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プロフィール
口コミ数 2527
性別 男性
自己紹介 〈死ぬまでに観ておきたいカルト・ムービーたち〉

『What's Up, Tiger Lily?』(1966)
誰にも触れて欲しくない恥ずかしい過去があるものですが、ウディ・アレンにとっては記念すべき初監督作がどうもそうみたいです。実はこの映画、60年代に東宝で撮られた『国際秘密警察』シリーズの『火薬の樽』と『鍵の鍵』2作をつなぎ合わせて勝手に英語で吹き替えたという珍作中の珍作だそうです。予告編だけ観ると実にシュールで面白そうですが、どうも東宝には無断でいじったみたいで、おそらく日本でソフト化されるのは絶対ムリでまさにカルト中のカルトです。アレンの自伝でも、本作については無視はされてないけど人ごとみたいな書き方でほんの1・2行しか触れてないところは意味深です。

『華麗なる悪』(1969)
ジョン・ヒューストン監督作でも駄作のひとつなのですがパメラ・フランクリンに萌えていた中学生のときにTVで観てハマりました。ああ、もう一度観たいなあ・・・。スコットランド民謡調のテーマ・ソングは私のエバー・グリーンです。


   
 

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1.  マイ・フェア・レディ ネタバレ 
初めてスクリーンで観たミュージカル映画が、リバイバルされたリプリント版でした。もう豪華さに圧倒されて映画館を出たときはなんか頭がボウッとなってましたよ。初めて見たミュージカルが本作で本当に良かったなと、しみじみ思います。私の中では今でも“I Could Have Danced All Night”がミュージカル楽曲の最高峰の位置づけです。 ブロードウェイのヒット・ミュージカルの映画化ですけど、映画としては当時主流になりつつあったダンスを前面にフューチャーしたミュージカルが主流になりつつある中で、ダンスシーンがほぼ皆無で楽曲で勝負するという、あえて時代に逆行するような舞台を意識した王道回帰だったと言えるかもしれません。舞台版の鉄板主演女優だったジュリー・アンドリュースを使わずオードリー・ヘップバーンを起用した経緯はけっこう有名ですが、個人的にはヘップバーンの歌が吹き替えだったと知った時には、ちょっとショックでした。『ウエスト・サイド物語』の時のナタリー・ウッドほどじゃ無かったけど、やっぱヘップバーンもカチンと来たみたいですね。まあこれは事前に了解をとっていないというのが問題で、今じゃ到底あり得ないことです。この歌唱の吹き替えという手法は今や絶滅したと思いますが、現在のハリウッド・スターたちは吹き替えが必要ない芸達者が多くなっているのは感慨深いです。おかげでヘップバーンはオスカー主演女優賞にはノミネートすらされませんでしたが、本作での彼女の弾けたようなコメディ演技はもっと評価されるべきだったと思います。それにしても、舞踏会に登場するときの彼女の神々しさは凄かったな、撮影現場でもスタッフは思わずみな拍手したそうです。 このストーリーは、『フランケンシュタイン』のプロットをミュージカルにしたものだと良く言われます。ヒギンズ教授がイライザに上流階級の話し方を教えて人間改造しモンスターを産み出した、という論法なのですが階級が違うと話す英語も体格も違ってくるという独特の事情を風刺しているとも捉えられます。しかし、極端に傲慢でミソジニストなブリカス紳士であるヒギンズを、逆にイライザが改心させて真人間に近づけるという、いわば“逆フランケンシュタイン”的な二重のストーリーになっているとも言えるんじゃないでしょうか。そういう視点からは、フェミニストが観れば激怒間違いなしのレックス・ハリソンの演技が素晴らしかったことは、忘れてはいけませんね。もっとも実際のハリソンも、ヒギンズ教授に似通った個性の持ち主だったそうですけどね(笑)。
[映画館(字幕)] 9点(2025-07-03 22:25:11)《新規》
2.  ノーマ・レイ ネタバレ 
社会派マーティン・リット監督の渾身の力作、彼の卓抜した演出力によってそれまでハリウッドでも目立たない存在だったサリー・フィールドに演技開眼させて、彼女にオスカー主演女優賞をもたらしています。彼はハリウッドのレッド・パージで業界追放された面々の一人だけど、ダルトン・トランボと比べても過小評価され過ぎだったんじゃないかと思います。アカデミー賞も『ハッド』で監督賞と脚色賞にノミネートされただけだし、本作も作品賞にはノミネートされたのに監督賞では無視、まだまだメジャースタジオがハリウッドを牛耳っていたころだし、やはり彼の社会派的な作風が嫌われていたんじゃないかな。 南部の紡績工場で、両親とともに働くシングルマザーのノーマ・レイ=サリー・フィールドがヒロイン。現代ではこんな紡績産業は米国には存在しないんじゃないかと思うけど、驚かされるのはその工場内の機械騒音の凄まじさ、おかげで事務所以外の工場内ではみな大声を張り上げて会話をしている。だからこそ、会社から追いつめられたノーマが”ユニオン”と書いた札を掲げて机に上がり、それを見つめる工員たちが一人ずつ機械を止めてゆき工場内が遂に静寂が訪れるあの名シーンが生きてくるのですよ。NYから来た組合オルグのルーベンも、確かにノーマを利用するだけの感はありましたが、好意を抱くようになりながらもノーマには手を出さず、無教養な女と侮っていたノーマから何かを学ぶことができたラストの別れも良かったです。また途中でノーマと再婚したボー・ブリッジス、ルーベンとノーマの関係を疑っても可笑しくないのに、イザコザはありながらも最後までノーマを支えるイイ人でした。 現代でもブラック企業問題は深刻ですけど、「働く側にも選択の権利がある」と自分が壊れてしまう前に転職することが一般的なアドバイスですが、たしかに職場の選択肢が少ない50年前のアメリカの田舎では労働組合が唯一の助け船だったのかもしれません。逆に言うと、働き方自体がここまで多様化した現代では、労働組合活動の意義が大きく変質してしまったんじゃないでしょうか。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2025-06-30 22:14:46)《新規》
3.  海外特派員 ネタバレ 
1940年公開の作品ですが、撮影自体は前年の39年で欧州では第二次世界大戦がもう始まっている時期ですね。この映画のプロット自体はもちろん架空なんですが、戦争勃発を防ぐための協定だとか平和継続のための党など、すでに起こっていたリアルな大戦とはかけ離れた設定で、陰謀を巡らす敵対国がドイツ第三帝国なのはミエミエなのに、劇中ほとんどでドイツのドの字も出てきません。ヒッチコックは努めて政治的な要素を盛り込みたくなかったからなんでしょうが、敵対国が躍起になって聞き出そうとしている秘密協定の条文が国際情勢にどういう影響があるのかはさっぱり理解不能でした。ストーリー展開自体は後のヒッチコック・スタイルとなるハラハラ・ドキドキのギミックはてんこ盛りで、風車のくだりや塔からの転落シークエンスなどがとくに印象深かったですね。でもこういうサスペンスありきの脚本なので、とくに塔上で主人公を殺そうとして返り討ちに遭う殺し屋の設定は不自然さがあり、ここら辺がヒッチコック作品群の弱点なんじゃないかと思います。後半になるとコメディ的な要素が希薄になってゆき、飛行艇撃墜のシークエンスになると完全にアクション映画ですね。特殊効果にはウィリアム・キャメロン・メンジースが参加しており、ヒッチコックにしては珍しいVFXが重要な要素となっている映画でもあります。これはプロデューサーの意向が反映したんじゃないかと思いますけど、冒頭のテロップやラストの主人公の愛国的な放送などは、時局柄しょうがなかったのかもしれませんがプロパガンダっぽくってなんか鼻じらみます。でもこの映画が全米公開されたのが40年8月、まさにバトル・オブ・ブリテンが始まったときで、前年に撮影した映画でドイツ空軍のロンドン空爆をラストに予言した格好になったのは感慨が深いです。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2025-06-24 21:02:46)
4.  アムステルダム ネタバレ 
私はデヴィッド・O・ラッセル監督作とはどうも相性が悪いみたいだけど、本作はどう見ても失敗作だと言えるんじゃないでしょうか。キャスト陣はけっこう豪華で、冒頭にはあの世界の歌姫テイラー・スウィフトが出てくるんでびっくり、しかも鼻歌みたいな感じではあるけどアカペラで一小節歌わせるんだから、こりゃ贅沢です。しかしあっという間に車の下敷きになって退場、こっちのほうがよっぽどサプライズかな(笑)。この映画の特徴を一言で要約すると、「癖のあるストーリーを癖のある俳優の演技で語らせた映画」ということになるかな。大体からして「この物語の大部分は実話である」という冒頭のテロップからして怪しいもんで、明らかに真逆でほとんどがフィクションでしょう。こういうコーエン兄弟の『ファーゴ』を真似たアイロニーめいた遊びって、何が面白いんでしょうかね。お話自体は1930年代の戦間期のアメリカを巻き込もうとした陰謀を暴くというのが基本線なんですが、アヴァンギャルドを狙ったスリラーなのかそれともコメディなのかがはっきりしていないので観ていてもどかしい。クリスチャン・ベイルは体型こそ変えていないがほとんど怪演と言ってよいほどの熱演なのは判りますが、さすがにちょっと癖が強過ぎ感は否めません。このバート・ハロルド・ヴァレリーの関係は『明日に向かって撃て!』の三人の様な、友情と恋愛感情が入り混じった不思議な人間関係ということなんだろうな。デ・ニーロは大御所らしく良いところ全部持っていったキャラですが、彼としては可もなく不可もない演技という感じでした。しかし最後まで判らんかったのはこの映画のキーワードだった“アムステルダム”で、たしか『キル・ビルvol.1』でも使われていたけど、アメリカ人にとってはオランダのアムステルダムにはサブカルチャー的なモノがあるダブルミーニングなのだろうか?
[CS・衛星(字幕)] 5点(2025-06-21 21:57:22)
5.  マッド・シティ ネタバレ 
まずは警備員をクビになって勤め先の博物館にショットガンを持って怒鳴りこんでくるジョン・トラボルタが、彼としてはなかなかの好演です。なんかこのキャラを見ていると、『サタデー・ナイト・フィーバー』のトニー・マネロが15年後に警備員になっていたという感じがするんだよな。なんで館長に抗議するのに銃とダイナマイトを持って来たのかまず意味不明、これじゃあ抗議というより脅迫じゃないですか。なんかもう自分でも何をしたいのか判らなくなっているちょっとおつむの弱い男という感じ、こういうキャラはなんかトラボルタの演技パターンに凄くマッチしているんじゃないかな。この映画の凄いというか呆れるのは、この事件に関係してくるマスコミや警察関係者がみなろくでなしばっかりだというところです。地方に左遷された大手ネットワークの報道記者であるダスティン・ホフマンも、この事件現場に偶然居合わせたのを僥倖と捉えて、ちょっと足りないトラボルタを操ろうとしてきます。ところどころでトラボルタに同情して助けようとするが、自分のネタをコントロールしようとする記者本能には抗えない。またマスコミにコントロールされている様な軽薄な大衆にも反吐が出そう。米国の大衆は事件や犯罪が起こると、自分たちに危害がないならお祭り騒ぎをしたがる傾向が先進国ではもっとも強いんじゃないですか。こういう民度の低さをこのストーリーは強烈に皮肉っています。解決まで何日費やしたのかは判りにくいが、ホフマンと初期に解放された二人以外はみんな博物館に閉じ込められていたのに、人質たちに疲労困憊の風がほとんどなかったのはちょっと不自然かな。ずっと人質の小学生が、異様に高いテンションだったのには笑ってしまったけどね。でも現実なら、あれだけ隙だらけのトラボルタならさっさと射殺しちゃうのがリアルな米国なんじゃないかな、そこは話を引っ張るためのちょっとムリがある脚本のような気がしました。 恐ろしいのはインタビューでトラボルタとは無関係な人を知人のように語らせたり、インタビュー自体を切り貼りして印象操作するマスコミの手口というか常套手段を見せつけてくれるところです。これは日本の地上波放送でもよく聞く話で、やっぱ昔親に言われていた「TVばっかり観てるとバカになるよ」は、真実だったんだな。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2025-06-15 21:18:13)
6.  質屋 ネタバレ 
かつて大学教授だったユダヤ人のソル=ロッド・スタイガーはアウシュビッツ収容所で妻子や血族と友人を殺されたが一人生き残り、今はNYのハーレムで質屋を営んでいる。アウシュビッツのトラウマに悩まされながらもカネしか信じないを信条にしてシビアな商売に徹しているが、実は質屋商売はハーレムの黒人ボス・ロドリゲスのマネーロンダリングの隠れ蓑なのだった。 いやはや、この映画のロッド・スタイガーの演技は度肝を抜かれるレベルです。幸せで髪の毛ふさふさだった頃の若々しいソルと、必要最小限しか喋らない陰鬱な質屋の親父となってしまったソルのギャップが痛々しいんです。その質屋の店内もやたらと金網で仕切られていて、その中にいるソルは未だに収容所に閉じ込められているみたいな感じです。唯一の店員であるプエルトリコ人のヘススにも、せっかく彼なりにソルを慕っているのに恐ろしくそっけない塩対応。「あなたはどうして腕に番号の刺青をしているんですか、ひょっとして秘密結社の会員なの?」と聞いてくるぐらいホロコーストに無知なヘススに商売の秘訣を尋ねられ、「まず、数千年が必要だ。その間古臭い伝説以外何も頼れるものはない…」とユダヤ人としての苦悩を語っているうちに声を荒らげてしまう、この映画で初めてソルが感情を表したシーンでした。そもそもヘススという名はJesusのスペイン語読みで、ラストでヘススがソルの身代わりのようになって死ぬのも、まるでイエス・キリストの最期みたいだし、ショックを受けて伝票刺しに自分の手のひらを突きぬかせるソルの行動も、十字架に磔にされたキリストみたいな感じです。ソルはアウシュビッツでも死なず「俺を殺せ!」とロドリゲスに反抗しても死ねない。もう生きる希望もないのに死にたいのに死ねないソル、「お前が生きたいと思った時に殺してやる」というロドリゲスのセリフのなんと残酷なことか… 実はアメリカ映画で初めてホロコーストをテーマにし、そして裸のオッパイが初めてスクリーンに映されたのがこの映画なんだそうです、実際のところ全然エロくはなかったですがね。まだヘイズコードが睨みを利かせていたころですが、ハリウッドとは縁遠かったNY派のシドニー・ルメットならではの快挙(?)だったんでしょうね。
[ビデオ(字幕)] 8点(2025-06-12 21:47:00)
7.  華麗なるギャツビー(2013) ネタバレ 
“世界で唯一ピンクのスーツを着こなせる男”ジェイ・ギャツビー=ロバート・レッドフォード版から約40年後に、彼の功績を継いだのはレオナルド・ディカプリオでした。ディカプリオはロバート・レッドフォード版が製作された1974年生まれ、これも何かの因縁ですかね。 『ムーランルージュ』のバズ・ラーマンが撮ったのでちょっと期待しましたが、ギャツビー邸の乱痴気パーティーのシークエンスは意外なほど短く、そしてラーマンにしては大人しげだった印象があります。そういったミュージカル的な要素は最小限で、ガッツリとドラマ部分に注力したって感じです。このころのディカプリオ演技に嵌まりこんでいたというか力み返っていた頃なので、熱演ではあることは否定できないがあの眉間に皺を寄せる表情だけはなんか鬱陶しくなっちゃいます。脚本自体もギャツビーの悲恋物語という要素が強くなっています。デイジー=キャリー・マリガンは74年版のミア・ファローより遥かに良かったかなと思います。ミア・ファローのデイジーは最後にはギャツビーを冷酷に見捨てた嫌な女という印象でしたが、キャリー・マリガンは最後まで社会的な地位を捨ててギャツビーのもとに走るかの葛藤に苦しむデイジー像だったんじゃないかと思いました。 レッドフォードの74年版とは上映時間はほぼ一緒なんですが、本作の方がダイジェスト感は希薄で掘り下げた物語になっていたと思いますよ。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2025-06-06 22:40:25)
8.  スーパーフライ(1972) ネタバレ 
実は『黒いジャガー』のゴードン・パークスが監督した映画だと私はずっと勘違いしていまして、メガホンをとったのは息子のJrの方でした。親父のゴードンは調べてみると写真家、詩人・小説家、音楽家とけっこう多才な人物だったみたいで驚きました。息子の方は飛行機事故にあって80年代まで生きのびることは出来なかったのは残念でした。 この映画は、麻薬の売人として成功した主人公がなぜか足を洗って引退するために最後の大勝負に挑むというのがストーリーですが、いくら70年代とは言っても倫理観の欠片もないお話しには辟易とさせられます。まるで煙草のようにコカインを吸いまくる登場人物たちには、観ているほうが感覚を麻痺させられそうです。これは当時のハーレムの実態だったのかもしれませんが、当時の観客だった青少年には悪影響を与えたことは十分考えられます。確かにカーティス・メイフィールドの音楽はしびれるほどカッコよいけど、歌詞はもう滅茶苦茶ダークで引いてしまいます。「俺たち黒人は今まで虐げられてきたから、反社会的な行動をしても許されるしそれがカッコよいんだ」という驕りが透けていて、とてもじゃないけど共感出来ません。まあ大したアクションもなく典型的なB級ブラックスプロイテーション映画だと思うんだが、『死ぬまでに観たい映画1001本』に選出されるなど近年に評価が高まっているそうな。比べるのもなんなんだが、同時期の東映ヤクザ映画の方がよっぽど出来がイイと思いますよ、こういう麻薬に甘い米国の大衆文化はほんと困ったもんです。
[CS・衛星(字幕)] 4点(2025-05-27 23:06:48)
9.  アウトサイダー(1983) ネタバレ 
『ワン・フロム・ザ・ハート』が大コケして破産の窮地に陥ったコッポラが、小品ながらも再起をかけて撮った作品。父のカーマインをはじめ三人の子供と家族総動員で苦境に立ち向かったという感じですが、あのスティービー・ワンダーの名曲"Stay Gold"がカーマインがこの映画のために作曲したオリジナル楽曲だったとは恥ずかしながら知りませんでした。 いわゆるYAと称された若手スターが総出演なんですが、今となって見るとほんと凄い顔ぶれでほとんどがオーディションで選ばれた面々、ラルフ・マッチオなんてこれがデビュー作ですからねえ。この中でもっとも成功しているのはもちろんトム・クルーズですが、初登場シーンでいきなり爆転(もっともこのシーン撮影では歯を折ったそうです)を見せるけど、ほとんど目立たないキャラだったとしか言いようがないです。いちおうグリーサーとソッシュという2グループの構想が軸となっているけど、パトリック・スウェイジ、ロブ・ロウ、C・トーマス・ハウエル三兄弟の物語がこの映画の主題なのは観てのとおりです。ここまで濃密な関係性の男兄弟というのも映画の中としても珍しいぐらいで、ロブ・ロウとC・トーマス・ハウエルが同じベッドで寝てるところなんか、ちょっとゾワってしたぐらいです。そういえばこの映画にはそこはかとなくゲイ的な要素が強めな気がするのですが、いかがでしょうか? コッポラ映画となると脚本やストーリーがどうしても注目されがちですが、彼の作品にはどれも独特の映像美があることを見逃してはなりません。本作でもまさに『風と共に去りぬ』を彷彿される美しい夕焼けや朝焼けのシーンには眼を奪われてしまいます。この美しい映像に"Stay Gold"が被さってくるのは、もう堪りませんぜ。あとちょっと気になったところは、1965年という時代設定なのに黒人やアジア系などがチョイ役を含めてまったく登場しないところでしょうか。かといって登場させると『地獄の黙示録』みたいにアジア人蔑視なんて非難を浴びせられるし、やっぱしそういう面ではコッポラは癖のある映画作家なのかもしれません。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2025-05-24 22:26:51)
10.  ユーズド・カー ネタバレ 
道路を挟んで向かい合う双子の兄弟が経営する中古車屋の骨肉の争い、と言ったらなんかオドロオドロしますがそれを徹底的におバカなコメディに仕立て上げたって感じかな。のっけから羽振りが良いほうの弟が兄を実質的に死に追いやって店を乗っ取ろうとする、これはかなりシリアスな展開ですが、部下のカート・ラッセルたちがその死体を売り物の中古車に乗せて店内敷地に埋めてしまう、これはてっきりこの映画はブラックジョークなストーリーなのかと思っちゃいますよ。この口八丁手八丁な敏腕営業マンであるカート・ラッセルが実に面白いキャラなんだが、こいつらが繰り出すフットボール試合や大統領演説(!)を電波ジャックして下品なCMを流すというアホな作戦、あまりにバカバカしくて突っ込みを入れるのも忘れるぐらいです。ラストの『赤い河』か『トランザム7000』のパクりとしか思えない中古車大暴走、これがやりたくて書かれたストーリーなんだろうなと、容易に想像できますね。 この映画はジョン・ミリアスの企画だったのをスピルバーグ&ゼメキスが引き継いだ形で、二人も初期のころは迷走気味だったんですね。『BTTF』でドク・エメットは、あのデロリアンをこの映画の後でこのカート・ラッセルの店で12,000ドルで購入したと、ゼメキスらの仲間内での設定になっているそうです。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2025-05-15 21:40:00)
11.  ザ・スイッチ ネタバレ 
原題の“Freaky”から大林宣彦の『転校生』の元ネタで入れ替わりコメディの始祖である『フリーキー・フライデー』を思い起こされるが、実際のところ製作者は『フリーキー・フライデー』のホラー・コメディのつもりで撮っていたそうで、ご丁寧に当初のタイトルは『フリーキー・フライデー・ザ・13th』だったんだって。シリアルキラーのヴィンス・ボーンの中身がJKになっちゃうというかなり突飛なアイデアなんだが、大男のボーンのおネエ演技がこれまた上手いんだよな。シリアルキラーが入り込んだJKが殺しまくるというのは今までに観たことあるような絵面なだけに、無精ひげ生やした大男のボーンが際立っていたと思いますよ。いくら中身がシリアルキラーだと言っても身体はあくまでJKなんで体力は劣っていて格闘戦では簡単に負けちゃうというところなんかは、確かにそうだよね、って納得してしまいます。中身がJK男の方はお約束の下半身ネタになるわけですが、これは入れ替わりものの定番ですね。ストーリー自体はこれでもジュブナイルを意識したような感じです。それにしてもかなりユルユルな脚本で、とくにラストのヴィンス・ボーンの復活なんかは「これはいったいどうなってるんだ?」と頭を傾げてしまいました。 あの傑作『ハッピー・デス・デイ』シリーズと同じ製作陣なんで期待しましたが、思ったほど才気が感じられず普通のスラッシャー・コメディだったかな思いました。それより早く『ハッピー・デス・デイ』シリーズ三作目を撮ってほしいなぁ…
[CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-30 22:09:13)
12.  キングスマン: ファースト・エージェント ネタバレ 
この作品は『キングスマン』シリーズの前日譚かと思って観始めたが、こりゃ完全にスピンオフですよね。いきなりボーア戦争で大英帝国がナチスに先だって建てた強制収用所が登場、その後の展開も史実を巧みにフィクション化した小ネタが満載の脚本は、歴史マニアをも唸らせる脚本は秀逸でした。もっともマタ・ハリがウィルソン大統領にハニートラップを仕掛けて脅迫するなんてのは、ちょっと悪ノリが過ぎた感もありますがね(笑)。ヴィルヘルム二世・ジョージ五世・ニコライ二世の三君主をトム・ホランダーに三役で演じさせるというのは、なかなかぶっ飛んだアイデアだったと思います。実際のところ三人ともヴィクトリア女王の孫でいとこ同士、とくにジョージ五世とニコライ二世は双子かというぐらいのそっくりさんだったという史実を上手く織り込んだ演出でした。フランツ・フェルディナンド大公暗殺犯のガヴリロ・プリンツィプと怪僧ラスプーチンやマタ・ハリが闇の組織のメンバーで首領の指示のもと第一次世界大戦を引き起こさせて大英帝国を窮地に追い込むという陰謀論丸出しのストーリーも、実際に起こった数々のイベントを巧みに落とし込んでいるので愉しめましたし、おまけに実はレーニンそしてヒトラーまでもがメンバーだったとは!こりゃあ史上最悪の陰謀組織じゃないですか(笑)。でもそんな組織のボスがみみっちい動機の復讐が目的だったとは、小物感が半端無かったのがちょっと残念でした。でもやっぱラスプーチンがいちばんキャラが立ってましたね、あのコサックダンスを取り入れたようなレイフ・ファインズとの剣の決闘は、この映画の最大の見せ場だったと思います。レイフ・ファインズもリーアム・ニーソン顔負けのアクション・シーンを見せてくれて、新たな熟年アクション・スターの登場だったのかも。マシュー・ヴォーンの演出も前二作の様な羽目を外すようなところもなく、極めてオーソドックスだったんじゃないかな。まあ肩の凝らない愉しめる映画だと思いますよ。このスピンオフもシリーズ化するのもアリかな。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2025-04-27 23:10:00)
13.  荒野の隠し井戸 ネタバレ 
軍の倉庫には金塊が50キロ保管されていたが、隣接する靴職人の店からトンネルを掘り、倉庫番の曹長の手引きによってまんまと盗み出されてしまった。一味の一人が金塊を隠したが、ギャンブラーのジェームズ・コバーンと酒場で揉めて射殺されてしまう。かすめ盗った20ドル札に書かれた地図から金塊の隠し場所に気が付いたコバーンは、町の保安官の自慢の愛馬を奪って隠し場所に向かう。かくしてコバーン・保安官・コバーンに手籠めにされた男勝りの保安官の娘・本来の金塊強奪犯たちが四つもどえになって金塊の奪い合いが始まるのであった。 まったくと言って良いほど無名の西部劇コメディですけど、テンポも良く短い尺の中で二転三転するストーリーはなかなか愉しめました。なんといってもジェームズ・コバーンの飄々としたコメディ演技がシャレてます。バンバンと銃撃するシーンはあるけど、意外なことに序盤でコバーンが決闘で倒す一人の他に死人が皆無というところもイイですね。『OK牧場の決闘』風に各キャラクターの解説や心情を、カントリーミュージックで延々とナレーションするのも洒落ています。音楽担当は若き日のデイヴ・グルーシンで、グルーシンと言えば洒落た雰囲気の音楽というイメージなのにこんなコテコテのカントリーミュージックもできるとは、さすが多才です。クレジットはありませんが、ブレイク・エドワースがプロデューサーとして参加している影響も大きかったのかな。 とはいっても観る機会も少ないほとんどカルト的な映画ですが、観たら決して損はないと思いますよ。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2025-04-21 23:26:11)
14.  シビル・ウォー アメリカ最後の日 ネタバレ 
英国人のアレックス・ガーランドだからこそ、こういう洒落にならないような際どい題材の作品が撮れたのだろうと思います。〝米国で内戦が発生!”というでかいテーマを非常にミニマムな視点でしかもロードムービーとして撮っていますが、しょうじきなんで内戦が勃発する事態に至ったのか現在の情勢はどうなっているのかなどの基本的にオミットしているので、ワシントンDCへと向かう四人の視点でしか情勢が判らないようになっています。反乱軍としてタッグを組んでいるのがカルフォルニア州とテキサス州というちょっと現実にはあり得ないけど、リアルな米国の政治情勢を織り込んで刺激が強くならないようにという配慮があったんでしょうね。だからワシントンに近づいていっても何がどうなっているのかさっぱりで、どうやら政府軍は敗北しそうでそうなったら大統領は殺されることになりそうだということぐらい。その代わりに四人は道中で様々な理由で虐殺された一般市民を見ることになるわけで、まさに合衆国は北斗の拳の世界の様な修羅の国になっているということです。それでも途中には〝国が内戦状態であることを見ない”という現実逃避に走って平穏な暮らしが続いている町もあるわけです。設定では反乱側は全米50州中の19州、つまりいちおう連邦政府を支持する州の方が多いことになっていますが、きっと様子見というか傍観しているだけの国民が多いということなんでしょうね。主人公たちは報道カメラマンにTV記者そしてNYタイムズの記者でいわゆるオールド・メディアの奮闘を描いているとも取れますが、このSNS全盛の時代にはちょっと現実離れしている感も無きにあらずです。見習いカメラマン的な立ち位置のジェシーがニコンのアナログモデルを愛用していて屋外で使用できるキット(そんな優れモノがあったとは知らなんだ)を使用してフィルムを現像するシーンがあるところなんか、監督の意思が伺えたような気がしました。ラストの展開なんかトランプが観たら激怒することは間違い無しですが、さすがにハリウッドではあの写真のショットで幕を閉じるなんてことは、絶対ムリでしょうね。それにしても久しぶりにキルスティン・ダンストの出演作を観た気がしますが、すっかり歳相応のおばさん顔になっていましたね、これはイイ意味での誉め言葉ですけど。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2025-04-19 22:58:47)(良:1票)
15.  フランケンシュタイン(1994) ネタバレ 
メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』は、学生のころ英文購読の教材だったので読みとおしたことがありました。フランケンシュタインが創り出した怪物が哲学的な語りをすることに、妙に違和感を持ってしまったという記憶があります。原作に忠実に撮ったというこのケネス・ブラナー版を再見して、その違和感が甦ってきました。処刑者の頭部というか脳をくっつけて創られたクリーチャーがやっとFriendという言葉を理解できるぐらいの段階なのに、フランケンシュタインの研究ノートを読解して終いには愛を求めるようになる過程が、いくらフィクションとは言っても不自然な気がします。そもそもシェリーは科学否定的な思想の持ち主だったので、小説の中でもクリーチャーという存在の科学的な辻褄合わせには興味が無かったんじゃないかな。 このケネス・ブラナーの『フランケンシュタイン』は一言で要約すれば“グロいメロドラマ”ということになるのかな。デ・ニーロが演じるクリーチャーは、史上もっともグロいフランケンシュタインのクリーチャーだったと思います。このクリーチャーのパブリックイメージはボリス・カーロフ版であるのは間違いないけど、デ・ニーロのクリーチャーはボロを纏ったホームレスにしか見えないのが難点だな。でも登場時には生々しかった縫い目が終盤にはかなり薄くなっているところが、生身の肉体が素材だけあって妙にリアルです。ヘレナ・ボナム=カーターのエリザベスは、自分的にはミスキャストじゃないかと思います。このエリザベスには清楚な感じが皆無なので、私が抱くエリザベスというキャラとは隔たりがあり過ぎるのも原因かな。ラストで凄まじいメイクの女クリーチャーにされちゃうのはさすがに可哀そうだったかな、そういやティム・バートン作品なんかでも酷いメイクされがちだし、意外と彼女自身がこういうのが好きなのかも(笑)。 『ドラキュラ』を撮ったコッポラが本作ではプロデューサーにまわったわけですが、この作品では監督のケネス・ブラナーの撮り方には満足できずにかなりもめたらしいです。まあもしコッポラが監督にまわっていたら、こんなに音楽過多なメロドラマにはならなかったでしょうね。
[CS・衛星(字幕)] 5点(2025-04-09 22:33:00)
16.  ジョニーは戦場へ行った ネタバレ 
反骨の脚本家ダルトン・トランボが監督として製作した唯一の作品で、自作の小説の映像化です。1939年に書かれた小説で第二次大戦時と朝鮮戦争の間はその強烈な反戦性で出版されなかったそうですが、大戦中の差し止めは政府による発禁処分じゃなくてトランボ自身の判断によるものだったそうです。当時は共産主義シンパだったトランボがソ連を攻めているナチス・ドイツと戦う米国の戦争努力を邪魔したくなかったからだったのが本心みたいで、主義者にありがちなこういうダブスタはなんか嫌ですね。私はこの映画は史上最恐の反戦映画の一つだと思っています(もう一本は『火垂るの墓』)。初見はたしか中学生の時だったと思いますが、あまりの衝撃に永い間トラウマになって、その後ソフト化されたりして観る機会が増えたけど、どうしても再見する勇気がなかったほどです。 トランボが原作を書いたのは新聞に載ったカナダ軍将校の悲惨な運命に触発されたからですが、実はこの記事は事実を歪曲したほとんどフェイクニュースだったみたいです。でも江戸川乱歩の『芋虫』みたいな人間芋虫みたいになってしまったジョニーの過酷な運命は、考えるほどにこれほどダウナーな気分にしてくれるストーリーはないんじゃないかと思います。手足や顔、そして五感をすべて失ってしまっても生きるしかない人生なんて、身の毛もよだつというよりももはや想像することすら困難です。つまり「肉体を失って意識だけの存在になっても、それは果たして人間と呼べるのだろうか?」という問いでもあり、そうなってしまったらもはや『禁断の惑星』のイドの怪物となんら変わりのない存在なのかもしれません。 現実の病院での監禁生活がモノクロで、過去の思い出や頭に浮かぶ幻想はカラーという演出が効果的です。その思い出と幻想にクロスオーバーするように登場するイエス・キリスト=ドナルド・サザーランドのキャラが秀逸、神の子のくせに誰も救えず単なる黄泉の国への案内人程度の存在なのがキリスト教への強烈な皮肉になっています。けっきょくモールス信号というジョニーが外界とコミュニケーションを取れる唯一の手段を教えてくれたのが、死んだ父親の霊魂だったということも宗教の無力さを強調していたような気がしました。でもそのジョニーがやっと発することのできたメッセージが“SOS”と〝kill Me”だったという結末は、あまりにも悲惨でした… あまり人にお奨めする気にはなり難い種類の作品ですが、死ぬまでに一度は観てこのストーリーが持つテーマを考えてみるだけの価値はあると思います。
[映画館(字幕)] 9点(2025-04-03 23:31:13)
17.  夢のチョコレート工場 ネタバレ 
この映画は、ティム・バートンの2005年のリメイクを観ているかどうかが、微妙に評価に影響を与えているみたいですね。ちなみに私はバートン版はまだ観ていません。それでも大体のプロットは知ってはいましたが、このオリジナル版がミュージカル仕立てだったとは知りませんでした。最初のシークエンスでお菓子屋の店主が歌う”キャンディマン”を聴いたら、これがすぐに『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』でジェニファー・ティリーがオーディションで歌った下手な曲だと合点しました。なんせあのジェニファー・ティリーのオーディションのシーンは未だに鮮明に記憶に残っていますからね。サミー・デイヴィス・Jrもこの曲がお気に入りで、彼のライブでの定番曲だったそうで、米国じゃスタンダード・ナンバーと言える存在みたいです。日本ではなぜか未公開でバートン版が世に出るまで知名度が低かったのが不思議なくらいです。 確かに現在の眼で見ればセット撮影など古臭さを感じるのはやむを得ないですが、独特のブラックな作風は当時の基準から見れば斬新だったんじゃないかな。本作を児童向け映画に分類しちゃうのはちょっと観方が浅い様な気がしますね、だいいちチャーリー以外の4人の子供たちはある意味この世から抹殺されてしまったとさえ思える節もあるんじゃないでしょうか。招待された親子たちに向けるジーン・ワイルダー=ウィリー・ワンカの眼差しには冷やかなものがあるし、完全にサイコパス的な世捨て人風味が印象的です。ウンパ・ルンパたちのダンスや歌も、微笑ましいという感じじゃなくどちらかというと不気味な感じです。もし自分がこの映画をリアルタイムで観ていたら、きっと軽いトラウマが残ったことでしょう。まあこのストーリーは、本格的なミュージカル舞台にしたら面白いんじゃないでしょうか。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-28 22:43:02)
18.  ビートルジュース ネタバレ 
ティム・バートンの最初期の作品ですが、ある意味でバートンの世界観が彼のフィルモグラフィ中でもっとも色濃いんじゃないかと思います。でもWikiによるとそもそもはマイケル・マクダウェルが書いたオリジナル脚本が製作のきっかけで、脚本自体にはバートンは関わっていないみたいです。でもビートルジュースやゴーストたちの造形や見せ方には彼のアイデアが詰まっていて、これでバートンの世界観が確立したんじゃないかと思います。よく考えると幸福なカップルが事故で死んでしまってその後に幽霊になって自宅だった家の住人を追い出そうとする、まるでニコール・キッドマンの『アザーズ』の同じおどろおどろしいプロットなんだけど、これをブラックユーモアでここまで奇天烈なストーリーにしちゃったところがバートンの非凡なところです。生前のアダムがなぜか造っていた町のジオラマが、ビートルジュースが蘇る異世界と繋がっているという不思議な世界観は、バートンらしくて好きです。尺のほぼ半分過ぎまで実は登場しなかったマイケル・キートンの怪演がまた強烈で、セリフのほとんどがキートンのアドリブだったそうでこれにはびっくりします。ウィノナ・ライダーのゴス趣味娘も、その後の彼女のパブリックイメージを確立させたんじゃないかと思います。自分にいちばんのツボだったのは、エビのディナーでのバナナ・ボート・ソングのシークエンスで、何度観てもほんと笑ってしまいます。この映画はスタンダードになってその後アニメやミュージカル舞台にもなりましたが、いちばん驚くのは36年も経ってからティム・バートンが続編を撮ったことでしょう。マイケル・キートンやウィノナ・ライダーなどのオリジナルキャストというのも凄いですが、さすがにジェフリー・ジョーンズは出演できなかったみたいですけどね(笑)。
[CS・衛星(字幕)] 6点(2025-03-25 23:10:41)
19.  ミザリー ネタバレ 
自分が今まで観た中で、おそらくもっとも“痛み”“激痛”という感覚を実体験させられたような気分にしてくれた映画です。銃で撃たれたり刃物で刺されたりすることは普通の人生では経験することはまずないが、自分は未体験だが交通事故などで骨折することは実生活で遭遇する可能性はあるわけで、その痛みが想像できてしまうわけです。まして足首にくさびを挿んでごついハンマーでへし折られるなんて…あのあり得ない角度で折れ曲がった足首を見せられたら、たぶん映画館では観客から悲鳴が上がったことでしょう。この映画も主演オファーを拒否した男優スターの顔ぶれを見ると錚々たる面々で、やっぱこんな酷い目に遭う役は躊躇しちゃうんでしょうね。その中にジャック・ニコルソンもいたそうで、『シャイニング』で狂ってゆく作家を演じた彼が今度は狂気の読者にいたぶられる作家を演じるなんて、想像しただけで笑えてきます。 ロブ・ライナーの演出とウイリアム・ゴールドマンの脚本は、登場人物が少ないながらも上手に伏線を張っていて飽きさせないものがあります。とくにライナーは全作品を観て研究しただけあって、たしかに往年のヒッチコックを彷彿させるサスペンスの盛り上げ方でした。私は原作未読ですけど、ポール・シェルダンの薬物中毒歴のオミットや原作にない保安官リチャード・ファーンズワースの存在など、かなり独自の脚色があるみたいですがスティーヴン・キングはこの映画がいたくお気に入りのようです。それはやはりキャシー・ベイツの出演が大きかったみたいですね、彼は本作後もベイツのために二本もオリジナル・ストーリーを書いて映像化してるぐらいですから。確かに狂っているけど純真な乙女チックな表情を時折見せるところなど、その緩急の付け方が舞台女優出身らしく上手いと思います。最後に〆られる女性ヴィランが登場する映画は珍しくないけど、本作のベイツほどボコボコ(とくに顔)される女優は観たことないって感じでした。ポール・シェルダン=ジェームズ・カーンも、これは後期ジェームズ・カーンの代表作として永く記憶される演技だったと思います。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2025-03-22 23:21:33)
20.  アミスタッド ネタバレ 
アミスタッド号をめぐる奴隷貿易事件はあくまでスペインやポルトガルの奴隷貿易が根本の問題なんだけど、それが当時まだ奴隷制度を維持していた米国に重い課題を突きつけたのは事実でしょう。現実に米国内での奴隷解放運動に燃料投下したような節もあり、いわば同じスピルバーグ作品『リンカーン』は本作の続編の感もあります。『カラーパープル』も含めて奴隷制度問題は、実はスピルバーグのライフワークの一つだったのかもしれませんね。日本ではそろそろ黒船が来襲して幕末近しという時代なのに、欧州では奴隷制度をまだ維持していた国があったというのは驚いてもいいんじゃないかな。でもスペインやポルトガルではあくまで植民地での制度だったけど、米国だけは国内の重要な社会制度の一つだったんですから、罪深いものです。この映画ではそれまでさんざんやらかしていた”ブリカス”大英帝国だけが正義の味方みたいな感じになってるのは、奴隷貿易を取り締まったことは史実なんだけどちょっと腹が立ちます。でも考えてみると、最近のチャイナマフィアがミャンマーでやってることを考えると、こういうことは過去の出来事だと言い切ることは出来ませんね。 最初のころ、シンケたちアフリカ人の言葉に英語字幕がずっと付かなくて、このままで押し通すのかとなんか不安になりました。でもこの映画の隠れテーマは、互いに言語が通じない人種がどうやってコミュニケーションを取れるようになるかということだった思います。それが例え言語が同じであっても理解させるのが難儀な法廷闘争をするということに、この映画の面白味があったと感じます。まあ説教臭いというか、聖書の挿絵を見るだけでキリスト教を理解し始めるというのは、ちょっとなんだかなあとは思いましたけどね。最後は法廷映画でお決まりの大弁論というか演説でしたが、名優アンソニー・ホプキンスですからそりゃ格調高い仕上がりで思わず聴き入ってしまいました。やっぱ演説は名優にやらせるのが一番ですね。モーガン・フリーマンが演じたキャラは本作主要キャストで唯一の架空人物だそうですが、妙に存在感が薄くて活躍が見れなかったのは残念。 悲惨なお話しだったけど、当時のスピルバーグの残酷風味は『プライベート・ライアン』や『シンドラーのリスト』に比べたら薄かった感はあります。まあ本作は出来の良い法廷劇として観るのが正解だと思います。
[CS・衛星(字幕)] 7点(2025-03-16 22:04:14)
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