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721. 浮き雲(1996) アキ・カウリスマキ、この人の映画はサイレント映画のごとき会話が無いのですが、ここまで徹底されると笑えてきます。冒頭のレストランでコックが騒動を起こす場面なんて騒動から解決までずっと会話なしですから。で、会話があっても実に単純。「飲むのに付き合ってくれ」「今日はやめておくわ」「ぜひ付き合ってくれ」「わかったわ」(笑)。「許してくれ」「許せないわ」「帰ってきて欲しい」「帰るわ」(笑)。なんて駆け引きのない会話なんだ。言い訳だとか策略だとかが一切無い会話が心地の良い世界を作り上げています。出来すぎのエンディングはいわばこの監督のこだわりでありスタイルと言えましょう。この独特の“味”を活かして違うスタイルのものも観てみたい気もしますが、一生貫き通してほしかったりもします。7点(2005-02-24 11:34:14) 722. 殺人に関する短いフィルム 一人の青年が男を殺し、捕まり、処刑されるまでのストーリーに弁護士を目指す男が試験を受け、合格し、その青年の弁護士となるストーリーが絡みます。さらに殺される男のストーリーが絡み、三つのストーリーが終始ドキュメンタリータッチで淡々と進んでいきます。「殺人」という言葉の重さが感じられやすい手法と言えます。弁護士のストーリーを通して、重い刑罰が犯罪抑止に繋がるのかという問いを投げかける一方で殺人のシーンはいたって生々しく描写する。しかし重要なのは処刑のシーンがあるということ。感情を爆発させる青年が全く動かなくなるまでを淡々と映し出す。決して殺人者を擁護しているわけではない。ただ、死刑もまた殺人となんら変わらないということを見せている。7点(2005-02-18 14:30:16) 723. 偶然 主人公の歩く姿をカメラは後ろから追っていき、人と出会うとそのまま主人公の目となる。そしてカメラはキエシロフスキー監督の他の作品同様、当時のポーランドの世情を映し出す。3つのエピソードのうち一つ目の列車に間に合ったエピソードと二つ目の列車に間に合わなかったエピソードのその後の180度違う主人公の立場の対比が面白い。国の人間と地下組織の人間。、ちょっとした人生の曲がり角で、対立する二者のどちらにもなりうるという運命の皮肉を描くと同時に時代に翻弄される市民の悲哀を描く。そして対立する二者に属さない、いわゆる時代と国家に翻弄されないと思われる、個人を重要視する人生を描いた3つ目のエピソードの行く末に愕然とする。運命の悪戯を描いた素晴らしい作品です。7点(2005-02-16 12:36:10) 724. アマチュア ただカメラを持っているというだけで会社の宣伝用映画を撮らされ、アマチュア映画祭で評価されてしまいどんどん「映画」にはまっていく話なんですが、その中でアマチュアとプロの違いをまざまざと見せつけられます。映画に限らずなんでも突き詰めれば何かを犠牲にしなくちゃいけないところがあるだろう。そういう意味では私も今の仕事のプロではなくアマチュアなんだと思い知らされます(アマチュアのままでいいですけど)。「映画」の場合は犠牲を極力抑えてほどほどに付き合うということができない。それをしちゃうともう「映画」は作家の手から離れた商品でしかなり得ない。作家の描きたいものを映像で見せる。見せてしまったがために誰かを傷つけてしまうこともある。誰かが迷惑することもある。誰かが責任をとらされてしまうこともある。それでも描く。こういった覚悟の上に「映画」が成り立っている。この作品にはキエシロフスキー 監督の映画に対する想いがつまっています。「映画」のプロではなく「商品」のプロによって作られた最近のハリウッドや日本のメジャー作品にはこの「覚悟」が当然見えません。そんなことも思った映画でした。7点(2005-02-15 18:10:11) 725. アンドレイ・ルブリョフ ロシア史上最も偉大なイコン画家と呼ばれるアンドレイ・ルブリョフが、大芸術家として目覚めるまでの過酷な生涯を描いた歴史大作。娯楽大作として十分に楽しめるエッセンスを含みながら、教会の鐘を作り上げるシーンに代表される芸術と強い信念の深い関わりをことさら強く描いたあたりに、タルコフスキー監督の過酷な状況下での妥協無き芸術活動と大いに被るように感じました。鐘にしてもイコン画にしても名声と権力しか考えない造らせる側の人達の描写や旅芸人を処刑するシーンなどは、タルコフスキー自身も常に当局から目をつけられ芸術活動を阻まれてきたという待遇にあったからこその描写なのでしょう。どんな環境にあっても強く信念を持つ、芸術に生きるということはそういうことなんだ、というメッセージを感じます。7点(2005-02-08 13:03:33) 726. アフガン零年 新聞でこの作品の記事を目にしました。主演の少女に悲しい表情を求めるのに監督が悲しいことを思い出すよう進言したところ、少女はぽろぽろと涙を流し何度も撮影を中断したと。その姿を見て“嘘は描けない”と希望を感じさせるエンディングを悲しいエンディングに変更したと。幼い少女がこれまでの人生の大半を空爆から逃げまどう人生、そして抑圧と恐怖の人生を送ってきたという事実を涙ながらに読んだ。そしてその後に本作を見た。当然、記事のことが頭から離れず少女が映し出されるたびに泣けてきた。新聞の記事を含めた感想であり、映画単体での評価ではありませんが、監督の“アフガンの悲劇を世界に知らせたい”という想いは伝わりました。自分の人生を自分で決められない世界を、変更されたエンディングが一番如実に物語っていると思います。「おかしい」「間違っている」ということがわかっていても泣くことしかできないお香屋の少年は監督自身を投影した存在なのかもしれない。7点(2005-01-31 12:01:03) 727. ルナ・パパ 内容を掻い摘んで話すとすんごい悲劇的なお話なんですけど、これがなんとも愉快な映画になってる。そして「映画」の持つ様々な要素を多分に含んでいる。戦争の後遺症で精神に障害をもつ兄の存在や父親が誰かもわからない子を身ごもったために村八分にされるという閉鎖的社会の描写などに代表される社会風刺、主人公のキャラを活かした笑い、家族の絆を描いたテーマ性、まだ生まれぬ子のナレーションで始まりまた終わらせたことで一貫して母の物語としたメッセージ性、村や村の人々を細やかに描いたリアリズム、ラストがびっくりの幻想的な展開と娯楽性..。よくまあ、うまく仕上げたもんだ。主人公の優雅なダンスとこれまでに見たこともないほど幻想的で美しい性交シーンが印象に残ります。ラストは封建的な社会からの亡命を意味するのでしょうか。社会のための社会から個のための社会への。7点(2005-01-28 14:02:26)(良:2票) 728. ペーパー・ムーン 私がよく映画を見るようになった頃、某映画雑誌での人気投票女優の部ではテイタム・オニールとブルック・シールズがトップ2。二人に共通するのは子役で華々しくデビューし、その後パッとしないってこと。(あと二人ともテニスプレイヤーと結婚して離婚している。)子役の場合、演技らしい演技をしなくてもそこにいるだけでその愛らしさをじゅうぶん見せることができるから得、であると同時に、かわいいだけじゃ務まらなくなる年齢に達したときにその真価を問われる。でもこの作品のテータムはかわいいだけじゃなくてやっぱりうまいんですよねえ。けっこう長回しも多用されてて、その中でちゃんと演技してるもんなあ。思うにこの人は女優業にあんまり魅力を感じなかったんじゃなかろうか。この作品も二人暮しで留守がちな父親とたくさんいっしょにいられるから、という理由で出演を承諾したとか。そう考えると、才能あるのにもったいないなあと思う。で、そんな天才子役の活躍が目玉な映画なんですが、黒が濃いモノクロ画がきれいで、特に空の色の濃さがロードムービーであることを際立たせています。7点(2005-01-27 15:22:32) 729. 幕末太陽傳 幕末の志士たちのちょっと皮肉めいた描き方や、左平次の痛快なれどその生きかたさえも冷たく見据えたような描き方にこの作品の内包するものを読み取るのも良し、ただ大いに笑ってこの喜劇を堪能するも良し、配役の妙を楽しむも良し、といろいろな楽しみ方のできる傑作喜劇。左平次がドンチャン騒ぎをするシーンの斜めアングルの痛快さ、そして精巧に造られた品川遊郭のセットの中でたくさんの登場人物たちをとらえた長回しがお見事!7点(2005-01-21 11:16:18) 730. 太陽に灼かれて 《ネタバレ》 コトフ大佐と娘のふれあいが本物の親子のようで...って本物の親子だったんですね。それを聞いてちょっとほっとしました。あまりに自然で、あまりに”お父さん、だーい好き!”がひしひしと伝わってきて、これが演技だったらかえってこわいものがありますから。そんな本物の愛に満ちた前半部はまさに”幸せ”を映像化したような美しく楽しいシーンに溢れている。映画の冒頭では、ある男が1本の電話のあとに自殺を試みるが失敗。そしてその男がこの幸せな世界にやってくる。少しずつ、本当に少しずつ物語が動いてゆく。どこへ向かって動いてゆくのかは解からない。解かるのは最後。解かったときに、それまでの幸せな世界に時々顔を見せる時代の闇の象徴が蘇る。唐突なようでいて伏線はいたるところにあった。物語の動かし方がうまい!そしてある時代がもたらした不条理が痛切に描き出されている。(ネタバレが無いように書いたつもりでしたがじゅうぶんネタバレしてますね。)7点(2005-01-18 10:37:59)(良:1票) 731. 太陽がいっぱい ヌーベルバーグ代頭の時代、過去の人となりつつあった巨匠ルネ・クレマンがヌーベルバーグを代表するカメラマン、アンリ・ドカエを起用し、またアイドル、アラン・ドロンを影のある主人公に配し、見事一発逆転に成功した作品。振り返ると成功するべくして成功した映画と言える。なかでもニーノ・ロータのテーマ曲の存在は大きく、ラストで流れるこの名曲は美しい海、眩しい太陽、そして完全犯罪との切ない対比として作品の全てを代弁しているとさえ感じる。ニーノ・ロータ本人は単調なこの曲のヒットを快く思わなかったそうであるが、この作品には無くてはならないものであることは間違いない。7点(2005-01-17 12:22:03) 732. コンドル(1939) 鉱山の上空を飛ぶ映像が素晴らしい。シリアスな男のドラマにナイスタイミングでなごましてくれるエピソードや楽しい会話も良い。そしてなんといっても男たちがかっこいい!中でもやっぱりグラント演じるジェフ!かっこいい!かっこいい!かっこいー!!私がめざしているキャラはこういうのです。「女には頼まない」、、、とかなんとか言っちゃって最後には「ここにいてくれ」って頼むんでしょ!と思ったら最後まで言わない。クールだぁ!男の美学だぁ!そして言わないかわりにコインで、、、クゥ~!!シブイ!シブすぎる!、、、、ん?↓現実にはうざったい?どうやら私はまだまだ現実の世界と虚構の世界をごっちゃにしているお子様のようです。7点(2005-01-14 12:47:41)(笑:1票) 733. カッコーの巣の上で 《ネタバレ》 精神病院の実態を告発した原作を、自身もナチスによって人権を著しく侵された経験をもつミロシュ・フォアマン監督が人間の尊厳を大いに謳いあげることで名作へと昇華させた作品。主人公マクマーフィが正しいか正しくないかは関係ない。体制が人間の尊厳を奪うことに対する切実なる問題提起をマクマーフィを通して描き出したにすぎない。今、正しいと思っているさまざまな体制もまた本当に正しいのかと考えさせられるほどに、この作品は色褪せない現実感を持っている。あの忌わしきロボトミーですら正しいとされた時代があったことを考えると、人間のつくりだすものに真に正しいものはあるのだろうかという陰気な気持ちにもさせられる。ラスト、マクマーフィは潰されるが彼の意思を一人のインディアンが継承することで多からず爽快感を味わうことができる展開としているが、人間の人間としての権利を奪われたらソレはすでに人間ではなくモノである、とでも言いたげな殺人のシーンが痛々しく突き刺さる。7点(2005-01-13 13:45:45)(良:2票) 734. 雁の寺 母への屈折した想いは破りとられた母親雁の絵、その一場面のみでかなりのインパクトをもってグサグサと伝わってきました。心の奥に閉じ込めておいたその想いが里子を介して徐々に現わとなってゆく緊張感も効果音との相乗効果で実にうまい演出。観光地となった現代の雁の寺をカラーで映し出したエンディングは悲しき逸話があっさりと風化されてゆく様を見せつけられているようで物語とは別の無情感に被われる。7点(2005-01-11 14:59:56) 735. 山椒大夫 話の筋はもちろん、心情までもが映像で語られる。厨子王がなぜ人の心をなくしてゆくのか、そしてどこでまた取り戻してゆくのか、はたまた山椒大夫はなぜ非道なのか、息子はなぜ坊さんになったのか、、、時代背景や荘園制度の説明はあっても、それ以外は映像で語る。この手の話はついついストーリーを追って見てしまう。しかもこの映画は厄介なことにわかりやすいので余計にストーリーを追ってしまう。しかしこのわかりやすさが全て演出の賜物であるということがこの映画の凄いところ。というか本来はこれが普通なんでしょうが。長回しに拘らず話のテンポをつくるカット割も普通に絶妙。オーソドックスで完璧な映画。画はどこもかしこもきまってて、画だけ見れば全てが名場面と言ってもいいぐらい。一度しか見ていないので、今度は”話”ではなく”画(映画)”を堪能しながら見直したいです。7点(2005-01-07 15:28:33)(良:2票) 736. キル・ビル Vol.1(日本版) これは漫画。漫画の実写版という意味じゃなく、日本の漫画的プロットを映画的ではなく漫画的に見せる映画。このように”あえて”映画的表現を排除した映画に『マトリックス』があります。こちらはアニメ的プロットをアニメ的に表現した映画。どちらの監督も他作品では映画的表現を既に見せているので”あえて”としておきます。この作品と同時期の北野武の『座頭市』も漫画チックと感じましたが『キル・ビル』は設定、構成、キャラ、カット割、あからさまな引用等、全てにおいて漫画チック。あきれるくらい漫画チック。つじつま合わせまで無視した徹底ぶりが気持ちいい。このVol1はほとんど戦ってるだけというのも天晴れです。しかし殺るか殺られるかの緊迫したシーンでも頬を緩ませるあの日本語は狙ってるのか?たしかに漫画でも外国人のセリフはカタカナ表記の日本語だもんなぁ..7点(2004-12-27 13:50:40) 737. 桜桃の味 たしかに眠気を誘うほどに静かで淡々とした映画ですが、私は眠たくならなかった。それどころか最初からずっとドキドキしっぱなし。この男、いったい何考えてんだろう?怒りだすんじゃないだろうか、今度は何言い出すんだ?って感じで。けして内面を見せようとしない展開で見る者を釘付けにする演出が絶妙。主人公は自殺をしようとしている。しかしその理由は語られない。語る必要もない。自殺の理由はいくらでも作り出せます。誰もが持っています。だからこの映画は、自殺を思いとどませるのに自殺の理由=原因を解決するのではなく、生きる理由を模索する。美しい空、冷たい水、おいしい桜桃、そして人との関わり、そのひとつひとつが十分、生を見出す理由になる。ラストはびっくりしました。映画はもう終わりましたと我々に言っている。主人公がはたして生を見出したのかどうかは見せずに。主人公は生を見出し、朝を迎えてほしいと観客に思わせたところで、もうこの作品は全てを伝えた、、、そういう意味かもしれない。7点(2004-12-21 12:58:14)(良:3票) 738. 怒りの葡萄 夜のシーンが真っ暗です(笑)。この徹底的なリアルな描写が貧しさからくる悲壮感をより一層悲観的に映し出す。その中で途中に寄った店で子供に菓子を買ってやるときの店員の応対がひとときのの清涼水のごとく心を和ませる。こういう一種の救いの描写を入れて怒り一辺倒にしないところがなんともフォードらしい。 アメリカ資本主義がもたらす弊害をもろに受けた人々の悲劇でありますが、家族愛と改革精神にあふれるエンディングがこれぞ”アメリカ映画”と思わせてくれる。もちろん良い意味で。7点(2004-12-20 11:27:24)(良:1票) 739. 点子ちゃんとアントン これはなかなかいいですよ。タイトルがいかにもお子様向けなんですが、冒頭で家庭教師のロランスがスクーターで点子ちゃんを後ろに乗せて街中を走るシーンで、大人も楽しめる映画と確信しました。子供の視点で描いていたかと思うと、アントンのワゴン車に乗っての父親探しは、突然大人の世界へ飛び出したかのごとくカメラはそれまでの画と一転して情景を大きく捉える。登場する人物たちそれぞれのキャラクターもしっかり描けているし、おまけに楽しいミュージカルシーンまである。おきまり感いっぱいのハッピーエンドも点子ちゃんの最後の”大人な”一言でうまく締めてます。7点(2004-12-16 13:54:41) 740. ネネットとボニー 愛する母の残した家で自由気ままに一人暮しをするボニ。セクシーなパン屋の奥さんのことを想ってするオナニーもし放題。そこへ確執のある父親のもとにいた妹ネネットが寄宿舎から逃げだし転がり込む。冷たくあしらう兄が妹の妊娠を知り、少しずつ心に変化を見せていく。この心の変化の見せ方が実にいい。やっぱり血を分けた兄妹なんだと思わせる兄妹愛と、それ以上にボニに宿る母性愛。傍目にはわかりにくい微妙な変化を表情や行動で遠慮しがちに見せていく。このジミな展開が意外にも良かった。ビビットな色を散りばめているのに全体的にはダークな雰囲気を持った映像も美しい。でも一番良かったのはパン屋の夫婦のエピソードだったりする(笑)。ギャロがちょい役ながらいい味出してます。奥さん役はもっといい味出してます。7点(2004-12-15 12:49:00)
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