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トト・ザ・ヒーロー - BOWWOWさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 トト・ザ・ヒーロー
レビュワー BOWWOWさん
点数 9点
投稿日時 2009-07-23 22:01:11
変更日時 2013-04-28 01:48:56
レビュー内容
主人公トマは、向かいに住む金持ちの息子で同じ日に生まれたアルフレッドと自分は産院の火事で取り違えられてしまったのだ、と固く信じている。あらかじめ奪われた人生。そんな子どもの頃に思い描く貴種流離譚はつまり自分の置かれた環境や劣等感から逃避する手段としての夢物語であるが、そうした空想にふけるのは決して不遇な子どもに限ったことではないだろう。事実、トマの子ども時代は、愛する家族に囲まれて、彼の人生で唯一輝いていた時代でもあるのだ。にもかかわらずトマとしての自分の人生を否定し、アルフレッドへの羨望やトト・ザ・ヒーローへの憧憬をいつまでも捨て去れなかったことに、トマの不幸はある。この映画がすごいのは、子ども時代の空想やトマの姉アリスの美しい思い出に囚われつづけるそんな人生を、トマと相対するはずのアルフレッドにも等しく課してしまう点だ。終盤、老人となったアルフレッドが同じく老人となったトマに語る一言は、トマがアルフレッドだったようにアルフレッドもまたトマであったことを意味している。自ら創り出した空想が真実をも呑み込んでしまった時、きちんと与えられていたはずの本物の人生を、まがいものの人生として共に生きざるをえなかった2人。それを踏まえて行動するトマの最期は、ややもすれば被害妄想を貫きとおしたようにも見える。しかしそれは違う。自分の人生を一から否定しつづけてきたその思い込みの間違いに、彼は気づいている。彼がすべきは、真実を否定することでも人生を嘆くことでもなく、自分の手で台無しにしてしまった人生そのものをそれでもありのままに受け入れ肯定すること。アルフレッドとなって死んだトマだが、そうすることで彼はアルフレッドの人生ではなく、アルフレッドになりたかったトマとしての人生を見事に生ききったのだ。間違いだらけであっても灰色であってもそれでもすばらしい、彼の本物の人生を。灰となって空を飛ぶトマの笑い声はだからこそ底抜けに陽気で、そして人生賛歌のように薔薇色の世界に燦々と降りそそぐ。ぼくの人生はこんなにもすばらしいぞ、と。こんな思いがけないラストを用意してくれたジャコ・ヴァン・ドルマル監督に心から拍手を送りたい。
BOWWOW さんの 最近のクチコミ・感想
投稿日付邦題コメント平均点
2019-02-25バーニング 劇場版107.00点
2018-08-12リバーズ・エッジ85.33点
2013-05-25青春神話108.33点
2013-05-02エドワード・ヤンの恋愛時代1010.00点
2013-04-28恋恋風塵97.00点
2013-03-09楽日106.00点
2012-01-24海角七号/君想う、国境の南75.23点
2011-04-02エターナル・サンシャイン96.60点
2011-01-18ソーシャル・ネットワーク76.53点
2011-01-02ファイト・クラブ97.38点
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