SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

クローバーフィールド/HAKAISHA(2008年【米】)

いっやあ凄かったべよ、吐き気が。周囲の席をコッソリ見回してみたけど、全員さりげな~く口元に手を当ててさぁ。体調万全で臨んだオイラでも、中盤以降は胃がでんぐり返りそうだったべ。あの宣伝はダテじゃねえべよ。

…とは言えもちろん、アメゴジ10点のオイラがこの作品をそんな部分で評価するわけがない。10点以下になる理由がないす。
90年代までは有り得なかった「チラ見せ怪獣映画」。『エイリアン』などで使われてきた演出方法を、等身大モンスター(とりあえず上限は体長15メートルとする)ではなく怪獣(全長ガンダム以上)に全面的に適用した初の映画。もちろんエメリッヒ版ゴッドジ~ラもそういう側面はあったんだが…ベースラインがコメディだったしね(今後、向こうの点数を落とすかもしれん)。
そして、本作はもう一本の源流となる『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を消化吸収して、さらに「使用済みのビデオテープを上書き録画する」というヒネリを加えてきた。平時と非常時のカットバックが、これほど強烈な作品もなかなか思いつかない。『ブレア』では未消化のきらいがあった「カメラマンの存在意義」も、本作ではかなり改善されている(突っ込みどころは多々残っているが)。様々な事情でカメラマンが入れ替わり、「過去に画面の視点を担っていた人物が死ぬ」という展開はかなり強烈。この作品は「オール手持ちカメラ映画」ジャンルが、ビジネスとして完成したというエポックなんじゃないだろうか…観客の吐き気をどう処理するかという重大な問題が残ってはいるけれど(笑)。

モンスター・デザインは、ここ10年をリードしてきたタトプロス風から、かなり幻想的なクリーチャーに代替わりした。ここの是非は議論がありそうだが、オイラはマイナス0.5点として作品評価自体は満点をキープする事にします。
あと難点としては序盤のかったるさ。オイラがよく「通奏低音」と呼ぶ、基調となるテーマが描かれないので、リアルなNYのパーティー以上にならない(人物説明として必要なシーンではあるんだけどね)。異変を匂わせるニュースなんかを1~2回挟んで、観客の気持ちを引き込んでおくべきだったと思う。もっとも、自由の女神が吹っ飛んで来るシーンで、一瞬にして舞台が完成するという手際には舌を巻きました。ここはもう『グエムル』を超えてる。

最後にもうひとつ、多分オイラしか挙げないであろう鑑賞ポイントを挙げておきたい。
本作はリアル志向が徹底しているので、オリジナル音楽はエンドクレジット中にしか流れない。この音楽がもう、正統派怪獣映画の意気込みに溢れていて素晴らしく、しかもまぎれもなく本作『クローバーフィールド』の物語世界の音楽化なんだ。圧倒されるんだ。
短い主題をひたすら繰り返して行くオーケストレーションはもちろん『ゴジラ』の遺伝子を受け継いだものだし、そのリズムを刻むのは作中のモンスターの足音をイメージさせる轟音。そのメロディが変奏され、展開していくと、米軍を思わせる勇壮なマーチへと組みあがる。
そこへ割り込む、異なる和声のソプラノが姿の見えないヒロインであり、主人公たちの行動の原動力だ。この構成はまるで宇宙戦艦ヤマトのよう。目標にたどり着くのは絶望的で、ハードルは圧倒的で、でも、その声を無視して逃げる事はできない。怪獣を現す第一主題をアレンジした癒しの(or 嘆きの)第二主題が、聴く者の心を引っ張って行ってしまう。
作品中では描かれなかった「政府首脳がどういう判断を下したか」「米軍はどういう作戦でNYに展開したか」がこれを聴けばおぼろげに見えてくるし、オイラの想像でしかないけど、この作品の企画段階に「ブレアウィッチ形式で行こう」となる前に想定されていたエピソードがここに入っていると思う。
それくらい作品に密着して、しかも普通の怪獣映画的な視点からストーリーをフォローアップしてくれている。一級の怪獣映画音楽と言っていいんじゃないだろうか。

…今回はあえてファーストインプレッションを残したいがために、わざわざワーナーマイカル板橋の近くにあるネット喫茶から書いてみました。後日感想は変わるかもしれないけど、いま感じているこの衝撃だけは、間違いなくホンモノです。

帰宅後の追記:
モンスターデザインについて。あの四肢の長さ、それを強調するアングルは、ちょっとサルバドール・ダリの影響を感じる。まあ単純に、パースを活かした画作りをしたかったからああなった…と思えなくもないけど。でもダリの夢幻性は作中のあちこちで感じられるんだな。スタッフの言葉はチェックしてないんだけど、本作をシュールレアリスムで解釈する事が可能かも…と思ったりします。
また、これはいろいろ異論がありそうだが、科学者役の人物を登場させて怪獣映画としての完成を狙って欲しかった。登場場面は地下鉄からの脱出後、軍に保護されるあたりがベターかなあ。モンスターのシルエットがかなり異様なので、「ちょっと現場から引いた立場」からの言葉があると怪獣の存在が浮き立たなかったかも、とか思います。

ついでながらダリの絵を…このパースの効いた遠近感とか、現実離れっぷりとか、かなりあの怪獣の姿を思わせるんだよなあ。
茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感)聖アントニウスの誘惑
評価:10点
鑑賞環境:映画館(吹替)
2008-04-06 16:49:00 | 実写作品 | コメント(0) | トラックバック(1)
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受信日時:2008-08-31 08:39:44