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薔薇の名前 - tonyさんのレビュー
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タイトル名 薔薇の名前
レビュワー tonyさん
点数 8点
投稿日時 2025-07-01 01:42:28
変更日時 2025-07-01 10:20:54
レビュー内容
まず冒頭で、師と弟子が登場するや、2本の太い棒が大地に突き刺さっているのが見え、
その根元はくすぶって細い煙が立ち上っている。これは話が始まる前から、修道院が異端者2名を火刑にした余韻だと思われる。
「1327年 年末」と年号も出るが、これは重要なヒント。
つまり、時代はルネサンス成熟途上にあり、グーテンベルクの活版印刷の技術、ルターやカルビンによる宗教改革もまだ。
戒律の厳しいカトリック信仰が最優先のヨーロッパで、政教分離の概念もなく、教皇が王侯の戴冠権限を持つほど強大な力を持つ。
また、イタリアのペストは、1347年秋から猛威をふるう。
この物語の20年後、毛皮についたノミに媒介されたペストでヨーロッパ人口1/3が失われる。
修道院では、何十ものねずみが院内を這い回り、来る大災厄の予感をほのめかしているようだ。

院に到着し個室でくつろいでいるとき、院長の気配でウィルがとっさに隠したのは、
天体測定器具のアストロラーベと四分儀式。
これらはイスラム世界で発達した当時最先端の科学器具。
占星術や魔術に使用すると認められれば、その所持者は異端とみなされる。
ウィルは、神への信仰と共に、それと相反する「科学への知的好奇心」をも持ち合わせており、
これはのちに彼が図書館の蔵書に狂喜する伏線になっている。
また、ウィルの所持するアストロラーベは平面のものだが、薬草を貯蔵する部屋には立体型のアストロラーベがある。
これで薬草係のセヴェリーノは撲殺されるが、狂信的な修道士が科学器具を忌むべき凶器として掴んだのは、自然な流れかもしれない。

豚の血で満たされた甕(かめ)の中に死体が放り込まれていたシーン。
おそらくあの血は、ブラッドソーセージの食材として貯蔵されていたのだろうと思われる。
豚肉を不浄として忌み嫌うイスラム教信者が見たら、発狂するほどのインパクトがあっただろう。
ちなみにカトリック修道士は、悪魔ルシファーの名を耳にしただけで恐れおののく。宗教別のこうした苦手意識の差は興味深い。

図書館内で迷ったアドソは、師に従い本を朗読しながら館内を移動するが、不幸なことにその本は、恋煩いが体に及ぼすおぞましい影響を説いたもの。
まさに恋をしているアドソが、内容にぞっとして歩みを止める様子がユーモラス。
ところで彼は、修道院到着時には、トイレに行きたいことすら師に打ち明けられず、
地下に通じる階段を降りるときは、師の後ろにぴったりとつくほどの気弱な性格。
しかし、娘の処刑が取りざたされるや、沈黙する師をなじり、
マラキーアの異変では、みずから率先して暗い地下に飛び込み、
挙句に、かつて師を拷問にかけた審問官につかみかかって怒りをぶつけるほどになる。
これらは全て娘の安否を思う故の心の成長。館内で本人が朗読した本の内容と大きく異なるのは、痛快な皮肉だ。

皮肉といえば、毎朝修道院に生産物を納める地元民に「この世で汝が恵みし物は天にて百倍になって返る」と唱えるものの、
修道院からの民への「ほどこし」は、上階から地上へ投げ落とす生ごみばかり。
今回の連続殺人も、ホルヘが「笑い」を容認する世を疎んじたため。そこには愛の伝道師ではなく、文盲の庶民を操る為政者の姿しかない。
つまり、修道士や教皇庁が語る神への愛は、実は強い自己愛が下敷きになっており、その痛烈な皮肉、批判が全編を通して随所に見受けられる。

また、この映画では火が重要なアイテムとして使われ、物語が進むにつれ規模が大きくなっていく。
小さな蝋燭の火、図書館の中をゆくランタンの火、そのうち馬屋の藁が燃え、書物が燃え、異端者やホルヘを燃やし、図書館の大火災へと発展。
ともあれ闇の中、ろうそくの灯が照らすものだけが浮き彫りになる光景は、中世のバロック絵画を彷彿とさせる。
異端を暴露され、絶望してわめきちらすレミージョの取り調べを終えたベルナール・ギーが、教皇庁代表らを振り返り、
「羊飼いの務めは終わった」と偽善的な真っ白な法衣で仁王立ちするシーンが、ただもう素晴らしい。
残酷でドラマチックなバロック美術の大家、カラヴァッジョの絵画が、そのまま映像化して動き出しているような気さえした。

まだまだ書き足りないのだけど、きりがないのでこの辺で。
最後に付け加えると、
冒頭でアドソは「罪深きわが生涯も晩年を迎え、髪は白さを増した」と語り、
死を目前にして、かつての名もなき薔薇(恋人)への思いを回想している。彼はどれほど薔薇の名前を知りたかったことだろう。
別れの日、修道士だからこそ恋愛を断つため彼女の名前を聞かず、「知る」ことを諦めた。
この物語は壮大な、オフコースの『老人のつぶやき』なのだ。
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