1.《ネタバレ》 伊藤雄之助の竹光浪人がいい。自分の腕だけに自信を持ち、大きく吹っかけて売り込もうとしている。真刀を持たねばならなくなったとき、三両の刀を買う。「お侍さんならこの十両のが」と刀剣屋の亭主に言われても、七両ぶんは腕で補う、と言う。狂四郎と対決し刀を合わせるとポロッと折れ、三両は三両か、憮然と呟く。最後は竹光で狂四郎と向かい合う破れかぶれのどうしようもなさが、雄之助の真骨頂で、浪人の身分のやりきれなさが迫って本作唯一の見どころ。あと脇役は田村高広や水谷良重、お家乗っ取りの悪役が小沢栄太郎に安部徹と盛りだくさんなのだが、かえって焦点が散ってしまって、さらに刺客登場の前にいちいち女人が現われて狂四郎にしなだれかかってくるのが、最後は馬鹿馬鹿しくなり、大きな失点。あの馬鹿馬鹿しさを「これでいいのだ」と認められる心の広さがあったら、本シリーズの良い観客になれそうなのだが(60年代末のエロっぽいサイケな空気は味わえた)。狂四郎のキャラクターと時代劇の大枠とがしっくり合わないのがこのシリーズのつらいところで、親思いのお姫様という大枠の設定(お家の存続)を否定し切れてない。狂四郎のキャラクターは、木枯し紋次郎につながっていったのだろうか。