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タイトル名 |
肉弾(1968) |
レビュワー |
S&Sさん |
点数 |
8点 |
投稿日時 |
2025-05-03 21:47:51 |
変更日時 |
2025-05-03 21:47:51 |
レビュー内容 |
岡本喜八が予備士官学校生徒で終戦を迎えた実経験をカリカチュアしたいわば私小説的映画であるが、これが『日本のいちばん長い日』の翌年に撮った作品であることには重い意味が込められていると思います。岡本喜八作品は“反戦と明治維新の否定”をモットーとしているが、前年に国家体制の視点で太平洋戦争の敗北を描いただけに、どうしても同じ敗戦をミニマムな個人の体験視線で表現したかったんじゃないだろうか。東宝で最高給の監督にまだ位置していたのに、わざわざ自宅を抵当に入れた私費を投じてまで製作した情念には脱帽です。でもオフビートな喜八節は健在、というより彼のフィルモグラフィ中でもっとも作家性が色濃く出ている作品じゃないでしょうか。彼の人徳のなせる業かとてもATG映画の予算規模じゃ不可能な豪華なわき役陣の顔ぶれもさることながら、やたらと全裸演技が印象に残る寺田農とこれが18歳のデビュー作で瑞々しいヌードまで披露してくれた大谷直子の演技は光っていました。物語自体は終戦間際の昭和20年7月から8月あたりの設定みたいで、海岸が近いということから岡本喜八が在籍した予備士官学校があった豊橋が舞台想定なのかと思います。しかしそんな時空間や設定を吹っ飛ばしたメルヘンチックな異世界のファンタジーの様な世界観には、思わず引き込まれてしまいます。のんびりと飄々とした仲代達矢のナレーションにも味がありました。魚雷に乗って漂流するシークエンスはさすがに冗長感があり、もっと短くしてラストに繋げた方がインパクトがあったんじゃないかとも思います。でもラストのショットには、初見のときは自分も衝撃を受けました。あの幕の閉め方は、『火垂るの墓』のラスト・カットに影響を与えたんじゃないかという気がしてなりません。 |
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