1.《ネタバレ》 前に見た「ねこにみかん」(2013)の戸田彬弘監督の映画である。最初にタイトルを出したあとに出演者全員の名前を並べて(主演女優の字で)最後に「計25名」と書いていたのは役者を重んじる姿勢のようで、メイキングでも若い役者に焦点を当てていたのはいい印象だった。撮影は茨城県内が中心で、ロケーション協力には取手市・守谷市・つくばみらい市・利根町といった名前が出ているが、夜の町の風景は旧・水海道市(現・常総市)の中心街だったようである。
物語としては、要は中年男と女子高校生が出会って両方に変化が生じる話である。「ねこにみかん」ほど突拍子もない設定ではなく、性愛関係にもならないので安心して見ていられる。ミステリーというほど謎解きの要素もなく、登場人物と観客が同時並行で事情を理解していく感じになっている。
全体のテーマは演劇部での台詞が端的に言い表していた感じで、これが中年男と女子高校生の両方に共通するのだろうと思うが、人格形成途上の若年者はともかく普通の大人が直接共感できそうな話でもなく、一般人というよりは演技者向けかと思った。演技経験のない自分としては、職業的な俳優など外でも内でも常に演技している状態になって本物の自分がなくなるのではという疑問があったので、まずは自分をしっかり持たないと駄目だというのは初めて聞いた気がする。
2人の交流はほのぼのして笑えるところも多かったが、個人的に気に入らなかったのが同級生の男で、終盤で女子高校生が激白する場面では、何もこんなバカに向かって本音を吐露しなくていいだろうがと呆れた。しかしここは犬猫相手に愚痴をたれるのと同じと思えば言いやすかったのだろうし、また相手が単純バカだったからこそ都合のいい答えが簡単に得られたということかも知れない。
出演者に関して、W主演のうち駒井蓮という人は映画初主演とのことで、公開2年前の撮影とすれば当時高校1年生と思われる(現在は大学生とのこと)。超絶美形でもないがすらりとした長身で、人懐こいようなふてぶてしいような愛嬌のある顔を見せているが、演劇部の場面では本物の演劇部員のような演技もこなしていて感心した。物語自体にそれほど感動しなくても最後にいい印象が残ったのはほとんどこの人のおかげである。
また演劇部の場面では、熱意はあるが傲岸な演出家の役を金澤美穂さんがやっていたのが非常に面白かった。ここは臨場感があって好きだ。