーとグレイディの抑制しつつもやっぱりどこか超越的な(人外の)演技も非常に味わい深い。この演技の質の高さに加え、映像美・画的な部分のクオリティも一部芸術的とも言えるレベルに達していると言う完成度の高さ。ホラーとしては文句無しにオススメできる作品。[DVD(字幕)] 9点(2019-11-21 00:41:28)(良:3票) 《改行有》 4. 死霊館 《ネタバレ》 内容は極めてオーソドックスな悪魔祓いものなのだが、幾つかの映画として優れたポイントがあり、そこの積み重ねが平凡なホラーになりがちな題材をワンランク上の作品に引き上げている。 ①基礎的な部分として、展開運びも巧くてテンポ良く楽しめるし、ホラー演出・怖がらせ方もかなり巧い方(流石のホラー監督としての手腕) ②悪霊の暴れぶりは思ったより強烈でややマイルド系のホラーにしては新鮮味がある ③見るからに非常に善人で、かつ人間的な弱さも有るオシドリ心霊夫婦のキャラ設定がとてもグッド ④最後に家族の愛が勝つというホッとできる良いラスト コンセプトが平凡でも、細かい部分を色々とコツコツ丁寧につくり込むことで、十分に良い作品はつくれるのだと改めて実感する。まあ、誰しもがそういう精密な仕事が出来るかと言うと言うよりよっぽど難しいんだけど(特にホラー監督は志の低い人が多いから…)[インターネット(字幕)] 7点(2019-11-29 00:55:27)(良:3票) 《改行有》 5. プリデスティネーション 《ネタバレ》 シンプルに面白かったです。前半の得体の知れないジェーンの話も、サラ・スヌークの不気味な雰囲気が好いのと、お話自体が中々高度に奇妙奇天烈なもんだから(前半から)かなり引き込まれて観れましたすね。唐突にタイムトラベルの話になって以降は、トリックの切れ味を最大限に生かした勢いのある展開運びが見事でした。いくつものドンデン返しの連続も非常にゴージャスですし、それでいてラストでも「してやられた」感はそこそこ高度で、まずまず以上に痛快に観終われた、というか。普通にだいぶん出来の好いSFかと。[インターネット(字幕)] 7点(2021-04-07 23:45:45)(良:3票) 6. イエスタデイ(2019) 《ネタバレ》 これは要するに、この国で近頃流行りの「異世界転生」の一種ですよね(私、漫画やアニメは殆ど追いかけてないので、最近のそーいうので観たこと読んだことあるのは『ドリフターズ』くらいなのですケド)。そして「知識」を持ち込むことで俺ツエ―!するうえでは、知的財産、中でも「歌」とゆーのは意外ながら好い着目点だと思います。専門分野のソレとゆーのは、よほど体系的に学習して応用が利くように実践も積んでいるとゆーならまだしも、素人レベルでは(色々と状況が異なるだろう)異世界で適応して活躍するのはかなり難しいでしょうし、同じ知的財産でも文学とかは本を数冊丸暗記でもしてないとまた厳しそうですし。歌とゆーのは、ひとりでも結構沢山持ち込めそうですし、基本自分が覚えていれば幾らでもどーにでも再現できますからね。日本の「なろう」作家さん達は「してやられた!」と思ったのではないでしょーか。 ただし、最強の切り札たる「知識」を持ち込んだトコロで、其処で幸せになれるかはまた別、とゆーのにも今作では納得しやすいです。ソレによって間違いなく「違う自分」になってしまう、このお話の中ではその変化のスピードも非常に急激で、結局主人公はソッチの方に適応できませんでした。でもそれは「やり方」の問題とゆーよりは「人の器」の問題、という様にも見えてですね…その意味では、今作とゆーのは平凡な人間が(予想どおりに)平凡で在り続けた、という私にとってはごく普通のお話に感じられました。誤解を恐れずに言えば正直、非常に部分的なアイデアは優れていたのだけど…とでも言いますか。 でも、そんな中でひとつ際立つのは、そもそものお話の根本である「ビートルズ」自体の偉大さなのだと思います(それは主人公が平凡であることで一層光り輝く様に感じられる)。ビートルズは確かに、己らの才能に身を持ち崩すこともなく、また世界的スターであることの重圧にも負けずに名曲を、歴史をつくり、また今もつくり続けているのですから。恐らくコッチの方こそが今作の真のテーマ、なのではないかと思いましたね。[インターネット(字幕)] 6点(2021-08-16 21:28:03)(良:2票) 《改行有》 7. ポセイドン・アドベンチャー(1972) 《ネタバレ》 ハックマンに唯々諾々と従うボーグナインなど観たくないし、逆もまた然りである。激しく衝突しながらも生き残るために肝心な部分では見事なチームワークを発揮するご両人は、物語に(見た目的にも)重厚さと、そしてリアリティを吹き込むことに成功している。本作はスペクタクルとしても十二分に優れた作品なのだが、この2人に限らず、随所に描かれる人間の描写にリアリティと重みがあり、それが本作で一番面白い要素だと率直に感じる。 ふだん、牧師が人々に説くのは神の言葉、つまりはそれが正しい保証など無いものだとも言える。船の実際の状態など分かろうはずも無い状況で、強引なまでのリーダーシップを発揮するハックマンが皆の一応の信頼を集められる理由は、彼の言っていることの正確さではなく、彼がただ皆を可能な限り救いたいと強く願う意志の正しさにあると言える。この部分も個人的には中々味の有る設定だな、と思った。[DVD(字幕)] 8点(2020-06-21 00:10:22)(良:2票) 《改行有》 8. ディック・ロングはなぜ死んだのか? 《ネタバレ》 とは言え、なんかこの話聞いたことあるな、と思ったら、ウィキにも記事がありますね(ワリと最近だった)。その意味では「事実は小説より奇なり」を地でゆく話でもあるのかと。 質感は『ファーゴ』にやや近いですかね。ただ、内容的にはアレよりも遥かにコメディに寄っています。一方で、そのコミカルさの大部分を形成している主人公の破滅的な愚かしさというものは、ちょっとコレが「突き抜けて」いて、もはやある種の哀愁をも醸し出しています。それは前述どおり根本的な部分が実話だ、とは到底思えないくらいにとでも言いますか(まあ、この事後の顛末というのは別に実話じゃないのでしょうし)。 しかしながら、彼にはそれでも大いに同情も出来るのですよね。とにかく発端の部分が論理的・理知的には「納得いく説明」というものからはかけ離れすぎている、なので、その後の諸々を小賢しく取り繕ったトコロで殆ど意味が見い出せない、ということだとも思うのですよ率直に。落ち着いて対処しよう、という状況からはあまりに遠く遠くに追い遣られてしまっている、のだと。 映画全体としては(その驚愕の)真相が明らかになった中盤以降、少しトーンダウンしてしまった、という様にも感じます。ただ、主人公が嫁さんに真相を打ち明けるそのシーンの嫁さんの顔(変顔)が個人的には忘れられないですね。「こんな時、どんな顔したらいいか分からないの」という意味では、この顔にすることを思いついた人(監督なのか女優さんなのかは知りませんが)というのは中々グッド・ジョブだと思いましたですね。ユニークな作品ですし、観ておく価値は十分かと思います。[DVD(字幕)] 6点(2021-03-13 19:33:41)(良:2票) 《改行有》 9. ゲット・アウト 《ネタバレ》 うーん…確かに比較的好く出来ている(纏まっている)とは思いますが、ソコまで高評価されるよーな作品でしょうか?根本的にはまずホラーではない様にも思えますし、少なくとも風刺とホラー・スリラーが半々、という作品だと思います。その(最低でも)片割れたるホラー面については、率直にかなり単純な話だと思いました。とどのつまりは、ターゲットとなる「黒人」と、狙う側の「白人(富裕層)」という構図が無ければ、ごく平凡な(よくある)ジャンル作品だ、という意味でです。 もし、今作の評価がこの「対立構図」自体(つまり「正義」の黒人と「悪」の白人、或いは黒人の「優秀さ」を羨望する白人)という部分に依拠するものであるなら、率直に言って私はこの作品を評価する側に与することはできないですね。白人が黒人に対して向ける嫌悪・憎悪は悪で、逆ならそれは善だ、などというコトがあるのでしょうか。そもそもこーいった「対立」を善(或いはカタルシス)として描くコト自体が、もはやダブルスタンダードだとは思われませんでしょーか? 個人的なポリシーとして、ホラーというジャンルの作品に関してそーいった本来「無用」な(社会的)テーマを必要以上に重視する、というコトはしないのが私のスタンスではあります。なので、今作はあくまで「ブラック・コメディ」+ホラー、として捉えるコトにして、そのブラック・コメディ部分が結論的には私にはハマらなかった(が、ホラーとしては前述どおり纏まってる)と判断したコトにして、この位の評価といたします。[インターネット(字幕)] 5点(2021-11-29 20:20:18)(良:2票) 《改行有》 10. シャークネード<TVM> 《ネタバレ》 サメが空から降ってくるという映画史上最大級のトンデモアイデアに加え、実際の展開も総じてド級にトンデモだらけだが、それをチープなCGに頼りながらも、色々工夫して何とか粗さ・目立つ瑕疵を最小限に抑え、見事な娯楽映画に仕立て上げたというある種の傑作。そもそもC級映画でしか採用不可能なアイデアだと思うので、これが「出せる最大限」の質である。 俳優陣も(C級映画なのに)本気の演技で違和感が全く無い(見事なプロ根性)。思い切ってバカになって皆が「今出来ることをパーフェクトにやり切った」素晴らしい映画。必見のC級。[インターネット(字幕)] 6点(2019-11-27 23:51:20)(良:2票) 《改行有》 11. チャップリンの独裁者 《ネタバレ》 本作の笑いは、スラップスティックな面を多分に含みながらも、大多数は本質的に「風刺」であり、抱腹絶倒と言えるとまではいかないのが正直な所である(ヒトラーのモノマネなどはかなり笑えるが、何回も登場するたびに爆笑できるとまではいくまい)。むしろ本筋は結構シリアスな物語であり、その意味でもコメディとして観ると少し違和感を感じるといって過言ではないと思う。 本作の真の価値は、映画でヒトラーに立ち向かったチャップリンの映画人としての「心意気」にある。同じことを成し遂げた人間は、現代に至るまで皆無なのだから。[DVD(字幕)] 9点(2020-01-19 15:43:02)(良:2票) 《改行有》 12. 追憶(1973) 《ネタバレ》 マッカーシズムを背景に、共産主義者で理想主義者な女性の悲恋を描く。序盤、ちょっとイタい娘に見える主人公が後半、困難な状況でも正義と信念を貫く姿を見ると、とても人間的に魅力の有る女性に見えてくるのは構成として優れている。この愛は言わば「時代に引き裂かれた」側面を持つが、ここの状況の理解が21世紀の日本人にはちと難しいかもと思ったり。 主演女優は美人でないのも含めて役にドンピシャだが、彼女の相手としてはレッドフォードはややイケメン過ぎる気がする。ただ、ラストの哀愁漂うレッドフォードの演技は素晴らしい。良作。[インターネット(字幕)] 7点(2019-11-20 21:32:52)(良:2票) 《改行有》 13. キサラギ 《ネタバレ》 これも、日本でしか撮れない映画だと思う。『十二人の怒れる男』に代表される密室推理劇が、日本のアイドル文化との奇想天外な融合によって、ごくシリアスなサスペンス要素をそのままに、若干のコミカルさとそして独特な世界観を加味した非常にユニークな方向に飛躍的進化を遂げたものである。サスペンス部分の展開運び、特にドンデン返しが目まぐるしく連続する部分の出来は率直に極めてよく出来ており、まず本作は推理劇として十二分に観る価値のある仕上りなのは言うを待たない。 その上に、中盤以降、異常なまでのテンションの高さで激高し、泣き喚き、取っ組み合いを繰り広げる様には、『十二人の怒れる男』には無かった独特のコミカルさ+また別の次元のシリアスさが生まれているが、これは、推しの為なら命を捨てることも厭わない日本のドルオタが集まった為ればこそリアリティを以て成立する演出なのであり、ここにまずオリジナリティを多分に感じ取れるのである(と言って、実はほぼ全員アイドル本人の身内なんだけれども)。 そして彼らが辿り着いた誰をも傷つける事の無い結論、特に小栗旬との「繋がり」の部分には、至誠為ればファンの想いはきっとアイドルに届く、という全日本人男子の「夢」が描き込まれている(本当に、ファンを命よりも大切にするアイドル、というのも、やはり我等の見果てぬ夢なのであろう)。正直私、ここにはちょっとホロリとしてしまった。 確かに、ラスト12、3分は丸ごとオミットしても構わない位だが、それを差し引いてもよく出来ている。必見。[DVD(邦画)] 9点(2020-06-13 00:17:23)(良:2票) 《改行有》 14. フライト 《ネタバレ》 航空アクションな序盤、ジャンキーな中盤、法廷劇な終盤、人間性を発露するオーラスと、中々に変わった展開をする点は先が読めなくてまあまあ面白いが、中盤がだいぶん長いことダルいのが映画としては玉に瑕。ただ、デンゼル・ワシントンの演技はまずまずだし(アクション俳優の面目躍如な序盤の緊迫シーンや、ラストシーンとかは言うまでも無く)、中盤までの内容からすれば意外と言える様な爽やかな鑑賞後感が残るのも悪くはない。一風変わった作品として、観ておく価値は有る。[DVD(字幕)] 6点(2020-04-19 01:08:06)(良:2票) 15. リトル・ダンサー 《ネタバレ》 比較的「よくある」話だとは思いますが、諸々含めて非常に上質な作品だと思いました。小学生・中学生には是非観て(観せて)貰えたら、というヤツですね。 自分の夢に目覚めた少年と、無理解な親…というテンプレート的ながら、より上質に仕上がっていると思われるのは親(父親)の方のキャラづくりですね。まず何より、見た目があまりにも怖すぎです…が、ソコからして非常に厄介な障壁となってゆくのかと思いきや、一番最初にブチ切れる時も(如何にも言いそうな)差別的な罵詈雑言を叫びたてるという訳でもなく、意外と抑制的な反応だったのが逆にちょっと印象的でした。要は、彼は本質的には分別ある大人なのであって、最終的には息子の強力な味方になってくれる、そのコト自体の爽やかさに加えて、その流れがウマいコト繋がってゆく部分がまず質が高かったなあ、と。 もう一つは、彼ら家族を取巻く街の状況の荒んだ感じですかね。80年代のイギリスの炭鉱町、かつ先の見えないストライキの真っ只中…とゆーことで、非常な高度でリアルな閉塞感が作品全体に漂っています。が、それが尚更に主人公が辿り着くゴールをまた爽やかで価値あるモノに見せていると思いますし、なんとゆーか「夢を持つことの意義は全ての人にとって平等だ(それだけが)」という様なメッセージにも感じられました。その意味でも、テーマの部分がより際立って価値あるモノに見えてくる(優れた)作品だったかと思います。[DVD(字幕)] 8点(2022-02-22 18:47:04)(良:2票) 《改行有》 16. ジョジョ・ラビット 《ネタバレ》 コミカルな側面を前面に出した宣伝がされていた様に思うが、コミカル要素が無くてもヒューマンドラマとして完全に成立する話の内容である。むしろ本作のコミカル描写は全て、戦争の狂気を具現化するものとして描かれている(ホロコーストをはじめ、子供までを体制賛美と殺戮に駆り立てていることそのものが笑えない喜劇だという)。本作が真に描き出さんとするものはもっと静かで、真摯だ。その意味では普通に結構マジメな戦争系ヒューマンドラマだった。 ただ、こういった重い題材をテーマにしながらも、生活感や種々の生々しさを極力排除&状況設定も単純化・抽象化したどこか寓話的な雰囲気に、表面上のコミカル要素を足し込んで、子役の無邪気さ・可愛さをミックスして練り上げた作品全体の空気は、実にポップで何とも楽しいのだ。それはきっと、本当に伝えたいものを(例えば子供にも)苦しむことなくすんなりと飲み込んでもらうためのオブラートのようなものなのではないかと思う。その意味ではとてもポジティブなアプローチだなと率直に感じた。 そして、そうは言ってもこの題材の映画を現代的でコミカルでポップ、かつテーマはマジメに仕上げるなど、常人に可能なワザとは思えない実に卓越した仕事だと言って間違いは無いだろう。そもそも、ホロコーストを描いた映画をビートルズで始めてボウイで終わるって、音楽感覚ヤバいでしょ。やはりこの監督には、底無しのセンスを感じる。[映画館(字幕)] 8点(2020-01-18 01:34:24)(良:2票) 《改行有》 17. 映画 聲の形 《ネタバレ》 主人公の再生と成長を、緻密なプロットと繊細な心理描写で丁寧に描く。リアルで深刻な内容ながら、真剣で前向きなメッセージを描き切っており、一つのヒューマンドラマとして文句無しに上等。映画観た後に原作も読んだが、必要な要素を取捨選択してコンパクトに纏めあげた映画版の仕上りは、決して原作に劣るものではないと思う。漫画でも映画でもよいので、是非。[映画館(邦画)] 9点(2019-11-21 21:23:35)(良:2票) 18. ヘレディタリー 継承 《ネタバレ》 かなり緩慢で(尺自体も少し長めだし)、加えて極めて居心地の悪い時間の中に鋭く鮮烈に出現するショック描写のクオリティは相当に高く、チープな驚かし系の小技とは一線を画して文字通り背筋が少しゾッとするような素晴らしい出来と言える。加えて終盤はそこそこ派手で見応えも有り、前述の居心地の悪さも含め、ホラーとして観るなら本作は十二分に良作であるのは言うを待たない。 しかしながら、どうも観終わって腑に落ちない感があったのは何故だろう。考えるに、実のところ本作はその前半1時間以上がパラノーマルな現象とは全く関係無く、問題を抱えた一つの家族を襲う悲劇を陰鬱かつ冷酷に描いていく構成になっている。その後、オカルトな展開から最終的には悪魔絡みのラストに落ち着くわけだが、前半の極めて居たたまれない(ある種極上の)ハード系ヒューマンドラマチックな展開が(これには、単なるホラーには少し勿体無いレベルの演技力を誇るトニ・コレットが、これまた妙に気合の入った渾身の芝居を披露しているという嬉しい誤算が大いに寄与している)、前述のとおりいつのまにかどっかに行っちゃって、ラストはごくごく平凡なホラー的結末に終着するという(ホラーとして)逆に話をつくり込み過ぎたための中途半端感が原因なのだと思う。 もし、本作においてホラー面に加えてヒューマンドラマ部分にも納得いく決着を見出すということが出来ていれば、それこそ本作は『エクソシスト』に匹敵する傑作となったかも知れないと個人的には考えている。監督の次回作に大いに期待する。[映画館(字幕)] 7点(2019-12-15 23:18:37)(良:2票) 《改行有》 19. 回転 《ネタバレ》 大昔に観たときは、率直によー分からん映画だと思ったのですね。それは、この映画を単純に幽霊映画・ホラーだと思って観ていたからだった、と思うのですが、今回、原作を読む機会があったのでそれを機に観直してみました。 そもそも原作と言うのは、幽霊がメインの要素である以上は間違いなく怪談の類いなのですが、その中でより注力して描写されるのは主人公の心理的葛藤、すなわち、思わせぶりな態度を取り続ける子供たちが実際に「黒なのか白なのか」という部分の疑心暗鬼、或いはグロース夫人との関係性(協調または敵対)の部分に生まれる緊迫感であり、そういった主人公の不安・不穏な感情を描くものとしては確実に(心理的)サスペンスという方が適切なのです。その観点からすると、非常に控えめな幽霊自体の描写、端的なデボラ・カーのヒステリックな感情表現、豪奢ながら寂寥とした屋敷や物悲しいオルゴールの音色が形づくる全体の陰鬱な雰囲気、結局白黒がハッキリしない不可解な結末、といった部分の仕上げ方・出来映えを勘案しても、確かにこれは比較的優れている・的確な方の文芸映画だと言えるのではないかと感じるのですね。 ただ、よく言われることですが「小説(原作)か映画か」という観点で言うと、今作は原作と比較すると実は色々随分と簡略化されている、という部分に若干の残念さを覚えるのも事実です。子供たちに対する主人公の猜疑心というものは、原作では非常に地味な描写の繰り返しによって(最初から最後まで一貫して不穏な空気に包まれつつも)極めて緩慢に形成されてゆくのであり、それが彼女の最終的な狂乱状態に説得力を与えるとともに、その長きにわたる「不穏さ」を味わう、という意味でのサスペンスの醍醐味を同時に生み出しています。が、映画の方は率直にそれが全体的に結構にアッサリしたものに変わっちゃってて、小説を存分に楽しんだ身からすると少しばかり物足りない、という感じなのですよ。 その意味で言うと、映画では特にグロース夫人との関係が非常に軽い描き方になってしまっているのがだいぶ気になります。ジェスルの幽霊がフローラにもグロース夫人にも見えなくて、結果フローラとの関係性が瓦解する場面というのは、同時に唯一の味方であったグロース夫人との協調関係が反転するという点で小説ではココイチ衝撃的な場面だったと言えるのですが、映画ではそれが残念ながらそーいうものにはなっていないのです。そういった部分も含めて(前述どおりかなり上質な映画化だとは言え)やや原作の持つ「ウリ」というものが分かり難くなっている映画、だとも言えるかと思うのですね。 とは言え、全体としてはまま悪くない出来だと思います。私の本当のオススメは小説の方ですが、こちらも決して観て損も無いかと。暇なら是非。[DVD(字幕)] 7点(2021-04-29 09:49:38)(良:2票) 《改行有》 20. レイニーデイ・イン・ニューヨーク 《ネタバレ》 アレン作品としては比較的クセの少ないシンプルめのロマンチック・コメディに仕上がってますが、そのジャンルとしては素直にかなり楽しく観れる作品だと思いますし、それでいて監督の個性とゆーのも大いに発揮されている非常に手堅い良品だと思います。個人的には、特にこの気怠い雨に包まれたまろやかな雰囲気というものが(監督の他作品と比較しても)とても心地好かったですね。そこは流石だなと。 ティモシー・シャラメにせよエル・ファニングにせよ、実際にまだ非常に若い俳優さんですし、若々しい、というよりは少し幼い、というか、しかしそこから生まれる微笑ましさとゆーのが本作の好ましい雰囲気の醸成に一役買っていたと思います。特にエル・ファニングの邪気(と頭の中身)の感じられない「純真」な感じは個人的に絶品でしたね(それでいて随所でかなり気合の入った「練った」演技を見せてくれたとも思いますし)。この作品が彼らのキャリアで無かったことになってしまうのは、やはり少し勿体無い。[DVD(字幕)] 7点(2021-03-11 22:19:53)(良:2票) 《改行有》 |