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121. 12人の怒れる男(2007) 《ネタバレ》 まず最初に言っておきたいことは、この作品は、1957年のアメリカ映画の名作「十二人の怒れる男」のリメイクであり、しかし同時に、ロシア映画としてのオリジナルであるということだ。 それは、同じ「素材」を元に映画を作ったとしても、制作される“国”と“時代”が違えば、これほどまでに“異質”な映画となるということを、雄弁に物語る。 安易に評決が出ると思われた或る殺人事件。陪審員として集められた名も無い12人の男たち。それぞれが個性的な人格と、思想を持ち、審理は思わぬ方向へ混沌としていく。 その様自体は、オリジナルに即したものであるが、集められた12人が、あらゆる民族の集合体である現代の“ロシア人”であることで、オリジナルにはない別のタイプの深みへと突き進んでいき、とても興味深かった。 特に関心が引かれたことは、あまり馴染みの無い“ロシア人”自体の気質だった。 基本的には感情を押し殺し、突如として感情を爆発させる様は、ロシアという国に生きる人間の本質的なプライドと、ある意味での“危うさ”を感じた。 僕自身が、もう少し現代のロシア事情に精通していれば、それぞれの独白のエピソードに対しもっと真実味を感じることができただろうと思う。 そのロシアという国の社会性と国民性を全面に押し出したからこそ、辿り着く結末には、オリジナルを観ていたからこ味わえる良い意味での裏切りがあった。 単純に1957年のアメリカ映画に対する面白さを比較するのではなく、現代のロシア社会を描いた一つのオリジナル作品として、堪能するべき上質の映画だ。 [DVD(字幕)] 8点(2009-02-15 02:23:45)《改行有》 122. JUNO/ジュノ 16歳で妊娠をしてしまった少女の等身大の姿が、いろいろな意味でとてもナチュラルに描かれた映画だった。 少女のある種とても生々しい感情や葛藤をダイレクトに描きつつ、映画としての核心は、少女を含め「妊娠」という現実に直面した周囲の人々の“不完全さ”を、時に辛辣に、時にあたたかく表現している。 結局、大人になりきれないのは、十代の少年少女たちだけではなく、「大人」そのものも、同じように未成熟であって、だからこそ幸福に結びつく事もたくさんあるということが、この映画の真意ではないかなと思った。 この映画の中で描かれるすべてのことが正しいなんて思わないけど、人間なんてものは、ああやって間違ったり、悩んだり、泣いたりしながら、少しずつ成長して、生きていくものだと思う。 目新しい奥深さはないけれど、展開されるストーリー以上に、物語るものは大きい映画だ。[映画館(字幕)] 8点(2008-06-14 18:20:22)《改行有》 123. ジャンパー 《ネタバレ》 「ジャンパー」なんて至極“単純”なタイトルを掲げるだけに、ストーリーの深みなど端から期待すべきではないし、期待はしていなかったのだけれど、想像の範疇を超えて、薄っぺらい映画だったと言わざるを得ない。 そもそも主人公のキャラクター自体に、一つの映画を率いるだけの魅力や深みが備わっていないことが、最大の問題だと思う。 ストーリーの深みなんてなくても、主人公のキャラクター性だけで娯楽映画として成功している映画は沢山ある。要は、観賞後に何も残らなくともせめて鑑賞中は繰り広げられる映画世界に“楽しみ”を見出せられることが重要なのだが、映像の派手さのわりにどうにも痛快性に欠ける映画だった。 ただただ繰り返されるのは、ジャンパーという特殊能力者とそれを追う組織との“追いかけっこ”。それならそれで、ひたすらに“追う者”と“追われる者”との対決を描き連ねればまだシンプルなB級娯楽として仕上がったかもしれないが、映像的な見せ場は、能力者同士のやり取りが中心でストーリーの核心に触れてこない。 これではただ世界中の色々な場所でロケーションを繰り返し、格好良く仕上げたプロモーションビデオである。 なんかコレ、端から三部作構成にするつもりらしいが、“ジェイソン・ボーン”シリーズのような成功を期待しているとしたら、酷く浅はかな話だ。[映画館(字幕)] 2点(2008-03-22 02:46:12)《改行有》 124. ジャケット 《ネタバレ》 精神的な時間移動を主題としたサスペンスというと、どうしても一昨年の「バタフライ・エフェクト」がよみがえる。あれがあまりにも素晴らしかったので、“二番煎じ”という感は拭い切れはしなかったが、それはそれとして中々に面白いストーリーだったとは思う。 湾岸戦争での頭部負傷が原因だったり、ヒロインとの関係性の深まりが唐突過ぎるなど少々強引な点はあるが、エイドリアン・ブロディのあまりに絶望的な目つきの前には勘弁するしかない。 雪に包まれた寒々しい空気感が全編にわたり広がり、そこにあらわれるのが不気味な“拘束衣”と死体安置の“引き出し”。当然主人公は悲鳴に包まれるが、そこからまさに文字通り「未来」が見えてくるという趣向は斬新だ。 ただやはり、ストーリーの掘り下げ部分が浅く、結果的にはあまり説得力は残らないのは残念なところ。 映画の雰囲気の一貫性と統一感に救われていると思う。[DVD(字幕)] 6点(2007-01-14 00:59:24)《改行有》 125. ジャーヘッド 戦場現地の奥地で王国を築いたり、悲痛な戦場の惨劇の中で“生死”に対する感覚が麻痺しまっていくというような、仰々しいことだけが“戦争の狂気”ではないということを、この映画は雄弁に語る。 言うならば、「戦争」そのものが「狂気」であり、そこにそれ以外のものは無いのではないか?だからこそ、誰も死ななくても、誰も殺さなくても、“狂気”は生まれ、そこにいる者たちを急速に蝕んでいく。 ライトなテンポで敢えて感情的にならずに、主人公たちの心情の起伏を描き出すあたりに、サム・メンデスの流石の演出力が冴える。 テーマ性としては、映画によって散々描かれてきているもののようにも見えるが、「戦争」という「狂気」の“普遍性”とでも言うべき“何気なさ”を描いたこの映画は、非常に独特だと思う。[映画館(字幕)] 8点(2006-09-13 00:11:54)(良:1票) 《改行有》 126. シン・シティ どこまでも果てしなく“遠慮”がない映画というものは、それだけで素晴らしく、偉大である。 徹底的に造り込まれ、限りなくキワどく、限りなくクールな映画世界に圧巻という言葉すら出ない。ひたすらに血生臭く、非道なこの街の空気感を彩る豪華な俳優陣それぞれのパフォーマンスと、悪趣味とスタイリッシュさとの絶妙な塩梅をこれでもかと見せつける映像感覚が凄まじい。 圧倒的なテンションの連続を見たかと思うと、描かれるストーリーは極めて繊細で切ない。まさに「こんな映画みたことない!」と断言するにふさわしい映画が誕生したと思う。スゴイ。 これは、ロドリゲス流超ハード“パルプフィクション”だ!![映画館(字幕)] 10点(2005-10-01 19:04:14)(良:1票) 《改行有》 127. 十戒(1956) 映像の技術的には明らかに陳腐であるのに、その画面から今尚ものすごいパワーが溢れてくる。黄金時代と言われた当時の娯楽映画界のエネルギーがそのまま注ぎこまれているように感じる。もはや50年近くも前の映画である。スゴイ。アメリカの娯楽映画の歴史の大きさを感じる。[地上波(吹替)] 8点(2005-05-29 14:45:51) 128. 少林サッカー 映画作りにおいて大切なことは、中途半端にならないことだと思う。これはどのジャンルにおいても言えることだが、特に娯楽映画には重要な要素だと思う。ストーリーが陳腐であっても、徹底したエンターテイメント性を打ち出せばその娯楽映画はとてつもなく面白い映画になるはずだ。今作はまさにその娯楽映画における最重要点を文句なしに押さえた秀作である。[DVD(字幕)] 8点(2005-05-29 14:40:02) 129. シンプル・プラン 主人公のダメ兄貴役を演じたビリー・ボブ・ソーントンが素晴らしい。彼がこの役を演じたからこそ、この映画は一見地味なストーリーではあるが相当に濃厚なサスペンスに仕上がっている。大金を前に少しずつ狂っていく登場人物たちがたどり着く切な過ぎるラストシーンには言葉が出ない。圧倒的な緊張感と映像美にサム・ライミ監督の手腕が光る。[映画館(字幕)] 9点(2005-05-28 22:23:06) 130. 下妻物語 この映画は、夜中の2時に見始めるべき映画では無かった。終わった途端になんだか無性に走りだしたくなる。もちろん原付で。おさまりがつかないこの衝動をどこに向ければいいのだろう?“好きなもの”を“好き”と言い切ることの勇気、実は男のそれなんかよりも何倍もエネルギーに溢れ危なっかしい“女の友情”に、胸が高鳴る。素晴らしく、ある種の「完成」を見せる映画だと思う。おそらくはアテ書きの深田恭子演じる桃子のハマリッぷりは見事だった。だが何よりも、この映画をこれほど魅力的に仕上げたのは、土屋アンナの素晴らしいヤンキーっぷりから溢れ出す女優としての魅力だろう。9点(2004-12-25 04:14:47)(良:1票) 131. 10億分の1の男 「運」というまさに形のないものを表面に押し出した試みは非常に面白い。常識を逸脱したバイオレンス的な構図をベースに、同じように形のない「愛」を語るようにこの題材を展開させていくストーリーの雰囲気もヨーロッパ的で良かったと思う。ただやはり、ストーリー展開の愚鈍さに少々飽きがくることは否めない。中盤の展開をもっと小気味良くインパクトを高めることが出来ていれば、格別に良い映画に仕上がっていたと思う。映像の色合い、俳優の演技等、作品の雰囲気は目を見張るものがあっただけに、それだけが殊更に残念なところだ。6点(2004-11-12 23:44:19) 132. シモーヌ これほどまでにブラックなユーモアに爽快感を感じたことはない。虚構と真実の狭間で翻弄されている群集の様は、すべての現代人が抱えるもはや病的とも言える滑稽さであり愚かさであろう。完全なるバーチャル女優の存在を映画的に無理なく通してみせた完成度の高い映画世界がまず見事である。そして何よりもこの映画の質を高めたのは、もはや現役最高俳優であるアル・パチーノのウィットに富んだ演技力と存在感だ。シモーヌという虚構とそれに群がる大衆に板ばさみになる老映画監督を演じると同時に、シモーヌの内面までも演じ出してみせたその巧みさには手放しで賞賛できる。「ガタカ」の映画監督が描き出す秀逸な近未来像を堪能した。8点(2004-09-17 16:48:52) 133. 69 sixty nine 底抜けな明るさ、底抜けな情けなさ、そして底抜けなエネルギー。ある種想像のつかない何か。これこそ青春というものだと思う。僕は1969年には生きていないが、主人公たちが持つ精神は時代など関係なく「その時」を生きるすべての若者が持つべき本能だ。体制への反発・闘争、そんなものは、行動するためのただ一片の理由の装飾に過ぎない。「退屈だから」「楽しいから」「カワイイあの子に好かれたいから」それらこそ、揺るぎない本当の理由であり、よっぽど説得力がある。とにもかくにも、自分の欲望のために力の限り突っ走るそんな彼らの姿に笑いと興奮が止まらない。9点(2004-08-12 13:26:54)(良:2票) 134. 修羅雪姫(1973) 修羅、まさに修羅。雪夜に映える美しき梶芽衣子演じる壮絶なヒロインの存在そのものが、「修羅」その一言に尽きる。この生き様を前にすれば、「キル・ビル」のザ・ブライドのそれすらも可愛く見え、タランティーノが圧倒的な感銘を受けたというのが文字通り痛いほど分かる。物語、運命、宿命、殺陣、台詞、そして血飛沫、すべてにおいて「躊躇」という言葉の存在すら忘れてしまいそうな超絶な映画世界に包み込まれる。8点(2004-05-07 21:53:33) 135. 少年たちは花火を横から見たかった 岩井俊二監督作「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を出演者が自ら回想するドキュメンタリー。それほどこの企画自体に意味はないように思うけど、まあ本編は秀作なのである程度の感慨深さは蘇える。3点(2004-05-02 00:33:37) 136. 新幹線大爆破 30年も前にこれほどまでスリリングで迫力のあるパニック大作が日本で作られていたことに驚かざるを得ない。昨今の日本の大作映画といえばことごとく陳腐なものばかり。なぜ30年前に作れて今作れないのだ。今作に限らず、大作映画についていえば、現在よりも数十年前に作られた作品の方がよっぽどパワフルな場合が多い。まさに大手映画会社の大盛期ということだろう。復活はあるのか?どうにも怪しい…。 加えてこの時代の娯楽映画のセンスには頭が下がる。例えば、ラストの射殺シーン、展開は読めつつも緊迫感を高めるあの演出は、最近の日本映画ではなかなか見ることができない。8点(2004-04-17 14:36:55)《改行有》 137. 仁義なき戦い この映画を観たほとんどの人が感じることであろうが、とにかく、菅原文太が凄い。その物腰、啖呵、存在感に圧倒されっぱなしである。日本映画において仁侠映画というジャンルの存在はとても大きいところであるが、その原点であり頂点であるのがこの「仁義なき戦い」であることを認識せずにはいられない。「エネルギーに溢れた~」などという常套句では足りない、まさに血と肉に形作られた生々しいパワーがこの映画のすべてである。クエンティン・タランティーノ、ジョン・ウーが崇めるわけだ。10点(2004-03-03 16:10:20) 138. 13階段 死刑執行にまつわる人々の心理葛藤を中心に完成度の高いサスペンスは見応えがある。原作とくらべるとどうしても細かな人物描写が欠けることは否めないが、反町隆史、山崎努を始めとする配役が非常に巧く映画としての完成度は高かった。インパクトの高いタイトルから始まり、全編通して秀逸なサスペンス映画だと言える。8点(2004-02-06 19:04:13) 139. Jam Films 売れっ子監督総参加のショートフィルム企画だっただけに相当に期待はしたのだけれど、どの作品も今ひとつ内容が薄く、心に残るものがなかった。それぞれの監督が充分に構想をねった感じがなく、企画に集まっただけという印象が拭えない。4点(2004-01-30 14:17:51) 140. CQ ストーリーだけを見るなら極めて退屈だろうけど、ストーリーだけではないのが映画というものなわけで。ストーリー以外の部分でこれほど魅力に溢れた映画も珍しい。劇中映画をはじめとして全編に漂う秀逸なB級センスがまずたまらない。「オシャレ」と言えば確かにそうだろうけど、そこにはそれに留まらない芸術的なハイセンスを見ることができる。そして何といってもアンジェラ・リンドヴァルの秀麗な容姿がスバラシイ。8点(2004-01-28 00:01:21)
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