3.《ネタバレ》 出だしの雰囲気は大変よい。大都会ニューヨークの警察署を舞台に、多種多様な犯罪者とそれを取り締まる刑事たちの折衝、談判、駆け引きを実録風に描く。社会派的内容、手堅い演技、的確なカメラワーク、リズミカルな展開で佳作を印象づける出だしだ。
主人公マクラウド刑事は、非情なほど正義感が強く、犯罪に対して一切の妥協を許さない。それは悪党であった父親に対する近親憎悪に由来する。犯罪者を見ると父を思い出し、父を思い出すと憎悪が湧くという構図だ。その性癖が犯罪者に向けられているうちは問題がないが、妻に向けられたとき、心の仮面に裂け目が生じ、暗黒面が顔を覗かせる。純粋と信じ切っていた妻に過去の男がおり、子供を堕胎させていたという衝撃。しかも堕ろしたのはマクラウドがいま最も熱情を注いで追及しているシュナイダー医師だった。マクラウドは妻を心の奥底では愛しながらも責め立てずにはいられない。容赦ない言葉での面罵と問責。妻は懸命に哀願し、許しを請うが、遂に「あなたは自分が正義と思っているが、一片の思いやりもない。残酷で嫉妬深いだけ。父親と同じよ」と決定的な言葉を残し去ってゆく。暗い家庭で育った人間は、明るい家庭を築くのを夢みる。その夢が潰えたとき、自殺願望が頭をよぎる。拳銃を持った強盗犯に素手で向かったマクラウドの行動には明らかに自殺願望がみえる。血まみれで倒れ、死の間際に神の許しを乞う姿が痛々しい。
ちょっと待て。タフな刑事による硬質な犯罪捜査劇を期待していたのに、クライマックスが男女の愁嘆場とはこれいかに。前半が終わって、鑑賞者の最大の関心事はシュナイダー医師の連続殺人事件のはず。これが放りっぱなしである。事件の詳細も不明のまま終了でえは、鑑賞後感はよくない。期待外れである。途中から、万引き女の行動が鼻に付くようになり、見る気が失せるのを覚えた。初犯で引っ張って来られたのなら、打ちひしがれているはずなのに、周囲を子細に観察し、刑事の気を引こうとしたり、窃盗男に付き添う女に慰めの言葉をかけたり、場違いな別れの挨拶をしたりと、ありえない行動ばかり。シリアル劇に夾雑物が迷い込んだようで、違和感を覚えた。強盗犯の最後の行動も唐突で、現実味に欠けるきらいがある。どこか白々しい幕引きにみえた。