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タイトル名 |
家族(1970) |
レビュワー |
K&Kさん |
点数 |
8点 |
投稿日時 |
2025-05-11 15:28:43 |
変更日時 |
2025-05-11 15:29:07 |
レビュー内容 |
奇しくも大阪・関西万博開催の真っただ中に、元祖大阪万博の時代の映画を観ました。 人口も産業も都市部に集中していた高度経済成長期の昭和日本の、ほぼ西の端からほぼ東の端まで、家族連れ立っての大横断モキュメンタリーです。時代を反映して、衰退していった炭鉱町・伊王島から、万博で湧き上がる大阪、経済発展を遂げた東京を経由し、開拓地・中標津へと、一家揃って向かう風見一家。北海道には自主的に渡る事を決めたとはいえ、高度経済成長の末期に、裕福とは言えない一家が、日本の端から端へ、辺境から辺境へ追いやられる様を観ているようで、複雑な気持ちになりました。
途中、万博を一目観に大阪会場に立ち寄る様子も、入り口前まで行って中の様子を伺うのも、なんか解ります。時間の関係で入場は断念しましたが、一時的に大金を手に入れたためか、お金が無いのに展示物の一つでも観ようと思ってしまう気持ちも、痛いほど解ります。 当時の記録映像なんかを観ると、日本中が万博で盛り上がってたんだろうなぁ…なんて思ってしまってましたが、この時代でも好景気の波に乗れてない、風見一家のような家庭も多かったんだろうな…とも思えて、リアリティを感じました。お爺ちゃんの肉まんの一件も、私なら「きちんとお礼言いなさい」ってなりそうだけど、少し前までみんな貧しかったという時代背景もありますが、お金があまり無いからこそのプライドが出てしまうんでしょうかね。
都会の人ごみに疲れ果てて、車窓の富士山に視線を送る元気もない疲れ切った民子が、一家の状況を語ってくれます。西日本での観光旅行気分と、東日本に入ってからの、開拓地への移動との違い。また今の時代と違って、延々と陸路で移動する時間の長さも感じ取れます。北海道に入って、ず~~~~~~~~~~~っと雪景色の中、ぽつん、ぽつんと民家が点在する光景が延々と続く。それをジーっと見る民子を、映像として観せてくれるのも良いですね。実際、北海道の田舎って今でもあんな光景です。長崎から来た一家が、縁もゆかりも無いこんな寒々しい土地で、今後ずっと暮らしていくんだと思うと、なんだか逃げ出したくもなるでしょうね。 何もない真っ暗な中標津駅。ようやく目的の住居に到着して、玄関先で崩れ落ちる様子がとても心に響きました。ボーン、ボーン…という時計の時報の長さが、夜遅くの到着を伝えてくれます。観ていてこちらも、安堵感がどっと湧きだしました。
確かに、あの時代の鉄道中心の移動だと、相当な体力を削られるんだろうなって思いました。途中幼い赤ん坊が亡くなり、とどめとばかりに義父も亡くなる。犠牲の多さに、風見夫婦の決断、開拓地へ一家で行く決断は、本当に正しかったのか?って、疑問に思えてしまいます。 澄み切った青い空。どこまでも続く大平原。子牛の出産を嬉々として語る民子。三人目の報告をする精一…最後があまりに、理想の開拓地生活が過ぎました。作品全体のバランスを考えてのことでしょうが、確かに、このくらい“中標津まで来た甲斐”を観せてくれないと、映画鑑賞後の後味が悪かったと思いますし、あの時代、中標津で開拓をしている人達がいたことを考えると、この終わり方で良かったんだと思います。 |
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