2.映画としての完成度と興行成績とを両立させるこのスタイル。
確かに、この監督は天才かもしれない。
だけど、やっぱりこの作品は大衆的な臭いが強すぎる。
犯人を追い詰めたかと思えば勘違い、そして次なる有力な手がかりが見つかるが、それもダメ・・・こうして、観客をひっぱっていくあざとい演出。
いかにも観客を飽きさせまいと、話を都合よく引き伸ばしていく、いかにもな展開には白けてしまった。
まるで、「次回をお楽しみに!」的なテレビドラマのようだ。
ただし、ラストシーンで排水溝を覗き込み、これがまさに“殺人の追憶”と提示する終わらせ方は素晴らしい。
こうした演出手腕を持っているのに、それだけで映画を創ろうとはせず、敢えて計算ずくで大衆受けする演出をしている。
映画監督として素晴らしい作品を創る能力は持っているのに、あまりに器用過ぎて、観客を動員することまで計算して作品を創っている嫌いがある。
とりあえず有名監督になり、観客を沢山動員できる監督して重宝されるかもしれないが、長い目でみたら、せっかくの才能を自ら捨てているかのようだ。
いわゆる「器用貧乏」で終わってしまう危惧すら感じる。
ところで、主演のソン・ガンホだが、実に味のある俳優だ。
当時36歳とは思えない貫禄。
誰もが親しみを持つであろう、ちょっと愛嬌のあるルックスと確かな演技力をさすがと言えよう。
総括としては、普通に楽しめるが、かといって大衆娯楽映画のようにバカらしい作品でもなく、どっちつかずの中途半端な作品と言わざるを得ない。
今後のこの監督の方向性が非常に気になった。