1.《ネタバレ》 何といっても実際の裁判の映像であるというのがすごい。■防弾ガラスに囲まれた被告人席の中で、全く気持ちが崩れ落ちる様子のないアイヒマンは、まるで被告人のようではなく、あたかも証人として答弁している行政官のよう。■ワタシ、この硬派な映画をきちんと咀嚼できているとは思わないのだが、それでも、ワタシの見立てのアイヒマンとしては。彼は、あらかじめ、のちの世の人たちの評価を念頭に置きながら、ナチス親衛隊として振る舞っていたのではなかったか。いつか、本作に見られるような、結論ありきで弁護人すら味方ではない法廷で裁かれることを念頭に置きながら、どうすれば妙な証拠を残さずにすむのか考えていなかったか。■いわく、「全体の一部しか権限がない」、「命令に従い」、「法に従い」とか。ユダヤ人移送局長官を務めていたときから、このような理由付けで、自分の振る舞いを整理していたことではなかったか。そして実は、たくさんいるそんな人たちの中でも、とりわけ有能だったのがアイヒマンだったのではないか。■モノクロの映像。時々詩的に見えるような演出。白昼夢のような映画。でも、いつの世でも起こりえる、システムへの忖度と過剰適応による悪夢。