SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

ザ・グラディエーターII ローマ帝国への逆襲(2001年【米・露】)

まずは、勘違いして買う人が出ないようにコメントは後回しで。B級帝王ロジャー・コーマンのプロデュースの低予算作品です。エロティックバイオレンスなジャンル。当然スコットの『グラディエーター』とは直接関係はないです。でも面白いぞ。

本作の来歴はちょっとややこしくて、まず源流として、リドリー・スコットの解説不要オリジナル『グラディエーター』があります。
んでこの人気にあやかって、日本で勝手にタイトルを変えたザッカリー・ワイントロープ監督の『ザ・グラディエーター ~復讐のコロシアム~』(原題は『アマゾン対グラディエーター』…未見だけど、明らかにエロ物ですな)。
さらに、この続編であるかのように見せかけた邦題で発売された(当然劇場未公開!)のが本作、『ザ・グラディエーターII~ローマ帝国への逆襲~』(原題は『アリーナ』)。
本家のバッタもんのさらにバッタもんという、最低な扱いを受けて本邦上陸となったワケです。まったく可哀想な作品です。

ところがですよ。
オイラも「ロジャー・コーマン製作のロシア映画」って事で期待して借りて、腰を抜かしちゃいました。
まず闘技場がホンモノなんだコレが。リドリー・スコットの豪華CGハリボテコロシアムじゃなくって、木造で1/50の規模とはいえ、本当に作った円形闘技場。物語はローマ帝国から離れ、辺境の属州であるゴートの地(フランス北部あたり)へ送られた総督を軸に進むので、このチープ感は逆にリアルさを増して観る者へ迫ってきます。冒頭には奴隷を使った建設シーンも丹念に描かれており、物語の導入が「ヒト」(剣闘士ら)ではなく「モノ」(闘技場)で始まるという、インパクトが弱そうでいて実は強烈な「ホンモノ感」に引き込まれる造り。
ハッキリ言って序盤は群像的で視点が定まらず、散発的にドラマが進行するんですが、この闘技場自身の魅力と、俳優の魅力で引っ張ってくれます。主軸となる現地総督はヴェルゼビツキーが演じてまして『ナイトウォッチ』シリーズを髣髴とさせる静の迫力。剣闘士のトレーナー役のおやっさんも、豪快な面相でロシア映画の層の厚さを見せつけます。この2人を立たせておいて、周囲にお人形さんのようなブロンド美男美女(奴隷)を配するあたりが、まず巧い。
で、彼らお人形さんたちこそが真の主人公で、次第に人間性が露わになって行く過程のドラマが、巧すぎる。薄っぺらに描かれていた人々が、次第に薄っぺらではいられなくなり、ローマ人との確執の中で生き残る戦略を探し、やがて…という、タマネギの皮をむくように進む展開が、エンディングの大暴走を産む滑走路として機能しています。
というわけでエンディングについてですが…ここから以降はネタバレ!

そう。エンディングの大暴走こそがベクマンベトフ監督の面目躍如と言える素晴らしさで、初見時にオイラは「リドリー・スコットに勝ってるよ…ロシアの新人が…」と、唖然としてしまいました。
本家『グラディエーター』で、マキシマスが皇帝を殺しちゃうってのはどう考えてもインチキ臭い。コモドゥス帝は実際暗殺されてますけど、あれじゃどう見ても「明殺」だよ(苦笑)。
ベクマンベトフはこのお約束の「ボス殺し」を、様々な側面から補強して行きます。
1)そもそも田舎に飛ばされた総督だから、こんな話は歴史に残ってない。いかにも「この規模ならあったかも」と思わせる辺境の世界が説得力を増している。
2)それまでの丹念な描写で、ローマ人に対する「殺ってやるぜ!」という意識の生まれる素地が出来上がっている。まあ、コーマン映画の常套手段ですが…『デスレース2000』とかね。
3)ラストの字幕で、この事件を発端に世に言う「ゴートの反乱」が起こった…と吹っかける。ローマに攻め入って首都を蹂躙したゴート族の反乱はローマ史でも謎の部分で、ゴート人のメンタリティを現代人に理解できるように「翻訳」して示した事になる。エロコスプレがいきなり正統派史劇になっちまうのだ。
これは恐ろしく練られたB級シナリオだし、ベクマンベトフ監督も、それに応えるべく精一杯の力を出している。特に彼の持ち味である質実剛健な野蛮さがうまく噛み合ったと言える。

日本人にはどうでもいい話だけど本作のラストは(作中では全く語られない)歴史考証的なダメ押しもある。ローマを蹂躙したゴート人はローマ帝国を継ごうとはせず、そのまま東へ向かって去ってしまう。世界史の教科書に言うところの、いわゆる民族大移動ですな。
彼らが行き着いた先はボヘミアをも越えた東スラヴ地方の果て、すなわち今のロシア領。彼らゴートの奴隷は、ロシア人の礎になるのですな。このシナリオを得てロシア人監督に撮らせようとしたロジャー・コーマンの商才は並じゃないですわ。安く作れて、現地のウケもよく、実力ある映画人たちをハリウッドにプロデュースする足場にできる。実際、本作の2年後にはFOXの資本で『ナイトウォッチ』が完成してます。

リドリー・スコットがコーマン門下の映画人である事を考えれば、この企画は最初からロジャー・コーマンの手の内にあって、労せずして生み出せるモノだったと言えます。彼のBな狙いに、蛮族の末裔として応えたティムール・ベクマンベトフのタタール魂も素晴らしい。この映画が秘めている「反乱・反抗の大肯定」というテーマは、ローマを越えて現代のロシアを揺さぶりかねないモノでもある(だからこそ米版の本家より成功しているわけだが)。
なぜこの作品がおっぱい丸出しのエロ映画として撮られているのか、その後のベクマンベトフの快進撃を見るにつけ首を傾げるところですが…彼はやっぱりバイオレンスの人で、エロティシズムはからっきしだと思うんだよなあ…。
評価:8点
鑑賞環境:DVD(字幕)
2008-03-02 04:36:00 | 実写作品 | コメント(0) | トラックバック(0)