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1. 酔いどれ天使
もう4,5回は観ている作品で、それは何度も観たくなる魅力があるから。
飲んだくれの町医者が、結核を患ったヤクザの若頭を診てやるうちに、父性のような感情が沸いていき、翌年の『野良犬』における若造=三船敏郎、古株=志村喬というパターリズム的な関係性がこの作品ですでに十分に漂っている。
また、黒澤作品としては珍しく「任侠」の世界に踏み込み、かつ痛烈なヤクザ批判を観る者に浴びせているのも見どころである。
ただ、本質的なメッセージは、眞田医師が何度か口にしていた「理性」とは、松永のようなヤクザ者が欲しいままにする「欲望」とぶつかり合った場合、どちらが生きる上での「力」となるのか、という「人間」のあり方を問うところにあるように感じた。眞田にしても、松永にガミガミと「お前は病人なんだから、ああしろ、こうしろ」と説教しておきながら、自分は昼間から勤務中でも酒浸りなのだから。
それにしても、三船が前半のギラギラしたエネルギー満タンの風貌から、後半の病状が悪化して瘦せ衰えて死神のような風貌への変貌ぶりが凄まじい。この役作りもさることながら、「滅びの美学」ともいうべき松永の最期を体を張ったアクションで見事に飾ってみせた三船の役者魂。あれはかなり危険度の高い演技だったに違いないが、まさに日本映画屈指の名ラストシーンといえる。
そこには、敗戦後の日本が「何が何でも立ち上がってやる、簡単に死んでたまるか」という尖ったバイタリティを感じざるを得ない。[DVD(邦画)] 10点(2025-06-22 03:36:46)★《新規》★《改行有》
2. 夜歩く男
《ネタバレ》 数あるフィルム・ノワールの中では貴重な実録犯罪もの。
ロサンゼルスで起きた警官殺しの犯人を総力を上げて突き止めようとするロス市警。そんな警察の死に物狂いの奮闘をあざ笑うかのように捜査網をすり抜けて犯罪を重ねる百戦錬磨の(といっても若いが)主人公。
この男、凶悪だが冷静沈着で頭脳が冴えまくった知能犯(メカにも強い!)で、警察の動きをすっかり読み取り、決して無謀な動きには出ないので、警察もなかなか尻尾が掴めない。この焦燥感が爽快ですらある。
特筆すべきは、科学的捜査がまだ発展途上の段階にあった時代、銃弾の鑑識や犯人のモンタージュ(ただし似顔絵)作成といった当時として最先端であろう捜査のプロセスが克明に描かれている点である。このあたりは警察の事件ファイルに依拠して入念に作り込まれた充実感がある。
そして主演のリチャード・ベイスハートが美男ながらも時折みせる、自らの孤独を美酒を味わうかのような気色の悪い笑顔と、何を世間に対して怒っているんだろうという得体の知れない禍々しいニヒリズムを表現して絶妙である。ただし、動機も含めてこの犯人の人間像の掘り下げがほぼ無に等しいのが物足りなくはある。そこはこの映画の趣旨がロス市警の尽力による犯人追及に重きを置き、センチメンタルな展開に流されまいという制作側の意図の表れとみるべきか。
また、多くで指摘されているように、主人公のアップや自室、そしてラストの地下排水路における光と影を駆使した緊張感溢れる映像美も秀逸である。
あっけない結末といってしまえば身も蓋もないが、主人公に絶命の寸前で何か一言喋らせてほしかった。
[DVD(字幕)] 9点(2025-03-29 03:34:03)《改行有》
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