1.朝鮮半島における南北問題を風刺したコメディ映画のつもりで今作を観た。
コメディ映画であることは間違いはない。けれど、重く暗い現実問題を根底に敷いたこの映画の本質は、あまりに悲しく、そしてあまりにも切ない。
「平和」は、家族という人間関係のかけがえのない価値を、しばしば忘れさせる。
すぐそこに存在していることが当たり前になりすぎて、手前勝手な不満ばかりを相手にぶつけがちだ。
そこにいて、感情を伝えられることの幸福を見失っている。
笑い合えることの幸せ、そして罵り合えることの幸せ。
それすらも奪われた非情が、4人の北朝鮮工作員が織りなす“偽りの家族ドラマ”を通じて描き出される。
当初工作員一家は、醜い言い争いばかりを繰り返す隣の韓国人家族を、蔑み嫌悪していた。
しかし、国家によって強制的に家族と引き離され、終わりの見えない工作員活動を強いられていることに対する苦悩が深まるとともに、「家族」というものの正しい在り方を思い知らされていく。
言い争い、罵り合い、それでも相手を許し共に暮らしていく。そんな当たり前のことすら許されていない自らの人生と、妄信する国家の在り方に、疑問が深まり、惑う。
隣の国では、ごくありふれた小市民の家族ですら、相手を許すことを知っている。
でも、自分たちの国は、いつまでたっても憎しみばかりを振りかざしている。
私たちはどうしてこんな血にまみれた道を歩んできてしまったのか。
なぜ、どうして……。
悲しく、辛すぎる苦悩の果てに、偽装家族の面々は決断をする。
“命をかけた家族ごっこ”
その真の意味を目の当たりにした時、心が締め付けられた。
あまりにも悲しい。
けれど、それでも残された一つの希望に、この映画を生み出した民族の未来に向けての思いが表れているように思えた。