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ANORA アノーラ - 鉄腕麗人さんのレビュー
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タイトル名 ANORA アノーラ
レビュワー 鉄腕麗人さん
点数 8点
投稿日時 2025-06-07 12:11:52
変更日時 2025-06-08 11:39:00
レビュー内容
ネオンに彩られたNYの夜の街、セックスワーカーとして生きる“持たざる者”の彼女が、失ってしまったものは何だったろうか。そして、この悲しく、虚しい数日間で、彼女が得たものは何だったのか。
第97回アカデミー賞の“主役”となった本作は、その華やかな栄光に背を向けるように、極めてパーソナルで、滑稽で、切なく、痛々しい。現代社会の片隅に生きる一人の女性の心情を、包み隠さず映し出したエモーショナルな作品だった。

綺羅びやかなキービジュアルで映し出される主人公の笑顔や、軽快なサウンドトラック、“シンデレラストーリー”というキーワードに引き込まれて、この映画を観始めたなら、多くの人はきっと“しっぺ返し”を食らうだろう。
“シンデレラストーリー”のレッテルを剥がして繰り広げられるのは、ひたすらに赤裸々で、現実的な、人間模様だからだ。
そこには、映画的なカタルシスなんてほとんど無くて、ときに無慈悲なまでに、主人公アノーラに向けられた“仕打ち”が淡々と描き出されていた。

本作はこの他愛もない物語の中に、芳醇な人間模様と情感、社会問題、そしてエンタテインメントを充満させている。
本編の終幕直後は、「この映画は何だったのか?」と、その本質を掴みきれずに、失望と困惑が入り混じった。
がしかし、「無音」のエンドクレジットを呆然と眺めているうちに、本作が伝えたかったテーマや感情、何よりも主人公アノーラの人間的な本質が、ジワジワと染み入ってくるような感覚を覚えた。

23歳でセックスワーカーとして生計を立てるアノーラは、自分の人生と境遇、“現在地点”を、誰よりも正しく認識していたはずである。
彼女は、自分の行為に対して、仕事として常に正当な対価を要求する。“線引”を示し、セックスワーカーとしての自分の価値を、必要以上に貶めたり高めたりはしない。ただ、ヤッた行為、過ごした時間に対して、その対価と権利を示し続けていた。
その姿には、仕事に対するプライドなんて安易な言い方とは少し異なる、女性として、人間としての意地と矜持が表れていたのだと思う。

そんな彼女が、明らかに馬鹿で最低なロシア人御曹司と出会い、贅沢三昧、アルコール三昧、ドラッグ三昧、セックス三昧の数日間を通じて、「現実」を一瞬見失う。
そんなことがまかり通るわけがないことは、彼女自身が最も理解していたはずだ。
それでも、人間なんて弱く、悲しいものだ。「もしかしたら──」と、非現実的な期待感を抱いてしまった彼女のことを誰が非難できようか。

御曹司の両親に「結婚」の事実が知れてしまい、“シンデレラストーリー”から一転して“大乱闘”となる第二幕からの展開が、そのあまりにも落差の大きい転調ぶりも含めて、映画的に最高だった。
鑑賞前の予備知識が殆ど無かったので、作品紹介のイントロダクションで記されていた「ロードムービー」という記述に疑問符がついていたのだが、まさかモブキャラのように登場する御曹司家族の手下たちと珍道中を繰り広げるとは思わなかった。

手下たちとの大乱闘と罵倒の言い合いを繰り返しながら、アノーラは否が応でも「現実」を再認識させられる。
束の間の「非現実」を、それでも必死に追い求めながらも、彼女は「現実」を見つめ直す。
それは、“アニー”と自らを呼称して生きてきた彼女が、改めて本名である“アノーラ”という人間を自分自身で認める旅だったようにも見えた。


雪が舞う冷たい朝、“アノーラ”として自宅に舞い戻ってきた彼女は、どんなに屈辱的であっても、やはり「対価」を受け取る。それがこれから先も生きるための術であることを理解しているからだ。
だからこそ、最後まで付き添ってくれた手下の一人イゴールが与えてくれたある“施し”に対しても、それが一方的なものにならないように、アノーラは無言で彼に跨がり、「対価」を返そうとする。
気丈であり続けたアノーラが、イゴールに跨ったまま、ついに感情が溢れ出しなきくずれるラストカットが、悲しく、切なく、でもほんの少し優しく、感情を揺さぶった。

この現実の中で、夢を見ることは辛い、そして一度見た夢が覚めてしまうことはもっと辛い。でも、夢を見て、覚めることで、得られるものもきっとある。たとえ傷だらけになったとしても、その傷を抱えて、また次の一歩を踏み出す。
それは綺麗事などではなくて、人間が本来持っている強さなんだと思える。
そんなことを、「ANORA アノーラ」と冠された主人公の物語を目の当たりにして、思った。
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