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すばらしき世界

[スバラシキセカイ]
2021年【日】 上映時間:126分
平均点:7.48 / 10(Review 25人) (点数分布表示)
公開開始日(2021-02-11)
ドラマ実話もの小説の映画化
新規登録(2021-01-15)【にゃお♪】さん
タイトル情報更新(2021-01-17)【イニシャルK】さん
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監督西川美和
キャスト役所広司(男優)三上正夫
仲野太賀(男優)津乃田龍太郎(TVディレクター)
六角精児(男優)松本良介(スーパーの店長)
北村有起哉(男優)井口久俊(ケースワーカー)
白竜(男優)下稲葉組・組長
キムラ緑子(女優)下稲葉マス子
長澤まさみ(女優)吉澤遥(TVプロデューサー)
安田成美(女優)西尾久美子(元妻)
梶芽衣子(女優)庄司敦子
橋爪功(男優)庄司勉(弁護士・身元引受人)
原作佐木隆三(原案)「身分帳」(講談社文庫)
脚本西川美和
撮影笠松則通
製作川城和実
バンダイナムコアーツ(「すばらしき世界」製作委員会)
ワーナー・ブラザース(「すばらしき世界」製作委員会)
ギャガ(「すばらしき世界」製作委員会)
講談社(「すばらしき世界」製作委員会)
配給ワーナー・ブラザース
美術三ツ松けいこ
衣装小川久美子(衣裳デザイン)
編集宮島竜治
録音白取貢(音響)
北田雅也(音響効果)
ネタバレは禁止していませんので
未見の方は注意願います!
(ネタバレを非表示にする)

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12
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25.《ネタバレ》 その日、殺人の罪を犯し、13年ものあいだ刑務所へと服役していた男が出所する。彼の名は、三上正夫。10代の頃から何度も罪を犯し、そのたびに刑務所へと投獄され、積み重なった前科は十犯。これまでの人生の28年間を鉄格子の内側で過ごしてきた彼の人生とはいったい何であったのか――。人生の終盤を迎えつつあるそんな三上の再出発の日々を、彼を題材にドキュメンタリーを制作しようというテレビ局のスタッフの視点を交えて描いたヒューマン・ドラマ。監督は、うまくいかない人生にもがく人々の苦悩を終始一貫して見つめ続ける西川美和。いかにも彼女らしい丁寧な演出は相変わらず健在で、特別なことは何も起こらないこの三上という元犯罪者の日常を淡々と描いているのに、最後まで観客を惹き付けてやまないのは見事としか言いようがない。短絡的で何かというと暴力に走るこの粗暴な男が主人公なのだが、そこまで嫌悪感を抱かせないのはやはりこの監督の慈愛にも似た優しいまなざしによる部分が大きいのだろう。不器用で身勝手で社会性が皆無に等しい元犯罪者の人生を否定も肯定もせず、ただ淡々と見つめている。やがて明らかとなる、過去にこの男が心から愛していた女性の存在、今度こそ真人間になろうと誓った経緯、そして彼を子供のころに捨てて失踪した母親……。一般的な人々からすればやくざ者で人生の落伍者である彼にも、当然、人間としての苦悩や後悔、弱い部分や魅力的な部分、そして深い愛もあるという当たり前の事実を改めて気づかさせてくれる。そんな彼をそれぞれの立場から優しく見守る周りの人々の存在も素晴らしい。弁護士やその妻をはじめ、途中で出てくる何気ないキャラクターまでちゃんと血の通った人間として描くことに成功している。特に、六角精児演じるスーパーの店長が印象的だった。ただ、意図してそうしているのだろうが、三上を取り巻く人々がどこまでも良い人ばかりというのは、自分としては少々違和感があった。三上の古い友人であるやくざの組長の妻までが主人公に献身的なまでの優しさを見せるというのはちょっとやり過ぎと言えなくもない。とは言え、それも好みの問題なのだろう。社会という枠からはみ出し、今にも溺れそうになっている人々の悲哀を掬い取ろうという今作のテーマは充分に胸を打つ。血の気の多い元やくざ者をナチュラルに演じた役所広司をはじめ、キャスト陣も皆いい仕事をしている。どんな人間でも、心の持ちようによって、この世界はいくらでも素晴らしいものになる――。そう思わせてくれる、ヒューマン・ドラマの秀作と言っていい。
かたゆきさん [DVD(邦画)] 7点(2022-08-19 08:04:43)
24.何とも皮肉なタイトルではある。
三上は直情型の性格で社会と適合できない元ヤクザ。
三上を支えてくれる支援者に対しても時に反発する。
そんな三上にも終盤希望の光がみえてくる・・・只その矢先に悲しい結末が。
何とも切ないラスト、やりきれなさが残る。
役所広司が怒りとおだやかな表情を使い分ける見事な名演技をみせる。
自分を捨てた母親を何かしら愛情のかけらを求めて探そうとする姿はほんと切ない。
受刑者の社会復帰という難しい問題を、元やくざを主人公に見事に表現した西川美和の手腕は見事である。
とれびやんさん [インターネット(邦画)] 8点(2022-06-19 12:09:54)
23.《ネタバレ》 主人公は生きにくい世の中においても純粋な善意により支えてくれる人々に恵まれ、普通に生きる道を歩もうとしていたその矢先に命を落とすことになるのだが、やはり因果応報と言わざるを得ない。それはさておき、役所広司さんの演技は素晴らしく、また仲野太賀さんも素晴らしい。じっくりと魅せる邦画の良さが発揮された作品です。
いっちぃさん [CS・衛星(邦画)] 6点(2022-05-23 23:22:26)
22.《ネタバレ》 全体的にとても丁寧に作られているなぁという印象を持ちました。
人の優しさや醜さ、複雑さがしっかりと描かれていて感情移入ができました。
なのであのラストはずしんときましたねぇ。ここで映画的な結末にするのでなく、
こういうおわり方をすることでしっかりメッセージも伝わってきます。良作でした。
あろえりーなさん [DVD(邦画)] 7点(2022-05-15 16:27:00)
21.《ネタバレ》 世界は決してただ美しい、素晴らしいモノではないのであって、多くの不条理・不正義・不公平と残酷な運命に満ち満ちている。それは人ひとりの力で何とか出来るものばかりでは全くないのだし、そもそも人智に依っては如何ともし難いことだって今だ数多く存在する。だから残念なことに「努力は人を裏切らない」とか「人生は何度だってやり直せる」だとかいう美辞麗句というのは、言葉の使い方の問題でもあろうが確実にそこに「嘘」を孕んでいる、とも思うのだ。人生とは、この世界とは、元々全く「ままならない」ものなのだろう、と考えている。

でももし、そこにただ純粋に素晴らしいことがひとつだけ在るとしたら、人が自分の人生を少しでも、ほんの少しずつでも「前に」進めようというささやかな意志を持ったのならば、その人生はどんな時でも、ほんの少しだけはより善い・より意義深いものにきっと変わるだろうということなのだ。例え明日死ぬとしても、その明日を今日よりも少しだけ何か意味の在るものにすることはたぶん可能なのだ。それだけが、人に許されている唯一つの絶対なのだ(人生の意味とは、ただひたすらにその積み重ねでしかないのだ)。だから、それでも世界は絶対に素晴らしいのだ、と。
Yuki2Invyさん [DVD(邦画)] 9点(2022-05-08 18:20:35)(良:1票)
20.普通に生きる事の厳しさが良く描かれています。弱きを助ける行為は自らの意志であり、もたらす結果に胸張っているのが素晴らしい。悪戦苦闘ぶりは孤立無援では無く、多くの人々のアシストがあった、ここが本作の素晴らしき仲間、素晴らしき世界と言えるのでは。
The Grey Heronさん [DVD(邦画)] 6点(2022-03-20 00:09:32)
19.三上は出所後多くの素晴らしい人たちと出会っていたのに、それに気づかないでヤクザの気質のままで生き続けたのがみんなにとっては不幸でした。それでも最後の方では改心できたので良かったと思います。北村有起哉の演技も良かったです。なお、長澤まさみが端役でもったいなかったです。
みるちゃんさん [DVD(邦画)] 6点(2022-03-04 12:36:24)
18.役所広司の演技は,素晴らしいと思いますが,主人公三上の短気で頭の良くないような生き方には全く共感できませんでした.
ラストシーンは,素晴らしい青空は,映画のイメージ通りですね.
あきぴー@武蔵国さん [DVD(邦画)] 6点(2022-02-28 20:52:32)
17.《ネタバレ》 ネタバレあります。未見の方はご注意ください。

自然災害、不慮の事故など、本人に責任が及ばぬ原因で終わる人生もあれば、己が生き様の帰結として迎える必然の最期もあります。後者を選択できた者は、その結果が好ましかどうかに関わらず「幸運」に違いありません。三上の最期は唐突かつ遣り切れぬものでしたが、明らかに後者と考えます。それに見方を変えれば、これほど幸せな結末もありません。生活苦もなく、辛い闘病生活も経験せず、悲しんでくれる人がいる、泣いてくれる人がいる。これ以上何を望みましょう。彼は周りの人々に恵まれました。もしかしたら人生の前半で使わなかった運を、ここで一気に使ったのかと思うほど。もちろん、身寄りのない三上が短期間で濃密な人間関係を築けたのは、彼の人間性に魅力があったからに外なりません。広い空の下で死ねたこと。彼が迎えた人生の結末は、最善でなくとも、最良のものだった気がします。
生い立ち、セーフティネット、犯罪者の社会復帰。シリアスな周辺要素を孕みながらも、物語は一人の男の日常生活を淡々と描くスタイルです。どこで終わっても成立したでしょう。それこそ後味よく希望を抱かせるエンディングを用意することも容易でした。しかし西川監督は「けじめ」に拘った気がします。それが「人生」を描く責任。西川監督の過去作を見てもわかるように、その真摯な姿勢は一貫しています。良いところも悪いところも、好都合も不都合も、全て描く。でもその視線には人間に対する絶対的な肯定感が見てとれます。それを「愛」と呼ぶのかもしれません。だから私たちは西川監督に魅了されるのだと思います。タイトル『すばらしき世界』は幾ばくかの苦みを含みつつも、皮肉ではありません。
目隠シストさん [DVD(邦画)] 9点(2022-01-01 00:00:00)(良:1票)
16.「永い言い訳」の 西川美和 監督作品..すこし期待して 鑑賞..シブくて リアルな演出&ストーリーが なかなか良かったです..若干 細かいところが気になったものの 実話を基にしているだけに 説得力があったかな..
コナンが一番さん [DVD(邦画)] 8点(2021-12-31 15:27:14)
15.《ネタバレ》 寅さんなら、ドラマの最後には、ポンシユウ達が待っていてくれた。
しかし、令和の今は、そうはならない。

自分でいられない役所演じるミカミは、最後、仲間の成れの果て、ゆくゆくは
自分の未来の姿をみて、死んでしまうのである。
そして、まっすぐなミカミの死を描き切った、このドラマの最後、
画面に「すばらしき世界」と表示される。
我々は、ただ自分たちが正しいのか、正しくないのか、よく分からなくなって、
映画を鑑賞し終わる。

ただ一つ言えることは、今の我々の社会は確実に何かを失った。
それが良いことなのか、悪いことなのかは、やはりよく分からないのだが・・
トントさん [DVD(邦画)] 7点(2021-11-06 22:44:32)
14.《ネタバレ》 ラストシーン、画面に広がる晴天と、そこに映し出された『すばらしき世界』というタイトル。
呆気ないほどに、しかしほぼ必然的に、三上は逝ってしまった。若い津乃田を除いて、残された人々は呆然としてこの状況を受け入れるしかない。これのどこが「すばらしき世界」なのだろう、と考えてしまう。これは皮肉なのだろうか。

しかし、冷静に映画を振り返ってみると、三上は幸運な人間だったとわかる。世間の風はいまだ冷たいが、それでも真心から彼に親身に接する人々がいた。三上にとってどこまで本意であったかはともかく、彼は職を得て、居場所を作ることもできた。世間は世知辛いが、人との暖かな繋がりや絆が途絶えるわけではない。その意味で、確かにこの世界はすばらしいのかもしれない。

一方で、三上について、見落としてはならない視点がある。彼は純粋であったかもしれないが、決して潔白であったわけではないということだ。劇中での明確な描写はないが、彼が犯した殺人について、同情の余地はあっても、とても正当防衛で済まされる状況ではなかったことが示唆されている。前後の場面から推察するに、三上は暴力衝動を抑え切れず、相手に対し過剰に反応した可能性が高い。そして劇中を通して、事情はどうあれ一人の人間の命を奪ったことに対して、真摯に反省している様子もない。

映画が三上に同情的に寄り添いながら、最後の最後で突き放す展開になったのも、自分の生き方や気質、過去の罪を真摯に反省しないといけないぞ、という意図が込められているのかもしれない。

三上に感情移入をさせつつ、彼を突き放すときは容赦なく突き放す脚本の展開、緩急の付け方が、緻密な映画であった。バッドエンドにもハッピーエンドのようにも見える、エンディングの余韻も素晴らしい。惜しい部分としては、ダレる場面がやや多い、一部の展開が非現実的、わりかし適当なロケハン。この三点である。ダレ場が多いのは、名のある俳優にわざわざ見せ場を用意するから(白竜、山田未歩、キムラ緑子、安田成美)。スーパーの店長と親しくなるくだりは、さすがに非現実的。あとけっこう気になったのが、ロケハン。舞台が足立区の設定なのに、台東墨田の風景がやたら映ったりするのはいかがなものか(スカイツリーを綺麗に映したいのはわかるけど)。あと足立は平坦な土地だから、そもそも坂は映り込まないぞ笑。

大枠としての物語が緻密な作風なのに、細部が適当だと、点数を下げざるを得ないという映画でもあった。
nakashiさん [DVD(邦画)] 7点(2021-10-13 08:54:35)
13.《ネタバレ》 弱き者を助ける、決して見て見ぬふりはしない。
私はそんな人が大好きだ。
おそらく、そんな自分を無理に抑えたから、体調が急変して死んだんだ。
だけど、また乱暴を働けばムショに戻らなくてはならなくなる。
だから我慢した。
よく頑張って辛抱した。
お疲れ様と声をかけてあげたい。
にじばぶさん [インターネット(邦画)] 7点(2021-07-10 01:56:32)
12.《ネタバレ》 映画館で映画を観るメリットのひとつは作品世界に没入しやすいことだが、本作においても終始主人公・三上の生き様を追ううちに、自然に彼に感情移入していることに気づく。
殺人犯として服役していた刑務所を出所するところから始まる物語だが、「受刑者の社会復帰」という通常では垣間見えない視点をとおして、人間と社会を考えさせる秀作だった。

特に役所広司の演技は秀逸で、一本気で喧嘩っ早い反面、どこか愛嬌のある三上という男を表情豊かに演じている。

長澤まさみ演じるTVプロデューサーも時折印象的なセリフを吐く。
「レールの上を歩いてる私たちも、ちっとも幸せだと感じてないから、はみ出た人を許せないんだよね」
そして三上の喧嘩の撮影中怖くなって逃げる若手ディレクターに「撮らないんなら喧嘩を止めろ。止めないのなら、撮って人に伝えろ!」と凄む。
この一件から、ディレクターは本気になって三上と向き合うことになる。

三上が社会復帰のために、失効した運転免許の再取得に動き出すシークエンスは、本作の肝にあたる。
こうした三上の努力や周囲の助力を知ったあとだけに、ラスト近く、三上のアパートに駆けつけ号泣するディレクターと一緒に、観客である自分の目頭も熱くなっていることに気づく。

そしてラスト、三上に関係した人々が集まるアパートから青空へと画面がパンし、ここで初めてタイトルが浮かび上がる。

「大事なのは誰かとつながりを持って、社会から孤立しないことです」
最初にケースワーカーが三上にかけた言葉を思い出しながら、タイトルの意味をずっと考えていた。

そして観終わった今もずっと考えている。こうした映画こそ佳作と呼んでいいと思う。
田吾作さん [映画館(邦画)] 8点(2021-03-22 14:44:32)
11.《ネタバレ》 10~20代の時に見たら、多分この映画の本質の半分も理解できなかったかなと思う。いや、30代もあやしい……。
映画館からの帰り道からずっと、あの人の人生を考えずにはいられなかった。
短気であまり頭の良くない、挫折を繰り返す男。でも優しいし一本気で、子供のような男。
あの人はきっと、あのままじゃ長生き出来ない人だったと思う。

あの時。弱いものを嬲っていた男たちを、心の思うがままに暴行して痛めつけていたら、彼の体はストレスをためることなく、いまだ生きていたかもしれない。でも、支援してくれた人々をまた悲しませ、落胆させ、失望させていた。
だから死に物狂いでその衝動に耐えた。結局、彼の体はそれに耐えられなかったけれど。
綺麗できっぷの良いイカす元妻から、娘と一緒に会おう、楽しみ! なんて言われて。
きっと神様は最後に御褒美をくれたんだと思う。

最後に、花の香りを嗅ぎながら、彼は思ったんじゃないかなぁ。
・優しい坊主、守れなくて悪かった、我慢せずやっちまいたかった
・でも、やっちまってたら、スカっとしたけど、あの人達を失望させた
・だから、これで良かったんだ、これで良かったんだ
すばらしき人生って言っていいのだと思う。

運のない人だったけれど、死んでから泣いてくれる人がいるだなんて、うらやましい。
個人的には、六角精児が演じたスーパーの人には一番頭が下がる。あの人は凄い。本当に凄い。
人生は人との繋がり、なんだなぁと、自己を顧みてつくづく反省した。

多分一生頭の片隅にこびりつく映画。
りんどうさん [映画館(邦画)] 8点(2021-03-16 01:07:23)(良:1票)
10.《ネタバレ》 この映画に登場する人物のほぼ全員は、主人公・三上正夫に対して、悪意や敵意を示して接することはない。
むしろ皆が、偽りなき「善意」をもって彼に接し、本気で彼の助けになろうとしている。
そして、三上自身も、その善意に対し感謝をもって受け止め、“更生”することで応えようと、懸命に努力している。
その様は、「やさしい世界」と表現できようし、この映画のタイトルが示す通り、「すばらしき世界」だと言えるだろう。

でも、それでも、この世界はあまりにも生きづらい。
その、ありのままの「残酷」を、この映画は潔くさらりと描きつける。
西川美和という映画監督が表現するその世界は、いつも、とても優しく、そしてあまりに厳しい。


僕自身、ようやくと言うべきか、早くもと言うべきか、兎にも角にも40年の人生を生きてきた。
平穏な家庭に育ち、平穏な成長を経て、そして自らも平穏な家庭を持っている。
決してお金持ちではないし、生活や仕事において不満やストレスが全く無いことはないけれど、今のところは「幸福」と言うべき人生だと思う。

だがしかし、だ。
その平穏という幸福を自認し噛み締めつつも、僕自身この世界における“生きづらさ”を否定できない。
人並みにアイデンティティが芽生えた少年時代から、40歳を目前にした現在に至るまで、「生きやすい」と感じたことは、実はただの一度も無いかもしれない。
人の些細な言動に傷つき怒り鬱積を募らせ、僕自身も“本音”を吐き出す程に周囲の人間を困らせたり、怒らせたり、傷つけたりしてしまっている。
どんな物事も思ったとおりになんて進まないし、「失敗」に至るための「行動」すらできていないことが殆どだ。
自分自身の幸福度に関わらず、人生は失望と苦悩の連続で、この世界はとても生きづらいもの。
それが、殆ど無意識下で辿り着いていた、現時点での僕の人生観だったと思う。

そしてそれは、この世界に生きるすべての人たちに共通する感情なのではないかと思う。
そういった個人の閉塞感を、この世界の一人ひとりが持たざる得ないため、その負の感情は縦横無尽に連鎖し、社会全体が閉塞感に包まれているように感じる。

この映画で西川美和監督が、社会に爪弾きにされた前科者の男の目線を通じて描き出したことは、決して一部の限られた人間の人生観ではなく、この世界の住人一人ひとりが共有せざるを得ない“痛み”と一抹の“歓び”だったのだと思う。

確かに、この世界はすばらしい。
美しい光に満ち溢れているし、エキサイティングで、エモーショナルで、ただ一つの命をまっとうするに相応しいものだ。少なくとも僕はそう信じている。

そんな世界の中で、人は皆、誰かに対して優しくありたいし、誰しも本当は「罪」など犯したくはない。
それでも、結果として「罪」が生まれることを避けられないし、すべての人が無垢な「善意」のみで生きられるほど、人間は強くない。
この映画の登場人物たちは皆優しい人間だと思うけれど、主人公に対する「善意」の奥底には、それぞれ一欠片の「傲慢」が見え隠れする。
取材をするTVディレクターも、身元引受人の弁護士とその妻も、スーパーの店長も、役所のケースワーカーも、ヤクザの老組長も、心からの善意で主人公を助けているけれど、同時にその心の奥底では彼のことをどこか見下し、自分の優位性を感じていることを否定できない。

無論、だからと言って、彼らを否定する余地などはどこにもない。
彼ら自身も、この生きづらい世界の中で、自分の心の中で折り合いをつけながら、必死に生きているに過ぎないのだから。


自分の感情に対して「正直」に生きることしかできない主人公は、それ故に少年時代から悪事と罪を重ね、人生の大半を刑務所内で過ごしてきた。
理由がどうであれ、犯した罪は擁護できないけれど、誰にとっても生きづらいこの世界が、益々彼を追い詰め、ついには自分自身で、文字通り心を押し殺さざるを得なくなっていく様を目の当たりにして、悲痛を通り越して心を掻きむしられた。
それは、単なる暴力による報復などとは、比べ物にならないくらいに残酷な業苦を見ているようだった。

ラストの帰り道、どこか都合よくかかってきたように見える元妻からの電話による多幸感は、果たして「現実」だったのだろうか。
そして、とある人物から貰った秋桜を握りしめ、最期の時を迎えた主人公の心に去来していた感情は、如何なるものだったのだろうか、救済だったろうか、贖罪だったろうか、悔恨だったろうか。
僕自身、様々な感情が渦巻き、鑑賞後数日が経つがうまく整理がつかない。

空が広く見えた。
人間は、この「すばらしき世界」で、ただそれのみを唯一の“救い”とすべきなのか。
鉄腕麗人さん [映画館(邦画)] 10点(2021-03-01 12:30:15)
9.《ネタバレ》 じんわりと心に沁みる作品でした。映画館から出た後、ついつい空を仰ぎたくなりました。
それにしても、西川美和監督には嫉妬してしまいました。自分が好きな本を映画化できてなおかつ、自分の思う(多分)キャストを日本有数の俳優陣で揃え、そして兎に角素晴らしい作品を仕上げてしまうなんて、映画や本好きのまさに夢を実現してしまっているのですから・・・・。
TMさん [映画館(邦画)] 8点(2021-02-27 21:23:36)
8.《ネタバレ》 役所広司が素晴らしい。普段の三上の顔があまりに善人過ぎて、殺人犯という過去とのギャップが大きすぎるのではないかと、実は予告で見た時から思っていた。
ところが冒頭の刑務所での、今でも無実だと思っている、というセリフのところでドキッとさせられ、その後町のチンピラとの数度のトラブルの時や、スーパー店長に対して切れて怒り出すシーンなどでの豹変具合は、三上という人物像にとても説得力を与えるものだった。これらのシーンでは、彼の精神面の未成熟さもよく表現できていたと思う。そう、三上氏は、根っからの悪人というよりは、我慢を知らずに育った大きな子供だった。だから笑っているときは憎めない。
それを知る三上の周りの少なからぬ人々が、道を失いそうになった彼を何とか引き留めようと、見捨てずに手を差し伸べつづける。ラストで彼は思わぬ形で寂しく生涯を閉じるが、しかし堅気として死ぬことができた。よかったね、とさえ言えるラストだった。感涙。
Northwoodさん [映画館(邦画)] 8点(2021-02-23 20:05:57)
7.《ネタバレ》 元殺人犯の社会復帰物語。曲がったことが大嫌い、まっすぐで血の気の多すぎるオイラ。周囲とぶつかりながらも生活のために就活を進める。直情的で危なっかしいけれど見ていて憎めない、そんな不器用な男を役所広司が熱演。介護施設のパートとして辛抱強く働く、ちょっぴりオトナになったオイラ。世の中捨てたもんじゃねえ、すばらしき世界。良作。
獅子-平常心さん [映画館(邦画)] 7点(2021-02-21 23:27:03)
6.《ネタバレ》 刑務所から出所した元囚人にありがちなベタな話が延々と続く映画。役所広司演じる元ヤクザの三上は頭で拵えたようなツクリモノ臭が鼻について、私はストーリーに入っていけなかった。例えばビートたけしに演じさせたらこうはならなかった。役所の裸を見せるための映画ですか、と思っているうちにポックリ死んで終わり・・・つまらない映画だと思うが、役所が自分より不幸な男の存在を知りコスモスの花を貰うシーンは唯一グッと来た。それと北村有起哉の演技のリアリティーが素晴らしくて映画全体の救いとなっている。過去の法廷シーンの粒子を荒らした映像もセンスが良いしプラスマイナス全部合わせて5点。
ブッキングパパさん [映画館(邦画)] 5点(2021-02-20 19:14:23)
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【点数情報】

Review人数 25人
平均点数 7.48点
000.00%
100.00%
200.00%
300.00%
400.00%
514.00%
6416.00%
7832.00%
8728.00%
9416.00%
1014.00%

【その他点数情報】

No名前平均Review数
1 邦題マッチング評価 10.00点 Review1人
2 ストーリー評価 6.00点 Review1人
3 鑑賞後の後味 7.00点 Review1人
4 音楽評価 Review0人
5 感泣評価 Review0人
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