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1. 人も歩けば
《ネタバレ》 3度目の鑑賞だが、観る回を重ねるほど川島作品のエキセントリックなユーモア・パワーを堪能できる傑作だ。
冒頭のフランキー堺による達者なナレーションと「一人アフレコ」からもう惹き付けっれる。
質屋に婿養子に入った男(ただし戸籍上は入籍していない)が養母や内縁の妻の非人情な扱い(これも内縁だからか?)に腹を据えかねて家を飛び出し、日雇い暮らしを続けているところに、予期せぬ巨額の遺産相続の話が舞い込んできた子で、主人公は一躍「渦中の人」として追い回される立場に――。
とにかく小林千登勢演じる清子を除けば、登場人物が強欲な人間揃いで、その私利私欲のぶつかり合いが醜いけど面白おかしいのだ。つまり「人間なんて化けの皮が剝がれればこんなもんよ」という痛快な哲学的メッセージがそこにある。
また、住宅難やオリンピック招致問題や新興宗教ブームなど高度成長期の東京の世相を風刺したり、「小糠三合あれば婿に行くな」という格言そのままに婿養子の抱える悲哀もしかと描かれている。
脱線トリオやロイ・ジェームスの貴重な映画出演も見ものだが、やはり主演のフランキー堺のジャズの変調を繰り返すような変幻自在の演技が素晴らしい。川島雄三がフランキーを重用したのも納得だ。
ラストのフランキーのドラム・テクニックが冴え渡る場面もお得感十分。
これはぜひ一杯やりながら、笑って堪能してほしい逸品だ。[DVD(邦画)] 10点(2025-07-13 19:13:54)《改行有》
2. 彼岸花
年頃になった娘の結婚をめぐる父親の葛藤という日本のホームドラマではお約束となった筋書きだが、本作品の時代は昭和30年代である。周知のように新憲法により「婚姻は両性の合意に基づく」として、戦前までのように家長の合意を婚姻の要件とする「家の秩序」否定されてから十年そこそこの時期である。
子どもが結婚するとなれば、親が用意した縁談→見合い→結婚というプロセスがまだまだごく自然であったわけである。
佐分利信演じる昔気質の父親が恋人との結婚を言い出した長女に対して、やれ相手の家柄だの家計だのをあげつらって結婚に反対したり、最終的には娘の結婚に同意するもそこに至るまでに結婚相手の氏素性を興信所に調べさせるといった光景はあながち昔の話ではなく、近年までみられたものであり、「結婚とは個人同士ではなく家同士のもの」という日本ならではの結婚観(日本よりも儒教倫理の厳しい中国や朝鮮ではもっとそれが鮮明なのだろうが)が色濃くて本作を辛辣なものにしている。
これが、見るからに家長オーラバリバリの佐分利信の役が、今回は脇役に回っている笠智衆であったなら、もっとユーモラスで憎めない父親像になっていたに違いないが、その上でどういう家長的キャラを表現したのかという興味が沸く。[DVD(邦画)] 8点(2025-01-14 00:22:12)《改行有》
3. 拾った女
《ネタバレ》 短編ながら中身の濃いフィルム・ノワールの傑作である。
スリ常習犯の男が地下鉄内で女の財布を盗むが、実は財布の中身は重要な国家機密が隠されていた。FBIは財布の中身の行方を追って必死の捜査に乗り出すが・・・。
その国家機密はもともと共産スパイが入手したものであり、それを押さえようとFBIが女を監視していたところにスリ事件が起きるという設定は、赤狩りが激しかったバリバリの冷戦時代という緊張感をよく反映している。その意味ではフィルム・ノワールとしてはイデオロギー色が強いといえよう。
犯罪のテクニックはもちろん、裏の掻き合いや同士打ちといった犯罪映画の醍醐味も詰め込まれていて80分などアッという間。カメラワークもよく、光と影の使い方も巧みであり、電車内のスリの場面は実にスリリング(スリだけに・・・苦笑)。ラブシーン、アクションシーンもともに楽しめる。
また、スリと被害者の女が恋愛関係に転じていったり、スリ専門情報屋の老女のがめつさとしたたかさが次第に愛らしくみえたり、老女はスリに母性的な感情を抱いたりと、主要人物3人の相関図がどう展開していくのかも見どころである。
主役のリチャード・ウィドマークは相変わらずの冷酷なニヤケ顔が気持ちいいが、今回は甘いムードも出していて二度美味しいのが嬉しい。そして人生の酸いも甘いも嘗め尽くしたような情報屋の因業婆を演じるセルマ・リッターが秀逸。彼女の最期を迎えるまでのモノローグがとても余韻を残す。
まさかのハッピーエンドに拍子抜け?いや、そこは見事に「裏を掻かれた」と拍手を送りたい。[DVD(字幕)] 9点(2022-08-12 21:09:47)《改行有》
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