2.「音楽」に造詣が深いわけではなく、指揮者の違いによるオーケストラの善し悪しなんて、正直分からない。
だけれど、「音楽」という表現には、“幸福”と“狂気”がそれぞれ平等に混在し、携わる人間の人生を導き、支配するということを、この映画は意外な程に深く物語る。
落ちぶれた元・天才指揮者が、かつての楽団のメンバーを寄せ集めて、紆余曲折のコメディ展開を繰り広げながら、爽快感溢れるラストに結する映画だろう……と、思っていた。
映画の“表面的”なニュアンスは、概ねそれに相違ないのだけれど、ストーリーの核心と描き出すテーマの本質は、想像以上に深いところまで踏み込んでいく。
旧ソ連の政治的背景の中で抑圧された主人公たちのバックボーン、現在の生活の中の鬱積と矛盾。そして、「音楽」そのものの本質的な光と闇。
ベタなサクセスストーリーと見せて、映し出された物語と人々の言動には、決して一筋縄ではいかない“思い”の混沌が見え隠れする。
ただ、そういった様々な側面の複雑な問題も、すべてひっくるめて吸収してしまうエネルギーが、「音楽」にはあって、それを表現することの素晴らしさを改めて訴えてくる。
そもそもの設定や展開には大いに強引でチープな部分も多いけど、そんなことどうもよく思わせてくれる「魅力」が色々なところに詰まった映画だと思った。