みんなのシネマレビュー |
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2. 誰がキャプテン・アレックスを殺したか ワカリウッド──それは、ウガンダの首都カンパラのスラム街、ワカリガの映画スタジオから生まれた。 欧米の映画を見たことがないレンガ職人の男が、映画作りの原始的な衝動と想像を総動員して作られた、 純度100%のウガンダ製アクション映画が本作だ。 製作費はわずか85ドル、日本円で1万円にも満たない超低予算。 出演者は職業俳優ではないスラム街の住人で当然ノーギャラ。 撮影用のデジタルカメラが一台のみで同じシーンを違うアングルで撮らなければならないし、 ビデオ編集にはジャンク品から組み立てたパソコンを使い、ハードディスクも大容量ではないので、 DVDに焼いたらデータをすべて消去してマスター版は存在しない。 ウガンダの平均年収が570ドルということを考えると、どれだけ貧困が深刻で政情不安なのかを察する。 そのような環境で作られた作品は、画質もストーリーも演出もお世辞にも良いものではない。 しかし、その粗さがある種のドキュメントらしさを醸している。 アクションシーンは意外にも頑張っていて、身体能力を活かしたカンフーシーンは見どころ。 本作を象徴する衝撃的な空爆シーンはここまで来ると斬新さすら感じるくらいだ。 そこにVJエミーによるハイテンションなナレーションが被さると、独特の味わいを引き出しているではないか。 本編とは無関係な説明や同監督作品の宣伝もノリノリでブッ込んできて、 これが無ければ場面・状況が分からず、より退屈な映画になったに違いない。 それだけ70分が長く感じ、興奮が長続きしない。 YouTubeからの投稿によってチャンネル総再生数が2000万以上再生されるという大きな反響を呼び、 映画祭にも招待され、100万ドルを投資してくれる人も現れたとか。 ワカリウッドはウガンダの地に蒔かれた希望になっている。 映画の出来はC級かもしれないが、映画作りへの情熱と真摯さはAAA級。 観客に対して上から目線で適当に作っている邦画には見習ってほしい部分があり、 エド・ウッドもネット配信が当たり前の時代に生きていたら違う人生があったかもしれない。[インターネット(字幕)] 4点(2025-05-31 00:13:20) 3. EO イーオー 《ネタバレ》 人間たちのモノサシによって、様々な"役"として組み込まれたロバは、 サーカス団の一員として、牧場の荷役として、サッカーチームの幸福の女神として、 流されるままに渡り歩き、待ち受ける不条理をただ受け入れているように見えた。 動物愛護団体が主人公のためにサーカスを潰しても、一方的な独善でしかない。 「ペットは家族の一員だ」と言われても、自由に外出はできず、意思とは無関係に去勢・避妊手術を受ける。 屠畜されている動物に目を背けながら、ペットを可愛がっているヒトの姿はグロテスクでさえある。 最後まで対等な関係にならず、人間の都合で常に生かされている。 その不条理の中で、サーカス団の娘からの愛情だけが微かな心の糧。 時折、差し込まれる赤い映像は鮮血のように見え、「生」と「死」が表裏一体であることを指し示す。 たとえ最後は悲劇だとしても、果たしてそれは悲劇なのか? 善とは?悪とは? そういうのは人間の作り出した思い込み、モノサシでしかない。 この物語もまた、そういう思い込みで観客が勝手に作っているのではないか?と訊かれているようである。 動物の根源である、ただ「生きる」ことを描いた作品。[インターネット(字幕)] 5点(2025-05-29 22:50:34) 4. サブスタンス 《ネタバレ》 力作で、問題作で、怪作。 暴力的なまでに痛快で、滑稽で、恐ろしく、哀しい。 キューブリックとクローネンバーグへのオマージュを盛り込みつつ、 最後はロバート・ロドリゲスばりの悪ノリが炸裂。 ルッキズムの大量消費と底の見えない承認欲求へのツケが、 ショービス業界に、スクリーンの観客に大量の鮮血として返ってくる。 どんな歳でも彼女を想っている同窓生がいたのにも関わらず、 化粧でも抗えない老いを受け入れられなかった、優柔不断の彼女の運命を決定づけた。 その果てで、理想の象徴であるスーは、現実のエリザベスを受け入れることができず、殺してしまった。 誰にも見向きされなくなっても、最後に味方になってくれるのは自分自身ただ一人。 "This is Me"で前向きに生きたいものだが、勝者が作り出した価値観に人間そう単純に捨て切れない。 140分の長尺をものともしない、スタイリッシュな演出の手札の多さと力業で捻じ伏せる。 過去の人だったデミ・ムーアが若手のマイキー・マディソンにオスカーを奪われて初めて本作は完成したと言っても良い。 サブスクになったらもう一度見たい。[映画館(字幕)] 8点(2025-05-23 23:59:41)(良:1票) 《改行有》 5. To Leslie トゥ・レスリー 《ネタバレ》 でも、周りを見てごらん。 ここが本当にいたい場所なのかな? 中盤の酒場で流れるカントリー曲の歌詞の一節だ。 19万ドル(日本円で約2,600万円)の宝くじが当たるも全て酒代に消え、 住み家も家族も友人も失った女性はこの曲を聴いて何を感じたのだろうか? 酒を飲まないと約束しても、金をくすねて結局酒に使ってしまい、一人息子からも絶縁される。 かつての知り合いからも嘲笑され、救いようのない主人公に呆れながらもなぜか目が離せない。 100万ドル以下の低予算映画で大きな事件が起きることもないのに。 それは愚行だらけの中にまだ完全に諦めていない光を芯に宿している、アンドレア・ライズボローの説得力があってこそ。 あの夜から彼女は、与えられた居場所に胡坐をかくことなく、 幾度か酒に手を出しそうな危うさを秘めつつも、必死に自分自身を取り戻そうとする。 下手したら陳腐で嘘臭いメロドラマに陥りそうなものだが、終始乾いたタッチで最後まで惹きつけられる。 主人公の孤独にシンパシーを感じるモーテルの管理人が出過ぎない絶妙な立ち位置で、 彼女を信じ続ける監督の優しい視線と重なる。 己の弱さを受け入れ、真に切望しているものを、回り道しながらついに辿り着く。 もしかしたら振出しに戻るかもしれないと思いながらも、微かな光を見出す結末が尊い。 宝くじの大金を当初の生産的で利他的な方向に使っていれば、彼女の人生はまた違ったものになったかもしれないが、 失ったからこそ見えてくるもの、再び失ってはいけない大事な居場所がある。[インターネット(字幕)] 8点(2025-05-22 23:08:45)《改行有》 6. 北極百貨店のコンシェルジュさん 《ネタバレ》 接客業は大変。 常に臨機応変に対応しなければならず、気苦労が絶えない。 それも相手客が絶滅種を含むあらゆる種類の動物たちなら尚更だ。 高級百貨店の新人コンシェルジュの奮闘ものであるものの、 物語が舞台から出ることは決してない。 私生活が描写されることもなく、世界観の全容が明らかにされることもなく、 目の前の問題に対して、主人公はただただ最善を尽くそうとする。 やっていることが空回りして失敗続きで、リストラされかけることがあっても、 常に綱渡りでお客様に感謝されたときの喜びはひとしおだろう。 基本ハートウォーミングな物語であるが、絶滅種を丁重にもてなす接客にはすべて人間が担当しており、 大量消費による人間のエゴと業が集約されている。 ネットの通販で誰にも会わずワンクリックで完結する現代だからこそ、 直接面と面で向かい合うことで、感謝の気持ちと相手を喜ばせる気持ちはずっと残り続ける。 そこに北極百貨店が存在する意味があり、贖罪から共存共栄への想いが直に伝わる。 あそこはこの世とあの世の中間みたいな世界なのだろうか。 少女時代にコンシェルジュに憧れた主人公が一皮剥けて、 今度は新たな少女を温かく迎える円環の構成が余韻を生む。 北極百貨店のテーマソングが耳に残るような懐かしさ。[インターネット(字幕)] 7点(2025-05-18 20:37:37)《改行有》 7. ペンギン・ハイウェイ 《ネタバレ》 町中を横切るペンギンたちの謎を巡り、研究熱心の秀才でおませな少年が経験した、ひと夏の"終わり"の物語。 不思議と出会うことは喜びと驚きばかりではなく、意味不明ならではの脆さも儚さも内包している。 並行的に登場する"海"の存在、果てのない川、そして初恋の"お姉さん"が一本の点に集約していき、 どうなっていくのか見当がつかない。 その吸引力は原作が優れているのもあるが、ダイナミックでスマートなアクション描写が一役買っている。 そうそう、監督の性癖が今作でも発揮されており、少年少女のキャラデザが大変魅力的だ。 登場人物の役名が全員本名不明で、記号のようにカラっとしたタッチがアニメ向きだった。 お姉さんは何者だったんだろう? ペンギンが出てくる前から存在していて、何かしらの異変の発生で結果的に消えざるを得なくなった。 彼女の人生も"そういう設定"として記録に埋め込まれたものだったのだろうか。 その最大の謎は、少年が未成熟から脱して大人になるまでに解かれていくに違いない。[インターネット(邦画)] 7点(2025-05-17 00:28:30)《改行有》 8. マトリックス リローデッド 地上波以来の視聴で、終盤ついていけなかった説明シーンは今回何とか理解できた。 シリーズものの宿命か、映像は前作のインパクトには及ばないが、 撮影用に作った高速道路のアクションシーンは凄かった。 エージェント・スミスを上回る魅力ある悪役の不在が痛い。 大量発生シーンもここまで来ると滑稽にしか見えない。 スタイリッシュなアクションも一歩間違えればそうなってしまうだけに紙一重だね。[インターネット(字幕)] 6点(2025-05-09 23:34:46)《改行有》 9. マトリックス 公開から30年に及ぶ年月が経っても古臭さを一切感じさせない。 本作から一気にハードルが上がった驚異の映像革命が取り沙汰されるも、 AIに使われる未来を予期した強固な世界観によって納得のあるものにさせている。 今思えば、冴えない男が実は"選ばれし者"だったというプロットは、 異世界転生なろう系でよく見かけるも、古今東西、オタクな中学生なら誰もが考える夢想であると再認識。 中二病な展開と誰もが知っている名シーンの数々が味わい深い。[インターネット(字幕)] 8点(2025-05-05 23:44:45)《改行有》 10. いのちの食べかた 《ネタバレ》 日本公開時、話題になっていたね。 食材になっていく動植物の大量生産が如何に行われているかを淡々と観察しているだけ。 SF映画のような工場で、システマティックにルーティンワークを繰り返していく労働者たち。 自分の運命を悟って震える牛の頭部にスタンガンを当て、倒れて吊り下げられて、 喉を裂かれ、大量の血と吐瀉物が滝のように地面に流れる。 スーパーに並べられている大量の肉には多くの犠牲と工程の上に成り立ち、 心身に多大な負担の掛かる仕事を誰かが請け負わなければならない。 そういう意味でのこの邦題なのだが、宗教観的に"我々の日々の糧"というニュアンスから大きく外れていて、 もう少し何とかできなかったのか。 「命を美味しく頂きます」と言われて、感謝する家畜など存在しない。 私がその名前のない家畜に生まれなくて良かったと思うと同時に、 簡単に安価に手に入る食材を提供してくれる人たちに思いを馳せたい。[インターネット(字幕)] 6点(2025-04-30 11:22:25)《改行有》 11. キー・トゥ・ザ・ハート 《ネタバレ》 フィリピン映画は珍しい。 近年では寓話的なラヴ・ディアスと社会派のブリランテ・メンドーサが日本でも知られるようになったが、 それでも日本公開作は果てしなく少ない。 そんな中、ネットフリックスでひっそり配信されていた本作は、先述の二人のような敷居の高さは感じられない。 いわゆる"キング・オブ・ベタ"を地で行くような感動的なメロドラマだからだ。 幼少期から孤独で職を追われた元ボクサー、生き別れで余命いくばくもない母親、 重度の自閉症を抱えながら絶対音感で天才的なピアノ演奏能力を持つ異父弟、 同居することになったチグハグな3人の家族愛と再生と奮起劇を、分かり切ったハッピーエンド一直線で突っ走る潔さ。 同時に自閉症を取り巻くトラブルに当事者には身近に感じられたし、 主人公の暗い過去とどん詰まりっぷりにフィリピンならではのリアリティがあるものの、 徐々に増えていく応援してくれる善意ある人々に救われる。 審査会の「熊蜂の飛行」の演奏で周囲の空気が変わっていく様はまんま『シャイン』だったけど。 弟役の熱演には見入ったし、『逆転のトライアングル』のシーンスティラーだったドリー・デ・レオンも安定感たっぷりの好演。 イ・ビョンホン主演のオリジナルの素地が良かったかもしれないが、100分のコンパクトさで気軽に見られる佳作だ。[インターネット(字幕)] 7点(2025-04-29 23:57:21)《改行有》 12. マインクラフト/ザ・ムービー ステーキ割引券の期限が明日で切れる名目で、隣の映画館にて本作を鑑賞(スケジュールの兼ね合いで日本語吹替版)。 マインクラフトは少し聞いたことがある程度、それを見越してか世界観を分かりやすく説明してくれる箇所が多くて有難い。 一昨年公開して大ヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の再来と言っても良い内容で、 完全にファミリー向け、異世界転移もの、そして良くも悪くも"幼稚"であることも共通している。 ただ、観客が求めているものを最適解で惜しげもなく出しており、 一部の評論家に忖度した思想の押し付けで歴史的惨敗した某作と比べれば、本当に清々しいアトラクション映画に仕上がっていた。 '80年代を彷彿とさせるノリと勢いで、その当時を象徴する楽曲の数々、みんなが求めているのはコレなんだなと再認識。 他人の批判をものともせず、「自分の作りたいものを作れ」というクリエイティブ魂に共感。 オタク少年の成長譚であり、子供の心を持ち続ける大人たちへの熱いエールが伝わってくる。 映画の完成度が高いわけではなく、欠点も少なくないが、ジャック・ブラックとジェイソン・モモアの濃ゆい存在感で中和した形だ。 マインクラフトをよく知らないと楽しめない小ネタも多く、見た後何も残らない? 別にそれでも良いじゃないかという嘘偽りのない陽気さに+1点追加です。[映画館(吹替)] 6点(2025-04-29 23:24:07)《改行有》 13. ツイスターズ 前作は未見でありながら、竜巻以外の要素はほぼ皆無のため、完全新作として見れる。 CG技術が完全に飽和を迎えてしまった現在、ともなると人間ドラマに舵を切ったのは正解だ。 リー・アイザック・チョン監督の作劇は巧みで、大自然を捉えた抒情的とも取れる映像美は本作でも健在だが、 アート表現は控え目であくまで職人監督に徹する姿勢に好感が持てる。 大自然の驚異に無力感がひしひし伝わるも、あとは好みの問題かな。 頭空っぽで見れても、甘さ控えめでもう少し何かが欲しいと思わざるを得ない。[インターネット(字幕)] 6点(2025-04-26 23:10:31)《改行有》 14. 月(2023) 《ネタバレ》 「タブーに向き合った」「問題作」と評されれば製作陣もご満悦だろうが、 問題提起と言いながら、"ヒーロー"になりたかったタダの人殺しを喧伝しているだけ。 ベースになった事件で犯人は自己愛性パーソナリティー障害と診断されており、 負担の大きい向いてない仕事に無理に留まらないで逃げれば良かったものの。 他のレビューでも書かれていた通り、多かれ少なかれ誰にでも差別意識はある。 暴れて言葉は通じない、糞尿を垂れ流して異常行動の数々を引き起こす。 もうこれ以上、面倒見切れない家族と職員の心の悲鳴。 綺麗事ではなく、対価がなければ善人ですらそんなものだろう。 だが、「それがどうした?」としか言いようがない。 そもそもホラー映画風の照明の少ない暗めの画作りで、フラットでもない両極端な価値観で職員たちを描いており、 そのテーマの先にあるものがないため、「みんな大変だね」「考えさせられるね」で終わってしまう。 2時間半近くかけて、変な使命感を持った幼稚な思考で凶行に及んでも大きなお世話で、 実際に事件が起こっても社会は何も変わらなかったことが答え。 職員も入所者も待遇は変わらないまま、年一で事件を風化させないアピールして、あとは蓋をするだけ。 重い障害とは無縁の裕福な家庭にとって、どん詰まりで起こった他人事の事件に過ぎない。 YouTubeで入居施設の待機者が大勢いることが取り上げられ、予算削減で「地域の皆さんで頑張ってください」な状態。 きっとこの先も施設に預けられず家族が手に掛ける、無理心中を起こす事件が増え、 それすらも日常になって、政治家も、行政も、一般庶民も、社会全体も事件の風化を待つだけだろう。 だからこそ、子供を亡くした主人公夫婦の再起を描いたパートが作品の焦点をぼかしており、 結局何が言いたかったのか、何を視聴者に伝えたいのかが理解できなかった。 表面だけフワッとなぞった中途半端な本作では、啓蒙にもならないのは当然と言える。[インターネット(字幕)] 4点(2025-04-26 10:34:55) 15. リンダはチキンがたべたい! 《ネタバレ》 抽象絵画風のタッチで描かれる、ニワトリを巡る大騒動。 登場人物が鮮やかな一色で塗り分けられた思い切りに、様々な国のルーツを持つフランスの多民族性を象徴する。 デモやストライキが当たり前のように描かれているのもこの国らしい。 父親を亡くし、集合住宅での暮らしはカツカツ、娘は多感な時期で、母親も常に余裕がない。 思い出の大切な指輪を失くした件で理不尽に娘に当たってしまった母親が罪滅ぼしで、 家族の思い出の料理であるパプリカチキンを作ることを約束するも、 どこもここもストライキで閉店して、追い詰められた母はニワトリを盗んでしまい…。 15分あたりから話にギアが入って、大人も子供もわちゃわちゃするも、フランスらしいほろ苦さと翳りが見える。 誰もが自分のことで手一杯で何とか折り合いをつけて生きているのだから。 死と黒色は忘却の中に置き去りにされていくものであり、その中にカラフルが差し込まれて、 思い出として生き続けていくミュージカルにホロリとさせられる。 何だかんだで大団円でご近所さんと一緒にパプリカチキンを食べられて良かったね(ニワトリはお気の毒)。 フランスの倫理観や民度はどうよ?と思いつつも、主人公と同じ歳の時に自分自身を出せたらと羨ましくもあった。[インターネット(字幕)] 6点(2025-04-25 23:07:06)(良:1票) 《改行有》 16. 新幹線大爆破(1975) 《ネタバレ》 リブート版から遡って見て分かるオリジナルの偉大さ。 それは熱量だけでなく、新幹線、管制室以外の場面の引き出しの多さ、犯人側vs体制側の駆け引きにあると言っても良い。 当時のギラギラした空気と時代背景が常に張り詰めた空気を作り、後半の人間ドラマをさらに濃くしている。 国鉄に協力を断られたとは言え、新幹線パートが少ないからこそ様々な創意工夫を凝らすことができた。 リブート版に足りないのはこれらではないのか。 今見れば本作もディテールの雑さは否めないし、喫茶店の全焼という偶然は要らなかった。 流石に犯人側の勝利など当時でもアウトだったと思うが、高倉健の魅力にむしろ応援してしまう。 生死をはっきりさせない、高飛びを匂わせるラストでも良かった気もする。[インターネット(邦画)] 7点(2025-04-24 23:16:30)(良:2票) 《改行有》 17. 新幹線大爆破(2025) 《ネタバレ》 オリジナルは未見。 可能な限り、予告編以外の情報はシャットアウトした状態で見た。 50年前の事件が幾度か言及されている通り、本作は続編寄りのリブートということになる。 SNSやスマホ、人気YouTuberによるクラウドファンディング身代金の要素は令和ならではと同時に、 清潔感がありながら上辺だけの虚無的な空気が感じられる。 その象徴が爆弾を仕掛けた犯人で、自らの手柄を吹聴している元警察官の父から虐待されていた女子高生だった。 爆弾の製作を教えた男も前作の犯人の息子というあたり、面子を保つための美談に走る偽善に満ちた現代社会への復讐。 登場人物の悪意ある言動がちらほら見えるも、そのフワッとした犯行動機にリアリティが一気に消失してしまう。 劇場版名探偵コナンではないんだから…… 後半の犯人バレから展開がダレていくのは残念だ。 不倫した女性政治家が、重大死亡事故を引き起こした観光会社の社長が、引率の女性教師が役割を終えてただの背景と化す。 殺さなければ爆弾が解除されないという、『ダークナイト』ばりの究極の選択を迫られるもそんなことをする勇気もなく、 「お客様の安全を第一に守る」という主人公のモットーと、鉄道仲間のプロフェッショナルな仕事ぶりに、 困難に立ち向かう乗員乗客が一致団結する美徳が全編に強調されるため、 JR東日本の特別協力と引き換えに思い切った展開にできず、"お行儀の良い映画"のまま終わってしまった。 本作の死亡者が別件の元警察官だけというのもね……大怪我した後輩が最後まで生きていたのが不思議なレベル。 ツッコミどころ満載はともかく、全員助かるご都合主義の塊が作品の緊張感を削いでしまった感がある。 だからこそ、当時の国鉄から協力を断られた故の制約で、ぶっ飛んだ話を作れたオリジナルに倣って欲しかった。 物語をその日の数時間に絞って、余計なドラマを最小限に抑えたことは評価したい。 前半7点、後半3点と言ったところで、間を取って5点です。[インターネット(字幕)] 5点(2025-04-23 23:16:37)(良:2票) 《改行有》 18. スナッチ 《ネタバレ》 アタマ使ってる? 公開当時のキャッチコピー通り、登場人物の多さに2つのストーリーが複雑に絡み合う犯罪群像劇。 初めて見た時はチンプンカンプン、忘れた頃に見た時もチンプンカンプン。 でも、最後は広げた風呂敷を綺麗に畳んでくれる。 当時のガイ・リッチーの才覚と、前作を見て低いギャラで出演を熱望したブラッド・ピットの彗眼による賜物と言える。 群像劇のため、明確な主役は存在しない。 いるとしたらターキッシュ役のジェイソン・ステイサムで、後の人気アクション俳優とは程遠い受け身な出で立ちは貴重だ。 むしろブラッド・ピットがクライマックスでは完全に主役であり、 パンチ力だけではない頭のキレの良さで仲間と共に裏ボクシングの元締めに報復を行い、 自分に賭けた大金を得て颯爽と去っていくさまはカッコ良かった。 あとはベニチオ・デル・トロの無駄遣い。 常に曇天模様のイギリスに生活感のある薄汚さたっぷりの裏社会とスタイリッシュな演出がマッチしていた。[インターネット(字幕)] 7点(2025-04-19 21:24:18)《改行有》 19. ラスト・アクション・ヒーロー 《ネタバレ》 かつてTV放映されていたものが配信で見れるのもあって、懐かしさに再見した。 無駄に人が死ぬし、無駄に爆発するし、無駄にモノが壊されまくるし、なんて頭の悪い映画だろう(誉め言葉)。 確かに面白そうなアイデアを上手く活かし切ってない、設定の詰めの甘さや掘り下げ不足が目立つ。 ただ、王道なヒーロー映画のお約束に、有名映画のオマージュとパロディの数々、 現実と虚構のギャップを活かしたユーモアが心地良い。 1シーンのために大スターたちがわざわざカメオ出演と、当時のハリウッドは元気で明るい時代だったとしみじみ。 (コンプラ的に問題は山積みだったと思うけれど)。 映画では【最後は悪党が倒れて正義が勝つ】という流れだが、現実は厳しく、陰鬱で理不尽な出来事ばかり。 映画以上のリアルな悪に驚愕したベネディクトが魔法のチケットで世界を蹂躙しようと企むあたりなんて、 "悪党"には都合の良い、強大な力で意のままに動かしたい実在の権力者そのものだろう。 シュワルツェネッガーも映画と現実では別人で、その役のジャック・スレイターには彼なりの問題を抱えている。 架空の人物だったと受け入れざるを得ない自分自身の存在意義に悩みながらも、 台本に操られない自分の意思で生きていくことを掴み取る。 それはまさに、苦しい時期に映画に救われた、元気付けられた観客と重なるのではないか。 シュワルツェネッガーはあと数年で80歳を迎える。 いつかは彼だけでなく、全ての映画に携わった役者全員もこの世を去っていくだろう。 それでも当時のフィルムにあの時の姿のままでこれからも生き続け、映画を見る人を迎え入れてくれる。[インターネット(字幕)] 6点(2025-04-13 23:13:46)《改行有》 20. アンドリューNDR114 《ネタバレ》 ロボットして生を受け、人を知るために、人として生涯を終えた男の数奇な200年。 遠い昔にテレビ放映で見たきりなのだが、YouTubeで無料配信されていたため、これを機に再見した。 映画の完成度は決して高くはないし、感傷的でエピソードが駆け足の飛び飛びで、 ほぼロビン・ウィリアムズの演技に全てが掛かっていると言っても良い。 ただ、製作当時から25年も経ち、AIに関する論議が本格化しているのもあり、時代が映画に追いついた。 感情が豊かになり、人の外観を手に入れ、人工臓器によって痛覚を得て、食事も排泄もでき、最後は老いも手に入れる。 あまりに不完全な存在に憧れを抱く突然変異のロボットと、神の領域に手を伸ばす人の違いはどこにあるのか。 生殖はともかく、人工臓器に交換すれば若々しいまま150年も生きられるだろうし、 何なら食事の必要もなく、頭部だけで生き永らえることだってありえるだろう。 技術の進歩は大事だと思うも、そこに怖さを感じる。 死はネガティブに見えるが、時間が有限だからこそ、生きていることを実感できる。 晩年、重い病に苦しみ、自ら人生を終わらせたロビン・ウィリアムズを見るに、思う部分は多くあった。[インターネット(字幕)] 7点(2025-04-12 12:38:00)《改行有》
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