2.その聡明さはインタビューでの応答の姿に明らかでありながら、カメラの前で気取りも衒いもなく「家族」を生きてみせる母:赤崎久美さん、そして娘:千鶴さんが素晴らしい。
二人が仲睦まじくソファに並んで寝そべるショットや、散歩の途中の木陰で二人が寛ぐショットには淡い切なさ以上に穏やかな幸福感が充溢している。
カメラを前に二人が取っ組み合うシーンにおいても、打擲や噛み付きのコミュニケーションに強く滲むのは二人の「絆」のほうだ。
新しい家族・バナナと初対面し、恐る恐るその存在と触れ合い、受けとめていく千鶴さんの感動的な身振り。
散歩中、見知らぬ通行人に向かって突然駆け出す彼女を、手持ちのDVカメラが慌てて追いかけ画面は大きく揺れる。すると、彼女はカメラの方を向いてからかうように笑いかける。
その天真爛漫な笑顔は観客を魅了し揺さぶらずにはおかないだろう。
『ちづる』は作り手の意図やテーマや主張を越え、概念や一般的属性をも越え、その人間固有の具体的魅力を以って迫ってくるのが何よりの映画的美点だ。
監督自身を含めた家族4者を、時に引いた固定ローポジションで、時に被写体に寄り添うハンディでと、絶妙の距離とフレーミングで捉えていくカメラの柔軟な感性の賜物でもある。