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近松物語 - ゆきさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 近松物語
レビュワー ゆきさん
点数 7点
投稿日時 2016-08-04 10:47:22
変更日時 2019-06-11 12:11:18
レビュー内容
 溝口健二監督作を幾つか観賞し終え「この人の映画って、登場人物が不幸になる話ばかりだなぁ……」という偏見を抱いていた自分を、痛快なまでに打ち倒してくれた一品ですね。

 あらすじとしては、不義密通の濡れ衣を着せられた男女が、望まぬ逃避行を強いられる話になるのだと思います。
 しかし、その過程で本当に愛情が芽生えてしまい、周囲の迷惑すらも顧みずに互いを求め合うようになるという、純粋極まる恋物語へと、鮮やかに変貌を遂げてくれるのです。
 最後には「処刑場に連行される二人」という、悲壮感漂う場面になるのですが、そこには「逃亡の苦しみから解放された幸せ」「これで二人が引き裂かれる事は二度と無いという確信」といった感情も描かれており、不思議と後味は爽やか。
 背中合わせに縛られた男女が、固く手を繋ぎ合い、満足気に笑みを浮かべる姿は、忘れ難い印象を与えてくれました。

 なお、元ネタとなった「大経師昔暦」においては、主役の男女二人は死んでいません。
 処刑の寸前、助けが入ってハッピーエンドを迎える事になっています。

 それを「ほんまに、これから死なはんのやろか?」という呟き一つで、生存の可能性を示すだけで済ませてしまうのは、如何にも溝口監督らしく思えましたね。
 「悲惨美」「芸術的な悲劇」を好む感性がそうさせた可能性もありますが、自分としては「殺されるのを承知の上で、愛を貫き通した二人の覚悟」こそが大事なのであり、この後に二人が死ぬか生きるかなんてのは、些細な事なんだ……というメッセージなのだと解釈した次第。

 勿論、個人的好みとしては、二人はあのまま殺されてしまうのではなく、原作同様に危機一髪で助かったのだと思いたいところですね。
 共に死ねる喜びではなく、共に生きる喜びを分かち合って、幸せな夫婦となって欲しいものです。
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