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月に囚われた男 - 鉄腕麗人さんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 月に囚われた男
レビュワー 鉄腕麗人さん
点数 8点
投稿日時 2010-08-30 00:05:23
変更日時 2010-08-30 23:10:24
レビュー内容
月世界の静寂の中で響く繊細な旋律が印象的な映画だった。
美しく響き渡る音色が、殊更に映画世界に満ちる“孤独感”を際立たせた。

月の裏側で唯一人、貴重な地下資源の採掘業務に従事する男。
孤独と望郷の念に耐え続け、3年間の任期終了まであと2週間に迫った時からストーリーは始まる。

主要キャストは、主演のサム・ロックウェル“一人だけ”だということは認知していたので、果たしてこの性格俳優の「一人芝居」でどのように映画を転じさせていくのか。
もしかすると、物凄く地味で独りよがりな映画なのではなかろうか、という疑念も持ちつつ、映画の「試み」に対して非常に興味深かった。

しかし、その想定は数奇なSFスリラーの展開により、良い意味で裏切られた。

アイデア自体は「奇抜」という程では無いのかもしれないが、“驚き”への導き方と見せ方がとても巧い。
一人の男の淡々とした描写から、突如スリラーの渦に放り込まれる感覚。そのストーリーの転換を、決して映像や音響の急激な変化に頼るのではなく、一つの「視点」の変化のみでさらりと、だが劇的に成している。

そして、このSF映画が素晴らしいのは、ストーリーにおける“驚き”が映画のハイライトではないということだ。
“驚き”はスパイス的な一要素に過ぎず、そこから始まる悲哀に溢れたドラマこそが、この物語の核心となる。

主人公に課せられたあまりに残酷な運命。
それを受け入れる様、それに抗う様、相反する“二つの姿”の在り様こそが、この挑戦的なSF映画の深さであり、面白味だと思う。

SFとは科学的空想であり、だからこそ、そこには人間の心理描写が不可欠だと思う。
人の精神と科学が結びつき交じり合い、無限なる世界が創造される。

手塚治虫の「火の鳥」や、藤子・F・不二雄のSF短編漫画を彷彿させる、広大な奥行きを備えたSF映画だ。
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