1.《ネタバレ》 『ホステル』みたいなホラー映画なのだろうと思って何気なく手にとったのですが、見始めると展開の速さと、二転三転どころか五転も六転もするストーリーに驚かされました。練り上げられた脚本、見せ場の作り込み、鬼気迫る演技、どれも超一流です。あまりの凄まじさに呆気にとられていたのですが、エンドクレジットを見て納得がいきました。「脚本・監督:ケヴィン・スミス」、なるほど、そこいらのB級ホラーとは別格の映画だったわけですね。。。
タイトルの『レッド・ステイト』とは共和党支持の州を指し、これらの州にはキリスト教原理主義者や銃規制反対派がウヨウヨしています。水野晴郎さん風に言えば、病んだアメリカを象徴する場所なのです。そして、イカれた宗教団体が銃で武装するという内容は、1993年にテキサスで発生したブランチ・ダビディアン事件をモチーフにしていると思われます。ブランチ・ダビディアンとは終末思想と選民思想を思想体系とする宗教団体であり、来るべきアルマゲドンに備えて大量の銃器を保有していたことから、司法当局やマスメディアに注目されることとなりました。ついにATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)による強制捜査が入った際には、信者たちは「いよいよアルマゲドンがはじまった」と興奮して銃撃戦となり、双方に死傷者が発生。その後、ATFから現場を引き継いだFBIによる大規模な突撃によって25名の子供を含む81名の死者を出すという悲劇的な結末を迎えるに至りました。教団側の生存者はわずか9名。教団から降伏文書が出されていたにも関わらず、その事実は司法長官に知らされていなかったこと、「強行突入は逆効果である」というプロファイリング結果が無視されていたことが後に問題視され、時のFBI長官は引責辞任を余儀なくされました。。。
以上が本作の背景ですが、ケヴィン・スミスはこの事件を非常に素直に映画化しています。変に捻りを加えたりせず、事件の概要をそのまま映画に反映させているのです。ただしストーリーテリングの技術は非常に見事で、通常の映画であれば生き延びるであろう人間をいとも簡単に殺してみせたり、中盤において善悪を逆転させたりと、観客の裏切り方を心得ています。その凄惨な内容が祟って配給会社が見つからなかったため、監督自身が配給権を買い取り、自主上映という形で全米公開したとの経緯も男らしく、これは必見の怪作です。