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821.  時をかける少女(2010) 2010年の母親が意識不明でありながら主人公の行動が暢気で悠長であったり、その使命自体に何の切迫感もないなど根本的な設定の欠陥も多い上、寄り画面の多さにも辟易するけれど、その役者たちの魅力的な表情は救いだ。 8mmキャメラを一心に覗く中尾明慶の眼差し。ラストの安田成美の美しいクロースアップと、シルエットとしての存在の石丸幹二との切り返し。そして喜怒哀楽の表情豊かな仲里依紗がなんとか映画を支える。何度か登場する、小さな炬燵を挟んでの主演二人のシーンも良い。菓子やラーメンの食事を交えながら二人の対話と沈黙を捉える長廻しが、あるいはお互い逆向きに足を伸ばし合う俯瞰ショットが、二人の微妙な距離感を醸し次第に湧き上がる情感を巧く掬い取っている。そして相合傘、おでん屋台、実験室の机での二人の横並びのショットが、彼女の最後の決断にそれなりの納得性を持たせていく。 70年代のアイテムやファッションやオマージュシーンを目一杯画面に散りばめながら、それをあくまで細部に留めさせるさりげなさも好ましい。別れの廊下のノスタルジックな光、父親と会う公園の風と木漏れ日、時を越える装置としてのフィルムに感応するヒロインの大粒の涙など忘れ難い。[映画館(邦画)] 7点(2010-09-04 22:01:48)《改行有》

822.  姉妹(1955) 《ネタバレ》 中原ひとみの初々しく、溌剌たる輝き。表情変化の豊かさ、発声の良さ、コメディエンヌとして抜群の運動神経を感じさせる。 同年のオムニバス映画『くちづけ』の一篇でも活発な次女役で見事な快足ぶりをみせるが、この映画でもその見事な走りはもちろん、友人宅の廊下や、凧揚げ場面、寮の階段での見事な転び方や、コミカルな演技の数々で楽しませてくれる。過疎山村の失業問題など、独立プロ的なテーマを盛り込みながらも映画が硬直しないのは彼女の起用に追う部分も非常に大きい。 姉妹愛の主題についてもこの映画は、その観念を実直に具象化してみせる。二人は言葉においてはあくまで個別性・自主性をお互いに尊重し仲違いもするが、彼女たちが画面に登場するときは常に身体的に触れ合わせるよう演出されている。お互いに肩を寄せ合い、手を置き合うという直截な映画表現がこの作品の視覚的な美質だ。 クライマックスとなる姉の嫁入りの日、妹は姉(野添ひとみ)にやさしく手を差し伸べ、自室へと誘う。その触れ合いの身振りが素晴らしい。 また、家己監督の心情表現は様々な小道具の活用においても発揮されている。社会の矛盾に憤る真っ直ぐな次女が、ポンプで乱暴に井戸水を汲む。ここで手桶に納まりきれず溢れ出る水のショットは彼女の思いを見事に視覚化する。不本意な見合い結婚を決めた姉を難詰する妹と、それに答えず一心にミシンを踏む姉。そのミシンが真っ直ぐに縫い進むショットは姉の決意の象徴だろうか。[映画館(邦画)] 10点(2010-09-04 21:59:25)《改行有》

823.  ペルシャ猫を誰も知らない タブー的題材(アンダーグラウンド音楽)ゆえ、ほぼ手持ちのゲリラ撮影が主体。 ラフではありながら、迫真性とリズム感を持った「見せる」画面である。小手先の作為的手ブレ手法に寄りかかった作品群の浅薄さの対極といえようか。 暗い路地や階段での移動撮影も、対象を的確なフォーカスで捉え続ける撮影スタッフの優れた技量と臨機応変ぶりが伝わる。 題材の「規制」などまるで感じさせないバイク・自動車による奔放な移動の画面には若々しいフットワーク感覚が漲り、音楽と共に活写される街の表情、白い外光の中で音頭を取る音楽教室の子供たちの表情を捉えた画面が瑞々しい。 口八丁で警察を煙に巻く青年(ハメッド・ベーダード)の達者な長弁舌も音楽的に特筆すべきもの。 また、前3作に続きこの映画でも高地から望む情景が非常に特長的であり、印象強い。 ビルの屋上、高台から望むテヘラン市街の夕景。その高みが悲劇の場所ともなるのも、前作に連なる主題。[映画館(字幕)] 9点(2010-08-20 21:07:50)《改行有》

824.  インセプション 《ネタバレ》 水飛沫を効果的に使った高速度撮影の用法と複数のクロスカッティングが、時間感覚の設定と巧く絡み、クライマックスのカウントダウンにはそれなりに切迫感がある。 チームメンバーの分散と各階層の分散によって、5つのシチュエーションのクロスカットを何とか強引に纏め上げたのは流石というべきか。それも、ハンス・ジマーの劇伴にかなり負っているが。 反復はクドく、主体が分散しすぎで、親子のドラマ、夫婦のドラマ、メンバー間のドラマと欲張ったもののいずれも冗長かつ中途半端で盛り上がらない。設定には凝る一方、アクションパートは付け足し感覚で、展開にはまるで緻密性を欠く。(夢だからね。) 夢には欠かせない水のイメージは豊富で良い。(波打ち際、土砂降りの雨、水槽、川)[映画館(字幕)] 5点(2010-08-19 08:28:41)《改行有》

825.  ソルト 《ネタバレ》 一般的に「演技派俳優」は心の内面を表情・身振りの付加によって過剰なまでに主張しがちだが、余計な演技がない場合こそ、人物の心理・感情が生々しく伝わるのが映画の面白さ。 危険なアクションが全編にわたって連続するこの映画で、アンジェリーナ・ジョリーは走る・飛ぶ・格闘する身体運動に集中するとき、演技どころではなくなる。 一方で、心理のガードを高度に教育されたスパイの役柄を演じる彼女は、その表情を大きく変えることもない。 その演技・非演技ない交ぜの相貌が、画面に緊張とエモーションを呼び込む。特に復讐物語となる後半、その抑制的な表情と殺戮アクション自体の過激さと強度が、彼女の怒りと悲しみを強く画面に漲らせる。とりわけ中盤のアジトのシーンで、唐突にある場面に遭遇する彼女の無表情が示唆する内面の葛藤と、それに続く無表情の虐殺シーンのケレン味が感動的だ。 終盤の暗いヘリコプター内、交感する二者を結ぶ夜明けの薄明かりの水平ラインも美しい。 劇の二段構成、金髪と黒髪、高所感覚等〃の要素は『めまい』にも通ずる。[映画館(字幕)] 8点(2010-08-15 19:33:25)《改行有》

826.  シルビアのいる街で カフェのシーンの、重層的な画面設計とアングルの妙。「シルビア」の虚像性を際立たせる、窓ガラスへの映り込みの技巧。劇伴BGMなのか、現実音なのか、その真偽を一瞬戸惑わせる強かな音楽用法。主要台詞の極端な少なさと反比例して、鉛筆の擦過音からガラス瓶の回転音まで、過剰なまでの生活音への拘り。細部まで凝った充実した映画であることは確かだが、ここまで演出が勝ちすぎると、もう少し大雑把ないい加減さや生々しさも求めたくなる、というのは贅沢か。雑踏の尾行シーンで行き交うエキストラ達のリアクションに対しても、一見ヌーヴェルバーグ的ではありながら、どこか管理と作為が感じられてしまう。画帳の頁や金髪を舞わせる風のショットの過剰性も。某『映画時評』が言うところの「やりすぎ」感なのだが、逆説としてそれが映画的楽しさといえなくもない。流れる列車の車窓と、そこに瞬間的に映し出される儚い像は映画フィルムそのものを思わせる。いかにも映画の映画らしい。[映画館(字幕)] 9点(2010-08-08 20:52:01)

827.  何も変えてはならない スタンダード・モノクロームの画面を包む深い黒、その中に天井からのライトで浮かび上がる女性歌手と伴奏者が遠目に捉えられる。何とも端麗で繊細なファーストショット。カメラはそれ以降も、ストローブ=ユイレ以上とも思える厳格なフィックスの長廻しで歌手ジャンヌ・バリバールのリハーサル、ライブ演奏を収録していく。あるシーンでは距離を置いた客席後方から。またあるシーンでは、フレーズごとに何度もやり直しを繰り返す彼女の表情のみを側面からの光によって部分的に浮かび上がらせ、その様を正面近い位置からのカメラがじっと見守る。その距離感が醸す緊張感と、表情変化に滲み出る豊かな人間性。彼女らと協働しながらも、撮影はあくまで慎ましい。ペドロ・コスタ特有の黒の領域が、限定的な容貌と所作、歌声と器楽をよりシンプルに際立たせる。極めて純粋な音楽映画といえば良いか。[映画館(字幕)] 8点(2010-08-08 19:04:33)

828.  いとはん物語 身分・性差に囚われない私的な舞台として登場する、二階屋根に外接した見晴らしの良いもの干し用広縁が良い。鉢植えの美しい菊が並ぶその空間は、お嘉津(京マチ子)と友七(鶴田浩二)の接点となり、花々や刻々と変化する夕焼け空の色、二番星・三番星の明かりがアグファカラーの郷愁を帯びた色調で豊かに彩られる。そして何といっても映画の白眉といえるのは、箱根の写真を契機に広がるお嘉津の夢の場面である。奇跡的というべき金色の夕焼け雲の下、裾野を並び歩く京マチ子と鶴田浩二の小さなシルエット。その叙情的なロングショットと伊福部メロディの絶妙な融合具合は両者の数あるコンビ作の中でも随一と思われる。[映画館(邦画)] 10点(2010-08-07 15:58:35)

829.  宇宙戦艦ヤマト 復活篇 ロクに動かない、ほぼ一枚絵(「非アニメーション」)で表現された覚束ない野生動物の動き。要するに、観察力も作画力もなく、チェックシステムも機能していない。CG主体のメカニックアクションや、爆発描写には嬉々として拘る一方で、人間・動物のアクションはまるでダメという、アンバランス極まりない主流現代型日本アニメーションである。人物の動作は最小限、ほとんどがバストショットあるいは正面と横顔のアップで、単純な目パチ・口パク・頷きで間を持たすバリエーション。いかにもメッセージ・テーマを最優先させる典型的省エネ作品だ。個々のショットの豊かな活劇性を重視する宮崎監督型の対極。(手書きのタッチに拘った最新作とも好対照だ。)例えば、主人公の艦長が娘を残骸の下から助け出す作画の貧弱さ。宮崎監督ならば、腰をかがめ梃子を押し上げる渾身の動作をより力感をもって演出し父娘の感情表現に結びつけるだろうし、生存者を探す動作も忘れまい。何よりも上述した動物のアニメーションに対して絶対に手抜きしないだろう。この映画が一応掲げているらしい「地球賛歌・生命賛歌」の主題を提示する、本来なら最も重要な場面のはずなのだから。正に画面は正直で、この映画の謳うテーマが心にも無い取ってつけたようなものだから、肝心の場面で心のこもらぬ「動かない動物」の絵と成り下がる。[映画館(邦画)] 2点(2010-08-07 15:43:18)

830.  交渉人 真下正義 《ネタバレ》 美しい空撮の夜景や、繁華街のネオンが車窓へ映り込むアングルのシャープさ、コンサートホールや管制室のスケール感、背景を行き交う膨大なエキストラなど、シネスコを効果的に使った奥行きのある画面処理が見事。ギャラリーを排除し、消去法的に画面を作っていく「テレビ的」貧弱さに比べ、撮影困難な都内実景と群集シーンを背景に検問・現場検証・特殊急襲部隊を派手に展開させるといった映画ならではのスケールに対する志向がうかがわれて好ましい。(最新作『踊る大捜査線3』でも、この物量志向は一貫している。)都内に展開する軍隊の図などは、押井守作品の豪勢な実写化といえなくもない。交渉のかけひきやら問答内容などは所詮、非映画的要素だという割切りが良い。そして、管制室内の人物を捉えていくステディカムの動きや、寺島進が地下鉄駅ホームの奥から手前まで一気に疾走してくる縦のアクションや、改札を強行突破するショットの活劇感覚などは非常に充実している。[映画館(邦画)] 7点(2010-07-31 22:34:05)

831.  ローラーガールズ・ダイアリー 主人公がローラーダービーに惹かれる瞬間を、チラシ配りの選手達が店を出て行く逆光の縦構図1ショットで印象づける技量。父親、母親それぞれが娘の出場するダービー会場へと向かう途中経過の描写などは省いても物語に一切支障なしとする大胆さと聡明さ。 対話シーンの切返しなどは極めてオーソドクスなのだが、圧縮と省略を駆使したシークエンスごとの繫ぎが圧倒的に巧く、テンポとスピード感は抜群だ。ありふれた物語でありながら、場面転換の妙によって観客を全く飽きさせない。簡潔性と経済性の美質が弁えられている。 一例あげるなら、ヒロインがコンテストの控え室から決勝戦の試合会場へ向かうシーン。車の発進をワイプの効果として使い、一人の少女がヒロインの着るはずだった衣装を纏い見送る姿を捉える。その簡潔にして雄弁なワンショットが、さらにラストのスピーチ原稿に連なっていく語り口の見事さ。 それでいて、物語とは無縁なショットの豊かさが映画を充実させる。金色の草原の情感。プールシーンの光の揺れや、二人の飛び込みと同時に水中に潜るカメラの垂直移動の気持ちよさ。腕立て伏せなどを始めてしまうあの司会者の可笑しなパフォーマンスは即興だろうか。 愛すべきキャラクター達の魅力的な表情を的確に掬い取る手腕に恐れ入る。 エンディングロールを見ると膨大な楽曲数なのだが、全編すっきりまとまっているのも好感度高い。[映画館(字幕)] 9点(2010-07-29 11:23:53)《改行有》

832.  斬人斬馬剣 現存するのは、本来122分だった作品を26分に短縮したダイジェスト版(1秒間18コマ)。一般に傾向映画の先駆といわれるように、前半のコメディパートにも当時の不況の模様が滲んでいたり、農民と代官側が相対する「オデッサの階段」風のモンタージュ等に階級闘争の主題が窺えたりするが、それよりなにより活劇映画として頗る面白い。群衆の中を掻き分けるような移動ショットのダイナミズム。月形龍之介の贅肉のない上半身が繰り出す剣戟の凄味。十字架に磔にされていく農民とのクロスカッティングと共に、寄り引き自在の撮影技巧で魅せる怒涛の馬術アクションは素晴らしいの一語。全速力の馬と並走しながらの、槍による豪快な一騎打ちのショットなどは一体どのように撮影したのか。舗装などされていない畦道でのチェイスアクションをカメラは微振動に押さえつつ、被写体である騎手の表情をも確りと映し出す。その無作為の微振動が生み出す迫力と疾走感の前には、間違いなく影響を受けているはずの黒澤明『隠し砦の三悪人』の騎馬シーンすら霞んで見える。カメラの揺れとはこうあって欲しい。[映画館(邦画)] 10点(2010-07-18 13:43:47)

833.  ランジュ氏の犯罪 《ネタバレ》 オープニングタイトル文字の背景ともなる中庭の石畳。その中庭空間を自由奔放に移動しながら多くの登場人物たちを活き活きと映し出していくジャン・バシュレのカメラが素晴らしい。屋内シーンなら窓外、屋外シーンならば窓内と、一つの画面の中には二つ以上の空間が常にあって重層的で豊かな世界を作り出す。出版社社長バタラ(ジュール・ベリー)と愛人(シルヴィア・バタイユ)の別れを列車の中から捉えたショットや、足を事故で骨折した青年が寝ている窓辺に、通りを挟んだ向かい側の窓から同僚に支えられて恋人がやってくるショット等が特に印象深い。特に後者などは暖かい陽光の感覚と、二人が寄り添う窓枠に座った犬がまた良い味を出していて幸福感は格別だ。続く自転車のシーンの開放的なロケーション撮影も清新な感覚に溢れている。そして本作品でのカメラワークの極め付けは、ランジュ氏(ルネ・ルフェーブル)が神父姿のバタラを追って階下に下っていくのを屋外から追う下降移動と戸口からのさらなるパンニングのショット。抜群の照明処理とも相俟って、観る側も息詰まる圧巻の場面である。寒風の吹く砂浜を男女が行くラストの切返しが暖かい印象を残す。[DVD(字幕なし「原語」)] 9点(2010-07-13 18:30:58)

834.  アウトレイジ(2010) 横長を活かし居並ぶ組員の顔を次々映し出す水平移動のファーストショットは、真正面からの唐突なバストショットで開始された従来作品のような不可解性がなく、状況説明としても格段に解り易い。並んだ彼らのお辞儀のロングショットのみで組織内の序列も簡潔明瞭に示される。 主眼のヴァイオレンス描写の一方で、何気ない所作やありふれた小道具一つを以って人物の性質を語ってしまう演出力は依然として冴える。旧作において、組長を前に畏まる幹部の中で北野一人が平然と煙草をふかしていることでアウトローぶりを際立たせた人物描写(『ソナチネ』)や、喫茶店のウエイトレスがいつしか煙草を吸うようになっていることで示された経年描写(『キッズ・リターン』)等、さりげない煙草の演出は本作品でも巧妙に変奏される。警察署前での吸殻をめぐるエピソードの反復によって、椎名桔平の人物像とパワーバランスを明瞭に浮かび上がらせてしまうのがそれだ。あるいは、國村準の台詞「コレ(高級洋酒)、飲んじゃおう。」なども彼の人間性を雄弁に語らせており、小道具活用は自家薬籠中のものといった感がある。 黒の車体、革靴の表面を彩る黒光りの艶かしい様や、鈍いブルーの印象的な配置も堂に入っている。 新味としては、殺戮後のサウナ内や路上の惨殺死体の横を車が通過する緩い水平移動の不気味な感覚など、死体と車両のショットにおいて最もシネスコが意識されているように感じられる。あえて静の間を延ばすような、中盤でのフェードアウトの繰り返しも新しい趣向だがあまり効果を感じない。 [映画館(邦画)] 8点(2010-06-28 18:55:10)《改行有》

835.  ヒーローショー 《ネタバレ》 ラジオから流れ出した軽快なエンディング曲『SOS』がドラマの哀切と一種の対位となり、効果を挙げる。その70年代の曲調が映画に陽性の余韻をもたらすかと思いきや、最後に再びラジオ音源へと戻ることでシビアな現実への回帰をダメ押しする。空疎感と厳しさと温かみが綯い交ぜとなった絶妙なバランス加減。または夜のアパート、後藤淳平とちすんが語り合う静かなシーンで、突然後藤の腹が鳴って二人は笑う。その悲喜の組み合わせが何とも言えぬ切ない情感と人間味をさらに引き立てる。『のど自慢』の秀逸なバリカンのシーンを思い起こさせるような、泣き笑いの結合の演出はいまだ健在だ。それは、各々の役者が独特な個性を体現し、ぶっきらぼうであったり所在なさげであったりという佇まい自体がこの作品によく嵌っている事にもよる。特に夜のシーンが多いが、その暗がりの中に浮かび上がる眼の光、顔の艶光、硬く強張る表情だけで以って画面に強度を与えている。[映画館(邦画)] 7点(2010-06-26 18:25:53)

836.  書道ガールズ!! -わたしたちの甲子園- 前半に登場する、昔ながらの半紙作りをしている小さな製紙工場は実際の現場だろうか。その地味ながら年季の入った風情と生活感が非常に渋い。売れ残った半紙を燃やすドラム缶の炎なども印象的な画だ。 ローカル駅や、寂れた商店街、丘の一本道や煙突を望む海辺の風景など、地方色の出し方は『シムソンズ』のように定番的で地元FC任せの感もあるのだが、そのロケーション自体の魅力にかなり助けられている。 121分という冗長なドラマもオーソドクスというより、ただただ官僚的。秘されていた楽曲が判明する夜のシーンと、翌日の部室のシーン、話の流れとはいえ同じ曲を2回も立て続けに流すというのは、あまりに芸が無さすぎのような気がするが。岩代太郎の音楽も主張しすぎ。書道を映画表現するにあたって、半紙を走る筆の音をBGMで邪魔してどうするのか。せっかくの紙ズレの音がよく聞こえず、書道の感触が伝わらない。ヒロインの力感ある大筆さばきはとても素晴らしいのに。(体育館での書道の練習中、飛んできたバレーボールをレシーブで防いだ男子生徒の咄嗟のアクションもナイス。) それにしても、クライマックスでヒロインを見舞うアクシデントまで先行の劇場予告編で小ネタばらししてしまうテレビ的無神経は腹立たしいばかりだ。[映画館(邦画)] 4点(2010-06-23 18:44:10)《改行有》

837.  座頭市 THE LAST 緊迫した長回しの中、縦構図で捉えられた長屋のオープンセットの奥側右手から、あるいは賭場の衝立の裏から、不意に出現する市の瞬発性。そのまま持続するショットの中で雪崩れ込む殺陣の速度感が見事。雪山の急峻な崖から、屋敷内の小さな段差まで、殺陣には緩急だけでなく高低差のサスペンスも活かされ、多人数掛けから一騎打ちまで、アクションに関しては全く申し分なし。 序盤の山林から、廃村、水田、浜の小屋など、庄内映画村のセットを活かした個々の美術も多彩で、時代劇映画の地勢的制約や窮屈さを感じさせない。(ただ些細ながら、砂浜と農村のロケーションがちぐはぐで位置関係的に無用な混乱を招く。) また、再会した香取慎吾と工藤夕貴が海を背に語り合うショットや、香取と倍賞千恵子が夜の雪原を背に語り合うミドルショットの対話の間にはいかにも阪本監督独特の味わいがあり、『王手』の日本海のシーンなどを思わせる何ともいえない情感を湛えている。 概して主演アイドルは顔面に心理を大仰に貼り付けすぎるだけに、こうしたシルエットのシーンや、包帯等で顔を隠したショット、引いたショットでのアクション等のほうが逆に強度を以って迫ってくるのだ。[映画館(邦画)] 8点(2010-06-19 18:38:50)《改行有》

838.  春との旅 《ネタバレ》 例によって、ゴーストタウンのごとく往来のまるで無い殺風景な地方の街路。『バッシング』でも、『愛の予感』でも、小林作品に登場する「北の辺境」は無機質で人間味を欠き、主人公らの殺伐とした心象の反映といった具合で一面的に捉えられる。それでもこの作品はオーソドックスな脚本の趣向によるものか、東北や道南地区(牧場シーン等)の生活感のある暖色系のロケーションや、徳永えりの羽織るジャケットの印象的な赤が作品に温かみをもたらしている。 『白夜』ほどではないにしろ、佐久間順平の音楽は心情説明的で少々押し付けがましいなど不満もあるが、祖父と孫娘のツー・ショットと歩行、食事、その様々なバリエーションと反復表現にはやはり妙味がある。序盤の拒絶の身振りから、旅館の二階と一階それぞれの窓から外を見る二人のショット、仙台の大通りのベンチで肩を寄せ合い眠る二人のショット、腕を組み牧場の坂を駆け下りていく二人のショット、そして冒頭と対になるラストの電車シーンへと、二人が横並びとなるシーンは触れ合いの所作とともに滋味と幸福感を醸していく。 また、味覚以上に活力としての食事が描かれるのもまた小林作品独特の味だ。ラーメンのスープ、コップの水も必ず飲み干させている所が良い。 その他、印象的な細部として、配膳する徳永の手付きをさりげなく見守る淡島千景の視線。一泊目の夜、旅館の風呂場で徳永が口ずさむ歌声の澄んだ響きなどが忘れ難い。[映画館(邦画)] 7点(2010-06-12 21:41:12)《改行有》

839.   舞台となる温泉宿の二階4部屋を縦構図で捉えた画面の深度が驚き。しかもそれが雑然とすることもなく各部屋の主要登場人物たちの所作をそれぞれ明瞭に映し出す。約1時間強の内に複数組の宿泊客を巧く絡ませ、其々のキャラクターを的確に描出してしまう手腕はまさに驚異。冒頭でのギャグ三段返しの巧さ。温泉宿屋内ショットの内にも戸外の景観を奥行きに取り入れ風通しの良さを常に感じさせる構図取りの妙。開放的な屋外撮影に映える少年の白シャツの眩しさと爽やかさ。一本橋や登り階段でのおおらかなサスペンス。説明字幕代わりに、少年の微笑ましい日記や女性の手紙をさりげなく活用する粋なセンス。どれもこれも素晴らしい。川原で田中絹代が泣く場面があるが、ここには涙や泣き顔といったそれらしき心理的演技がまるでない。それでいて小道具(洗濯物)と小川だけでもって切ない情感を醸してしまう不思議。これは何なのだろう。[DVD(邦画)] 10点(2010-05-30 19:55:57)

840.  人生模様(1952) O・ヘンリーの有名短編を原作とするオムニバス5話。各々20分弱の短編だが監督はFOXを代表する錚々たる顔ぶれである。 第一話「警官と賛美歌」:チャールズ・ロートンの傘ナイスキャッチと空振りキックは抱腹絶倒。その驚愕の反射神経ととぼけた表情のアンバランスが絶妙だ。 第二話『クラリオン・コール』:鏡像を使った演出。そしてギャング役リチャード・ウィドマークの憎々しい悪役像の魅力。 第三話『最後の一葉』:雪と強風の実感描写、ドアの開閉を契機とした場面転換が見事。美術商と画家の無言のやりとりのさりげさが良い。 第四話:『赤酋長の身代金』:子供に翻弄される誘拐犯の表情のリアクションが可笑しい。人間と熊が共演するショットのハラハラする面白さはハワード・ホークスの真骨頂。 第五話『賢者の贈り物』:主演(ファーリー・グレンジャー&ジーン・クレイン)の若夫婦が抱き合うツー・ショットの至福感。原作が豊かに膨らまされ、貴金属店の主人の粋な計らいと帰り道での募金というオリジナルエピソードが、ささやかながら情話を巧く盛り上げている。 [DVD(字幕)] 8点(2010-05-30 19:32:57)《改行有》

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