SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

プライベート・ライアン(1998年【米】)

ここの諸レビューを久々に読んで、やはり変だと実感したので、ちょっと追記。
何でこの映画でみんな笑えない…?

映画館で見ました。印象的には可もなし不可もなし…だけど、映画館でバカ笑いしてヒンシュク買ったはじめての映画です。いやもう笑えすぎる! 『七人の侍』のパロディとしては最高峰に位置するんじゃないでしょうか。特に神の腕を持つ射撃手がタイガー戦車に砲撃食らうシーンは、(『七人』から考えて既に死ぬ事は判りきってたので)「そこまでやるかぁ~」と大爆笑。ヘタレなアパム軍曹が絶対死なないのも中盤からは確信してたので、ハラハラドキドキせずにけっこう安心して見れた部類かな。そして強引に墓地で締めくくったラスト。あそこはやっぱ「今回も負けたのはアメリカだったか」とのたまって欲しかった…つーか、自分的にはそういう脳内変換かけてます。上質パロディギャグとしてこの点数を献上。

●2010/2/19追記:
頭っからレビューを読んでみて気付いたのが「ライアンを助けに行く意味ないじゃん。これ戦争映画と違うじゃん」というレビューがすごく多かったこと。

この映画は、そういう作品ですよ。アメリカの置かれた無意味な状況が包み込まれているあたりに、皮肉と言うか知的なユーモアが光っている。これはドンパチやって敵を倒す戦争映画そのものを、やんわりとした口調で婉曲に諭した、ヒューマンドラマですよ。
第2次世界大戦のアメリカの立場は、(対日本を除けば)基本的にPKOと同じですよ。
そもそもアメリカ政府は、第2次大戦には参加したくなかった。ヨーロッパの戦争も中国の戦争も対岸の火事、他人事だからね。それが真珠湾攻撃でむりやり引きずり込まれて、えらい人数の兵士をヨソの国の激戦地に送って死なせる事になった。
「戦争しない」とヒトコト言っておけば済んだんだけど、行くと決めちゃったからナチスを倒しに行かなきゃならなくなった(ここで軍需産業の意を受けて戦意を煽りまくったイエロージャーナリズムの役割は非常に大きくて、オイラはアメリカの真の戦犯は新聞社だと思ってる)。
おそらくイラクでも自衛隊が似たような状況に陥ったら、似たような映画が作られたんじゃないですかね。第一次大戦後のシベリア出兵も(経過のどす黒さを除けば)似てなくはない。
アメリカ軍にとって、ヨーロッパで戦闘を続けるモチベーションは「世界平和」しかない。戦後、平和の名の下に軍を送りまくるようになる、アメリカの警察官意識の根源です。いい意味でも悪い意味でも…。
その、現在にまで続くアメリカのモチベーションを、本作では数人の兵士の規模にまで縮め、上手に切り出して描いて見せた。当然、ヨーロッパが描く戦争や日本が描く戦争とは光景が変わります。『プライベート・ライアン』以前の戦争映画は「世界」を相手に描かれていた(ここにスタートレックの物語の基調を重ねる事も可)。それが個人の物語に置き換えられると、お人好しなアメリカが置かれた不条理感・他国にハメられた感が、キレイに浮き上がってきます。

そんな作品の物語のベースラインにね、敵国だった日本の『七人の侍』を持ってくるわけですよ。パロディシーン山盛りで(笑)。この映画を観ながら日本人がニヤニヤしなかったらウソだよ。メタなレベルで、戦争映画の意味をブチ壊してくれてるんだから。
メル・ブルックスのやり方にも似た、それまでの映画文化の破壊。戦争映画でも反戦映画でもない、非戦映画という謎なジャンル。
本作を何重もの視点に絡めて味わえる、日本人という立場を享受できないのは残念な鑑賞姿勢だと思います。

この映画では、笑え。
表現の真摯さの裏にある、意味の放棄の豪快さに、笑い転げるべきっす。
評価:6点
鑑賞環境:映画館(字幕)
2010-02-19 08:35:26 | 実写作品 | コメント(0) | トラックバック(0)