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プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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【製作年 : 1990年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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1.  メリーに首ったけ 《ネタバレ》  破天荒なラブコメ作品。  この頃のファレリー兄弟作が好きな人にとっては、後の作品は「良い子ぶってる」と思えるだろうし「これぞファレリー兄弟の真骨頂」と本作を賛美する人の気持ちも、分かるような気はしますが……  自分としては「後の飛躍を感じさせる、粗削りな初期作品」って印象でしたね。  決して嫌いではないけど、完成度は低かった気がします。  主人公のテッドが小説家志望とか、冒頭に出てきたルイーズの存在とか、色んな設定やキャラを活かしきれていない気がするし、あれもこれもと面白そうな要素を詰め込んだ結果、粗が目立つ形になってるのが、良くも悪くもアマチュア的。  序盤の「ナニをチャックに挟んでしまった」展開も痛々し過ぎて笑えないし、最後の終わり方も唐突過ぎて(雑だなぁ)と感じちゃいます。  自分は本作を何度か観返してるんだけど、その度に序盤で(うわ、痛そう)と引いちゃうし、最後には(すっごい雑な終わり方)と呆れてるんだから、これはもう筋金入りというか、この二点に関してだけは、とことん自分に合わないポイントなんでしょうね。  でもまぁ、やっぱり嫌いじゃないというか……むしろ好きな映画なんです、これ。  そもそも監督がファレリー兄弟で、主演がキャメロン・ディアスとベン・スティラーという自分好みな布陣なんだから、嫌いになれという方が無理な話。  メリーに言い寄る男共を多数用意して、群像劇として描いてるにも関わらず、主人公のテッド以外が酷い奴揃いで「誰がメリーと結ばれるか」みたいなドキドキ感が無い(ブレット・ファーヴは例外的に聖人として描かれてるけど、実在人物である彼がメリーと結ばれるはず無いと観客は分かっちゃう)辺りとか、映画としては致命的な欠点だと思うけど……  ベン・スティラーという名優がテッドを演じ(こいつとメリーが結ばれなきゃ駄目だ)と思わせてくれるお陰で、その辺も気にならなかったです。  あと、一番大事なポイントとして「作中で色んな男に言い寄られるくらいに、メリーは良い女である」って事に、しっかり説得力があったのも素晴らしいですね。  これはもう脚本とか演出以上に、キャメロン・ディアスという存在ありきの、力業みたいなもんだと思います。  「ヘアジェル」で髪が逆立ったメリーの姿を、下品にし過ぎず、可哀想にもし過ぎずに(この子、可愛いな)と笑える形で演じられるのって、彼女だけじゃなかろうかって思えたくらい。  それから、本作って下品なギャグが目立つけど、実は凄く道徳的な話でもあると思うんですよね。  メリーの弟のウォーレンに関しても、知的障碍者である以上、映画としては「天使のように良い子」として描かれるのがお約束なのに、本作では全然そんな事無いんです。  テッドの顔に釣り針を引っかけても「僕じゃない、テッドが悪いんだ」と言ったりして、むしろ嫌な奴というか、悪い子として描いてる。  でも、最終的にはテッドに心を開いて、耳に触れられても怒らない場面を見せたりして、可愛いとこあるじゃないかって思わせたりもする。  つまり「基本的には悪い子だけど、それなりに可愛気もある」という、非常にリアルなバランスなんですね。  その辺り「障碍者だからといって、特別扱いはしない」「障碍者は皆して善人だなんて、そんなの馬鹿げてる」っていう作り手のスタンスが窺えて、自分としては好ましく思えました。  誠実なテッドがメリーと結ばれ、嘘ついて彼女に言い寄ってたパット達は振られちゃうのも、如何にも道徳的というか、童話的。  「好きな映画が一緒」って事に浪漫を感じる身としては、本当は好きな映画でもないのに騙してメリーに言い寄るパットって場面が一番抵抗あったし、その後の顛末にも大満足。  やっぱり、映画オタクとしては、映画の好き嫌いでは嘘ついて欲しくないです。  最後は人が撃たれて、悲劇的な幕切れのはずなのに、エンドロールでは皆で唄って賑やかに終わるのも、何だかアンバランスな魅力があって良い。  ファレリー兄弟の映画って、観た後は大体明るく楽しい気持ちになれるんだけど……  それは本作に関しても、例外ではなかったです。[ブルーレイ(吹替)] 6点(2023-12-28 06:06:04)(良:2票) 《改行有》

2.  あなたが寝てる間に・・・ 《ネタバレ》  家族を求めていた主人公が、家族を得るまでを描いた物語。  その点、あまりラブコメらしくないというか……  「恋人を求め、恋人を得るまでを描いた」という普通のラブコメ映画とは、一線を画すものがありますね。  何せ彼氏役のジャックが登場するのが、本編開始後30分くらいになってからというんだから、徹底しています。  最後のプロポーズ場面でも、ジャック単独ではなく家族同伴で行ってるくらいだし、本作のハッピーエンドとは「素敵な恋人が出来た事」ではなく「素敵な家族が出来た事」なのだと伝わってきました。  そんな本作の特長としては、やはり主演のサンドラ・ブロックの魅力が挙げられると思います。  冷静に考えたら、こんな美女が「恋人のいない孤独な女性」を演じるって、かなり無理があるはずなのに、映画を観てる間はそう感じさせないんだから凄い。  シカゴの地下鉄で改札嬢として働き、毎朝見かける客に恋してるって設定なのですが、その姿が本当に健気で、応援したくなっちゃうんですよね。  憧れの彼に「メリークリスマス」と言ってもらえたのに、上手い返事が出来ずに落ち込んじゃう様なんてもう、実にキュート。  主人公のルーシーが嘘を吐き、ジャックの家族を騙してる形なのに、全然「嫌な女」とは思えなかったし、無理のある設定を主演女優の魅力で補ってみせているんだから、本当に見事でした。  脚本も中々凝っており、特に大家の息子のジョーは良いキャラしてたというか、物語の中での使い方が上手かった気がしますね。  彼が得意気に「ルーシーと付き合ってる」と言い出した時、観客としては(なんて図々しい)と感じるんだけど、良く考えたらルーシーも同じような嘘を吐いてるんだと気が付かせる形になってるんです。  だからこそ、終盤で罪悪感ゆえにルーシーが結婚式を破綻させちゃう流れにも、自然と納得出来ちゃう。  ある意味、ルーシーには一番お似合いというか、似た者同士な二人であり、終盤で二人がハグを交わし「良い友達」という関係性に収まるオチには、ほのぼのさせられました。  難点としては……駅でピーターを突き落とした二人がどうなったのか、謎のままなのでスッキリしない事。  そして「寝てる間に婚約者が出来て、それを弟に奪われた」って形になるピーターが哀れで、ハッピーエンドに影を落としている事が挙げられそうですね。  優しい作風の品なのだから、最後も「主人公は幸せになりました」というだけでなく「皆が幸せになりました」という形の方が似合ったんじゃないかなって、そんな風に思えました。[DVD(吹替)] 6点(2023-12-26 08:25:46)(良:2票) 《改行有》

3.  ホーム・アローン 《ネタバレ》  クリスマスの定番「何も考えずに観ても面白いし、観賞後は幸せな気分に浸れる」というタイプの映画なのですが、此度久し振りに観賞して、その丁寧な作りに驚かされました。  観客側が「何も考えずに楽しめる映画」を完成させる為には、作り手側は考えに考え抜いて作る必要があるのだと教えられたようであり、本当に頭が下がる思いでしたね。  特に感心させられたのが、状況設定の上手さ。  停電が原因の朝寝坊とか、人数の数え間違いとか、二台ある車とか「幼い男の子が一人ぼっちで家に取り残される」状況への持って行き方に、ちゃんと説得力があるんです。  脚本だけでなく、演出も冴えており、とにかくスピーディーに描き切って、すんなり観客が受け入れられるよう仕上げているんだから、これは凄い事だと思います。    序盤の会話にて「蜘蛛」や「ミニカー」が伏線として張ってある辺りも上手いし、人が沢山いて騒がしい家と、誰もいなくなって静かになった家とを対比させるシーンも良いですね。  意地悪かと思われた姉のミーガンが、置き去りにされたケビンを心配しているギャップなんかも、心地良い意外性、ツンデレなキャラクターの魅力を感じられて、実に自分好み。  恐らく本作は、殺人鬼のサンタと主人公の少年が豪邸の中で戦う「ウォンテッド Mr.クリスマス」(1989年)が元ネタの作品であり、しかも内容をマイルドに調整しているもんだから、普通なら物足りなく思えちゃうはずなんですよね。  でも、そこをしっかり「本作独自の魅力」が感じられるよう仕上げてある。  それは勿論、主演のマコーレー・カルキンの力に因るものなのでしょうが……  自分としては「一人きりになった家の中で、好き勝手やる楽しさ」が描かれている点も大きかったんじゃないかな、と思っています。  勝手に部屋に入って、家族の秘密を暴いちゃうという陰性の楽しみ方から、アイスを山盛りにして食べながら映画を見るという陽性の楽しみ方まで、丁寧に描いてあるんですよね。  特に後者のシーンに関しては(あぁ、子供の頃にコレを観て、何時かは自分も山盛りアイスクリーム食べてやるんだと思ってたなぁ……)(でも、気が付けばその夢を叶えないまま、子供の頃ほどアイスが好きじゃない大人になってたな)と思えたりして、妙にしみじみしちゃいました。  また、本作は少女を観て愛でる「ロリコン映画」と同じように、少年を観て愛でる「ショタコン映画」としての魅力を備え持っている辺りも、重要なポイントじゃないかと思えましたね。  今更言うまでもなく、主演のマコーレー・カルキンは美少年だし、その仕草や、物事に対する反応なんかが、凄く可愛らしい。  劇中で映画(しかも恐ろしい怪物が出たりする訳ではない、単なるギャング映画)を観て怖がる演技なんかは特に秀逸で「生意気で口も悪いけど、意外と可愛い奴だ」と思わせてくれるんだから、お見事です。  家に人が沢山いると見せかける為、音楽のリズムに合わせて人形を動かすシーンも楽し気で良かったですし、サンタの恰好をした男に対し「アンタが偽者なのは分かってる。ボクはもうガキじゃない。でもサンタに雇われてるんでしょう?」と話したりする、絶妙なマセ具合も可愛かったですね。  彼が一世を風靡した名子役となったのも、大いに納得。  そんなカルキンの存在に頼り切り、ひたすら子供目線の「キッズ映画」となっていてもおかしくなかったところを踏み止まって「我が子を想い、何とか家に帰ろうと奮闘する母親の物語」という側面を付け足し、大人目線でも楽しめる「ファミリー映画」に仕上がっている点も、これまた素晴らしい。  「地下室の怪物」の恐怖を乗り越えるエピソードも(確かに子供の頃は、ああいう謎の恐怖心みたいなのがあったなぁ)と思えて説得力があったし、近所の老人との心温まる交流も、如何にもクリスマス映画らしく思えて、ほのぼのさせられました。  一応、難点も挙げておくと、元ネタでは殺人鬼だったのを泥棒に変えた事による弊害か、諸々のトラップに「やり過ぎ」感があり、悪役である泥棒達が可哀想になってしまうって点が該当しそうなんですが……  まぁ、これに関しては「勧善懲悪」の枠内に収まる範疇だし、ギャグっぽく描かれているのでギリギリセーフ、と思いたいところ。  ラストシーンにて、再会した家族には「一連の泥棒退治」について話さず秘密にしておく辺りも「ケビンと観客だけの秘密の共有」感があって、好きですね。  ベタな表現になりますが「クリスマスが来る度に観返したくなる」という、そんな愛着のある映画です。[ブルーレイ(吹替)] 8点(2023-10-11 08:01:58)(良:2票) 《改行有》

4.  ミザリー 《ネタバレ》  作品を完成させた際の「煙草とシャンペン」の儀式を冒頭で描いてる事や「ペンギンの人形を逆向きで置いた場面」を、しっかり見せてる事が印象的。  とても伏線が丁寧で、誠実に作られた一品だったと思います。  これなら劇中で「ロケットマン」に対し「インチキ」とお怒りだったアニーも、きっと満足してくれるんじゃないでしょうか。  とにかく原作小説が印象深いもので、どうしても「原作とココが違う、アレも違う」という比較論で語りたくなっちゃうんですが……  そういうのって、ちょっと映画に対してアンフェアな気もするし、純粋に映画そのものを楽しめてない気がするから、及び腰になっちゃいますね。  それでも、やっぱり語らずにはいられないので始めちゃいますが、劇中で「ミザリーの生還」の原稿を本当に焼いてしまう展開だった事には、もう吃驚です。  確かに、その方がインパクトは高まるし「主人公のポールも、犠牲を払った上でアニーに勝利した」という劇的な流れになるのは分かりますが……  原作では原稿を摩り替えており、本当に焼くような真似はしていないし「ミザリーの生還」の結末がどうなるか、ちゃんと読者に教えてくれる作りだったんですよね。  この辺り、原作未読の人は「イアンとウィンドソン、どちらと結ばれるのか」などの答えが分からないまま映画が終わるので、もどかしく思えるかも……  いや、原作と違って「ミザリーの生還」を劇中作として読ませるという手法じゃないから、案外そんなに気にならないかも?  などと、アレコレ考えられて楽しかったです。  それと「包丁を取り出す練習をするポールが恰好良い」とか「アニーが優しい言葉を掛けつつライターオイルを振り掛けて『穢らわしい原稿を焼かなかったら、貴方を焼いてしまうわよ?』と暗に脅してるような場面が素晴らしい」とか、文字媒体の小説では中々描けないような、映像で魅せる映画ならではの良さが、しっかり感じられた辺りも嬉しいですね。  いかにも最後まで生き残り、ポールを救ってくれそうな老保安官が殺される場面もショッキングだったし、原作を読了済みの自分でも楽しめたのは「映画版独自の魅力」が、しっかり備わっていたからだと思います。  これは演者さんの力なんでしょうけど、投げキッスをする場面なんかでは、あの恐ろしい「女神」であるアニーが可愛らしく思えたし、男女のロマンス要素が色濃く感じられた辺りも、興味深い。  ファン心理の暴走というよりは「アニーはポールに歪んだ愛情を抱いてる」「殺すのはアニーにとっての愛情表現でもある」っていう面が強かった気がするんですよね。  だからこそ、過去の死亡記事を見つけて、自分がアニーにとっての「初めての男」ではないと悟るポールの場面も二重にショッキングに感じられたし、この辺りは「狂った女の愛憎物語」として、とても良く出来ていると思います。  ただ、最後に関しては……  原作から大きく逸脱してる訳じゃないし、エンディング曲の歌詞を併せて考えると「これからも、アニーはポールから逃られない」「二人は、ずっと一緒」という余韻を残す終わり方にしたかったんでしょうが、ちょっと微妙に思えましたね。  原作はハッピーエンド色が強く、とうとうアニーの幻影を振り切って新しい小説を書き出せた感動と共に終わっていますし、まるで趣が違うんです。  「自らが生み出したミザリーを憎んで殺したはずなのに、生き返らせる事になった」からこそ「ミザリーと同じように、アニーも墓から甦ってくるかも知れない」と怯えるポールという、ミザリーとアニーを重ね合わせる描写が感じられなかったのも、不満点と言えそう。  それに、どうせ独自の展開にするなら、いっそ原作でも示唆された「チェーンソーを振り上げ、襲ってくるアニー」を映像で見せて欲しかったなぁ……なんて、つい思っちゃいましたね。  こんな願望を抱いてしまう辺り、自分も充分に「怖いファン」と言えるかも知れません。[DVD(吹替)] 7点(2023-08-09 23:19:47)(良:2票) 《改行有》

5.  ファニーゲーム 《ネタバレ》  これは観客を不愉快にさせる為の映画なのでしょうか。  不愉快になる理由としては、劇中で行われた暴力や理不尽さに対する怒りが必要になってくると思います。  でも正直、不愉快というよりは退屈に感じましたし、怒るというよりは呆れるという感情に近い。  それが決定的になるのは「仲間を殺されてしまった犯人が、リモコンの巻き戻しボタンで時間を逆行させて、仲間の死を回避してしまう」という場面。  これはもう、完全に興醒めです。  不幸を回避する為に時間を逆行させる展開は珍しくもないけど、これほど唐突なパターンは記憶にありません。 (現実に行われている暴力の理不尽さを描こうとしているのかな?) (暴力を娯楽として描く映画に対するアンチテーゼなのかな?)  などと、色々考えながら観賞していたのですが、この映画に匹敵するほどの理不尽さは現実世界や他の映画では見受けられないと思います。  よって、現実世界に対する警鐘とも他の映画に対するパロディとも感じられません。  恐らくは「ある戦慄」(1967年)が元ネタなのだろうな、と思えますが、あちらに存在したラストシーンのカタルシスや、背筋が寒くなるほどの恐怖や嫌悪感すらも無し。  致命的なのは、やはり「巻き戻し」によって、一度映画で描かれたものを自ら否定する形になってしまった事ではないでしょうか。  この映画はラストにて、新たな獲物を見つけた悪党二人組が再びゲームを始めようとする場面で終わるのですが、それに対しても恐怖とか、次なる展開への興味とかいったものを抱けないのです。  極端な話、ゲームに飽きた二人が巻き戻しボタンを押してしまえば、犠牲者も全て元の状態に戻る事になる。  犯した罪も全て「無かった」事に出来るじゃないか、と考えれば、彼らが何をやっても、映画の中で何が起ころうと、興味を持てなくなってしまいます。  この映画に対する不快感だって、劇中で巻き戻しボタンを押されたら否定されてしまう、意味の無い物としか思えません。  監督さんは才能のある人なのだろうし、波長が合えば楽しめる映画なのだろうな、とも感じました。  けれど「劇中で描かれた全てを無価値にしてしまった映画」という意味において、これほど「0点」が相応しい品は他に無いように思えます。[DVD(字幕)] 0点(2023-07-11 10:55:53)(良:1票) 《改行有》

6.  リバー・ランズ・スルー・イット 《ネタバレ》  自分は「レジェンド・オブ・フォール」(1994年)を「ブラッド・ピットの俳優人生で、最も美しい瞬間を収めたフィルム」と評しましたが……  その場合、対抗馬として真っ先に思い浮かぶのが本作ですね。  もしかしたら、彼の美しさという意味では本作の方が優れてるかも知れません。  何せ劇中でも「ポールは美しかった」と評されてるし、その言葉が大袈裟でも何でもなく、本当に「美しい」としか思えないんだから凄い。  そんな彼に負けず劣らず、モンタナの川景色も素晴らしいし、水の流れる音やリールが巻かれる音にも癒されるんですよね。  自然の美しさを描く際には、ついつい視覚的な方面にばかり偏ってしまうものですが、本作は「音の美しさ」にも拘りを感じます。  主人公兄弟の父が牧師という事もあり、意外と宗教色が強い内容なんだけど、あまり説教臭さを感じない作りになってるのも嬉しい。  「真面目な兄」のノーマンですら、家業を継いで牧師になったりはしなかったし「破天荒な弟」であるポールの方はといえば、牧師とは真逆のアウトローとして描かれていますからね。  あるいは映画の冒頭にて「宗教と釣りの間に、はっきりとした境が無かった」と語られている通り、釣りという行いそのものが、主人公一家にとっての宗教だったのかも知れませんが……  自分としては、教会で説教を聞いたり祈ったりする必要がある宗派よりも、川で釣りするだけの宗派の方が、ずっと素敵じゃないかと思えて仕方無いです。  そんな本作は終盤にて「自由奔放に生きていたポールの、突然の死」が描かれる訳だけど、そこに大きな驚きは伴わず、観客としても自然と受け入れられるような作りだったのも、凄い事ですよね。  中盤、留置場に迎えに行く場面などで「ポールの危うさ」を描いておいた脚本も上手いと思うし、それより何より「この弟は、いずれ取り返しのつかない事をやらかしてしまう」「ある日ふっと何処かに、いなくなってしまう」と感じさせる人物を演じ切った、ブラッド・ピットが素晴らしい。  これはもう演技力とか、そういうテクニック的な次元の話ではなく、この時代、この映画の中だけに収められた「儚さと眩しさが交ざりあったような、不思議な存在感」があってこその、奇跡のような配役だったと思います。  釣り以外にも「人生で一度だけの兄弟喧嘩」とか「列車用のトンネルを車で通る」とか、忘れ難い場面が色々と備わっているのも、映画としての奥深さ、味わい深さを感じますね。  悲劇が起こる前日、兄のノーマンが「一緒にシカゴに行かないか?」と弟を誘うのも、弟を救いたい兄なりの精一杯の優しさ、そして「俺にはお前は理解出来ないし、お前を変える事も出来ないけど、せめて傍にいてやりたい」という、切ない願いが伝わってくるかのようで、好きな場面。  兄弟の少年時代から、青年時代、そして弟を失った兄が老人になった姿まで、丁寧に描かれた本作品。  子供の頃に観ても、大人になった今観返しても、充分に楽しめたのですが……  いずれ老人になった時に観返したら、どんな感覚を味わえるだろうかと、今から楽しみです。[DVD(吹替)] 8点(2023-06-27 16:52:15)(良:2票) 《改行有》

7.  耳をすませば(1995) 《ネタバレ》  何といっても印象深いのは、図書カードの件。  自分と全く同じ好みをした異性がいるだなんて、正に運命。  天沢くんに惹かれる主人公の気持ちも分かるなぁ……と思っていたら、それは運命でも偶然でも何でもなく、単に「好きになった女の子が読みそうな本を、男が片っ端から借りていただけ」だったと判明して、もう吃驚です。  主人公もコレには引いちゃうんじゃないかなと思っていたら、頬を染めて、ときめいている様子だった事には、更に驚かされましたね。  昔の恋愛映画って、現代の観点からすると「これってストーカーでは?」とツッコミたくなる展開が多いんですが、本作もその一例として挙げる事が出来そう。  監督は近藤喜文ですが、脚本や絵コンテなどは宮崎駿が担当している為か(相変わらずのロリコン映画だなぁ……)と思わせてくれる事にも、何だかほのぼの。  本当に、拘りを持って「如何に主人公の少女を可愛く描くか」を突き詰めたのが伝わってきて、恐らくは性癖的に近しい要素を持っている自分としても「あざとい」「不道徳」と思いつつも、惹かれるものがありました。  そして、これが大事なポイントなのだと思うのですが、本作って少女だけでなく、相手役となる少年も、凄く魅力的に描かれているんですよね。  美男子で、優等生で、特別な才能を持っていて、夢に向かって一直線でと、同性の自分からすると嘘臭く感じるくらいなのですが、そもそも劇中の主人公カップルって「女性から見ると嘘みたいな少女」と「男性から見ると嘘みたいな少年」という組み合わせで成立しているのであり、そこが男女問わず観客の心を掴む要因になっている気がします。  男友達に対し「本当に鈍いわね」と怒っていた主人公が、実は自分の方がずっと鈍感だったと分かる流れも面白かったし「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにも出来ないからね」という父親の台詞も、胸に沁みるものがありました。  もう一つ印象深いのは「自分よりずっと頑張っている奴に、頑張れなんて言えないもん」という台詞。  主人公が天沢君に対して引け目を感じていた理由が、この一言に集約されている感じがして、とても秀逸だと思いましたね。  そもそも本作って、天沢君は典型的な「王子様」キャラだし、そんな彼と、ごく普通の女の子が結ばれるという、極めて少女漫画的なストーリーなんです。  にも拘らず、男である自分が観ても共感を持てるのは、具体的に「彼に見合うような人間になる為に、主人公も頑張る」という姿が描かれてるからなんですね。  だからこそ応援したくなるし、そんな「頑張り」が暴走して、勉強の方が疎かになってしまい、しっかり者な姉との口喧嘩にて、つい強がって「高校なんて行かないから」と言っちゃう辺りも、痛々しいくらいにリアルに感じました。  この辺り(ちゃんと彼の事を家族にも話した方が良いのでは?)と、大人になった今では思ってしまうのですが、子供の頃って、こういう不思議な意固地さがありましたからね。  何だか懐かしい気持ちと、恥ずかしい気持ちを、同時に味わう事が出来ました。  クライマックスの、まだ薄暗い夜明け前。  自転車に二人乗りして「オレだけの秘密の場所」に向かうシークエンスなんか、本当に素晴らしく、それと同時に面映ゆくて、観ていられないくらい。  「それじゃ寒いぞ」と彼女に上着を渡す仕草。  「私も会いたかった」と彼の背中に頭を添えて呟く主人公の姿など、青少年が憧れてしまうシチュエーションが「これでもか!」と詰め込まれているのだから、もう圧倒されちゃいます。  上述の「彼に一方的に幸せにしてもらうだけの女の子ではありたくない」という想いが、坂道での「共同作業」にも表れており、これには(良いカップルだなぁ……)と、素直に祝福したい気持ちになれましたね。  最後には、結婚の約束までしちゃう事すらも、この二人ならば、自然に思えます。  万が一結ばれなかったとしても、一連の出来事の数々は、素敵な初恋の思い出として、いつまでも心の中に残りそう。  脇役であった杉村君と夕子ちゃんの恋の顛末を、エンドロールの中でサラリと描いてみせるのも、御洒落でしたね。  天邪鬼な自分からすると、主人公カップルが眩し過ぎて、まるで幻みたいで、どうにも感情移入しきれない部分もあったりしたのですが……  それを差し引いても、良い映画だったと思います。[DVD(邦画)] 6点(2023-06-26 14:06:39)(良:1票) 《改行有》

8.  レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い 《ネタバレ》  子供の頃に観て以来、大好きな映画。  改めて再見すると「ヒロインのスザンナに共感出来ない」「主人公トリスタンが家に帰る場面を感動的に描くのは、二回繰り返さず一回に留めて欲しかった」等々、欠点らしき物も見つかるんですが……  (あぁ、やっぱり良いなぁ)って感じる場面の方が多かったですね。  特に「弟であるサミュエルの死」の件は、何度観ても胸に迫るものがあります。  瀕死の弟を抱き起こし「もう大丈夫だ」「家へ帰ろう」と呼びかける兄の姿。  ちっとも大丈夫じゃないし、弟は二度と家へ帰れないという現実が痛いほど分かるだけに、トリスタンの切なる願いと、それが叶わない絶望とが伝わってきて、忘れ難い名場面です。  そんなトリスタンが「神を呪う」と叫んだり、トリスタンの父が「アメリカ先住民を守ろうとしたが、守れなかった軍人」という立場だったりと、本来はキリスト教徒や米国人向けに作られた映画なのでしょうけど……  そのどちらにも該当しない自分でも、充分に面白かったですね。  むしろ、この映画で描かれた世界や歴史、価値観とは無縁であるからこそ、一種のファンタジーとして、夢に浸るような気持ちで楽しめたのかも知れません。  映画の要所要所で手紙が読み上げられるのも、程好いアクセントになってると思うし、序盤にも中盤にもクマを登場させてあるので「最後に主人公は、クマと戦って死ぬ」という、一見すると突飛な結末にも、しっかり納得出来る作りなのも嬉しかったです。  (この主人公の最期は、クマと戦わなきゃ駄目だ。そうじゃなかったら嘘だ)とまで思わせてくれたんだから、本当に凄い。  モンスターパニック物とは毛色が違うけど、これも一種の「クマ映画」と呼べそうですね。  それと、自分は先程「ヒロインのスザンナ」と書きましたが、どちらかといえばイザベル・スーの方が、ヒロインと呼ぶに相応しい気がします。  幼い少女時代から、健気にトリスタンを想い続け、最後は彼の妻となる。  大人になった今観ると「何があっても貴方への気持ちは変わらない」「待ってるわ、どんなに長くなっても」とトリスタンに言ってたスザンナが、彼の兄であるアルフレッドと結婚しちゃう事や「イザベルの死を願ってた」と言い出す事に、流石に付いて行けない気持ちになったりもするんだけど……  それでも楽しめたのは、彼女のアンチテーゼとも言うべき存在として「本当に何があっても、トリスタンを一途に想い続けたイザベル」が登場しているからだと思います。  そんな感じで、アレコレ分析させる余地もあるし、難しい事を考えず「男女の恋愛映画」「家族愛を描いた映画」として感覚的に楽しむのも可能だし、何ていうか、懐の大きい作品なんですよね。  老いて活舌の悪くなった父が、黒板に「(お前に会えて)嬉しい」と書いて、息子との再会を喜ぶ場面も良いし、不遇だった長兄のアルフレッドが、最後に父と弟を救ってオイシイとこ持っていくのも良い。  ブラッド・ピットの俳優人生で、最も美しい瞬間を収めたフィルムってだけでも、充分に価値があると思います。  作中で描かれるモンタナの風景も雄大で、音楽も幻想的な響きがあって、夢心地にさせてくれる。  初めて観た時から、今も変わらずに……  自分にとっての「夢のような映画」と言える一本です。[DVD(吹替)] 8点(2023-06-22 22:32:08)《改行有》

9.  ザ・ワイルド 《ネタバレ》  サメ映画ならぬクマ映画の中では、本作が一番好きですね。  といっても「王道のクマ映画」「クマ映画といえばコレ」なんていうテンプレな品では決してなく、むしろ「個性的なクマ映画」と言えそうな内容。  億万長者な老人が主人公ってだけでも大分珍しいと思うし、主演がアンソニー・ホプキンスで、その相棒がアレック・ボールドウィンというのも、強烈な組み合わせですよね。  モンスターパニック映画というより、人間ドラマという趣が強い内容になってるのは、それだけ俳優陣に「濃い」のが揃ってるからだと思います。  メインの二人だけでなく、ドラマ「OZ/オズ」で馴染み深いハロルド・ペリノーが出演してるのも嬉しかったし、大好きな映画「レジェンド・オブ・フォール」(1994年)で主人公と相対したクマが、本作でも出演してるって事にも吃驚。  そのクマはバートという名前であり、他にも色々な作品に出演してるとの事で(人間の世界だけでなく、クマの世界にも名優は存在するんだな……)なんて、しみじみと感じ入りました。  それと、この手の映画では「平時は有能な金持ち」って「緊急事態では役に立たず足を引っ張る」のがお約束なのに、本作では持ち前の知識を活かして大活躍しちゃうっていうのも、意外性があって良かったです。  この辺りに関しては、モンスターパニック映画が好きで、色々観ていて「お約束」を知ってる人ほど、意表を突かれて楽しめるんじゃないかと。  親切に接してくれる人が、実は金目当てだと覚って拍子抜けしちゃう場面とか、主人公の孤独を描く上で「お金持ち設定」を、ちゃんと活かしてるのも良いですね。  遭難事故においては、金持ちである事なんて何の役にも立たず、主人公は持ち前の知恵と精神力とで生き抜いてみせたのに、平和な日常の世界では、誰も彼の内面を見てくれず、持ってる金を目当てに近寄る連中ばかり……という空しさが、丁寧に描かれていたと思います。  「腕時計が壊れてる」「熊を捕獲する為の落とし穴」などの伏線が、きちんと提示されていた辺りも良かったし、熊から逃げるのは不可能なので殺すって結論に至る場面も恰好良くって、お気に入り。  終幕の場面にて、主人公は相棒のボブが死んでしまった事を「友を失った」という形で悲しむ訳だけど、その感情の中には「これで、自分の生涯で最も輝いた姿を知る者がいなくなってしまった」という哀切もあったのではないか……と思えるくらい、野生の世界で生き抜く彼の姿は凛々しくて、美しかったです。  難点としては……終わり方が少々物足りないって事が挙げられそうかな?  結局、ボブと浮気してた妻を許すのかどうかって辺りも明確な結論を出してないし、何だかスッキリしないんです。  「潜在的な同性愛嗜好」なんて台詞もありましたし「実は主人公が愛してたのは妻ではなく、友人のボブの方」あるいは「亡き友の名誉を守る為、彼の醜聞を秘密のままにしておく為、仕方無く妻の不倫に気付かぬ振りをした」って事なのかとも思えるんですが、真相や如何に。  いずれにせよ「王道なクマ映画とは言えない」「これを観てクマ映画に興味持っても、他にこんな内容のクマ映画は滅多に無い」って点を加味した上でも、誰かにクマ映画を薦めるとしたら、迷いなく本作を選んじゃいますね。  サメ映画界よりも不遇なクマ映画界に颯爽と現れた、奇跡のような一本だと思います。 [DVD(吹替)] 8点(2023-06-14 01:46:23)(良:1票) 《改行有》

10.  羊たちの沈黙 《ネタバレ》  自分はハンニバル・レクターよりもウィル・グレアムというキャラクターに惹かれるもので、彼が登場せずにレクターが好き勝手やるだけの作品は、あまり好みではないのですが……  そんな中でも、この「羊たちの沈黙」だけは良く出来てると思います。  何といってもクラリス演じるジョディ・フォスターが美しくて、彼女を眺めてるだけでも楽しいんですよね。  原作者のトマス・ハリスも彼女に惚れ込んでしまい、本作の続編となる「ハンニバル」では、レクターに自己投影してクラリスと結ばれるエンディングにしたっていう与太話がありますが、思わずそれを信じそうになっちゃうくらい。  殺人鬼の許されぬ愛が描かれているという意味では「レッド・ドラゴン」と同じなんですけど、本作の方が世間に評価されたのは、彼女の存在が大きいと思います。  対するレクターも魅力的に描かれており、ドラマ版「ハンニバル」を別格として、映画という枠内に限って評価するなら、本作のレクターが一番良かったですね。  知性と凶暴性のバランスが絶妙であり、音楽が流れる中で、指揮棒を振るうように警棒で相手を滅多打ちにする姿なんてもう、痺れちゃいます。  クラリスとの別れ際、彼女の指をそっと撫でる仕草からも「娘のような年頃の女性に欲情する変態性」「初々しい恋愛感情」の双方を感じ取れて、味わい深い。  自分は「ウィルを意識する余り、凶悪な殺人鬼から恋する乙女のように変わってしまうレクター」の方が好みなんだけど……  本作を観ると「クラリスに惹かれてしまう、純情な変態紳士としてのレクター」も、それはそれで悪くないなって思えてきます。  そんなクラリスとレクターが対面する精神病院も、古城を連想させる不気味さがあって、雰囲気満点。  しかも、恐怖映画としての不気味さがあるというだけでなく、何処かロマンティックであり「クラリスとレクターが初めて会った場所」として考えても、優れてるんですよね。  本作は歪な恋愛映画としての側面を備えているのだから、一種の吊り橋効果というか「恐怖の中に、不思議なトキメキを感じる」舞台を用意してみせたのは、もう大正解だったんじゃないかと。  「穏やかな紳士だが、実は食人鬼」はジェフリー・ダーマー  「殺人鬼が未解決事件の捜査に協力する」「腕が不自由な振りをして女性を拉致する」はテッド・バンディ。  「変身願望ゆえに、女性を殺して皮を剥ぐ」はエド・ゲイン。  「捕えた女性を自宅の穴に閉じ込める」はゲイリー・ヘイドニク。  ……といった具合に、色んな殺人鬼の逸話が反映されてる物語なので、それらの元ネタ探しをするだけでも面白いですよね。  事前に知識があれば(あぁ、あれが元ネタか)と思えるし、後に元ネタを知る機会があれば(「羊たちの沈黙」って、ここから着想を得たのか)と驚けるだろうしで、いずれにしても知的興奮が味わえると思います。  そんな本作の難点は……   クライマックスであるクラリスとバッファロー・ビルの対決にて、暗闇ならではの駆け引きなどが無く「撃鉄の音が聞こえたので撃った」ってだけなのは、ガッカリしちゃいましたね。  そりゃあ頭の良い犯人って訳じゃなかったけど「予め離れた場所で撃鉄を起こしておく」くらいの知恵は働かせても良かったと思うし……  これなら「バッファロー・ビルが何か(人質が犬を誘う為に投げて、紐から外れた小骨とか)を踏んでしまい、その音でクラリスが気付く」などの方が、よっぽど納得出来た気がします。  後は、脱獄したレクターが捕まらないまま終わるっていうのも、スッキリしない感じ。  彼の勝ち逃げエンドみたいな形で終わるからこそ、ハンニバル・レクターという存在は悪のカリスマになったんでしょうけど……  個人的には、しっかり逮捕されて欲しかったですね。  レクターには、外界で自由気ままに人を殺す姿よりも、檻の中でウィルやクラリスに恋焦がれてる姿の方が似合うと思います。[DVD(吹替)] 7点(2023-05-10 06:37:32)(良:1票) 《改行有》

11.  マーヴェリック 《ネタバレ》  ポーカーを題材にした映画は色々ありますが、その中でも本作が一番好きですね。  といっても、単純に「ポーカー映画」と評するのも躊躇われる程に色んな要素が盛り込まれており、それら全てが喧嘩せず綺麗に纏まっているんだから、これは凄い事だと思います。  最後の「実は親子だった」というオチも鮮やかに決まってるし、何より映画全体から「観客を騙そう」という意思よりも「観客を楽しませよう」という意思が伝わって来るんですよね。  自分は、この手の「どんでん返しオチ」に対しては拒否反応を抱く事もあるんですが、それって要するに「作り手が観客を楽しませる事よりも、観客を騙して悦に入る事を優先させている」と感じてしまうからこそ嫌な気分になる訳で、本作には、そういう気配が全く無いんです。  なんせメインとなる「ポーカーの勝負」に興味無い人でも楽しめるよう「銃撃戦」「暴走した馬車を止めようとするアクション場面」「ヒロインとのロマンス」などを、合間合間に盛り込んでるくらいですからね。  此度、久々に観賞してみて(こんなにポーカー以外の要素が多かったのか)と驚きましたし、多彩な魅力をバランス良く提示する監督の手腕には、改めて感服させられました。  メル・ギブソンも飄々とした主人公を魅力的に演じてるし「木曜日の夜に脚本を読み、金曜日の朝にOKの返事をした」というジョディ・フォスター演じるアナベルも、とびきりキュート。  原作ドラマで主人公ブレット・マーヴェリックを演じたジェームズ・ガーナーが「主人公の親父」役で登場するというファンサービスも、心憎いですね。  西部開拓時代の世界も雰囲気たっぷりに再現されており、音楽もそんな世界観を壊さぬようクラシカルな選曲がされている訳だから、もう画面を眺めているだけでも楽しくって……観賞中は、とても充実した時間を過ごす事が出来ました。  そんな中、あえて気になる箇所を挙げるとすれば「主人公のブレットが、弟のバートと名前を間違えられる理由」「ダニー・グローヴァー演じる銀行強盗の正体」の二つの謎が、作中で解き明かされていないという、その辺りが該当するでしょうか。  恐らく「原作ドラマ版では、兄弟によるダブル主人公であった為、本作の主人公が兄のブレットとも弟のバートとも解釈出来る余地を与えておいた」「実は生きていたポークチョップ」が正解だとは思うんですが、出来れば明確な答えを示して欲しかったです。  それと「エンジェル達が入念に身体検査して金を奪わなかったのは不自然」「ディーラーがトランプの束を摩り替えるシーンが分かり易過ぎる」って辺りも、不満点と言えそうですね。  前者に関しては、マックス・A・コリンズの小説版ではキッチリ金を奪われるシーンがあっただけに、余計に「なんで?」と思えてしまうし、あれだけの大金を奪われずに済む展開なら、もうちょい理由付けが欲しい。  また「最後にマーヴェリックがスペードのエースを引けた理由」に関しても、小説版では「母親が病死する際にも、母の為にスペードのエースを引いてみせると予告したのに、引けなかった過去がある」というドラマ性「保安官が密かにスペードのエースに摩り替えておいた」という裏付けがあったのに比べると、本当に「魔法で引き当てた」としか思えない作りになっており、ちょっと物足りなさがありましたね。  小説版では、第二のヒロインとして「蛇使いのバアさん」が登場し、この「とうとうスペードのエースを引き当てる事が出来た場面」を大いに盛り上げていたりもするので、興味が有る方には、是非ご一読してもらいたいです。  映画と同じくらい面白くて、オススメですよ。[DVD(吹替)] 8点(2023-04-29 09:28:05)(良:2票) 《改行有》

12.  ギャラクシー・クエスト 《ネタバレ》  「スタートレック」のパロディ作品なのですが、どちらかといえば「サボテン・ブラザース」の影響の方が色濃いようにも思えましたね。  「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」という筋書きが全く同じであり、その枠組みを「西部劇」から「スタートレック」に置き換えただけ、という感じ。  である以上、既視感だらけで退屈な映画になりそうなものなのに……なんと吃驚。  これがまた、元ネタに優るとも劣らぬ傑作に仕上がっているのですよね。  自分の場合「サボテン・ブラザース」を観賞済みだったので、ある程度展開が読めてしまった部分があるのですが、そういった予備知識無しで観ていたら、本当に衝撃的な面白さだったんじゃないかと思います。  ストーリー展開が読めているのに、何故こんなに面白かったのかと考えてみたのですが、それに関しては「登場人物が魅力的である」という一点が大きかった気がしますね。  往年のSFテレビドラマ「ギャラクシー・クエスト」の栄光に縋って生きている、売れない俳優達。  互いに喧嘩したり、仕事に対する文句を言ったりはするんだけど「基本的には良い奴等」という線引きが絶妙であり、観客としても素直に彼らを応援出来るんです。  特に感心させられたのが、序盤にて主人公のジェイソンがファンに八つ当たりしてしまう場面。  ここって「主人公達は現状に不満を抱き、鬱屈としている」「そんな彼らが、この後ヒーローになる」という事を示す為、決して外せない場面だと思うんですが、一歩間違えば序盤の段階で「こいつは嫌な奴だ」と観客に悪印象を与えてしまう、非常に危うい場面でもあるんですよね。  でも、この映画ではヒロインのグエンが「ファンを相手に、あんなにカッとするなんて初めて」と驚く展開が用意されている。  それによって「主人公はファンサービスを大切にするような、優しい男である」「そんな彼が思わずファンに八つ当たりしてしまうほど、現状に対しては不満を抱いている」という二つの情報を、同時に観客に与える事に成功しているんだから、これは本当に上手かったと思います。  「ドラマでは直ぐに死ぬ端役だが、現実の世界では今度こそヒーローになろうともがいている男」を、ゲスト枠のような形で参戦させているのも良いですね。  主人公達が「ドラマのようにヒーローになる」という展開ならば、彼に関しては必然的に「ドラマと同じように死んでしまうのでは?」と思わされるし、その存在によって、適度な緊迫感が生まれてる。  女性型宇宙人とのロマンスを繰り広げる技術主任なんかも、程好いアクセントになっていたかと。  彼らに助けを求める宇宙人側の描写も、これまた良いんですよね。  「コスプレかと思ったら、本当に宇宙人だった」という序盤の展開だけでも面白いし、歩き方や笑い方がぎこちないという、わざとらしい「宇宙人っぽさ」の演出も素敵。  リーダー格のマセザーが、ジェイソンから「本当の俺達はヒーローなんかじゃない。全ては作り物だった」と告白されて、凄く切ない反応を返す場面も、忘れ難い味がありました。  「サリスの船から盗み出したテープ」「小さな猿のような生物」など、要所要所でハッとさせられる場面があり、コメディでありながら油断出来ない、シリアスな物語としての魅力が充分に備わっている点も、見逃せない。  そんな魅力がピークに達するのが「ドクター・ラザラスに憧れていた青年」の死亡シーンであり、彼を看取りながら「役者のアレクサンダー」が「ヒーローであるドクター・ラザラス」へと生まれ変わる流れは、本当に感動的だったと思います。  無名時代のジャスティン・ロングがオタク少年役で出てくるサプライズも嬉しかったし「いつも一秒で止まるのよね」などの台詞も、ユーモアがあって好み。  仲の悪かったジェイソンとアレクサンダーが、咄嗟の機転で一芝居打ってみせ、窮地を脱する辺りも面白かったですね。  無事に悪者を退治した後「ギャラクシー・クエスト、十八年振りのシリーズ復活!」「かつての端役が、今度はレギュラーに抜擢」「技術主任と女性宇宙人も、ラブラブなカップルに」といった映像が次々に流れるハッピーエンドも、非常に後味爽やか。  気になる点としては、切り札であるオメガ13の使用シーンにて(明らかに十三秒以上、時間が巻き戻ってない?)とツッコまされる事。  そして、上述のオタク少年も皆を救った功労者なのに、それが認められる場面が無かった事なんかが挙げられそうですが、精々そのくらいですね。  元ネタありきの内容でありながら「これは元ネタより面白いんじゃないか」と思わせてくれる。  非常に貴重な映画でありました。[DVD(吹替)] 8点(2023-03-15 23:35:23)(良:4票) 《改行有》

13.  理由(1995) 《ネタバレ》  こういったストーリー展開の場合、観客はどうしても「無実の黒人青年」に肩入れしてしまう訳で、それを逆手に取った巧みな脚本だったと思います。  けれど、本作に関しては伏線が足りなかった印象も受けましたね。  終盤にて「実は本当に少女を殺していた」と明かすのであれば、もっと納得出来る材料を予め提示しておいて欲しかったです。  ローレンス・フィッシュバーン演じる警官に関しても、事前に「嫌な奴」として描き過ぎていた為なのか、終盤に共闘してくれても盛り上がるものを感じなくて、非常に残念。  思うに、前半にて登場人物の善悪に関するミスリードを徹底的に行っていた弊害なのではないでしょうか。  作中で最も悲劇的な事件であろう「少女の殺害」の動機が弱過ぎるのも気になります。  主人公の妻に対する復讐が目的だったなら、こんなに遠回りしなくても、もっとスマートな方法があったのでは? という疑念が拭えなくて、全ては「観客の意表を突く為のどんでん返し」ありきの後付けに思えてしまいました。  冒頭にて、如何にも同情を誘う存在であった「孫の無実を信じて、主人公に真相解明を依頼する老母」が、終盤は丸っきり姿を見せなかった事も不満。  主人公達が助かってハッピーエンドな空気で終わりたかった気持ちも分かりますが、物語を盛り上げる為に彼女を登場させた以上は「本当に孫が悪人だったと知って、嘆き悲しむ老母」という姿も、しっかり描いておくべきなんじゃないかな、と思った次第です。  上述のように、観賞後は色々と気になる点が多かったりもしたのですが、観ている間は素直に楽しめましたね。  この映画、ズルいよなぁ……と思いつつ、作り手の力量を認めさせられる。  そんな一品でした。[DVD(吹替)] 5点(2023-03-13 15:47:16)(良:2票) 《改行有》

14.  八月の狂詩曲 《ネタバレ》  所謂「夏休み物」に分類されそうな一品。  とはいえ、劇中にて「原爆」の影響が色濃過ぎる為、素直に楽しむ事が難しい作りとなっていますね。  序盤にて子供達が、被爆地となった学校を見学したり、滝壺で弁当を食べたりしている辺りは、まだ遠足的な雰囲気を味わえたのですが、リチャード・ギア演じるクラークさんが登場して以降は、完全に反戦、反核映画といった感じ。  「アメリカは被爆地に慰霊碑を送っていない」という指摘だけで済ませず、日系とはいえアメリカ人であるクラークに「すいませんでした」と謝罪させるシーンまであるのだから、日本人としては、何だか居心地の悪さを覚えます。  後者の台詞に関しては「オジサンの事、知らなくて……」という前置きがあるのですが、その後に「私達、悪かった」という言葉まで続く為、どうしても「原爆を投下した事をアメリカ人に謝罪させている」というニュアンスを感じてしまうのですよね。  こういった内容の映画も必要だと思うし、学校の教材映画としても有効活用出来そうではあるのですが、純粋に娯楽作品として考えた場合「面白い」と思えるシーンが少なくて、何だか物足りないものがありました。  終盤、お婆ちゃんが錯乱してしまう展開に関しても「雷をピカ(=原爆)と勘違いして、子供達を守ろうとする姿」には心揺さぶられるものがありましたが、その後に関しては、唯々唖然。  「お婆ちゃんの頭の時計は、逆に回ってんだよ」「多分、あの日の事ば思い出して……いや、あの日の気になって」という説明的な台詞の数々にも (えっ、何で孫だけじゃなく近所の人まで、そんなに正確に分析出来るの?)  という違和感が生じてしまい、どうも納得出来ない。  童謡「野ばら」を流す演出に関しても、ちょっとシュール過ぎたと思いますし、そのままブツ切りのように終わる形だったのも、好みとは違っていて、残念でした。  そんな中で「河童」が窓から顔を覗かせるシーンは「いや、それどうやって扮装したんだよ!」と観客にツッコませてくれるの込みで、楽しかったですね。  この映画には、こういった「親戚の子供達が、お婆ちゃんの家に集まってワイワイ騒ぎながら素敵な夏休みを過ごしている」という空気が、確かに存在しており、そこは大いに評価したいところ。  また、家に泊まる事になったクラークさんが「片言の日本語」で、それを歓迎する子供達が「片言の英語」でと、それぞれ異なる言語で会話する場面なんかも、とても良かったと思います。  黒澤監督としては、反核というメッセージ性の強い作品を撮りたかったのかも知れませんが、自分としては、そんなメッセージとは関係ない部分の方が楽しめたという……  何だか擦れ違いを感じてしまう映画でありました。[DVD(邦画)] 5点(2023-03-02 12:23:56)《改行有》

15.  遊びの時間は終らない 《ネタバレ》  タイトル通りの結末を迎えてくれるという、とても親切な映画。  一応、劇中にて「遊びの時間が終った」瞬間も描いており(主人公の平田が捕まったら、どうなってしまうんだ?)って疑問に対する答えを、きちんと用意してる辺りも嬉しいですね。  中途半端で、投げっ放しとも言える終わり方なんだけど、この「一度は逮捕エンドを迎えさせ、その後に再開している」という構成の御陰で、後味も悪くなかったです。  人質を「レイプ」する代わりに腕立て伏せで体力を消耗するとか、原作小説で印象深い場面はキチンと映像化してくれてるし、原作には無い映画オリジナルの要素として、阪神ファンのおじさんを登場させてるのも上手い。  そもそも原作の時点で「下っ端のヒラ巡査である主人公が、警察組織を翻弄する」「上流階級のエリートの鼻を明かす」という要素は含まれていた訳だけど「阪神を応援する時みたいに、犯人役を応援し始めるおじさん」って展開のお陰で、そういう「平田が庶民のヒーローになる」までの流れが、非常に分かり易くなっているんですよね。  思えば原作が発表された1985年当時、阪神タイガースには平田勝男という守備の名手がおり、優勝に貢献していたりもする訳だから、映画版スタッフも、その辺を踏まえて「平田=阪神」という重ね合わせを行ったのかも知れません。    そんな具合に「面白い原作小説を、更に面白く仕上げた映画」って形になっており、小説の映像化としては、ほぼ理想に近い出来栄え。  あえて言うなら「原作ではエリートの深川が二枚目で、主人公の平田は二枚目じゃない」という設定なのに反し、映画版では本木雅弘が平田を演じてるのが、原作との最大の違いなんだけど……  それも「平田がアイドル的な人気を得る」って展開に合っていたし、良い改変というか、良い配役だったと思います。  深川が「実は防弾チョッキを着ていた」と主張すれば、平田は防犯ビデオの映像を持ち出し「頭を撃ってるので、防弾チョッキを着ていようと死んでる」と証明してみせる場面とか、文字媒体ではない、映像媒体ならではの面白さを描いてる点も良い。  脱出の為に「金」をバラ撒く場面も「嘘を現実に変えてみせた」という不思議なカタルシスがあるし、視覚的に派手な見せ場にもなっているしで、良かったですね。  「原作通りで面白い場面」「原作には無かったけど面白い場面」その両方を描く事に成功しているんだから、本当にお見事です。  終盤、とうとう銀行から飛び出して逃亡する際に、相棒である中野が「……ここまでヤッちゃって、大丈夫かな?」と、ふと夢から醒めたような台詞を吐く件も、妙に好きなんですよね。  このまま続けたら、遊びが遊びじゃなくなってしまうかも知れない。  警察側が再び実弾を使用し、本物の犯人みたいに撃ち殺されるかも知れない。  それでも遊びを止められず、最後まで突っ走ろうとする主人公達が恰好良くて、何だか眩しく見えてくるような、忘れ難い名場面でした。  ……以下は、映画本編には関係無い余談というか、思い出話。  実は、この映画を初めて観た頃の自分って「邦画は洋画よりつまらない」「日本には、本当に面白い映画なんて全然無い」っていう偏見を抱いていたんですよね。  今は単純に映画を観た本数も増えて、面白い邦画も沢山あるのを知った訳だけど、当時の無知な自分は、本気でそう考えていたんです。  そんなある日、颯爽と現れた「本当に面白い映画」がコレだったんだから、初見の際の衝撃は、それはもう凄いもんでした。  そんな訳で、かつての自分のように「邦画は面白くない」って考えてる人がいたら、ついコレを薦めたくなっちゃうんですよね。  今なら、他にも面白い邦画を色々知ってるし、中にはコレより面白いって思える品もチラホラあったりするんですが……  やっぱり、そういう時は、この映画が一番頼もしく思えちゃいます。  自分にとっての、ヒーローのような映画です。[DVD(邦画)] 9点(2023-01-15 20:03:23)(良:3票) 《改行有》

16.  知らなすぎた男 《ネタバレ》  主人公が有能なヒーローであると勘違いされる映画、好きですね。  「サボテン・ブラザース」然り「ギャラクシー・クエスト」然り。  そういった訳で、上述の作品を愛する身としては 「何時、主人公が真実に気付いて、慌てふためく事になるのかな?」  なんて思いながら観賞していたのですが……  結局、最後まで周りを勘違いさせたままエンディングを迎えたんだから、もう吃驚です。  さながら「刑事コロンボ」で犯人が捕まらずに、そのまま逃げ切ってみせたかのような衝撃。  でも、決して「裏切られた」という印象は受けず、完走し切ってくれた事に、心地良い満足感を味わえましたね。  途中で主人公が真実に気付いた方が、そこから二転三転させてのストーリーを展開させ易いだろうに、あえて初志貫徹してみせたかのような作りは、本当に天晴だと思います。  ラストのキスシーンの背後で、悪役を乗せたヘリが爆発するんだけど、その事にも主人公は気が付かないまま。  何かが爆発したかと思うくらいに衝撃的なキスだった、と呑気にヒロインに話す辺りなんて、実に微笑ましい。  他にも、自白剤を飲まされた主人公が「今日は誕生日だ」という情報を口にした途端、悪役達が反射的に「ハッピーバースディ」と声を揃えて祝福してみせる場面なんかも、お気に入りですね。  この映画が備えている「愛嬌」を、如実に示したワンシーンだと思います。  そんな中で、あえて不満点を挙げるとしたら……  「最後は弟と一緒に葉巻を吸って欲しかった」と、それくらいになるでしょうか。  序盤にて、葉巻を吸う事が誕生日のゴールであるかのように描かれていたので、その予想が正解であって欲しかったんですよね。  あとは、主人公である兄に比べると、弟の扱いが不憫だったので、兄弟仲良くハッピーエンドを迎えて欲しかったなと、そう思えちゃいました。  映画が終わった後も、主人公は周りを勘違いさせたまま、敏腕エージェントとして活躍し続けるのか。  はたまた正体がバレてしまい、無事に結ばれたはずのヒロインとの仲も危うくなってしまうのか。  そんな後日談について考えるだけでも、楽しい気分にさせられる一品でした。[DVD(吹替)] 7点(2023-01-15 02:57:39)(良:2票) 《改行有》

17.  ザ・チェイス 《ネタバレ》  無駄な説明を省いて、映画が始まって直ぐに「ヒロインを誘拐してからの逃走」→「主人公と警官達のカーチェイス」という流れに突入するのが気持ち良い。  こういう構成の場合「面白さのピークを序盤に持ってきたせいで、途中からダレてしまう」って形になる品も多いのですが、本作に関しては最後までピークを維持出来ていたし、その一事だけでも傑作と呼べると思います。  基本はコメディでありながら、程好くシリアスな要素を織り交ぜているのも見事であり「安心して楽しめる娯楽映画なんだけど、結末は読めない」ってバランスに仕上げてあるのも良い。  本作の元ネタって、恐らく「パティ・ハースト事件」(お金持ちの令嬢が誘拐され、犯人と恋仲になってしまう)じゃないかと思うんですが、それがまた「悲劇的な結末」に辿り着くのを示唆しているんですよね。  あの事件を知っている観客であれば、単純なハッピーエンドにはならないだろうと考えるし、それゆえに主人公が追い詰められ、物悲しい音楽が流れる「ニュー・シネマ的な射殺オチ」を見せられても、納得出来ちゃう。  ところが、この映画はそこで終わらせずに、更に一歩踏み込んでみせたんです。  上述の射殺シーンは主人公の妄想(=目を瞑った間に考えていた未来予測)だったと判明し、底抜けに明るいハッピーエンドに着地する。  この「実際にあった事件をハッピーに変えてみせる」という手法は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(2019年)でも用いられているし、本作が先駆的な品であった事を証明してる気がします。  劇中にてThe Offspringの曲が使われているのも嬉しかったし、マスコミが事件を面白可笑しく報道する様を、皮肉たっぷりに描いてる点も良いですね。  そういったマスコミ連中や、ヒロインの父親が適度に憎たらしい存在であるからこそ、彼らを出し抜いて主人公カップルが逃亡成功するのに喝采を送れる訳であり、本当に上手い作り。  チョコバーを銃に思い込ませた事が伏線の「もうキミを人質には出来ない。銃を食っちゃったし」って台詞も洒落てるし、カーチェイスだけでなく、会話劇としての面白さもあったと思います。  難点を挙げるとしたら……主人公が無実の罪を着せられた「ピエロ強盗」の真犯人の顛末が不明なので、モヤモヤが残っちゃう事が挙げられそうですね。  あそこに関しては「実は交通事故で死んでいた」とか「他の事件で有罪になって服役中」とか、そんな情報を主人公の弁護士が伝えてくれていたら、よりスッキリとした結末になっていたかも。  チャーリー・シーンは好きな俳優さんだし、誰もが知ってる名作映画にも数多く出演されてる方ですが……  そんな彼の「隠れた傑作」を教えて欲しいと言われたら、本作を紹介したくなる。  オススメの一本です。[地上波(吹替)] 8点(2022-11-15 02:54:26)(良:1票) 《改行有》

18.  就職戦線異状なし 《ネタバレ》  ナレーションも相まって、学校の授業で見せられる教材ビデオみたいでしたね。  実際に「面接の作法」なども作中で語られているし、そういう意味では「為になる映画」と言えるかも。  バブル期は就職し易くて良かったという以上に「残業を嫌がる事」「有給めいっぱい取る事」が悪徳のように語られてるのも印象的であり、そういった具合に「今との違い」を感じられる内容なのは、史料的価値があるように思えます。  ただ、面白い映画とは言えそうになくて……  根本的に「なんだかんだで就職は上手くいきました」「ヒロインとも結ばれました」ってだけの粗筋でしかないので、どうも盛り上がりに欠けるんですよね。  こういう場合、せめて登場人物が魅力的であれば(彼らが頑張る姿を眺めてるだけでも楽しい)って気持ちに浸れるんですが、本作はそうじゃない。  織田裕二が好きな自分ですら(傍迷惑な奴だなぁ)と思えちゃう主人公だったし、かなりキツかったです。  酔って喧嘩した相手が就職の面接官だったとか、そういう王道な魅力はあるし「自分探しならぬ職場探しを通して若者達の絆が深まる青春物語」って雰囲気自体は、決して悪くなかったんですけどね。  ただ、そんな美味しいキャラである面接官の雨宮に関しても、終盤で主人公にネクタイを貸す場面とか(何で急に良い奴になったの?)って戸惑っちゃうんです。  友人である北町との別れも同じ調子であり、感動的な場面として描いてるけど、それまでに北町との友情を感じさせる描写が希薄だから、心に響かない。  なんていうか「こういう感動的な場面をやろう」っていう意思は伝わるし、その場面だけ観れば、それなりに決まってるんだけど……  「その場面に至るまでの過程」が描けてないから感動出来ないってパターンが多いんですよね、この映画。  金子修介監督の品は好きな映画が多いのですが、本作を撮った当時は未熟だったのかな、と思ってしまいます。  最後はスポーツメーカーに勤める結末だったけど、それならいっそ高校野球の監督を目指す結末の方が良かったのでは?  と思えちゃう辺りとか、細かい不満点も多いですね。  いつもタクシーが捕まらない主人公が、十数台ものタクシーを一度に止められるようになるとか、いきなり飛んできた謎のボールを投げ返すとか、漫画的な場面が続出して終わるのも、何か無理してるというか「主人公の不運さや、野球のトラウマに対して無理やり決着を付けた」って感じであり、ハッピーエンドなのに褒めるのが難しいです。  上述の通り、主演俳優は大好きな織田裕二だし、エンディングに流れる「どんなときも。」は名曲だしで、色々と「好きになれる」要素は揃っていただけに、惜しい出来栄えですね。  この後、金子監督と織田裕二が再びタッグを組んだ「卒業旅行 ニホンから来ました」(1993年)は自分好みの傑作だった訳だし、何かもう一つでも違う方向に転んでいれば、本作も好きになれたかも知れません。[ビデオ(邦画)] 4点(2022-11-01 19:22:39)《改行有》

19.  卒業旅行 ニホンから来ました 《ネタバレ》  有り得ない設定なんだけど、それが現実における「舶来信仰の日本人」と重なり合って、シニカルな笑いへと昇華されていましたね。  英語が書かれた服、現地の品とは別物に変貌している料理。  異国の人々から見たら、日本人だって間抜けな姿になっているかも知れないよ、という「視点の転換」を提示してくれるのが面白かったです。  そういった寓意が込められている事を思うと、主題歌が「YOUNG MAN」というのも、実に心憎いチョイス。  金子修介監督って、コメディ映画を撮っても上手いんだなぁ……と思う一方で、どこか既視感を憶える作風だった為、スタッフをチェックしてみたら「彼女が水着にきがえたら」(1989年)「七人のおたく」(1992年)と同じ脚本家さんだったのですね。  大いに納得したし、上記二作品が好きな身としては、何だか嬉しいものがありました。  登場人物が、思った事をそのまま口にしてしまうなど、少々「分かり易過ぎる」点は気になりましたが、それも慣れてしまえば「愛嬌」と感じられてくるのだから、不思議なもの。  最後は絶対ヒロインと一緒に日本に帰るエンディングだろうなと思っていただけに、スターであり続ける事を選ぶ結末には、吃驚させられましたね。  主人公が子供時代からの夢を叶えた形でもあるし、孤児達に「頑張れよ、僕も頑張るから」と約束した言葉を、守ってみせたんだな……と思うと、不覚にも感動。  織田裕二が歌う「YOUNG MAN」が、作中で二度続けて中断される形となっており (どうせなら、最後まで聴いてみたかったなぁ)  と思っていたところで、クライマックスにて見事に歌い切ってくれるという演出も、凄く良かったです。  そして極めつけは、ラストシーンにて表示される「つづく」のテロップ。  自分もスターになろうとしていた「一発次郎」の伏線もある事ですし「卒業旅行2 チトワンから来ました」に期待なのですが……はてさて、公開は何時になる事か。  異国旅行で体験した、夢のような出来事。  それを一時の幻で終わらせずに、夢の続きを歩む事を決意した主人公と、彼に呆れながらも付き添ってくれるヒロイン。  実に気持ちの良い映画でした。[ビデオ(邦画)] 8点(2022-11-01 17:46:58)《改行有》

20.  要塞監獄/プリズナー107<TVM>  キーファー・サザーランドが監督&主演、しかも自分の好きな刑務所映画ではないか、と大喜びで手に取った一作。  ところが、始まってすぐに(あっ、これってTV映画か)と気付いてしまう程の映像であり、監督としての力量についても、特筆すべきものは無いようにも思えてしまいました。  囚人と看守との交流がメインとなっているのですが、サザーランド演じる囚人のデンバーが、あまり同情出来ない存在だったりするもので、どうも物語の中に入り込めないんですよね。  看守役のフォレスト・ウィテカーについては、如何にも人の良さが滲み出ていて好印象だっただけに、残念です。  こういった落ち着いた雰囲気の映画も必要だとは思いますが、もう少し違った形での二人の共演作も観たかったな……と感じてしまうような出来栄えでした。[DVD(字幕)] 4点(2022-10-27 23:08:47)《改行有》

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