SCAT/くちずさむねこ(2007)

 

頭山(2002年【日】)

初めてのブログ連係レビューなんだからと『話の話』や『道成寺』をレビューしてみようと思ったんだけど、一言も書けない。格が高すぎました(笑)。ちょっと敷居を下げてこのあたりで…以下はネタバレ含みでここがブログ連係機能の目玉と思われる書きやすくなった点ですね。

落語『頭山』が山村浩二の手でアニメになった、と聞いた時、率直に言って「えー! それはちょっと…」という感想だった。頭山は映像化不可能なシュールな話芸であって、これまでの子供番組では人形劇でもアニメでも、とりあえず「やっただけ」という印象だったからだ。ラストシーンなんて、本当に投身自殺するシーンを演じられても、面白くも何ともない。頭山は絵にならないからこそ、面白い。
…という常識的な見解を持っていたオイラですが、本作はアートアニメの手法の広さを思い知らされた傑作になっている。絵にならないバカな話をどう見せるのか。いやそもそも、頭山を描くその意義をどこに持ってくるか。

本作の軸足はオリジナルには全く関係のない、「環境問題」に置かれている。
ハゲ頭を大地とみなし、そこに生えた見事な桜へ集まってくる人々を描き、散らばるゴミを、立ちションを、臭そうな靴を、それらが桜の持ち主である主人公を痛めつける様を描く。原作にはここまでの描写はなく、男はただうるさがっているだけだ。
桜が池に変わってからも、この頭の上と下でスケール感の異なるシュールなイジメ映像は続く。いきなり打ち上げられる花火! 釣りにビーチパラソルに…とあり得ないドンチャン騒ぎが続行し、やがて追い詰められた主人公が自分の頭に身を投げるというシュールな映像へ…ここに至ってやっと、頭の上の世界が無限連鎖している状況が描かれ、観客は「男」というのが実は「地球」だったと明確に知る事になる。落語と同じ語り口を想定して観ていると、このシリアスなラストシーンで完全に足をすくわれる。山村浩二は10分間、観客を引っ張り続け、「地球の自殺」というシチュエーションへ連れて行くために、わざとこの原作を選んだんだろう。

本作では、バカなシチュエーションの全てが「頭の上」で展開する。アニメの語法的にはこれは「頭の中」と同義だろう。これは地球という環境の「精神」の具象化を試みた作品であり、同時にニュースでよく話題になるゴミ屋敷の住人たちの頭の中にもリンクさせ、一般人である観客の大半を主人公の頭の上へ追いやってしまう。
元来の頭山のバカバカしさを知っているが故に、このシリアス終り方にはグッと胸を詰まらせた。本作が、世界的に評価が(手塚に比べて不当じゃないかと思えるほどに)極めて高いのを考えれば、逆説的に外国人は本作を冷静に観ている事になりそうだ。
この、観客へ向けられた刺は、同郷の人間にはやっぱり痛いのだ。その出血分で2点を引く。
評価:7点
鑑賞環境:DVD(邦画)