1.勝新太郎演じる八尾の朝吉と、モートルの貞(田宮二郎)との異色コンビが抜群におもしろい痛快活劇。今東光原作の同名小説を映画化したもので、今ひとつ人気の出なかった勝新太郎の持ち味が監督田中徳三の演出により開花される。共演の中村玉緒とは本作をきっかけに婚約したりで、勝新にとってはもちろんのこと、田宮二郎にとっても出世作となるなど記念すべき作品だった。昭和初期の河内の雰囲気満点で、荒くれだが人情味のある河内ことばが飛び交うのもうれしい。伊福部昭の厚みのある音楽と、宮川一夫のカメラワークも味わい深かった。ところで、この作品では朝吉という男がどういう気質で、どんな考え方の持ち主なのかがほぼ完璧に近いほど描き切れている。本質的に荒い気性だが機転が利き冷静でもある。もちろん曲った事が嫌い(ヤクザも嫌い)な一本気な性格。その一方で、多分に照れ屋なところがあり、酒は一滴も飲めないという意外な側面も見せてくれる。《ネタバレ》とくに、朝吉という男の魅力のすべてが集約されているラストが圧巻だった。愚直にも、因島の女親分のところに自ら覚悟して出向いてゆく。朝吉は女親分の仕打ちに耐え抜きながらも、決して自分の信条を曲げない。そんな朝吉に対して女親分は、屈辱と腹立たしさから一転して完敗、そして複雑な女の嫉妬感が込み上げてくる。そう、朝吉に惚れてしまったのである。そして朝吉はおそらく生まれて初めて、男としての大勝利を満喫する。監督田中徳三は、歯を食いしばり耐え抜くことが、いかに尊くカッコ良いことであるかを描き切っている。この鮮烈なラストシーンがあるからこそ、多くの観客の心を掴み(当然私も含めて)、シリーズ化されるという大ヒットを生んだのではないだろうか。