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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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261.  インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国
悪評を聞いていた為どんなひどい出来なんだろうと思っていたのですが、期待値を下げて見たせいかなかなか楽しめました。とにかく素晴らしいのがスピルバーグの演出力。あんなに男らしく腕っ節の強いヒーローだったインディ・ジョーンズを66歳のハリソン・フォードに演じさせ、ちゃんとインディに見えるように作ることはなかなか出来ることではないでしょう。イーストウッドが「許されざる者」で老境のガンマンを演じたのが62歳、ショーン・コネリーが「ザ・ロック」でいぶし銀の元スパイを演じたのが66歳であり、従来なら先例に習ってセルフ・パロディにするしかないところ。しかし今回はその選択肢を取らずあくまで現役のヒーローとして描き、ちゃんと活劇映画として成立させているのです。小走りするのもツラそうなほどヨボヨボを隠し切れないハリソンさんでしたが、見ているうちに段々違和感がなくなっていきます。アクションもハリソンさんの現在の見た目、年齢でも説得力を失わないラインにギリギリ納めてあり、「物足りない」と「やりすぎ」の間で微妙なバランスをとっています。次々と新手の現れるナチスを相手にしてた頃と比べると、20人程度のソ連兵を相手にする本作はどうしても敵がショボく感じてしまいますが、アクションの説得力を維持するためにはこれが限界だったと思います。ここまで難しい要素の多い企画において、新解釈や新機軸を入れることなく昔のルールのまま及第点の作品を作れるのはスピルバーグならでは。私は今回の出来で十分だと思ったのですが、脚本レベルでのもうひと捻りも考えられるでしょう。イリーナ・スパルコは超能力の研究者という設定でしたが、思い切って彼女を超能力者にし、インディの考えをどんどん先読みされていくという展開でアクションの限界をカバーする手もあったし、前半でインディに疑いの目を向けていたFBIを争奪戦に絡ませることもありえたでしょう。しかしそこまでやってしまうとインディ・ジョーンズが主人公をやる必然性が薄くなってしまうわけで、そんな話はナショナル・トレジャーにでもやらせとけばいい。やっぱり今回のものが可能な中でのベストな出来だったと思います。オチも含めて(神様が「お前ら頭が高い」とナチスを皆殺しにしたり、間寛平みたいなオヤジが「700年間ここを守っておる」と言ったり、前3作だってオチは結構メチャクチャでしたよ)。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2008-11-15 15:09:16)
262.  ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 《ネタバレ》 
信仰の自由を求めたプロテスタントと自分の土地を求めた小作人により建国されたアメリカは、本来は貧しくも清くマジメであることを美徳とした国でしたが、ゴールドラッシュにより一攫千金に目覚め、石油により物質的な豊かさを追い求める国に変貌したのが19世紀終わりから20世紀はじめ。その時代を舞台にした本作は現代アメリカのデフォルメとなっています。ダニエルによる石油採掘を人々が歓迎する中、唯一土地を売らなかったのがホームステッド法(未開発の土地を農民に払い下げる制度。未開の地を家族だけで開墾するという大変な困難が待っていました)により苦労の末土地を得たおじいちゃんだったのは、古き清貧のアメリカ人と物質主義の新しいアメリカ人の対比でしょう。この期に及んで土地を提供しないこのおじいちゃんは、ダニエルからすれば「どうせ値段を吊り上げるハラだろ」としか見えていません。しかし実際には、札束で相手の頬を叩くような相手に大事な土地は渡せないけど、人として接するなら喜んで提供しましょうというのがおじいちゃんの意思でした。そんなおじいちゃんが人として大事だと考えているのが信仰でしたが、その信仰もすでに死んでいます。伝道師のポールは大袈裟なパフォーマンスで人を集めますが、彼の言動には神に対する畏れや敬意、人々を正しく導こうとする信念などはなく、金儲けの道具として人々の信仰心を利用しているのみ。「私は悪人です」と正直に言ってるダニエルよりも、正義面して人々の心につけこんでるだけ彼の方がタチが悪いともいえます。そしてラストではおじいちゃんは死に、その孫は農民として地道に働くことではなくハリウッドの俳優を目指し、伝道師はおじいちゃんの土地をダシにダニエルから金をせびろうとし、そのダニエルはおじいちゃんの土地の石油を黙って勝手にかすめ盗っていたという、古き良きアメリカは死に、なんとも浮わついた人たちだけがこの国に残ってしまいましたというオチ。お見事です。また、弟と名乗るヘンリーが現れた途端にHWを捨て、そんなヘンリーがニセモノだとわかるやまたHWを呼び戻すというダニエルの行動がありましたが、利害が一致すれば独裁国家でも支援し、都合が悪くなればかつて仲良しだったフセインやタリバンと戦争してしまうという、なんとも節操のないアメリカ外交みたいで興味深かったです。
[ブルーレイ(吹替)] 8点(2008-09-12 01:46:54)(良:2票)
263.  ケインとアベル/権力と復讐にかけた男の情熱<TVM>
先日「午後のロードショー」でやってたのを見たのですが、「なぜこんなすごい作品を今まで知らなかったんだ」と思うほど面白かったです。本作はアメリカのテレビ映画ですが、劇場用の大作にまったく引けをとらない完成度。上映時間の使い方が抜群にうまく、長い長い上映時間にも関わらずまったく飽きさせない作りとなっています。3時間を超える伝記映画がどれもこれも冗長で退屈な映画になっていることを思うと、2時間枠で3日連続放送という超長尺でありながら話のテンションを徹頭徹尾維持できていた本作は驚異的とも言えます。また「24」や「LOST」のように飽きそうになったらとりあえずイベントを放り込むという適当な盛り上げ方ではなく、ふたりの男の確執というテーマから片時も離れず、すべてのイベントが主題に沿って展開され、ムダなエピソードが何ひとつないという見事な構成。ロミオとジュリエット風になってきた後半では「いよいよ息切れしてきたか」と思ったのですが、これもまたケインとアベルの物語を構成する重要なピースのひとつであったと後でわかり、この話はとんでもなくよく出来てるなとあらためて感心しました。「テレビ界のゴッドファーザー」とは言いすぎかもしれませんが、テレビにありがちな軽さがなく、重厚で見ごたえのある作品となっています。俳優の演技も見事。当時ともに30代後半だったサム・ニールとピーター・ストラウスが10代後半から60代までの主人公を演じるのですが、さすがにムリを隠しきれない10代後半はともかくとして(ここは若い役者を別に立てた方がよかったと思います)、野心に燃える20代、各自が帝国を築きあげる40代50代を経て、哀愁溢れる60代までを違和感なく演じてみせた芸の広さはなかなかのものです。NHKの大河ドラマのようなウソ臭さがないのは、メイク技術の違いだけではなく役者の力量の差も大きいでしょう。激動の60年を生き抜いてきた男の顔にちゃんとなっているのです。こういう知られざる傑作を突如放送するので、テレ東はあなどれません。レンタル屋に行けば簡単に見られる最近の大作ばかりを放送する他局のロードショーはもう10年近くも見ていませんが、テレ東だけはチェックしてしまうのはこういう出会いがあるからです。
[地上波(吹替)] 8点(2008-07-13 04:17:50)
264.  続・激突!/カージャック 《ネタバレ》 
スピルバーグの劇場デビュー作ということでお勉強のつもりで見てみたのですが、これがあまりに面白くて驚きました。スピルバーグのドラマ作りは、この時点ですでに完成されています。前半のコミカルな描写にはたっぷり笑わせてもらったし、シリアスな後半とのコントラストの役割もよく果たしています。子供と幸せに暮らす夢など叶うわけがない、この短い祭りが終われば自分たちも終わると知りながらゴールへと近づいて行くポプリン夫婦が切なくて仕方がありません。気弱に見えつつラストに向けて冷静な一面を見せる役得なクロヴィスはさておき、感情的なルー・ジーンを描くのはかなり難しかったと思います。わめいたり突飛な行動をとったりのトラブルメーカーなのですが、観客から嫌われるギリギリのところで踏みとどまっているサジ加減はお見事。そこいらのベテラン監督ですら難しいことをデビュー作でやってのけているのはさすがスピルバーグです。また、そんなポプリン夫婦と擬似的な親子関係を築くタナー警部も良かった。後にスピルバーグがひたすら描き続ける父親との関係性というテーマですが、デビュー作の時点で早くも作品の中心となっています。すでに親を失っているクロヴィスと、「お前みたいな娘は俺が殺してやる」と言い放つ父親を持ったルー・ジーンにとっては、自分たちを大事に扱ってくれるのはタナー警部がはじめてだったのかもしれません。無知ゆえに人生を踏み外したポプリン夫婦を温かい目で見守り、厳しい対応をできるだけ後に回そうとするのですが、警察として最後の最後には事件を終わらせねばならないというタナー警部の苦しい心境がよく描かれています。20年後、クリント・イーストウッドが「パーフェクト・ワールド」でこれとまったく同じ疑似親子の物語をやりましたが、本作の方がよく出来ていると思います。そんなわけで期待以上に素晴らしい作品だったのですが、惜しむべきはやはりこの邦題。勢いのあるサスペンスだった「激突」と、ゆったりとした人間ドラマである本作は正反対の作品はず。なのに続編としてしまっているのは、舞台が宇宙なのは同じだからという理由で「2001年宇宙の旅」と「スターウォーズ」をシリーズとするぐらいに強引です。こういう適当な邦題は作品の価値を殺してしまうので(実際、「激突」のパチモンだと思って本作をスルーしてる人は多いはず)、もうちょいよく考えてもらいたいものです。
[DVD(吹替)] 8点(2008-06-30 02:36:31)(良:1票)
265.  エイリアン3/完全版
多くの監督・脚本家が関わりながらも一向に作品がまとまらず、ニュージーランド出身のヴィンセント・ウォードがようやく監督に就任するもあまりに突飛なアイデアの数々にスタジオや現場もついていけなくなって降板。巨大セットを組み、人材も集め、公開日も決定している中、監督・脚本がないという異常事態で呼ばれたのがフィンチャーだっただけに、完成した作品には製作時の混乱がよく表れています。ハゲ頭に同じような格好の囚人は誰が誰だか区別がつきませんが、あれは脚本未完成のまま撮影に突入したため、ひとりひとりの個性やエピソードが固まっていないことから必然的に生じた混乱でしょう(同一人物とは思えないほど性格がコロコロ変わるキャラクターも何人かいます)。また、見せ場の少ない本作において作品の要となるべきはクライマックスのアクションですが、薄暗い廊下を囚人が走り回っているだけという地味なもので、しかも作戦の概要や位置関係がよくわからないので、作戦が成功しているのか失敗しているのかすらよくわからないというグダグダぶり。挙句、作品の完成度に疑問を持ったスタジオによってズタズタにカットされ、さらにまとまりの悪くなった状態でエイリアン3は世に出されてしまいました。スタジオによる干渉を受ける前の形であるこの完全版は劇場版に比べて出来がかなり向上していますが、やはり前述した根本的な問題点を抱えたままなので、完成度の高い作品とは言えません。しかし、結果的に不完全な形になってしまったものの、この作品が目指した深遠なドラマは注目に値するものです。「2」を継承した娯楽大作にするのが観客受けを簡単かつ確実に狙える路線だったはずですが、そうした安直な方法に走らず、あくまでSFとしての斬新さやドラマ性を追及した製作陣の姿勢は評価に値します。また、天才監督デビッド・フィンチャーの才能が、「セブン」や「ファイト・クラブ」にはない面白い形で発揮されています。「地獄の黙示録」がそうであったように、作品が不完全であることの味が漂っているのです。寝てても面白い映画を撮れる天才監督が、極限まで追い込まれて作った作品に漂う狙っては出せない味。エイリアン3にはそれがあるので捨てがたい。なので「2」と同じ8点をつけました。
[DVD(吹替)] 8点(2008-06-23 01:43:28)
266.  エイリアン2/完全版
「コナンPART2」にシュワルツェネッガーを持っていかれ「ターミネーター」の撮影が1年近く中断した際、お母さんから仕送りしてもらわないと食うにも困っていたキャメロンがバイトで執筆を引き受けたのがエイリアンの続編とランボーの続編だったということですが、当時から傑作の誉れ高かった「エイリアン」をここまで自分流にアレンジしてしまう若手は怖いもの知らずというかタダモノではないというか、やはりキャメロンは普通ではありません。リドリー・スコットは続編の依頼があればぜひ引き受けようと思っていたそうですが、この脚本があまりに目を引いたためか監督はそのままキャメロンに決定し、リドリー・スコットには声すらかからなかったとのことです。密室スリラーから戦争アクションという大転換は今から見ても斬新ですが、大味に見えて第一作との連続性が十分に保たれているのは巧いところ。リプリーが収容されてからLV426へ戻るまでの過程が丁寧で、ここが第1作との橋渡しの役割を果たしているので、人間がエイリアンを殺しまくるという前作とまるで逆のことがはじまっても違和感はありません。また、機械や重火器の描写を得意とするキャメロンのおかげで宇宙海兵隊がきちんと強そうに見えるので、殺されまくるエイリアンが必要以上に弱く感じられることも避けられています。SFオンチ、機械オンチの監督ではこうはいかなかったでしょう。クライマックスにおいては【舞台の爆破→ギリギリの脱出→しつこく船に紛れ込んでいたエイリアン→宇宙への放出】と第1作と同じ展開のアップグレード版となっており、あれは意図的なオマージュでしょう。監督3作目(「殺人魚フライングキラー」は撮影3日目でクビになったので実質2作目ですが)にしてキャメロンの演出はとにかく冴えまくっています。見せ場の連続と評価される本作ですが、実際の見せ場は◆海兵隊とエイリアンの初コンタクト、◆立て籠った拠点へのエイリアンの襲撃、◆ニュートの救出、◆クィーンvsローダーの4つだけで、海兵隊がはじめて発砲するのは本編開始から75分地点。意外にも見せ場は少ないのですが、まったく弛まない緊張感と「アクションまだ?」と微塵も感じさせないドラマパートの充実により、2時間35分すべてに渡ってえらいものを見せられた気分にさせるのです。わんこそばのように見せ場を流し込むだけの昨今のアクション映画とはまるで作りが違います。
[DVD(吹替)] 8点(2008-06-22 19:00:34)(良:4票)
267.  サンシャイン 2057 《ネタバレ》 
死にゆく太陽を復活させるというあらすじ、おまけに主要キャストに日本人俳優と聞けば映画の出来がクライシスだった「クライシス2050」を思い出しますが、こちらはハードSFとして相当レベルの高い仕上がりです。破壊的な太陽光と常に隣り合わせで宇宙をポツンと航行しているという、想像するだけで背筋が凍るようなシチュエーションを見事に映像で表現しており、特に前半などは「2001年宇宙の旅」や「エイリアン」などと比較してもまったく遜色ないほどの仕上がり。人間関係がひたすら淡々としていることも、かえって不気味さを煽ります。「地球を救うために絶望的なミッションを引き受けたクルーはどうなっていくのか?」ということを突き詰めて考えた結果がこれなのでしょうが、いちいち心情の説明をしてもらわないと話を理解できないような客層をはっきりと切り捨て、終始ドライに徹することで作品の味を保っていると言えます。また科学考証についても同様で、かなり厳密な科学考証に基づいて書かれた隙のない脚本ですが、説明的な描写が入らないので知的好奇心の高い人でないとついてくることは難しいのではと思います。このように明らかに客を選ぶ映画であり、娯楽という呪縛から解き放たれたおかげでハードSFとしては成功しているのです。そして、クールな前半から一転して後半は演出・脚本・編集のすべてが大暴走をはじめ、観念的な世界に突入します。監督&脚本家の前作「28日後…」同様ここで一気に作品が崩壊をはじめるのですが、本作ではより確信犯的に作り手たちが作品を破綻させています。要は「イベント・ホライゾン」とまったく同じ末路なのですが、「5人いる…」から一気にテンションを上げてこの見せ方というのが実にうまい。娯楽的なわかりやすさを徹底的に排除することで、作品が陳腐になることを回避できているのです。一応はミッションの成功という形で締めくくられますが、イカロス2号であれほどの事があったとは知らず太陽の恵みを受ける地球の人々を描くことで、見終わった後もいろいろ考えさせる映画になっているのも見事。SF好きは要チェックの映画だと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-20 16:01:53)(良:7票)
268.  デジャヴ(2006) 《ネタバレ》 
【予備知識一切なしで見るべき映画なので、未見の方がレビューを読まれる際にはご注意を】ブラッカイマー&トニー・スコット&デンゼル・ワシントンとくれば「いつもの無難なアクション大作だろ」と思いきや、史上空前のとんでもない仕掛けがぶち込まれた異様な映画となっていました。タイムスリップを題材としたSF映画は数あれど、アクション映画のメインアイテムとして大真面目にタイムマシンを登場させる大胆不敵さには驚きました。誰も思いつかなかったこの一発芸は、実に巧みな脚本と卓越した演出センスによって、映画として十分成立するレベルにまで到達しています。多くのヒット作の脚本を手がけてきたテリー・ロッシオは、このすさまじい題材がどうすれば観客に受け入れられるかを見事に計算してきます。いきなり「これはタイムマシンです」と言うのではなく、デンゼル・ワシントンが謎のマシンの正体を暴くという展開を入れることで説得力をぐっと増しているのです。また、トニー・スコットのハイテク描写の巧みさにも舌を巻きます。「好きな場所に入り込んで過去を覗き見ることができるが、膨大な情報処理には4日を要するため常に4日前の映像しか見ることができず、しかも一度に見られるのは一つのアングルだけで巻き戻しはできない」という煩雑な基本設定を観客に受け入れさせるというウルトラCに挑み、言葉と視覚を交えることで見事それに成功しているのです。装置がタイムマシンであることが暴かれる一連の描写も、脚本レベルの驚きのみに留まらず映像的な面白みも十分。右目で現在を、左目で過去を見ながらのカーチェイスという荒唐無稽な見せ場では、知的な面白さと映像的な興奮でテンション上がりっぱなし。ここまで煩雑な設定を映像で饒舌に語れる監督は他にいないでしょう。確かに細かいアラはいくつか目に入ります。タイムパラドックスの処理に矛盾があったり(爆発した救急車や血のタオルのくだりは時系列上明らかに矛盾が…)、犯人の扱いがやたら適当だったり(目的が最後まで不明、人物像も適当、爆弾魔なのになんでマシンガン持ってんだ…)、ヒロインがデンゼルを受け入れる過程の葛藤が単純だったり。こうした細部の甘さにより傑作となる詰めを外しているような気もしますが、このとんでもないアイデアを実行し、成功させたこと自体を評価しようではありませんか。
[映画館(字幕)] 8点(2007-04-03 12:49:42)(良:1票)
269.  カラー・オブ・ハート 《ネタバレ》 
98年という年には「トゥルーマン・ショー」「ダークシティ」そして本作と、偽りの現実を変えてゆくという作品が3つも制作されましたが、その中でも本作のアイデアや切り口は際立っていたと思います。脚本も映像も非常によく作りこまれており、特に似たようなテイストだった「トゥルーマン・ショー」と比較してもこちらの方が断然優秀な作品だと思います(ダークシティは個人的に好みの映画なので別格)。プレザントビルの奇妙な日常が描かれる前半には大いに笑い、その予定調和が崩されていく中盤にはホ~っと感心し、保守と革新の対立が描かれるシリアスな後半からは人生の教訓をいただくという、3つの味わいのできるなかなか貴重な映画です。前半から中盤にかけては本当に文句なし。トンチが効いていて本当に面白い。そこから一気にシリアスモードに突入する後半部分こそが監督の主張したかった部分だと思うのですが、ここにくると前半にあったような見事なトンチが失われ、かなり露骨な展開となっていきます。ジェニファーのもたらした性とデビッドのもたらした暴力によって街は変貌するものの、変化を望まない者による弾圧がはじまるという内容ですが、全体主義・焚書・赤狩りときて、色付いた革新層を"Colored(有色人)"と呼び、保守層が「区別が必要だ」と主張しはじめるという直球勝負ぶり。人類の野蛮な歴史、とりわけアメリカの現代史を徹底的にデフォルメした含蓄のある展開であり、能天気な前半部分との対比でより衝撃度が増している辺りもよく計算されています。ただしラストの裁判シーンはあまりにも主張が強く出すぎているように感じました。被告となるColoredにはロクに弁護士もつけられず、また傍聴席においてもColoredは二階にしか座れないというのはかつての黒人裁判そのもの。そこでデビッドは多様性を認めることの重要性とともに、差別への言及もはじめます。それは色への差別とともに、女性に自立されては困るという発想は身勝手じゃないかとフェミニズムもチラリ。ん~、こんな立派な演説をする必要があったのだろうか?もしこれを口にするのならプレザントビルの住民からの方がよかったのではないだろうか?そこが唯一引っかかった点です。着地点があまりに露骨で単純すぎやしなかったかと。とはいえ、見終わった後にはそういったことも問題に感じないほどよくできたおもしろい映画なんですけどね。
[DVD(吹替)] 8点(2007-03-29 00:33:24)(良:3票)
270.  007/カジノ・ロワイヤル(2006) 《ネタバレ》 
何度目かとなるリニューアル作ですが、過去のシリーズからの連続性を完全に断っているという意味では史上最大のリニューアルといえます。次回作は本作の続きになると言われていますから、カジノロワイヤルをスタートとして新生007を作る、ドクター・ノオやゴールドフィンガーといった往年の作品も現代風にアレンジして再映画化する計画でもあるのだろうかとも推測されます。だからこそ歴史を捨て去り、007の誕生をテーマにしているとのではないかとも思われます。また従来のボンド像にまったくそぐわないダニエル・クレイグを起用したのも、新シリーズ構築に対する計算があってのことではないかとも推測されるのです。そのような事情があってか本作に対するスタジオ側の熱意は並々ならぬものが感じられ、シリーズ中でもトップクラスの仕上がりだと評価できます。純粋に映画としての完成度が高いうえに、シリーズへの目配せも充実しており、ファンも初心者も両方納得させられる映画になっているのです。冒頭、トイレで裏切り者を始末するシーンはシリーズ中異色なほどの荒っぽさですが、007は殺しのライセンスを持った殺し屋なのだという本来のジェームズ・ボンド像を再確認させるのに十分な効果をあげており、また殺しとは鮮やかに決められるものではないというリアル路線を決定的に印象付ける素晴らしい場面だといえます。そこからいつもとは違ったアレンジでの「銃口」→主題歌となるのですが、定番を踏襲しつつも新しいというセンスのよさには唸りっぱなし。序盤ではチンピラのようなジェームズ・ボンドが、カジノロワイヤルに潜入するために服装の着こなしや酒の選び方を覚えていって007になっていくという流れも実に良くできています。それと同時に精神面の変化も大変な説得力をもって描かれており、ジェームズ・ボンドという個人が007というスパイに変わっていく過程がドラマチックに描かれています。そしてラストでは、個人を振り払い007となったジェームズ・ボンドがついに姿を現し、普段であれば第一声であるはずの「ボンド、ジェームズ・ボンド」の定番セリフを、本作ではクライマックスになって初めて口にするという粋な演出。そしてこれまた定番のジェームズ・ボンドのテーマがエンディングになってはじめて流れるのもこれまた粋。次回作への期待も一気に高まりました。
[映画館(字幕)] 8点(2006-12-11 00:59:10)(良:1票)
271.  シンデレラマン
特にひねりのない直球勝負の良い映画でした。くせのない良心作ばかりを職人さんのように作り続けるロン・ハワードという監督を私はあまり好きではないのですが、この映画ではその無個性ぶりがしっくりきていました。不景気でどん底に追い込まれた元スター選手が復活するという超ベタなお話で、守る者ができたから彼は若いボクサーにも負けないんだよなんて聞き飽きたきれいごとで出来た映画ですので、これぞロン・ハワードが撮るべき映画。彼のマジメ一直線な演出とここまで相性の良い題材は他にはありません。とロン・ハワードをバカにしてしまいましたが、確かにこの映画は良いんです。ロン・ハワードの手腕がここまで吉と出る題材はなかなかありません。実話というエクスキューズがあるおかげで「はいはい、ベタですね」とバカにもできないので、けっこう素直に話に入り込めました。ファイトシーンも良く撮れていて、体中に力を入れながら画面に見入ってしまいました。敵のパンチをいっしょによけたりなんかして。脚本の出来が良く、要所要所でいいセリフもあるので、素材の良さを邪魔しないマジメな演出がこの映画には最適なのです。他の監督が撮っていれば、やはりそれぞれのクセが出るせいでどこかがおかしくなったと思います。スコセッシが撮れば夫婦ゲンカの罵りあいが見るに耐えなかったかもしれないし、ストーンが撮ればボクシング業界の内幕がドロドロしすぎたかもしれないし、スピルバーグが撮れば感動の押し付けが度を越したかもしれない。ロン・ハワードという無個性な演出だからこそ、バランスのとれた本当の良心作になりえたと言えます。
[DVD(吹替)] 8点(2006-11-05 22:16:53)(良:1票)
272.  フォー・ブラザーズ/狼たちの誓い 《ネタバレ》 
優しいママに育てられ更生した元悪ガキ4人兄弟がママの死をきっかけに乱暴者に戻って復讐するという、男の男による男のための正しい映画です。葬式で兄弟が久しぶりに集まるシーンからして実に男描写がうまく、今はおとなしくしてるが目の奥にはワルさが活き活きと残ってるあの様子は実に絶妙。兄弟の絆やママへの愛情も冒頭の15分ほどでほぼ描き切れており、この辺は本当にうまいなと感心しました。ママは話の要でありながら登場シーンはほんのわずかしかありませんが、それでも兄弟が復讐に燃える動機となるには十分なほど彼女の人柄は伝わっているのです。この辺の出来がいいのでママのエピソードはもっと見たい気もしましたが、映画全体が湿っぽくなりすぎてテンポを妨げないようドラマを最小限にとどめている製作側の判断は正しかったと思います。荒っぽい下町の描写も類型的ながらもよくできており、出てくるやつがたいてい幼馴染みでいい歳したおじさんが「あいつはケンカ強くてよぉ」なんて言ってる様子は見ていて楽しかったです。世界中どんな国でも下町ってのはあんなもんなんですね。ちゃらちゃらしてる町の不良や若いチンピラを「本当のワルを教えてやる」とでも言わんばかりに4兄弟が痛めつける様子も実に痛快。男の見たいものが凝縮された素敵な映画です。がしかし、欲を言えば話のクライマックスをもっとエモーショナルにして欲しかったです。ママに加えて末の弟まで殺されて復讐に燃える3人が、多勢に無勢を承知の上で敵のアジトにかち込んでいくなんて展開にしてくれれば最強の漢映画となったかもしれないのに、そこそこトンチの利いたあの展開は話の流れにあまりそぐわないような気がしました。あんちゃんとボスの素手ゴロという決着の付け方は良かったのですが、ボスがあんちゃんと互角にやりあうってのも流れに沿ってないと思います。実力もないのに下の者に威張りまくるというキャラ設定だっただけに、今はカタギやってるが本当は死ぬほど強いあんちゃんにボコボコにされまくり、徹底的に情けない姿をさらす最期の方があのタイプには合ってたと思うし、今はツメを隠してる元不良が久しぶりに本物の実力を見せるカタルシスを味わうにもその方がよかったと思います。が、そんな不満も帳消しになるほど面白く、下町や不良の空気が気持ちよく、下町映画(そんなジャンルあるのか?)としては最高クラスの出来だったと思います。
[DVD(吹替)] 8点(2006-11-03 20:54:21)(良:1票)
273.  コラテラル
この映画はファイト・クラブの銃撃版なんだと解釈しました。ケンカ映画の外見をとりながら実は生き方に説教たれるのがファイト・クラブでしたが、本作も同様にハードボイルドという外見をとっていますが主題はそこになく、流されるままに生きている主人公が殺し屋という強烈な存在と対峙し、人生観が一変するというのが本当のテーマだと思います。主人公を演じるのはエドワード・ノートンにジェイミー・フォックスという小市民の匂いを漂わせる演技派。そんな主人公と対峙し、人生を変えるかっこいい曲者を演じているのはブラッド・ピットにトム・クルーズという、圧倒的なカリスマ性に溢れた大スターです。やさしい顔立ちのトム・クルーズは殺気に欠け、殺し屋役には本来向かない俳優だとは思いますが、小市民の人生の前に立ちはだかる悪のカリスマを描くのに彼のスターオーラは不可欠なものであり、監督もそれを求めてあえてキャスティングしたのだと思います。そんなカリスマが人生の哲学を語りまくりますが、コラテラルの説教の方が現実的で身につまされる思いがしました。自分で開業したいと思いながらも決心のつかない主人公に対する強烈な説教。「開業したければいつでもできるはずだ。下らない人生を生きてる自分への言い訳で夢にすがってるだけだろ?このままでは下らないまま人生が終わるぞ」。この映画の真髄はまさにここにあったと思います。主人公だけではない、見ている私たちのほとんどが図星にならざるをえない強烈な説教。善良だが平凡なタクシードライバーが殺し屋に連れ回されるという話もすべては主人公の人生観を変える寓話としての状況設定に過ぎないと思うのですが、この説教を単なるセリフとして特に感じることもなく流してしまうと、映画の本質が見えないまま「ムチャクチャな話だったな」で終わると思います。マイケル・マンが監督したおかげでハードボイルドとしてはあまりに穴だらけすぎる脚本でも及第点の仕上がりになっていますが、その完成度のために人生観を変えられた男という主題がかえって見えづらくなっているので、良かったんだか悪かったんだかって感じです。「何か変なアクションだったな」という印象しかなかった方は、視点を変えてもう一度鑑賞されることをおすすめします。
[DVD(吹替)] 8点(2006-10-31 22:28:00)(良:2票)
274.  ボーン・スプレマシー
スターの出ているアクション大作でありながらキリっと締まった作風が気持ちの良いシリーズですが、私的には第1作を上回る出来と面白さだったと思います。普通のアクション大作にしようとする映画会社とケンカしてでも作品の完成度を保った前作の功労者ダグ・リーマンが製作に回り、ポール・グリーングラスという誰も知らない人物が監督に決まった時には「大丈夫か?」と不安になったのですが、結果としてこの監督はリーマン以上の手腕を見せ付けました。この人はジャーナリスト出身で作家を経て映画監督になったという変わった経歴の人物なのですが、そうした経歴のおかげか説得力ある語り口で複雑な話をまとめていくという腕前はそこいらのベテラン監督を軽く超えています。謎が明かされながらテンポよく進んでいくこの映画のストーリー展開は知的で大変心地よく、この完成度なら仮に目立ったアクションがなくても十分に楽しめるスパイ映画になっただろうと思います。また単なるインテリ監督に終わらず画面作りにもセンスを見せているのもさすがで、作品全体を通してクールにして緊張感溢れる映像と編集がなされています。ここぞという時のアクションもスパイならではのストイックさに溢れていて大変かっこよく、無闇に見せないからこそ盛り上がるという前作の良さを引き継ぎつつもそれを超えることに成功しています。それまでクールに淡々と進んでいた話とアクションが収束し、一気に爆発したかのようなクライマックスのしつこいカーチェイスには大興奮しましたとも。マトリックス・リローデッドやバッドボーイズ2がド派手カーチェイスの究極の進化形であるなら、この映画のカーチェイスはリアル路線の究極の進化形です。現実離れした銃撃や爆破などせず、いろんなものにぶつかって車をぼこぼこにへこませ、「街を猛スピードで走ること」の怖さをストレートに伝えるこの手のカーチェイスは、ブリットやフレンチ・コネクション以来久々に見ました。そんなわけでかなり大満足の作品でしたので、同監督が続投するシリーズ最終作にも期待しています。
[DVD(吹替)] 8点(2006-10-28 21:48:49)(良:2票)
275.  ブラック・ダリア
この話にデ・パルマというのは最高の組み合わせではないでしょうか。性と殺人が密接に絡み合うというテーマはこれまでのデ・パルマが執拗に描いてきたものだし、残酷でドロドロしてるんだけどなぜか上品という風格もデ・パルマでこそ出せる独特の味わい。この話をもっともうまく見せられる監督はデ・パルマであり、またデ・パルマの才能をもっとも発揮できるのはこの話であり、両者にとって理想的な出会いであったと思います。正直、この映画の脚本自体はそれほどクォリティが高くありません。まず話が入り組みすぎてわかりにくすぎ。かなり映画を見慣れており、映画文法やデ・パルマの手法を正確に把握できる者ですら、最初から最後まで集中していなければ理解できないほどわかりづらいというのは映画の脚本としては致命的。一般の観客では到底理解不能な話になっているのはさすがに問題だと思います。また、それほどわかりづらい話でありながら、謎解きの興奮が薄いのも映画の脚本としては失格。見ている人間の頭をさんざん悩ませながら、結局謎のほとんどはセリフで語られてしまいます。もっと動きのある謎解きにしてくれないと、映画でやっている意味が半減します。そんな完璧とは言えない脚本なのですが、かなり良いメンバーが集まったおかげで謎解き以外にも見るべき要素が加わった結果、映画としては救われたと思います。時に過剰に感じられるデ・パルマのテクニックがこの映画の雰囲気には良く馴染んでいて、饒舌なテクニックにより業の深い話を効果的に見せると同時に、テクニックにはある意味機械的な感触があるおかげで、必要以上に陰惨さを感じさせず話の風格を妨げさせないという、相反するふたつの効果を挙げているのは驚きです。また、ジョシュ・ハートネットとスカーレット・ヨハンソンのふたりが期待以上に良く、このふたりが出ているだけで画面が引き締まっていました。ヒラリー・スワンクに絶世の美人の資産家令嬢をやらせたのはミスキャストでしたが、確かに彼女の演技力にも見るものはあり、そこに期待してのキャスティングだったのだろうなと思います。そんなわけで決して完成された映画ではなく、見る者がどの要素に重きを置くかで評価の大きく変わる映画ではありますが、私としては大いに評価したいと思います。
[映画館(字幕)] 8点(2006-10-28 15:22:31)(良:3票)
276.  スネーク・フライト
なんと天晴れなバカぶり!飛行機で毒蛇が暴れる、小学生のような一発アイデアを恐ろしく素直に映像化したこの映画の自覚したB級ぶりは見ていて惚れ惚れとします。この映画に感動はいらない、難しい話もいらないとばかりに、ただひたすらパニックの連続を見せ付けるこの潔さ。「ヤクザはどうやって目撃者を見つけたんだ?」「あの短時間でどうやって大量の蛇を機内に持ち込んだんだ?」「飛行機墜落させるなら蛇仕込まずに爆弾仕掛けろ」等、深く考えれば納得しがたいこのお話も、説明的な描写やドラマ部分を極力排除し、怒涛の勢いで危機に襲われるハイパワー演出の前ではまったく気になりません。「飛行機に蛇がいっぱい(原題)」という素晴らしいタイトルが気に入っただけで出演を決めたサミュエル・L・ジャクソン以外の出演者は全員無名、10年も前にERを引退したジュリアナ・マルグリーズがヒロインという、下手すればそこいらのB級映画以下の出演陣の醸し出す絶妙な安さがこの映画の無理矢理ぶりをさらにサポート。「ああ、そういう映画なのね」という空気が全体を覆っているので、見ている間は自然と深いことを考えさせられず、偏差値ゼロの心地よい空気が楽しくて仕方ありません。無茶苦茶な設定だからこそ話の先が読めず、そんな荒唐無稽な話に疑問を抱かせないよう良い意味で安い演出をほどこし、無名の出演者ばかりだからこそ次に誰が死ぬかわからない。脚本・演出・演技の各要素がうまく補完し合い、なかなかバランス良く作られているのです。この監督は前作「セルラー」でも感心させられたのですが、ワンアイデアの面白い話を見せることにかけては天才的。蛇が襲い掛かってくる時のスリルや緊張感はそこいらの大作を凌ぐレベルだし、その間には笑える場面も入れてまったく飽きさせず、最後までダレることなく一気に見せる采配は見事なものです。そして最後の危機を乗り越え迎えた大団円では、助け合いながら戦った男女が「今度食事にでも」なんてナンパし合うという、「パッセンジャー57」や「エグゼクティブ・デシジョン」などという10年前のB級アクションの定番の締めで話は終わります。わかってらっしゃる!マジメに映画を見ている人たちは怒るかもしれませんが、ヴァン・ダムやセガールをたしなむ人たちにとってはゴッドファーザー級の傑作であることを申し上げておきます。
[映画館(字幕)] 8点(2006-10-28 14:19:08)(良:7票)
277.  誘拐犯(2000)
この映画はアクションでもサスペンスでもなく、こってこてのバイオレンスなんですよ。アクション映画のボリュームとも、サスペンス映画の「ほ~」とも違う、苦みばしったバイオレンスの風味を感じる映画だと思います。無駄にややこしい話が感情に歯止めをかけてアクションを盛り上げない上に、その話すら尻切れとんぼで完結せずサスペンスとしても成立していない。この映画をアクション、もしくはサスペンスとして見れば、アラだらけで中途半端な作品と感じられます。が、この映画の脚本には見逃せないほど素晴らしい部分がいくつかあるため、そういった手落ちと感じられる部分すら、もしかしたら監督の計算づくではないかと思います。必要以上に登場人物に感情移入させてはそこいらのアクション映画と同じになってしまう。だからこそ話をややこしくしてあえて盛り上げることを抑制し、このクールな苦味を味わって欲しかったのではないかと。この映画の素晴らしい部分とは、まず第一に銃撃戦へのこだわり。誘拐シーンのじりじりとしたあの緊張感は、撃ちまくるだけのアクション映画とは完全に一線を画します。走って逃げるとか、勢いで振り切るといういい加減なことはせず、ゆっくりと進み、時に立ち止まって常に追っ手を牽制しながら、徐々に間を空けていくという前代未聞の逃走劇です。他の映画ではまったく見られない奇妙な構図なのですが、「実際に銃撃をやればこんな感じになるのかな」と妙に納得させられます。クライマックスの大銃撃戦もただひたすらかっこいいだけではなく、マガジンをきちんと交換していたり、銃を撃つときの反動が見る側にも伝わってきたり、弾が当たった時は痛そうだったりと、とにかく描写が細かくてよく考えられてるんですね。そこいらのアクションとは別物を作ろうとしていたことが伺えます。そしてもうひとつの素晴らしいところはおじさんたちのかっこよさ。ジェームズ・カーンの「老いぼれを見たら修羅場を生き延びたと思え」の名セリフが示すように、おじさん達がやたらかっこいいんですね。ハゲ散らかして腹の出たおじさん達がとにかくプロフェッショナルで、そこいらの映画のヒーローとはまったく違うかっこよさが新鮮でした。この2点により、この作品は誰でもわかる派手な映画ではなく、玄人がじっと見てこの風情を味わう映画を目指したのではと私は思います。もっと評価されてもいい作品ではないでしょうかね。
[DVD(吹替)] 8点(2006-06-08 00:11:55)(良:3票)
278.  ヤングガン2
大予算が組まれた期待作でもなく、最高のスタッフの渾身の作品というわけでもなく、含蓄のある深いテーマがあるわけでもなく、恐らくは「偶然」おもしろくなったと思われるヤングガン。ハリウッドではこういう奇跡ってたまに起こるようで(ダイハード、スピード…)、そしてその続編はたいていが大したものじゃないというのもよくあることで、そのためこのヤングガン2もほとんど期待せずに見たのですが、驚くべきことに第一作のレベルを完全に超えてしまっていました。しかもリーサル・ウェポンやダイハードのような物量作戦に出るわけでもなく、エイリアンやミッション・インポッシブルのようにまったく別物にして前作との比較を避けるわけでもなく、雰囲気自体は第一作のままに、映画としてのクォリティそのものが上がっているのです。稀に見る続編の成功例ではないでしょうか。キャラクター達はより魅力的になり、前作では時にサイコ気味で仲間を窮地に追い込む張本人だったビリーが、今作では主役としてのカリスマ性をきちんと放っています。対するパット・ギャレットも冷徹さの中にどこか人間性を残しており、ドラマを盛り上げる理想的な悪役となっています。そのギャレットに同行するのはなんと無名時代のヴィゴ・モーテンセン。大した役ではないものの、やはり彼もかっこいいのです。センス良く撮られた映画なので、端役までちゃんと活きてるんですね。アクションの見せ方も絶妙で、テンポやタイミングがうまく計算されています。ただ撃ち合うだけではなく、しばしばトンチで切り抜けてるあたりもいいですね。恐らくは映画史の中に埋もれていくであろうこのヤングガンシリーズですが、正統派西部劇にも負けない独特の味を持つこのシリーズが私達の世代のみの鑑賞で終わってしまうには惜しい気もします。
[DVD(字幕)] 8点(2006-03-05 15:37:36)
279.  クライモリ(2003)
「悪魔のいけにえ」ミーツ「プレデター」の本作、なかなかの力作ではないでしょうか。同じような話(てか、まったく同じ話)の「テキサスチェーンソー」よりもこっちのが怖かったです。躊躇のない残酷描写、80分というタイトな上映時間、変な欲を出さずお客さんを絞り込んで作ってるのが好印象でした。この手のホラー映画にありがちな「徐々に殺されていく」という進行ではなく、余分な人物はテキパキと殺していくというスタイルが話にスピード感を与えており、またマウンテンマンの残虐性を引きたてていてよかったです。「ヒーローとヒロインが残ればいいのさ」という割り切ったその姿勢、また「窮鼠猫を噛む」な後半の展開、まさにプレデター方式ですね。しかし残念だったのはマウンテンマンの造詣。身体に対して頭が異様に小さく、いかにも「スタントマンにかぶせてます」みたいな造詣はあんまりでした。こういう鬼畜映画の場合でもやりすぎってのはあるようで、あそこまで人間離れさせる必要はなかったように思います。ジェイソン、ブギーマン、レザーフェイスなどの、あの素顔が分からないという被りものの怖さでやってくれれば、恐怖も倍増だったでしょう。顔が見えてしまうと、どうしても恐怖の底も見えてしまいますからね。しかしまぁ、「脱出」「悪魔のいけにえ」「ブレーキダウン」「Uターン」「激突」など、アメリカのド田舎ではとんでもない危険に遭わされるというのは常識なのでしょうか?
[DVD(吹替)] 8点(2005-05-29 20:22:30)(良:1票)
280.  バットマン リターンズ
これは究極のクリスマス映画ですよ。正義のバットマンVS悪人のペンギンだと思って見るとつまらない映画なんですけど、バットマンという仮面を被ってしか暴力衝動を解放できないブルース・ウェインと、容姿のコンプレックスから社会に姿を現せなかったコブルポットの、街での人気をかけた戦いだと思ってみれば、これほど切ない話はありません。両者に共通するのは社会への不適応性です。ブルース・ウェインは己の本質をバットマンという匿名のヒーローに託し、普段は大富豪という仮面を心に被ることで、なんとか社会に適応しています。一方コブルポッドは、両親に捨てられるほどの醜い姿を人目にさらすことを嫌い、サーカスギャング団を率いて街へのシャレにならないイタズラばかりを行ってきました。両者とも普通の人達に憧れ、その仲間に入りたいと思いつつも、結果的には自分を暴力という形でしか解放できないのです。しかしコブルポットは決心し、自作自演で赤ちゃんの救出劇を行って街に姿を現します。思惑通り英雄として迎えられ、またその生い立ちに街の同情が集まり、一躍人気者となるコブルポット。市長選への出馬まで決定し、念願かなってついに普通の人達に受け入れられたのです。しかし街で唯一ブルース・ウェインだけは根拠もなく彼を疑い(嫉妬しているようにも見える)、ここにバットマンとペンギンの醜い戦いが始まります。お互いに相手の信用を貶める妨害工作を行い、クリスマスを前にして普通の人達からの信頼を失う両者。人並みの幸せなクリスマスに憧れたペンギンの夢ははかなく消え去り、またキャットウーマンという同類に出会うことで心の安堵を得るかに見えたバットマンも、クリスマスを前にして恋人と再び敵対しあうこととなります。2人にとってはバットマンとキャットウーマンこそがアイデンティティの基本なので、恋人のためでもそれは裏切れないんです。そして、孤独なのに寄り添いあうことのできない3者が死闘を繰り広げるクライマックスは、もう切なさの嵐ですね。さみしいクリスマスを迎える人は、ぜひこの映画を見るべきです。
8点(2004-12-25 16:00:39)(笑:1票) (良:4票)
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