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1. ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー
《ネタバレ》 ギレルモ・デルトロ監督は評価されている監督だが、今まではちょっとピンと来ない部分があった。個人的にはそれほど評価していなかった監督だが、本作を見れば、彼の世界観の豊かさ、イマジネーション力の素晴らしさには圧倒される。
ギレルモ・デルトロ監督は間違いなく才能ある監督だと確信した作品だ。
アメコミ作品の多くは、ヒーローの苦悩といったダークな面がことさら強調されているが、本作のような能天気でユーモアに溢れており、スケールが大きなファンタジックな作品こそ、コミックらしい面白みを感じられる。
緊迫感が足りない微妙なユルさやバランス感覚が非常に上手いと思った。
昨今のアメコミ作品の中は、中途半端な作品が多く満足できないものが多かったが、本作は満足できる優秀な作品だ。
ストーリー、アクション、世界観、キャラクターいずれにも満足できた。
バトルシーンがあっけない部分があるが、前作同様であり、このシリーズの特徴でもあるので多少は目をつぶれる。
アクションや様々なクリーチャーも見所の一つだが、ヘルボーイたちの人間らしい部分も見所の一つになっている。
誰かを好きになったり、妊娠を悩んだり、だらしのない恋人をしかったり、しかられたりと、彼らは人間よりも人間らしい。
そんなときは、酒を飲んで、歌を歌って、嫌なことも悩みも吹き飛ばすというのも非常に面白い描き方だ。
見る人によってはバカバカしいと思うかもしれないが、本作のコアな部分は『どうでもいいことで悩むヘルボーイやエイブたちの姿』だと思っている。
どうやって世界を救うかということで悩むよりも、どうやって恋人の機嫌を直すか、どうやって好きな人に愛を伝えられるかということで悩むかという点に面白みを見出せるかどうかがポイントになるかもしれない。
彼らとは対照的に、容姿が醜く、自分達と異なるからといって、軽蔑したり、化け物扱いをする人間の浅ましい心を描くことで、何かを感じて欲しいという想いをデルトロ監督は込めたのではないか。
ヘルボーイたちが唐突に人間達に嫌われることに違和感がないわけではないが、“流れ”を考えると仕方のないところだ。
ヘルボーイたちの非常にピュアな心を描くことで、エルフが嫌った人間の心を間接的にも描いているような気がする。
そして、冒頭の教授と幼いヘルボーイのやり取りも素晴らしい。
本当の親子のような姿が描かれている。[映画館(字幕)] 8点(2009-01-22 22:02:50)《改行有》
2. ベンジャミン・バトン/数奇な人生
《ネタバレ》 初見では「感動した!」「凄い面白い!」と評価できるほどの単純な作品ではなかった。泣ける感動作でもなければ、“数奇な人生”に驚かされ圧倒されるわけではなく、評価は難しい。
しかし、『一人の男の人生』をコンパクトに過不足なく見事に描き切った監督の手腕は素晴らしいものだった。
あえてドラマティックには演出していない抑えた演出が光る。
映画を見ているというよりも、まるで詩のように叙情的に描かれている作品だ。
そもそも、ベンジャミン・バトンの人生が“数奇な人生”かどうかは疑わしい。
生まれて、恋をして、働いて、旅をして、様々な別れを経て、死ぬというのは、我々ともそれほど変わりがないように感じられる。
80歳で生まれて、徐々に若返っていく人生を送れる人は「幸せなのか」「不幸せなのか」という問いがあるとすれば、その答えが本作にあるのだろう。
人生において重要なことは“年齢”ではない、“気持ち”の問題なのではないか。
ティルダ・スウィントン演じる人物が、若いころには達成できなかった海峡水泳を、年齢を経てから達成できたということもヒントのように思える。
たとえ人生に『もし』があったとしても、たとえ自分の人生をもう一度やり直せるとしても、自分が変わらなければ、何もできないだろう。
バトンの人生を見て“数奇な人生”と思う人もいるだろうが、彼の人生はそれほど“数奇な人生”ではなくて、少しだけ変わった“ありふれた人生”を送ったような気がする。
一人の“数奇な人生”ではなく、誰にでもあり得る“ありふれた人生”だったからこそ、色々と“人生”について考えさせられる点が多い深い映画となったように思われる。
本作は現在の人生をより充実して生きて欲しいと願うフィンチャーなりの応援歌ではなかったか。
また、本作において一貫として描かれていることは「永遠なるもの」の存在だろうか。
年齢や容姿が変わろうとも、決して変わらないものがある。
それが“愛”であると伝えようとしていると強く感じられた。
年老いて贅肉が付き、背中が染みだらけになったケイト・ブランシェットを見つめる若いブラッド・ピットの眼が印象的だ。
自分が若く、相手が老いたとしても、“愛”だけは決して変わらない。
そして、晩年のケイト・ブランシェットと若くなりすぎたブラッド・ピットとの接し方はやはり愛情以外の何物でもない。[映画館(字幕)] 7点(2009-02-08 23:56:23)(良:1票) 《改行有》
3. ペルセポリス
《ネタバレ》 イラン革命、イラン・イラク戦争など時代の波に翻弄される監督マルジャン・サトラピの波瀾万丈の半生が綴られている。確かに凄い人生だとは思うが、心に訴えてくるものがあまりない。展開やテンポが早すぎて、単なるシークエンスの羅列でしかなくなっている気がする。そのためか、本作を見ても「自分も頑張ろう」「公明正大に生きよう」「○○人であることに誇りを持とう」といった感情面において上手く感じ取ることができなかった。自分が男性だからか、それとも日本人だからなのか、又はイランのことを何も分かっていないからなのか、何が原因なのかは分からないが、「本作のよさが分からない」というのが正直な感想だ。彼女の生き方に共感を覚えることができる人も多数いると思われるので、少数派の意見として述べておく。
逆に、共感を覚えることができなかった点が評価できるのかもしれない。赤裸々に語られており、自分の半生を美化しようとはしていないからだ。よくありがちな無理やり感動ストーリーに仕立てようとはしていない。自分を美化したくないという想いはよく分かるので、美化する対象を自分ではなく、父母や祖母にもっと上手くシフトさせればよかった。自分の娘が自国イランで収まり切らないことを知り、可愛い娘をヨーロッパに留学させた父母の決意は並大抵のものではない。一度目の留学で傷ついた際、結婚に失敗した際、自分が助かるために無実の者をハメた際など、祖母が時には優しく、時には厳しく接してくれたシークエンスなどは処理の仕方でもっと感動を呼び込めたはずだ。
また、一番のコア(核)は“イラン人であることをマルジャンがどう思っているのか”という点ではないかと思う。
ウィーンでの留学中に「自分をフランス人だと偽った」シークエンスが紹介され、ホームレス時代に気管支炎で倒れた際に「自分の住所をイランだ」と訳が分からず回答し、最後のタクシーで「どこから来たのか」と問われた際に「イランだ」と答えている。
こういった彼女の変化がどこか上手く処理し切れていない気がする。自己の出自、自己のルーツに誇りがもてるのかという点をもっと訴えてもよかったのではないか。
ただ、アニメのセンスはなかなかだ。
随所でアニメであることの利点を上手く引き出していたと思われる。
特に、王子様のような恋人が一転してダサいオトコに様変わりするところはなかなか素晴らしいセンスだ。[映画館(字幕)] 6点(2008-01-07 23:26:12)(良:1票) 《改行有》
4. ペイチェック 消された記憶
《ネタバレ》 フィリップKディック原作だけあって、骨となるストーリーはやっぱり面白い。
本作ではディックのストーリーとジョンウーの奇抜さとのミスマッチさが意外と「よい味」になっていると感じた。
ただ、気になった点としては、やや丁寧さを欠いていないだろうか。
冒頭では2ヶ月、途中で3年という空白の歳月な流れるわけだが、どうみても、その時間の流れを感じさせない演出になっている。
なぜなら、ベンアフレック他の風体にまったく変化がないからだ。同じ髪型、同じ服装ではいくらなんでも不味いだろう。
特に冒頭の2ヶ月が酷い。ベンアフレックは恐らく2ヶ月前と同じネクタイをしていると思われる。
自分が演出家ならば、ユマサーマンとの出会い時も彼女の髪をロングにさせたりしておくと思う(多少の変化をつけていたが)。
髪がショートになると時代の変化などが感じられるともに、すり替えの女性が来たとしても髪形によって女性の印象も変わるから以前の記憶の曖昧さ(サーマンとの出会いとなったパーティーの記憶は消される対象になっていない)の理由にもなるだろう。
また、脳の温度が43度に達すると危険という訳の分からない設定があったかと思うが、いきなり42.9度までやるのはいささかやり過ぎではないか。こういうシーンはだんだんと0.1度間隔で上げていって、観客のハラハラ感を煽るものではないか。そして、あと0.1度で危険という難を逃れたにもかかわらず、直後のベンアフレックが意外と平然としているのにも酷い違和感を感じた。自分が俳優ならば、もっと「頭がぼうっとする」「頭が痛い」というような演技をしようとするものだろう。
さらに、本作で気になったセリフとしては、「壊す前に、未来を覗いておこう」だろう。
ストーリーの流れから判断して全く必然性を欠くセリフであり、もっと「未来を覗こうとすること」に対してなんらかの動機付けや工夫が必要ではないか。これでは「機械を直す(エッカートにアフレックの未来を見せる)こと」以外の効果は無くなる。結局、時計のタイミングが脱出のタイミングを教えており、「未来を覗いたこと」の大きな意味を失っているようにも思える。夢でフラッシュバックされる自分の最期に何かしらの違和感を感じて、「未来を覗くこと」によって何らかの確認的な意味(時計のアラームに気付く等)を与えた方が良かっただろう。[DVD(字幕)] 6点(2004-07-04 16:29:25)(良:1票) 《改行有》
5. ヘルボーイ
《ネタバレ》 CG、アクション、ストーリーなど全般的に安っぽさが目立っている。しかしながら、ストーリーに突っ込みたいところがあっても、「まあ、チープだからどうでもよいか」と大抵の部分は受け流せるようになっていたのである。
まさにマイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになるという現象ではないだろうか。これを演出家が狙っていたのならば凄いと言わざるを得ない。これが「ストーリー」と「映像」どちらかを真面目に創っており、どちらかがダメダメであると、プラスとマイナスが足されてしまい、マイナスの映画になってしまう。この映画のマイナス度がよい相乗効果を与えているのではないだろうか。
この映画は悪い面ばかりではなく、良い面もあると思う。一本の映画にシリアス、ラブストーリー、アクション、ホラー、コメディなど多様な要素を詰め込んで、一本の筋のある映画にしている点は評価すべき(できればマイヤースとの友情も詰めて欲しかったが)。
ただし、評価はしたいのだがどれもこれも中途半端さが半端じゃないのも欠点になっている。もう少しメリハリを付けるべきだっただろう。「シリアス」ならば、教授とヘルボーイの確執や教授を嫌う理由をきちんと描けなければ、確執に裏打ちされた二人の「親子愛」を読み取れない。「ラブストーリー」ならば、ヘルボーイが容姿等を深く悩む部分、二人の想い出、彼女を救うところと彼女が救うところをもう少しドラマティックに演出しないと観客は共感できないだろう。
そもそも、この映画は盛りあがりに随分欠けるのではないだろうか。
ラストのラスプーチン戦も特段の盛りあがりに欠けているが、一番盛り上げる必要があるのは、ヘルボーイが己の角を折るシーンではないか。
この映画のテーマは、「人格や個性を形作る要因は生まれなのか、育った環境なのか、それとも…」というテーマである。その答えは、「何を選択したのか、人生をどう生きるのか」という答えである。重要な選択をするには、それだけ多くの迷い、躊躇、葛藤があるはずである。にもかかわらず、ヘルボーイは躊躇なく、鍵を開けようとし、葛藤もなく自分の角を折る。自分は悪魔なのかそれとも人間なのか、愛する人を救うべきなのか、人類を守るべきなのか、そういう迷いを観客に訴えるような演出や演技としては合格点は与えらないのではないだろうか。
それにしても、唯一クロエネンだけはカッコ良かったな。[DVD(字幕)] 5点(2005-08-21 15:04:50)《改行有》
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