21. 春の雪
《ネタバレ》 映画としては、充分及第点をつけられる作品だったと思う。監督の力量に安定感を感じる。 決定的な不満は残ったが…橋本治の三島由紀夫論によると、この話の白眉は第四部のラストにあるという。 数十年後、出家して門跡となった聡子を訪ねる本多が、「松枝など知らぬ」と言われることで、無常感極まるのだという。「豊饒の海」である。月のクレーター。不毛の地。 「春の雪」だけを映画にされてしまうと、一見「純愛」のように幕を閉じてしまう。やっぱり不満だ。 で、なにはともかく大正ロマンを満喫できる。大正ロマンとは何か。私は「富の錯覚」と評したい。 もともと日本は貧乏な国なのであり、今もそうで、日本史を振り返って見たところで、天皇になったって、将軍になったって、大した贅沢ができたわけでもなく、日本人は贅沢に慣れてないどころか本当の贅沢の意味も知らぬ。大正元年当時の日本人だってそうで、おそらく松枝侯爵のやっていることなど西洋の貴族から見たら「貧乏人のままごと」でしかないに違いない。プチ松枝侯爵がうようよ発生した時代、それが大正ロマンの時代と思う。 「春の雪」それは、男対女の純愛…などではない。なんたってあの三島由紀夫が考えた話だもの。 S男とM子が見事にめぐりあい、これ以上ないという絶好のシチュエーションで、〝プレー〟を楽しんでいる…そして、S男の脇には「友達」ではなく〝ホ〟で始まる美男子もセットされている…なんと三島好みの構成。それが「春の雪」だ。 映画「春の雪」を見ながら、行定監督の手腕よりも、原作者三島の意地悪さのほうに、「うーん、やるな」と唸ってしまう。 キャストについては、まず竹内結子に「首の短さ」という救いがたい難がある(そして意外に太い)。 なおかつ、聡子を演じるにあたって、おそらくは美智子皇后や紀子妃の立ち振る舞いを真似たと思われるのだが、これがいけなかった。常に前傾姿勢でいることによって、首の短さが強調され、着物も洋服も似合わない。…竹内には可哀想だが、私としては若い頃の鷲尾いさ子にやらせたかった(でも鷲尾はSの系統だ…)。 妻夫木はなかなか驚かせてくれた。人をアゴでこき使う性格の悪いお坊ちゃんを、よくここまで再現できたと思う。今は亡き岸田今日子はやはりすばらしい。宇多田のエンディング曲も良い。 最後に…及川光博はやはり決定的に軍服が似合わない。お願いだからもうやめて。 [DVD(邦画)] 8点(2007-06-12 18:09:59) |
22. ベント/堕ちた饗宴
《ネタバレ》 これってマトモにシナリオだけ見ちゃったりすると、その場で死んでしまいたくなるような悲惨な話なのよね。ほんとは、誰かと一緒に見たほうがいいくらいに救いのない映画なのよ。 ずっと前に見たんですけど、TVで紹介されてたので。私は女だし、ゲイでないので、「男のゲイ」の人がこれを見てどんな気持ちになるかと思うと、それだけで胸がつぶれるようだわ。とにかく「否定」とにかく「人格破壊」人間性ゼロ。 映画としては、冒頭の自堕落な雰囲気と、逃亡を始めてから転落しつづけるラストまでのコントラストが巧みですね。あのいいかげん生活を見せたからこそ後半の刑務所が生きる。どこまでも人間であろうとするゲイと、どこまでも非人間的に扱うナチ。ああそれにしてもー、いいじゃないか、ゲイだって。キリスト教やユダヤ教やイスラム教の神様はダメと言ってるけどもー、人にメーワクかけなければ、共存したらいいじゃないか何もそこまでしなくても。というのは日本人の理屈であって、「ダメ」となったらもう人間扱いされないのがあちらの世界。二進法。グレーゾーンなし。 実際にはゲイの知り合いはいないわたしだが、ゲイ差別には反対したい。ゲイを差別する世界観とは、独身の女も子供を持たない女も喫煙する自由も認めないものであろうから。そしてそんな窮屈な世の中はイヤだから。すべての「人間性を否定するもの」を否定しよう。それがこの映画の主張と思う。これは最強のゲイ・ムービーであって、これ以上のインパクトのものはもう作れないでしょう。ブッシュがゲイをいじめたら、ホワイトハウスの前でこれを上演してやれ! [DVD(字幕)] 8点(2006-03-13 23:02:41) |
23. 異人たちとの夏
《ネタバレ》 すきやきの皆様が多いようで。私は「きゅうりでもかじる?」が。それって、もてなしなんだー。そんなの言われたことないし。これはよくできたファンタジーです。「フィールドオブドリームス」のように、亡霊の力で現実世界に何か働きかける、ということもなく、ただ現れて、会話して、去って行く。というところが日本の幽霊は始末がよいですね。30年代風の雰囲気もよいです。こんな風に、ふらっと現れてくれないかなあ、飼い犬と、先輩Yさん。会いたくてたまらない。 [ビデオ(吹替)] 8点(2006-01-22 20:44:25) |
24. 鬼畜
《ネタバレ》 映画「鬼畜」は様々な視点から観ることができる作品であろうが、個人的には実話という場合は、何よりも「実行者の心理」に興味を持つ。妻の言いなりになって我が子を次々に捨てるという、信じがたい行為に及んだその心理に興味を狩られる。どうすればそうなるのか。彼自身は積極的に子供を疎んじているようには見えないし、「本当は殺したり捨てたりしたくない」し、何より「子供が彼を慕っている」=「何らかの愛情を感じ取っている」ように思う。「何でも他人の言いなりになって、抵抗できない」→その理由「自分はおよそすべての他人より劣っている」=「自分より優れた人間に常に従うほかはない」という固定された構図が、この男の頭の中にあったのではないかと推測する。これは、成長過程における「成功体験の欠如」が原因としか考えられない。この映画に見る彼は、知的障害者でもないし、精神を病んでいたわけでもないからである。このように考えるに至ったのは、身近にモデルとなる男性(同僚)がたまたま居たためである。「誉められたことがない」「常にバカ、グズと言われ続ける」このように育って「自分だって人並みに頭が良い」と思うことができるであろうか。このような「成功体験を欠く」人たちの中には、私の同僚のように常に他人の言うことが正しいと思い、自ら考えたり要求したり交渉したり闘ったりすることができない大人が存在する。そして「鬼畜」の主人公の行動を可能足らしめたものはこのような心理ではないかと思うのである。よって、愛人によって初めて「誉められる」を与えられた彼が、簡単に彼女の懐に落ちたであろうことは当然である。映画版は、この構図を納得のいくよう描いていたと思う。この推測に添って考えると、ビートたけしのTV版の主人公は、「違う」ように思われるのである。「それなら捨てないで済むでしょう」と思えてくる。ともあれ姪っ子を見るにつけ、まことに「子供は誉めなければならない」と思うのであった。 [ビデオ(吹替)] 8点(2006-01-22 19:08:03)(良:2票) |
25. パーフェクト・カップル
なかなか面白く見られた。キャシーベイツがレズビアンというのにたまげた。実生活のことはよく知らないけど。「アリ」なようで「やめてー」なようで、もはやこの世のものとは思われないそのりりしいゲイ姿。完全に主役より強烈になっちゃってた。そういえばこないだシュミットさんで彼女の胸を見てたまげたばかりだ。 トラボルタなんていつでもトラボルタだけど今回は「某大統領のフリしてます」なめずらしい役どころ。確かにあのドーナツ屋シーンは特筆モノ。ぼそぼそしゃべってるしさ。いつもまぶしそうな目だしさ。モノマネとしては下手だったけど、「それなりの《トラボルタがやってる》クリントン」ではあった。ところで「ビョーキ」の亭主を持ったらどのように生きていけばよいか、現在世界で最も含蓄のあるアドバイスができるのはヒラリーに間違いない。ぜひ聞いてみたい。べつに実生活には役立たないが。仁科明子と対談なんていかがでしょう。 [ビデオ(字幕)] 8点(2006-01-10 22:03:22) |
26. 死国
《ネタバレ》 まともな和製ホラー。方言による効果を生かしきった。優柔不断界の雄、筒井道隆を起用して、蘇った栗山千明の愛へギブアップすることに説得力を持たせようとしている。「逆打ち」も意表をついていてよい。 [ビデオ(吹替)] 8点(2006-01-02 21:14:09) |
27. Shall we ダンス?(1995)
《ネタバレ》 最初見たときは邦画としては秀作と思ったものだ。映画としてはべつによい。ハリウッド版を見て、色々思うところがあった。まあ、普通の日本人のおっさんが社交ダンス始めるのと、普通のアメリカ人がやるのとでは、「意外さ」が全然違うでしょう、ということ。あと、草刈民代がコケるシーンは、日本的にはOKでも、欧米的にはNGなんだ、ということ。たとえ自分が骨折しようが死のうが女にケガをさせるな、男は。っていうのが欧米的には正解みたいだよ。それとも単にロペス的にNGだっただけなのかしら。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-12-31 23:31:44) |
28. ターン/TURN
《ネタバレ》 これはなかなか驚いた。しっとりしていて。あの家のインテリアって、なつかしいのにおしゃれで、ださいようで実は計算されてるという、インテリア界では「くろうと好み」の範疇だわ。 マキセも好演。このヒロインて、けっこういい年して親と一緒に住んで、版画だのメシの種になりそうもないことマジメにやってて、女から見ると「ケッ」って最初は思っちゃうんだわ。「カマトトぶってんじゃねー」って、言ってやりたくなるんだわ。でもさあ、こういう女でないと、その後の展開が成立しないよね。「お金を置いてこないとなんだかイヤなの」ってさあ。「純粋培養」の「ゲージュツ系」の夢見る27歳。最後の方では、「もういいやこういう女でも」と思ってしまったのが不思議だ。無理をすれば友達になれるかも。でもこんな女いないから。「いた」と思ったらそれはだまされてるんだって。無人の街にイギリス映画「28日後」があるよ。もちろん日本人には「ターン」がリアル。 [ビデオ(吹替)] 8点(2005-12-31 01:03:42) |
29. アポロ13
このときビニール袋に入れた糞便を捨てられなくて、それらの物体がクルーたちのまわりを舞っていたということですが、想像するだけで「おぞ」でございます。しかしそんなことにもめげず、各人の極限まで能力を使い切って、生還したことがすばらしいと思います。いいときは誰だってうまくやれるんだから、ダメになったときにどうするか、考えさせられる作品です。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-12-25 23:19:23) |
30. この子の七つのお祝いに
《ネタバレ》 角川映画で一番記憶に残る作品。日本人でなければわからないであろう。大陸からの引き上げとかさ。外人が見ても「だから?」だよね。何が怖いかって、「ここまで悲惨でなくてもこれと似たような話はいっぱいあったであろう」と多くの年配の日本人が知っていること。そういう無茶苦茶や混沌が「あった」ということを「知って」いること、それを極端に膨らませて悲惨きわまりない話に仕立てているけれど、けっして別世界の話ではないこと。だから怖いんです。松本清張的な感じもしますね。 [地上波(吹替)] 8点(2005-12-23 18:53:10)(良:2票) |
31. 影武者
《ネタバレ》 「夢」の後にふと思いついて見てみた。クロサワに対する知識はあんまり無いところが、我ながらあっぱれかも。だから、「深作」とどっちが面白いかなー、というノリで見たりする。 これは楽しめた。しかし、私が楽しめたのは、「信長」と「家康」の場面ばっかりで、「わー、本物ぽい」と喜んでいた。うん、隆大介にはびっくり。この時まだ若かったんだよね。家康も、「本物はかくあったであろう」と大喜び。二人のミーティング場面では、お茶目な蘭丸もいるし「ほんとにこんな感じで会ってたかもー」とさらに喜ぶ。しかし、しかーし、仲代のところは全然楽しくないんだなー。突然舞台劇を見せられてるようで。クロサワさん、仲代使うのやめませんか、ってもういないけど。 [DVD(字幕)] 8点(2005-11-25 22:42:21) |
32. 夢(1990)
《ネタバレ》 うん、きれいだった。こんな夢を見たって、なんか、「夏目漱石?」と思った。個人的な見解ですが、最初のお母さんといる場所って、生まれる前?そんで、お母さんが急にきびしくなって、謝って来いって追い出されるの、あれ「誕生」?するとだな、人間の一生を描いていることになるが、(人間の、というよりクロサワの)それって、「最初っから、謝りに行く」なのかなあ。それだと生きるのつらいんだけど。私の推理がもしも当たっているならば、クロサワってのは相当のMに間違いない。 晩年これを残したのは良かったと思う。私のようなアホにも少しは何か伝わるので。 [DVD(字幕)] 8点(2005-11-25 22:29:22) |
33. 柳生一族の陰謀
《ネタバレ》 だってさ、時代劇なのにこのシュール。深作欣二って、きっとフリードマンみたいなヤなやつだったと思うけど、天才じゃ。「魔界転生」の次に好きかも。ラストがシュールすぎて分からないけど、それもまたよし、と思わせる。黒沢より深作だなあ。 [DVD(字幕)] 8点(2005-11-25 22:18:15) |
34. その男、凶暴につき
《ネタバレ》 いわずと知れたデビュー作であるため、この作品をどう作るかでその後の北野武のゆくえが決まることとなったのだった。私が最も重要視したいのは、「野沢尚が脚本のクレジットされるのをいやがった」という点である。それくらい勝手に変えちゃった、ということである。もう最初っから、デビュー作にして「今までと全然違う自分のやつをつくる」という意思が明確にあったのだ。結果、誰もが驚くシュールな仕上がり、セリフを軽視した独特な作品が出来上がった。「今までのどの邦画とも違う」と誰しも驚愕することとなる。「黒沢と同じところから登ってもだめ」という彼が、言葉を駆使して商売する芸人でありながら、最も言葉に頼らない作品を作る。そのアンバランスさが面白い。女性を物扱いする芸風は、花火のころには多少の改善が見られたが、ここではまんま。 [ビデオ(字幕)] 8点(2005-11-20 14:31:50)(良:1票) |
35. 五条霊戦記//GOJOE
《ネタバレ》 この分野では、ひさびさに良かった。4,5回見た。あのお坊さん、勅使河原って、監督やったりする人だよね。途中まで、「板尾創治」と思いこんでいた。「えっ、板尾が映画に出てる。」「出世したもんだ」と驚いていたら違った。似すぎている。大介は黒沢映画で信長をやったときから「よい」と思っていた。信長はすごかったなあ。本人見たこと無いのに「本人みたい」と思ってしまった。だれがどう見ても浅野は15歳の義経には老けすぎている。しかし出産女以外は全般よし。ラストのオチがアイディアよし。かなりな驚き。もう一回見てもよい。 [DVD(吹替)] 8点(2005-11-09 22:00:45) |
36. 呪怨 (2003)
《ネタバレ》 このそっけない進め方がクールである。よくできている。なかなかがんばっている。後戻りのできない感じ、好きですね。「ばい菌」のようなものですか?それは日本古来の「けがれ」というものとおんなじだ。「たたり」だ。たぶん日本人にしかわからない。 [DVD(吹替)] 8点(2005-11-07 20:28:24) |
37. リング0 バースデイ
《ネタバレ》 「2」に比べればよっぽどマシでした。なるほど「予言」の監督さんですね。「予言」は悪くなかったです。 たぶん…監督さんは…仲間由紀恵を使わなければいけないことにさんざん苦しんだでしょうねえ。彼女もがんばっていたし、撮るほうも工夫をしていましたけど、しょせん「仲間由紀恵」ですから。 こういうホラーの主役に「仲間由紀恵」。よりによって、明るい日本元気な日本の旗印となっている彼女です。どういう配役じゃ。 どっちかといったら、麻生久美子でしょう。暗さは充分だし、全国的にはまだメジャーとはいえないし。ただし、受け口で顔が細いため長髪が似合わないという致命的な欠点が。 全体的には悪くなかったです。努力のあとがうかがえます。 しかし、貞子=仲間由紀恵。やっぱり無理です。 あとなあ、スーちゃんが拳銃を握って走っているほどミスマッチな画もないですよね。 スーちゃんのような純日本人体型の女性にはこの役はムリ…。スーちゃんにダークカラーのパンツスーツはダメです。スーちゃんが紋切り口調で話すのもダメ。なぜここにスーちゃんをもってきたのでせう。 ラストの一工夫も良かったと思います。努力賞、でもキャスティングがダメで賞。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2009-09-24 13:47:19) |
38. 間宮兄弟
《ネタバレ》 原作を読んでいないで言うのもなんだが、江國は恋愛至上主義を否定する小説を何本も書いているから(と勝手に思っている)、「間宮」を見た感じでは同じ路線でいいのだと思う。 たぶん江國の目的というか目標は、日本全土に巣くった「恋愛至上主義」の希釈(撲滅でなく)なんだと思う。で、「女無しでも幸福に暮らしていける兄弟」を主役に据えるというのは、江國的にはかなり「本丸に近づいた」ということだろう。本音を出してきたと思う。 が、小説の原作者が女で、映画の作り手は完全に男だった、というところから、やっぱりミスリードが避けられなかった。映画を原作とは別物と考えてもいいのだが、江國の狙いと全然違うところに着地してしまったあたりは個人的にはトホホである。やはり女性監督(ゆれるの西川監督とか)に撮ってもらいたかった。 江國は「恋愛」の存在そのものは否定していないのだと思う。それは「ある」。けれど、今は「そればっかり」ある。人生の他の様々な要素の中で、それが重要視されすぎる。「濃すぎる」から希釈しようよ、というのが江國のねらいなのだと思う。「人生のベストパートナーとは、一対の男女であるとは限らない」ではないか? でもやっぱり映画では、「女にもてなくたって、楽しく前向きに生きようよ」というわかりやすーい大団円を迎えてしまった。そうではないのだ。それではセカンドベストというに過ぎない。 そこらへんが男性の作り手の限界なのか、作り手の感性の問題なのか、監督と視聴者の世代間ギャップなのか。 佐々木のクサみに対して素人の塚地を当てて中和したあたりはさすが老練な監督といえるが、それならなぜもともとクサい佐々木でなければならなかったのか?という疑問は残る。 セリフを言うのがせいいっぱいの塚地は全面的に監督の演出通りに一挙一動しているが、結果的に「自然に見えて」正解だった。おそらく塚地の世話にかまけて佐々木を放っておいたために、クサみを消すのに腐心した佐々木の演技は終始中途半端。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2008-06-27 14:17:53) |
39. 隣人13号
《ネタバレ》 ・監督のセンス・力量は確かである。音楽やカットの多さでごまかさず、ずばりを映し出す手法には自信を感じる。人物描写にも手を抜かず、ヤンキー一人一人に対しても存在感を吹き込んだ。 ・沈黙したまま数秒以上経過させるなどの演出を多用したことにより、冗長さを感じさせる。テンポの早い場面と、静止場面のバランスがあまり良くない。 ・グロ・スカトロ場面の思い切りが良すぎて残念。 子供の虐殺場面により、海外での公開は望めないこの作品。しかし、監督の並々ならぬ才能を確実に示している。だから、スカトロ場面が残念なのだ。宮崎勤事件以来、悪評高まったグロ・スカトロ系のとんでも映画との違いを示しにくくなってしまう。 「隣人13号」がその手のとんでも映画と同じなのかと聞かれれば、誰でも「それは違う」「なぜなら有名俳優が出演しているから」と言うだろう。けれど、小栗旬や中村獅童を知らない観客が見たらどうだろう。グロ・スカトロ以外の描写がいかに優れていても、とんでも映画との違いを説明するのが難しい。この監督に、日本では珍しいセンスを認めるからこそ、私はグロ・スカトロからは手を引いてほしい。井上靖雄はリドリー・スコットではないので、アンソニー・ホプキンスやジュリナン・ムーアを起用することができないのだから、同じくらいにグロい場面を撮ったときでもそこには決定的な違いがあるということを意識しなければいけない。「貴族の芸術的お遊び」と「特殊な愛好者向けの供給物」という違いが。 もうひとつ、過去のいじめられっ子の怨念を昇華させ、現在のいじめられっ子へ救いと問いかけを投げ、現在のいじめっ子に対してはある種の脅しとなり、過去のいじめっ子の良心を問うという映画の目的が明確すぎる点。 例えば、「麻薬はこんなにおそろしい~ドラッグの恐怖」という中高校生向けの啓蒙映画があったとしよう。そこにはどれだけの芸術性があるだろうか。「飲酒運転の恐怖~飲んだら乗るな」はどうだろう。「悲惨ないじめ~見て見ぬふりはやめよう」とか「みんな同じ人間だ~手を取り合って」とかいういじめ撲滅啓蒙映画があったらどうだろう。 目的が明確すぎるということは相対的に芸術性が落ちるということなのだ。 だから「昇華」を目的に作品を作るのは私はあまり感心しない。これはなかなかわかってもらいにくいことだが。 今後におおいに期待する。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2008-06-16 15:02:35) |
40. 予言
《ネタバレ》 必ず誰か一人が死んでしまう状況、何度やり直しても家族全員が生き残ることはできない。こっちを足せばあっちが減る、という数学的なものを感じるし、萩尾望都や映画「バタフライエフェクト」をはじめSF各ジャンルで追求されてきたテーマですね。 そこに、お告げを聞いてしまう人間の存在と新聞をからめ、うまくまとめていると思う。ホラーとしては、なかなかの仕上がりと思う。 あと、この作品は、極端にセリフが少ない。…まさか酒井法子になるべくボロを出させないため、ではないだろうが、本当にセリフが、無いといっていいくらいに少ない。 ほとんどすべて、シーンそのものや、人物の目配せや身振り手振りで観客に伝えようとしているのだ。かなり意図的にセリフを省いていると思う。だから、終盤の「この電車に乗らないくれ」の一言が、「アレ、久々にセリフらしいセリフを聞いたな」と強調されてくる。 キャストについて。三上にとっては、十八番といえる役柄であったろうし、特に異論はない。そしてなぜ酒井法子…。 離婚して、バリバリ働いて車を乗り回すキャリアウーマン、という役どころだというのに、これほどノリピーに合わない役も無いし、…演技というほどのことは何もできてない…。セリフを棒読みして、あとは三上とのラブシーンを嫌々こなしているだけ(本当にイヤそうだったなあ。)。 女優落ちした元アイドルの中でも、ダントツで一位を献上したい大根である。や、大根とも言いたくないような気がする。大根のあとには少なくとも役者がつくから。酒井法子。この演技力で映画に出るとはある意味すごい鉄面皮。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2007-08-17 11:46:07) |