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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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61.  県庁の星 《ネタバレ》 
 これは面白い。  失礼ながら期待値は低かっただけに、嬉しい不意打ちを食らわせてもらった気分です。   劇中においても、こういった気持ち良い「不意打ち」が幾つかあって、特に印象深いのは主人公が婚約者に振られてしまう場面。  ここは観客の自分としても、主人公の気持ちとシンクロして「出世コースから外れたので振られてしまった」とばかり思っていたのですよね。  けれど、実際はそうじゃない。  「私の事を見てくれなかった」のが破局の理由であり、思い返せば、確かに伏線(=主人公は仕事について考えてばかりで、彼女のウェディングドレスを選ぶ際にも上の空)が張られていたのですよね。  これが「理不尽な裏切り」ではない「心地良い意外性」となっており、自分としても、この場面をキッカケとして(これは思っていたような映画とは違うぞ……)と襟を正して観賞する事が出来たように思えます。   潰れそうなスーパーを主人公が再生させる話といえば「スーパーの女」という先例が存在しており、あまり目新しさは望めないだろうと覚悟していたのですが、そんな予想も覆される事になりましたね。  あちらの作品は、ちょっと意地悪に解釈すれば「絶対的に正しい主人公が、間違っているスーパーを改革する話」という、やや一方的な内容であったのに対し、本作では公務員の主人公と店で働くヒロイン、それぞれに「正しい部分」「間違っている部分」が存在しており、対立を経て互いに認め合い、欠点を補完し合っていくという内容なのです。  それが非常に好ましいというか、自分の感性に合っていたように思えますね。   他にも「水で手を洗おうとしたら、蛇口が汚くて躊躇する主人公」という些細な描写で、その性格を端的に示してみせる辺りも好みでしたし「プライドの高さゆえ僅かなお辞儀しか出来なかった主人公が、研修期間を終えて店を立ち去る際には深々と頭を下げる」というベタな演出を挟んでくれる辺りも心地良い。   最後の最後で、店を守る決め手が「カンニング」という辺りには幻滅しかけましたが、そこで、またまたサプライズ。  それまで役立たずとして描かれていた店長が、意地を見せて店を守る形となっているのも嬉しかったです。   現実的な題材であるにも拘らず、そこかしこにリアリティの乏しい部分が見受けられる事。  主人公とヒロインが恋愛関係になる必然性は無かったように思える事。  そして、店のパートと行政パートが、あまり密接に絡んでいない辺りなど、色々と粗も目立ってしまうのですが、それでも全体としては長所の方が多かったかと。   研修を通して主人公が学んだのは「素直に謝る事」「素直に教わる事」「何かを成し遂げるには、仲間が必要だという事」と語る件も良かったですね。  完全無欠のハッピーエンドとはいかず、女性知事の狡賢さ、強かさを見せ付けるシニカルなテイストも備えており、それで後味が悪くなるかと思いきや、主人公は全て承知の上であり、前向きな姿勢と共に終わってくれたのも素晴らしい。  「そう簡単には通らないはずだ」「でも、諦めない」という、一時的な努力だけで済まさない、努力を継続する決意の恰好良さが伝わってきました。  その第一歩が、県庁におけるエスプレッソの有料化という、非常に小さなものであった辺りも、ユニークな落としどころだと思います。   面白い、楽しめたというのは勿論ですが、それ以上に「気持ちの良い映画」でありました。
[DVD(邦画)] 7点(2016-12-29 08:20:51)(良:2票)
62.  陽気なギャングが地球を回す 《ネタバレ》 
 導入部では、中々スタイリッシュな犯罪ドラマになりそうだと期待させられたのですが……どうもノリ切れない内容でした。   とてつもなくクオリティが低いという訳ではないと思うのですが、何かチグハグなんですよね。   例えば、カーチェイスをCGで描くシーンとか「おっ、これはそういう悪ふざけ演出で楽しませてくれる映画なのか?」と期待したのに、以降はそういうノリがあまり感じられないせいで(あれは意図的な演出ではなく、予算の都合でCGにしただけだったんだなぁ……)と、観ていて落胆させられちゃう訳です。  また、主役のギャング達には特殊な能力があり、ルックスも良くてと、魅力的に描こうとしているのは伝わるのですが、そのやり方が「周りの人間を恰好悪く描いて、相対的に恰好良く見せようとしている」ように思えてしまい、違和感が大きかったですね。  冒頭の警官をからかう件とか、自分達以外を見下している空気が伝わって来て、彼らが単なる「嫌な奴ら」にしか思えないという形。  その結果、馬鹿にされている警官やら他の強盗やらの方が「みっともないけど、必死に頑張っている」感じが伝わって来て応援したくなるものだから、主人公達が見事に強盗を成功させても、観客としては、ちっともカタルシスを得られない。  恐らくは黒幕を徹底的に嫌な奴として描く事で、主人公達を応援させようとしていたとは思うのですが「同じ犯罪者なのに、何で片方だけがさも善人であるかのように扱われているの?」と白けてしまったくらいです。   同監督の「極道めし」は結構楽しめただけに、非常に残念。  恐らく、この監督さんはスタイリッシュな犯罪アクション物などよりも、コメディ、人情物の方が得意なのでは? と思えましたね。  本作においても「象を冷蔵庫に入れる為に必要な、三つの条件は?」というクイズを、シュールに映像化させてしまうセンスなどは良かったです。  劇中で「映画の終わり方に関する演説」が始まると共にスタッフロールを流し、これで終わったと見せかけて、ちょっとだけ続けてみせる辺りも好み。  クイズの答えを伏せたまま終わるような意地悪をせず、最後の最後に、きちんと答え合わせしてくれた事からも、作り手の誠実さが伝わってきました。   一応は仲間であったはずの地道こそが、黒幕の神崎であると本性を曝け出す場面にて口にする 「神崎なんて存在しなかった。いや、地道が存在しなかったのかな?」  という台詞なんかも、あぁ「真実の行方」が元ネタなんだと分かって、ちょっと微笑ましかったですね。   オシャレな恰好良さ、というものは感じられなかったけど、オシャレな面白さの断片のようなものは窺えた一品でした。
[DVD(邦画)] 4点(2016-12-29 04:13:16)
63.  予告犯 《ネタバレ》 
 この映画、面白いです。   面白いんですけど……序盤の拷問シーンで「悪趣味だなぁ」と思い、終盤の感動シーンで再び同じ感想を抱いてしまったので、どうも手放しでは褒められない内容。  「良い話にしようとしているのは分かるけど、無理あるよね?」という思いが浮かんで来てしまい、中々それが消え去ってくれなかったのです。   結局のところ、本作を楽しむ上でのキーポイントは「外国人の友達が死んでしまった」→「彼は死ぬ前に父親に会いたいと願っていた」→「自分達で探しても父親は見つからない」→「日本で一番捜査力が高いのは警察。死んだ友人の名前を騙って事件を起こし、彼らを動員して父親を探させよう」という、犯人達の行動を受け入れられるかどうかに尽きるのではないでしょうか。  自分としては「死んだ友人の名前を騙って」の部分が、ちょっと受け入れられなくて、本当に友達想いの奴なら、そんな事はしないだろうと白けてしまい、残念でしたね。  作中のテーマとしては「理由があって、頑張れない奴もいる」という、社会的弱者の存在を肯定するような意図があったのだと思われます。  けれど、就職活動はともかく、父親探しにおいて主人公達が「頑張れない」理由がハッキリしなくて、真っ当な方法では探せないと諦めて、死んだ友達に犯罪者の汚名を着せるのを承知の上で、楽な手段を選んだだけとしか思えないのです。  せめて「何年もかけて自力で探したけど手掛かりすら掴めなくて、止むを得ず最後の手段を選んだ」という形なら納得も出来るのですが、そういった過程を経ていないので、主人公達が努力を放棄したようにしか見えない。  酷く典型的な台詞になってしまうのですが「そんなやり方を、本当に生前の友人は望んでいたのか?」という疑問も浮かんできます。   それらの罪を償う為の自殺オチだったのでしょうが、終盤やたらと主人公を賛美する展開になっているものだから、どうも作り手との価値観のズレを感じました。  主人公と対峙し、その思想を否定する立場だった美人女刑事にまで「全てを予告し、やり遂げた」と嬉しそうに言わせたりしたのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃないかなと。  生き残った犯人グループの仲間が、罪を全部主人公に被せて自分達だけ助かる件も、シニカルに描くのではなく「主人公の自己犠牲の美しさ」を強調するような演出だったりするものだから(えっ、そこで感動させようとするの?)と驚いてしまったくらい。   その他、主人公が会社での陰口に気が付く件なんかも、あまりにも非現実的な「周りの人間は皆、嫌な奴」過ぎて(これ、現実なの? それとも主人公がそういう被害妄想を抱いているって描写なの?)と戸惑ってしまったし、女刑事と犯人の追跡シーンでも(どうして応援を呼ばないんだ? 刑事なら何らかの連絡手段は確保しておくべきでは?)と集中力が削がれてしまった形でしたね。  そういった諸々が伏線なのかと思いきや、全然そんな事は無かったという意味も含めて、終盤の展開が本当に残念。   「作中で明かされた真相に納得がいかなかった」というパターンの為、ついつい文句を並べてしまいましたが、以下は良かった点を。  まず、導入部から展開がスピーディーで「異常な犯人、シンブンシの目的は何か?」と観客にも推理させていく流れは、とても楽しかったですね。  映画の構成としては、序盤は刑事側の目線で事件を追いかけていく形であり、中盤以降に主人公=犯人へと視線転換して、その背景が明かされる訳ですが、順番が逆だったら冗長な話になっていたでしょうし、この導入部には「掴みが上手い」と感心。  主演の生田斗真の力によって、新聞紙で覆面をして犯行予告するシーンでも、ダークヒーロー的な恰好良さが醸し出されており、作中で彼らの賛同者が生まれていく展開に、さほど不自然さを感じさせなかった辺りも有難かったです。  ここのハードルをクリアしてくれないと、作中の世界観が根底から崩れかねないので。   犯人グループが仲良くなっていく過程も、短いながらも丁寧に描かれており、青春ドラマとしての魅力も備えている形。  主人公の「友達が欲しい」という夢が叶っていたのを示す、和気藹々としたやり取りを、最後の最後に持って来て、カタルシスを与えて終わらせた辺りも、上手かったですね。  ここで「良い友達を持つ事が出来て、幸せだ」などと口に出しては言わせず、主人公の表情や音楽などで伝えてみせる演出は、本当に好み。  決してハッピーエンドではないはずなのに、それに近い味わいがありました。   色々と気になる点は多かったのですが、それらを差し引いても面白かったし、良い映画だったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-28 12:09:22)(良:1票)
64.  四十七人の刺客 《ネタバレ》 
 とにかく展開が早い早い。  なんせ冒頭いきなり「大石内蔵助は既に藤沢を出て、鎌倉に潜入していた」とナレーションで語られるくらいですからね。  大石内蔵助とは何者なのか、何故鎌倉に潜入したのか、などの説明は放ったらかしにして、どんどんストーリーが進行していくという形。  忠臣蔵映画には上下巻に分かれている代物も珍しくない為、もしや下巻に相当するディスクから再生してしまったのだろうかと、確認してしまったくらいです。   全体的に「観客の皆は、忠臣蔵のストーリーくらい当然知っているよね?」という前提で作られているようであり、予備知識が備わっていない人にとっては不親切な作りにも思えましたね。  せっかくナレーションで色々と説明してくれているのに、それも「コレはこういう役職であり、この人はこういう人で~」と理解を促すような内容ではなく、あくまでも状況説明に留まっている感じ。   大石側と色部側の謀略戦にスポットが当てられているのは面白かったのですが、どちらかといえば宮沢りえ演じるヒロインとの恋模様が中心となっているのも、ちょっぴり不満。  幾らなんでも男女の年齢差があり過ぎて、アンバランスな組み合わせに思えるのに、描き方はといえば「普通の男と女」といった感じでスタンダートに仕上げられているのが、観ていて居心地が悪かったのですよね。  ラストシーンといい、ともすれば宮沢りえのアイドル映画と言えそうなくらいの登場比率なのですが、自分としては彼女は脇役に留めておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。   その一方で「襲撃者に足音を消されぬよう、屋敷の周りに貝殻を敷き詰めておいたりして、入念な準備を整えた上で敵を返り討ちにする大石親子」などの場面は、実に良かったですね。  切り裂く時の音が空振りしているようにしか聞こえない点など「えっ?」と思わされる瞬間もありましたが、ハードボイルドな高倉内蔵助の魅力が堪能出来たワンシーンでした。   終盤にて、黒尽くめの刺客が吉良邸の門前に集い「四十七人」と総数を読み上げられる場面もテンションが上がりましたし「握り飯と水を補給する」「刃毀れに備えて替えの刀を用意しておく」といった兵站面を重視した描写も良い。  吉良屋敷に迷路が拵えてある点などは、冒頭で知らされた際には「えっ、何それ」「そんなコミカルな忠臣蔵だったの?」という戸惑いの方が大きかったのですが、それも実際に戦う場面では、予想していたよりもシリアスな見せ方で「殺し合い」という空気を決定的に損なってはおらず、上手いなぁと感心。  いざ討ち入りになってから、唐突に「実は吉良屋敷は迷路になっていたのだ」と種明かしされる形だったら、流石に「なんだそりゃ!」と衝撃を受けてしまい、テンションだだ下がりになっていたでしょうけど、この場合は映画が始まってすぐに「迷路になっているよ」と観客に教えておく事により、自然と消化されるのを待つというテクニックが用いられているのですよね。  それが効果を発揮してくれたみたいです。   ラストの大石の一言「知りとうない」に関しては、色々と解釈の分かれそうなところ。 「武士の意地を見せる為に決起したのだから、本当は真相など、どうでも良い」 「最初は真相を知りたいという気持ちもあったが、もはや自らの死も覚悟して討ち入りした以上、真相究明などは些事に過ぎない」  などと考える事も出来そうな感じでしたね。   以下は、自分なりの解釈。  「討たれる覚えはない」「いきなり浅野が喚いて、儂に切り掛かってきたのだ」「二人の間に遺恨などあろうはずがない」という吉良側の証言を信じるなら、恐らく真相は「浅野が乱心した」というものであり、吉良を含めた幕府側が口を噤んでいたのも、浅野の名誉を慮っての事だったのではないでしょうか。  つまり、大石が「知りとうない」と言い放ったのは「真相に興味がない」ではなく「真相を知りたくない」という意思表明。  吉良の口を永遠に塞ぐ事こそが、討ち入りの目的の一つだったのではないかな、と。  そもそも大石は情報戦の一環として「浅野内匠頭は賄賂を行わなかった正義の人である」という噂を流すなど、主君を美化しようとする意志が窺える男です。  内心では薄々「殿は乱心めされたのだ」と勘付きつつも、序盤で仲間に語り聞かせた通りの「優しい殿」であって欲しかったという願いゆえに、吉良の口から真相を聞かされる事を拒み、浅野のように派手に刀を振り下ろす事なく、冷静に突き殺してみせたのではないか、と感じられました。   もし、本当にそうであったとすれば、何とも切ない映画だと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-12-06 19:47:57)(良:1票)
65.  忠臣蔵 花の巻・雪の巻(1962) 《ネタバレ》 
 正統派の「忠臣蔵」映画としては、これまで観てきた中でも五指に入る出来栄えではないかと思われます。 (ちなみに、正統派ではない変化球で真っ先に思い付くのは1990年のドラマ版です)  とにかく、余計な事をしていないというか、必要なエッセンスだけを抽出した感じがして、観ていて安心させられるものがありましたね。  基本的には1954年版の同名映画のリメイクと言って良い内容なのですが、あちらが当時としては斬新な演出や解釈を色々と盛り込んでいるのに対し、こちらは旧来通りというか、真っ当な娯楽映画に仕上げてみせたという印象です。  岡野金右衛門が大工の娘と恋仲になる件の尺が長いのと、三船敏郎演じる俵星玄蕃の存在感が強過ぎて浮いているように感じる辺りは難点でしたが、きちんと作中のクライマックスを「討ち入り」に定めている為、全体のバランスとしては整っているように思えました。   特に感心させられたのが、吉良上野介の描き方。  冒頭にて「前々から浅野には怨みがあった事」「上司から浅野への復讐を促されていた事」などが語られている為、何故わざわざ意地悪をしたのかと、観客に疑問を抱かせない形になっているのですよね。  そういった情報を前もって提示する事で吉良側の動機を補強しつつ、浅野に対する場面では存分に「嫌味、吝嗇、欲深な爺様」っぷりを披露して(こりゃあ浅野が怒るのも分かるわ……)と思わせてくれるのだから見事。  作り手としては、恐らくそんな意図は無く、吉良の悪役っぷりを際立たせる為の台詞だったと思われますが「臆病と言われれば、それはいっそ儂には自慢になる」と言い放つ姿なんかも、妙に人間臭くて、自分としては好感を抱きました。   加山雄三が内匠頭を演じるというのは驚きでしたが、生真面目で、気が強くて、病的なくらいにプライドが高いという、難儀な人物を見事に演じており(こういう役も出来るんだなぁ)と感心させられましたね。  刃傷を起こした後、乱心したという事にすれば罪も軽くなるのに、それを潔しとしなかった堅物っぷりにも、説得力があったと思います。  内匠頭を描く上でネックとなるのは「自分の行いによって家臣達が路頭に迷うとは思わなかったのか? 本当に名君なのか?」という点なのですが、本作においては「賄賂が横行する現在の政治は間違っている」という正義感が動機の一つとなっている為、一応浅野側の言い分も理解出来ます。  松の廊下の件でも「先に手を出したのは吉良」という形になっており、浅野側が正しいという作中の価値観に対し、反感を抱かずに済むようになっていますね。   討ち入りの場面に関しても、二十分ほど掛けて丁寧に描いており、充分に納得のいく出来栄え。  雪を踏む足音に合わせるように流れる伊福部音楽は、最初こそ「ゴジラかよ!」とツッコませてくれますが、慣れれば「忠臣蔵らしい、重厚な迫力がある」と思えました。  暗い屋敷内に、侵入者側が蝋燭を配置していく流れなんかも面白くて、堂々とした合戦ではなく「夜陰に乗じて寡兵で攻め込んだ奇襲戦」である事を実感させてくれます。   また、吉良を殺害する場面を直接描かない事、事件後の切腹の様子をナレーションだけで済ませた事も、効果的でしたね。  それによってネガティブな印象が薄れ、本作は「主君の仇討ちを果たした赤穂浪士が、誇らしげに町を歩く姿」という、鮮やかな印象のまま完結を迎える形となっており、若干の苦みを含みつつも、後味は爽やか。   自分が忠臣蔵モノで何か一つ薦めるとしたら、上述の1990年のドラマ版なのですが、そういった変化球作品を楽しむ為には、やはり本作のような真っ当な魅力の「忠臣蔵」も味わっておくのが望ましいのでしょうね。  久々に、王道の魅力を堪能させてもらえた一品でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-12-05 18:23:50)
66.  武士の一分 《ネタバレ》 
 姉妹作とも言うべき「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」については、何年も前に観賞済み。  何となく観そびれていた本作にも、ようやく手を出してみたのですが、上記二作と変わらず楽しむ事が出来ましたね。   とにもかくにも主演に「現代のアイドル俳優」というイメージが強過ぎる為、最初の内は「武士という割には軽過ぎる」という違和感もあったのですが、それが中盤以降の悲劇的な展開との落差を生む事に繋がっており、結果的には良かったと思います。  妻の加世、中間の徳平に軽口を叩く姿も、ちょっぴり嫌味なのに愛嬌がある辺りなんかは、正に木村拓哉という存在だからこそ、という感じ。   また、真っ当な殺陣の魅力に関しては一作目の「たそがれ清兵衛」で存分に描いている為、二作目と三作目においては「隠し剣」「盲目の武士の戦い」という変化球で攻めた辺りも正解だったのではないでしょうか。  歴代の中でも、間違いなく本作が一番不利な状況下での戦いであった為、前二作と同じ流れで最後は主人公が勝つだろうと安心しつつも「本当に勝てるの?」という緊張感を、適度に抱く事が出来たと思います。  あえて言うなら「決闘の場所の下調べくらいはしておくべきじゃないか」とも思えましたが、それをやるのは卑怯という価値観なのかなと、何とか納得出来る範疇でした。   それよりも個人的に残念であったのは、タイトルにもなっている「武士の一分」の使い方について。  復讐の動機は、妻が辱められた事にあると言い出せず「武士の一分としか申し上げられません」と絞り出すような声で訴える場面は凄く良かったと思うのですが、その後も「武士の一分」という言葉を繰り返し用いるものだから、ちょっと重みが薄れたように感じられてしまったのですよね。  全ては「あの御仁にも、武士の一分というものはあったのか」という台詞に繋げる為だったのかも知れませんが、それならせめて使用は二回までに留めて欲しかったなぁ、と。   脇役に関しては魅力的な顔触れが揃っており、本人に悪気は無くとも傍迷惑な叔母さんは妙に憎めなかったし、意外な名君であった殿様の存在感も良かったですね。  特に後者に関しては、主人公の失明後も「大儀」と一声掛けるだけであり、所詮は家臣の事など軽く考えている天上人なのだと示す場面があっただけに、その後に真相が明かされる場面には、完全に参ってしまいました。  家老の結論を覆し、藩主自ら主人公を庇ってみせたのだと判明する、あそこの件が、この映画のクライマックスだったのではないでしょうか。   結局、決闘については周りに知られぬまま、主人公の仇討ちが咎められる事も無く、離縁した妻とも再び結ばれるハッピーエンドを迎えた本作。  ですが、あの殿様であれば、たとえ事情を知ったとしても、きっと公明正大な処置を下されたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-11-17 12:10:58)(良:2票)
67.  金閣寺 《ネタバレ》 
 1958年の「炎上」に比べると、かなり原作に忠実に映像化されている一品。   特色としては、エロティックな表現が強まっている事が挙げられそうで「米兵に指示されて女の腹を踏みつける場面」「母が不義を働く姿を寝床から見つめる場面」などは、思わず目を背けたくなるような鮮烈さがありましたね。  これらが単なる「観客へのサービス」で終わらずに「主人公が金閣寺に火を点けた理由」とも密接に絡んでいる作りには感心させられましたが、それによって主人公が単なるマザコン青年にしか思えない形となっていたりもして、少々残念。   母親と、主人公の初恋の相手である「有為子」の比重が増している為、金閣寺の存在感というか、重要性が薄れてしまっている点も気になりましたね。  何せクライマックスの放火シーンにて、火を放った直後には母の乳房に吸い付く幻影を見ているし、最後の一言は「有為子」であるのだから、結局主人公が執着していたのは「女性」であって、金閣寺の「美」に対してではなかったのだな……と、寂しく思えてしまいました。   主人公の友人である鶴川についても、比較的出番を確保されてはいたのですが、原作にあったような「主人公と明るい昼の世界とをつなぐ一縷の糸」というほどの重要性は感じられず、単なる男友達という枠の中に収まっていて、どうにも物足りない。  原作を未読の方からすると、鶴川の葬式で泣いていた主人公の姿が「どうして、そこまで悲しむの?」と、不可解に思えたのではないでしょうか。  内面描写が主となる小説ではなく、映画で表現する以上は、破天荒な柏木の方にスポットを当てるのが正解なのかも知れませんが「炎上」に続けて扱いが悪かった鶴川というキャラクターが、何だか哀れに感じられましたね。  主人公と正反対に思えて、その実は非常に近しい性質を備え持っていた彼が「自殺」という道を選んだからこそ、原作におけるラストシーンの「死を拒み、生を選ぶ」行為の美しさが際立つ訳なのだから、そこは外して欲しくなかったところです。   そんな不満点もありましたが「この世界の全てを拒んでいる有為子の美しさ」「神聖な儀式のように、茶碗に母乳を注ぎ入れる女性」などの場面が、丁寧に映像化されている辺りは、素直に嬉しかったです。  舞い散る火花を見つめながら、息を切らして煙草を喫む主人公の姿なんかも、金閣寺を征服してみせたという達成感、ギラギラした野性的な魅力のようなものが感じられて、良かったですね。  原作とも「炎上」とも異なる魅力を備えた、しっかりと完成された一品であったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-30 03:09:02)
68.  炎上 《ネタバレ》 
 小説では味わえない映画の魅力の一つとして「音」があります。   本作においても、作中の関西弁が早口であり、それによって主人公の吃音の「周りと歩調が合わない、取り残された感じ」が際立っていたのが印象深いですね。  序盤にて主人公が金閣寺(=驟閣寺)に見惚れているシーンで、唐突に音楽が流れだす演出などは「ちょっと分かり易過ぎるかな」とも思いましたが、総じて音楽は秀逸であり、それでいて多用する事は無く、静かな場面の方が多かった事も好印象。   また、何と言ってもラストにおける、燃える寺の囂々とした焼け音が素晴らしかったですね。  モノクロ映像ゆえか、それまでは驟閣寺の美しさを感じ取る事が出来なかった中で、炎上するその姿からは、圧倒するような美を感じられました。    原作小説には愛着がある為、柏木(=戸刈)よりも重要な人物であろう鶴川の出番が殆ど無い点。  そして、主人公が列車から身投げするという結末も、原作の「生きようと私は思った」という前向きな姿勢とは全く正反対である点などは、正直抵抗もあったりするのですが、そういった先入観を排し、一本の映画として観賞すれば、充分に楽しめる代物だと思います。   主演の市川雷蔵は、相変わらず惚れ惚れするような演技巧者っぷりだし、彼の悪友を演じる事となる仲代達矢の存在感も素晴らしい。 「あんた、その片端の脚が自慢なんやろ?」 「片端やなかったら、誰一人振り向いてくれる人あらへんもんな」  なんて痛烈な台詞を吐く新珠三千代の姿も、忘れ難いものがありました。   原作において、何よりも美しいと感じられたのが、あれほどのドン底に落ち込みながらも、なお生きようとした主人公の最後の姿だった事に対し、本作においては「驟閣寺と心中しようというかのように、刑事を振り払って身投げする主人公」の姿が、非常に醜く描かれているように思える辺りも、何だか興味深い。  様々な意味で原作小説とは異なる、意図的に対とした結末であるように感じられました。
[DVD(邦画)] 7点(2016-10-29 19:33:55)
69.  夢(1990) 《ネタバレ》 
 夢だから仕方ないのかも知れませんが、何とも抽象的な内容。   冒頭の「狐の嫁入りを目撃してしまった少年」の話からして、尻切れ蜻蛉に終わってしまうものだから、観ているこちらとしては落胆し、観賞意欲を削がれてしまったのですよね。  「結局、狐には許してもらえたの?」「無事に家に帰れたの?」  という疑問が頭で渦巻いている内に、もう画面では次の話が始まっていたという形。  この先、どんなに面白い話が始まったとしても、また唐突に終わるんじゃないかという懸念が尾を引いてしまい、最後まで映画の世界に入り込めなかった気がします。   そんなオムニバス八編の中で、特に印象深かったものを挙げるなら、トンネルの話と、ゴッホの話になるでしょうか。  前者に関しては「足音」の怖さを感じる一方で、青白いメイクをした部下の亡霊が姿を見せた途端「いや、これ監督も笑わせようとしてやっているよね?」と思えてしまい、そのチグハグな空気がシュールで、奇妙に面白かったです。  後者に関しては、絵の世界に入り込む演出が視覚的にも楽しいし、画面作りに拘る黒澤監督が、ゴッホの口を通して「講義」を聞かせてくれているようでもあり、興味深いものがありました。   全体の構成について考えてみると、当初は童話のような雰囲気で「本当に、こんな夢を見たのかも知れないな」と思わせるものがあったのに、後半から妙に説教臭いというか、観客に対するメッセージ性が強まった内容となっていたのが、ちょっと残念でしたね。  「本当に、こんな夢を見たの?」と懐疑的になってしまい、それこそ映画という「夢」から「現実」に引き戻されたような感覚がありました。   所々ハッとさせられる場面もあったのですが、総じて退屈に感じてしまった時間の方が長く「こんな夢なら、早く醒めて欲しいな……」と思ってしまった以上、どうやら自分の肌には合わない夢であったようです。
[DVD(邦画)] 3点(2016-10-24 20:31:04)
70.  あしたのジョー(2010) 《ネタバレ》 
 観賞中「えっ? ウルフ金串戦もやるの?」「力石の死後まで描くの?」と二度吃驚。  おまけに映画オリジナルのエピソードとして「ドヤ街に憎しみを抱く白木葉子」なども追加しているものだから、実にボリューム満点。  それを二時間ほどに纏めてみせて、これ一本だけでもキチンと完結している品に仕上げた手腕は見事だと思うのですが、やはり駆け足な印象も受けてしまい、評価の難しいところですね。   自分としては、如何に魅力的だとしても「ダブル&トリプルクロスカウンター」の存在共々ウルフ戦はカットし、もっとジョーと力石に焦点を合わせた作りの方が良かったのでは……と考える次第。  恐らくはアニメ版のリスペクトと思しきスローモーション演出を「力石との初戦」→「ウルフ戦」→「力石との再戦」と立ち続けに見せられる形となっているので、どうしても単調な印象を受けてしまうのですよね。  後述の減量シーンに関しても、もっと尺を取って描き、普段は紳士的に振る舞っていた力石がマナーを無視して果実に齧り付く場面なども再現してくれていたら、更に感動出来たかも。   役者陣に関しては、主役二人の見事な肉体改造っぷりも併せて、ほぼ文句無し。  丹下段平のルックスだけは、あまりにも漫画チックで浮いているような印象は受けましたが、それを打ち消すほどの迫力が力石から感じられましたね。  減量中に我を失い、水を求めて彷徨うシーンなんて「台詞回しは原作漫画の方が詩的で良かったかな……」と頭の片隅では冷静に思っているはずなのに、目線は画面に釘付けという、不思議な感覚を味わう事が出来ました。  特に嬉しかったのが、力石の死因となったであろう「後頭部をロープで強打してしまう場面」が、より印象的になっていた事。  原作漫画では少しインパクトが弱かった気もしただけに(もしかして死ぬんじゃないか?)と初見でも思えるような仕上がりになっているのは衝撃でしたし、それはひとえに、力石を演じた伊勢谷友介の力が大きかったのではないでしょうか。  生きている俳優が「この人は、もうすぐ死んでしまうんだ……」と観客に思い込ませるのは、とても大変な事でしょうが、本作ではそれを見事に成し遂げてみせたように思えます。   終盤にて「ジョーが如何にして力石の死の衝撃から立ち直ったか」を描く尺が足りず、観客の想像に委ねる「空白の一年からの帰還」で済ませてしまったのは非常に残念でしたが、リングの中に力石の幻影が現れる場面は、とても良かったですね。  ここって、一歩間違えれば「ジョーもリングで死なせようとして誘っている死神」としての力石にしか見えなくなってしまうはずなのに、全くそれを感じさせない笑顔で「二人の友情の証としてのボクシング」の魅力、楽しさや面白さを伝えてくれているのです。  力石の死をクライマックスに据える以上、後味の良いハッピーエンドにするのは難しいと思っていただけに、それを裏切ってくれた事が、実に痛快。   原作の最終回におけるジョーの生死は未だに議論の的となっていますが、少なくとも本作におけるジョーはリングで死を迎える事なく、引退後もボクシングに関わりながらドヤ街で生き続けたのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-16 11:58:54)
71.  お葬式 《ネタバレ》 
 病院の定期検診にて健康のお墨付きを貰い、その祝いとばかりに贅沢をして「ロースハム」「アボカド」「鰻」を食す。  主人公の父親は、そんな幸せな瞬間を味わった後に最期を迎えた訳で、この導入部からして、何だか本作の内容が窺えるような気がしましたね。  確かに怖いものやら悲しいものやら色々と含まれているのだけど、根本的には「楽しい」「面白い」「幸せ」といった、前向きな要素の数々で構成されている感じ。   それにしてもまぁ、主人公が不倫相手の女性と、互いに喪服のまま性行為に耽るシーンには、度胆を抜かれました。  妻役が宮本信子である点も含めて、この主人公は明らかに監督の伊丹十三そのものだろうに「えっ? そんな事しちゃって大丈夫なの?」と、観ているコチラがドキドキしてしまったくらい。  勿論、やっている事は単なる不貞行為なのだから、嫌悪感を抱いていてもおかしくないシーンだったのですが、衝撃が大きかったゆえか、余り拒否反応は出て来なくて、不思議な感覚でしたね。  下品かつ失礼な表現で申し訳ないのですが「女優さんのお尻、あんまり綺麗じゃないなぁ……」という考えが、薄ぼんやりと浮かんできて、その後は気が付けば画面に釘付けになっていました。   夫の不倫なんて全部承知の上よと言わんばかりの表情で、妻が丸太式のブランコを漕いでいる姿なんかも、実に印象深い。  何やら恐ろしげな演出だったのですが、何となく自分には「夫の情けない行いを止める事が出来ない女の弱さ、滑稽さ」のようなものを感じてしまい、怖い顔をしているはずの彼女が、哀れに思えたりもしましたね。   そんな場面を経ているにも拘らず、終盤にて「大丈夫よ、貴方」「貴方、何時だって上手くいくんだから」と夫を励ましてくれたりもするのだから(良い嫁さんだなぁ)と、しみじみ感心。  ここの台詞は「初監督作品」への不安を抱えた伊丹監督自身に対しての言葉でもあるのでしょうね。  不倫問題が悲劇的な結末に繋がらなかった事にはホッとする一方で、放ったらかしな扱いには、居心地の悪さも覚えたのですが、きっとこのシーンにおける妻の優しい態度こそが「それでも貴方を愛して、夫婦として支え続けてあげる」というメッセージ、彼女なりの「許し」の証なのでは……と、推測する次第。  ちょっと男にとって都合が良過ぎる考えですが、どうも伊丹映画におけるヒロイン=宮本信子って、こういう「アンタにとって都合の良い女でいてあげるよ」的な優しさを漂わせているもんだから、ついつい、それに甘えたくなってしまいます。   火葬場にて、職員の人から「死体が生き返ったりしないか心配になる」「赤ちゃんの死体は骨まで燃やし尽くさないよう、弱めの火で、静かに焼いてやらないといけない」という話を聞かされる件なんて、さながら社会科見学のよう。  作法なども含め、恐らくは監督としても意図的に「お葬式の教材ビデオ」めいた側面を持たせているとは思うのですが、自分としては少し苦手に感じたというか(そういうのは、ちゃんと他で勉強するよ)なんて気持ちに襲われたりもして、残念でしたね。  同監督の作品なら「ミンボーの女」における「ヤクザのあしらい方講座」などは、同じ教材ビデオのようでも、ちゃんと観ている限りでも痛快で面白かったのですが、デビュー作である本作に関しては、そういった娯楽的観点のようなものが、まだ充分に育まれていないように思えました。   そんな中でも、香典が風に舞って、人々が慌てて拾い集める事になるシーンのユーモラスさ。  最後の最後に、故人の妻が感動的な挨拶をして、綺麗に締める辺りの手腕などは、流石といった感じ。   自分の場合は、事前に伊丹監督の後年の作を観賞済みであった為、どうしてもそれらと比較し「未熟さ」「稚拙さ」の方を感じ取ってしまったみたいですが、もしも、この映画が「伊丹映画初体験」であったなら (デビュー作で、これだけのモノを撮るだなんて、凄い!)  と、もっと興奮し、感動出来たかも知れませんね。  非常に惜しまれる映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-07 05:34:42)
72.  耳をすませば(1995) 《ネタバレ》 
 何といっても印象深いのは、図書カードの件。  自分と全く同じ好みをした異性がいるだなんて、正に運命。  天沢くんに惹かれる主人公の気持ちも分かるなぁ……と思っていたら、それは運命でも偶然でも何でもなく、単に「好きになった女の子が読みそうな本を、男が片っ端から借りていただけ」だったと判明して、もう吃驚です。  主人公もコレには引いちゃうんじゃないかなと思っていたら、頬を染めて、ときめいている様子だった事には、更に驚かされましたね。  昔の恋愛映画って、現代の観点からすると「これってストーカーでは?」とツッコミたくなる展開が多いんですが、本作もその一例として挙げる事が出来そう。   監督は近藤喜文ですが、脚本や絵コンテなどは宮崎駿が担当している為か(相変わらずのロリコン映画だなぁ……)と思わせてくれる事にも、何だかほのぼの。  本当に、拘りを持って「如何に主人公の少女を可愛く描くか」を突き詰めたのが伝わってきて、恐らくは性癖的に近しい要素を持っている自分としても「あざとい」「不道徳」と思いつつも、惹かれるものがありました。   そして、これが大事なポイントなのだと思うのですが、本作って少女だけでなく、相手役となる少年も、凄く魅力的に描かれているんですよね。  美男子で、優等生で、特別な才能を持っていて、夢に向かって一直線でと、同性の自分からすると嘘臭く感じるくらいなのですが、そもそも劇中の主人公カップルって「女性から見ると嘘みたいな少女」と「男性から見ると嘘みたいな少年」という組み合わせで成立しているのであり、そこが男女問わず観客の心を掴む要因になっている気がします。   男友達に対し「本当に鈍いわね」と怒っていた主人公が、実は自分の方がずっと鈍感だったと分かる流れも面白かったし「人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。何が起きても誰のせいにも出来ないからね」という父親の台詞も、胸に沁みるものがありました。   もう一つ印象深いのは「自分よりずっと頑張っている奴に、頑張れなんて言えないもん」という台詞。  主人公が天沢君に対して引け目を感じていた理由が、この一言に集約されている感じがして、とても秀逸だと思いましたね。   そもそも本作って、天沢君は典型的な「王子様」キャラだし、そんな彼と、ごく普通の女の子が結ばれるという、極めて少女漫画的なストーリーなんです。  にも拘らず、男である自分が観ても共感を持てるのは、具体的に「彼に見合うような人間になる為に、主人公も頑張る」という姿が描かれてるからなんですね。  だからこそ応援したくなるし、そんな「頑張り」が暴走して、勉強の方が疎かになってしまい、しっかり者な姉との口喧嘩にて、つい強がって「高校なんて行かないから」と言っちゃう辺りも、痛々しいくらいにリアルに感じました。  この辺り(ちゃんと彼の事を家族にも話した方が良いのでは?)と、大人になった今では思ってしまうのですが、子供の頃って、こういう不思議な意固地さがありましたからね。  何だか懐かしい気持ちと、恥ずかしい気持ちを、同時に味わう事が出来ました。   クライマックスの、まだ薄暗い夜明け前。  自転車に二人乗りして「オレだけの秘密の場所」に向かうシークエンスなんか、本当に素晴らしく、それと同時に面映ゆくて、観ていられないくらい。  「それじゃ寒いぞ」と彼女に上着を渡す仕草。  「私も会いたかった」と彼の背中に頭を添えて呟く主人公の姿など、青少年が憧れてしまうシチュエーションが「これでもか!」と詰め込まれているのだから、もう圧倒されちゃいます。  上述の「彼に一方的に幸せにしてもらうだけの女の子ではありたくない」という想いが、坂道での「共同作業」にも表れており、これには(良いカップルだなぁ……)と、素直に祝福したい気持ちになれましたね。  最後には、結婚の約束までしちゃう事すらも、この二人ならば、自然に思えます。  万が一結ばれなかったとしても、一連の出来事の数々は、素敵な初恋の思い出として、いつまでも心の中に残りそう。   脇役であった杉村君と夕子ちゃんの恋の顛末を、エンドロールの中でサラリと描いてみせるのも、御洒落でしたね。  天邪鬼な自分からすると、主人公カップルが眩し過ぎて、まるで幻みたいで、どうにも感情移入しきれない部分もあったりしたのですが……  それを差し引いても、良い映画だったと思います。
[DVD(邦画)] 6点(2016-10-06 04:50:57)(良:1票)
73.  海がきこえる<TVM> 《ネタバレ》 
 昔、男友達と二人で観た際には「何だ、この女は!」と意見が一致し、女性と観た際には「結構リアルだね」と言われたりして、戸惑った記憶がある本作。   そういえば一人で観た事は無かったなと思い、再観賞する事にしたのですが、特に評価が変わったりする事は無く、残念でしたね。  (大人になった今なら、ヒロインの言動も可愛らしく思えるかな?)という期待もあったりしたのですが、多少理解出来る面は発見出来たものの、やはり拒否感の方が大きかったです。   そもそも問題の発端となる「ヒロインの両親の離婚」は、父親の浮気が原因なのに 「ママが馬鹿だと思ってた」 「見過ごしていればいいのに、ワーワー騒ぐから」  なんて言い出す時点で、彼女に肩入れ出来なくなってしまうのですよね。  (結局、自分が東京から離れたくないものだから、その為に母親を悪役にして憎んでいるだけじゃない?)と思えてしまうのですが、この予想が当たっているなら「嫌な女」としか評しようがない訳で、どうにも困ってしまいます。   自己憐憫に浸って 「私って可哀想ね」  と泣く姿にはゲンナリさせられたし 「あの人って馬鹿ね。付き合ってる頃は良く気の付く、優しい人だと思ってたんだけど」  と元カレの悪口を言うシーンで、決定的に幻滅。  この映画の後、主人公とヒロインは結ばれるのが示唆されている訳だけど、また何年か経ったら主人公も「元カレ」になってしまって、似たような悪口を言われているんじゃないかと思えてきます。   主人公の親友が告白してきたら 「私、高知も嫌いだし、高知弁を喋る男も大嫌い。まるで恋愛の対象にならないし、そんな事言われるとゾッとするわ」  と言い放つのですが、この頃にはもう慣れているというか、感覚がマヒしてしまって(あぁ、やっぱりそう思っていたんだ)という感想しか浮かんで来ないのだから困り物。  後の台詞からすると、この時の言葉は強がりの嘘だった可能性もあるし、彼女自身が反省もしているそうなのですが、それを直接描かずに伝聞で済ませるものだから、ちっとも真実味が無いのですよね。  終盤、同級生の女子達に糾弾される彼女が同情的に描かれているのも(自業自得じゃないの?)と白けてしまうし、立ち聞きして助けようとしなかった主人公が彼女に頬を叩かれ、その後に親友にも殴られる展開には、唯々呆然。   主人公は良い奴だとは思うのですが「ヒロインに惚れるのが理解出来ない」という意味で、徹底的に感情移入を拒む存在であり、それがエピローグで更に強調される形になっているのだから、非常に残念。  恐らくヒロインに惚れたのは、東京への同行を申し出た際の 「本当? 本当にそうしてくれるの?」  と喜ぶ笑顔がキッカケじゃないかと思えるのですが、何だかココの演出も、あざとい可愛さアピールに感じられたりして、ノリ切れなかったのですよね。  第一ヒロインは美少女って設定のはずなのに「同級生の小浜さんや西村さんの方が可愛いじゃん」と思えてしまうのだから、作中でヒロインが散々その美貌を絶賛されていても、ちっとも共感出来ない。  この辺りの感覚は、昔観た時と全く同じだったりして、そういう意味では、とても懐かしい気分に浸れました。   本来は感動すべき「高知城を見つめながらヒロインの台詞の数々を思い出す場面」でも「ろくでもない事ばかり言っているなぁ」と冷ややかな気持ちになってしまうのだから、とことん自分とは相性の悪い映画なのだなと、再確認。  「紅の豚」を絡めた遊び心など、クスッとさせられる場面もあったし「お風呂で寝る人」という形で、遠回しにヒロインから主人公への告白を描く演出は、御洒落だなと思います。  所々に、好きと言えそうなパーツは見つかるだけに、全面的に楽しむ事が出来なかったのが、実に勿体無い。   「海がきこえる」というタイトルにも拘らず、最も印象的な「海」の場面が主人公とヒロインではなく、主人公と親友の二人きりの場面というのも、何だか変な感じでしたね。  帰郷した際に二人が仲直りする流れには和みましたし、共に海を眺める場面は本作における白眉だとは思うのですが(ココで終わっておけば友情の映画として綺麗に纏まったのに……)なんて、つい考えてしまいました。   残念ながら、自分には海がきこえなかったみたいです。
[DVD(邦画)] 3点(2016-10-05 09:10:08)(良:1票)
74.  ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 《ネタバレ》 
 南海の孤島が舞台の怪獣映画という、実に好みな一品。   ちょっとしたリゾート気分も味わえるし、何よりキングコング(1933年版)同様に「怪獣が大き過ぎず、強過ぎず」なバランスが心地良いのですよね。  このくらいの「民家の倍程度の大きさの怪獣」って、妙に親近感が湧くというか、子供の頃に「怪獣と友達になるなら、ゴジラみたいな大き過ぎるサイズじゃなくて、キングコングくらいのサイズが良いな」と考えていたのを思い出したりしちゃって、とにかく大好きなんです。   ストーリーに関するツッコミ所は、余りにも多過ぎるので逐一指摘するのは止めておきますが、そんな中「メインは人間VS怪獣の物語である」という点に関しては、大いに評価したいところ。  しかも軍隊ではなく、あくまで一般人の主人公達が銃を手にして戦い、ガソリンを使ってゲゾラを火あぶりにしたり、ガニメの眼球を狙撃して盲目にした後に崖から落としたりするのだから、手に汗握るものがあります。  「こういうのを見たかったんだ!」と、喝采を浴びせたい気分になりましたね。   ただ、終盤にはお約束の「怪獣VS怪獣」そして「火山が全てを解決エンド」という形になっており、非常に残念。  単純に怪獣特撮という観点からしても、ゲゾラが現地の村を襲っているシーンがピークであり、以降はそれを上回る衝撃を味わえない形となっているので、何だか尻すぼみに思えてしまうのですよね。  憎まれ役だったはずの小畑さんが、最後の最後に人間の意地を見せて、自らの体内に巣食う宇宙生物もろとも自決する展開に関しても (火口に飛び込む姿を、もっと上手く撮ってくれていたら感動出来たのに……)  と、勿体無く感じてしまいました。  怪獣映画といえば、人間のエゴに対して反省を促す終わり方が多い印象がある為、こういった形の「人間賛歌」とも言うべき結末は珍しく、好ましいものがあるだけに、手放しで作品を絶賛出来ない事が、何とも焦れったい。   そんな具合に、贔屓目で観ても、色々とディティールの甘さが気になってしまうような、隙の多い本作品。  それでも好きか嫌いかと問われれば、迷い無く「好きだ」と答えられる、愛嬌に満ちた映画でありました。
[DVD(邦画)] 7点(2016-09-30 04:07:24)(良:3票)
75.  半分の月がのぼる空 《ネタバレ》 
 作中にて「こういうの言うのって、疲れるね」との台詞がありましたが、観ているこちらまで疲れてしまうような内容。   まず、大泉洋が主人公の未来の姿であったという叙述トリックについては、見事に騙されました。  その驚きと感動が同時に味わえる演出は確かに凄いと思うのですが、ただ一点。  主人公には娘の未来がいるにも拘らず「里香がおらん俺の人生、空っぽや」なんて、それだけは父親として絶対に言っちゃいかんだろうという台詞を口にしたのが、受け入れ難いものがあったのですよね。  過度な自己憐憫で泣かせようという、作り手の意図が透けて見えたように思えて、折角の感動的な場面なのに、白けた気持ちになってしまいました。  せめて、その後にもっと明確に「自分には娘がいた」と気付いて反省したり、この子の為に頑張って生きようと決意するシーンがあったりすれば良かったのですが、それも無し。  また、最後に勇気を出して手術を行うと決意する理由も「里香の命令やもんで」って、照れ隠しではなく単なるヒロイン依存症に思えてしまい、残念でした。   基本的にはベタな「難病もの」であり、王道の魅力を備えているのだから、ツボにハマれば、素直に感動出来たのだと思います。  けれど、本作は自分の好みとは違っていたみたいで、何だか凄く勿体無い気持ちになりましたね。   一緒に病院を抜け出して、ヒロインの思い出の場所に連れて行ってあげる件。  そして学校の劇に、急遽代役として二人が出演する件などは、ご都合主義ではあるけれど「青少年がやってみたいと願う事を、映画の中で疑似体験させてくれる」という意味では、とても良かったですし、好印象。  特に後者の最中にて「私は、一瞬でも長く貴方の御傍にいたいんです」という台詞を、ヒロインが迷った末に口にする流れなんかは、本作の白眉であるように感じられました。  その劇の後、お姫様の恰好のまま倒れたヒロインを、王子様の恰好をした主人公が病院へと運ぶシーンにて、おんぶ等ではなく、ちゃんとお姫様抱っこで運んでいる辺りにも感心。  こういった細かい部分にて、観客の喜ばせ方を心得ているかどうかって、とても大切な事だと思います。   宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が作中で効果的に扱われている辺りなども、ファンとしては嬉しい限り。  ラストにて、二人のキスと同時に、エンディング曲が流れ出す演出も秀逸でしたね。  性行為などの演出は徹底的に省いているのも「純愛」「真摯な物語」といった感じがして、作り手の誠実さが伝わってきます。   細かい部分での違和感、好みの違いはありましたが……  決して嫌いにはなれない、とても真面目な映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-09-28 22:03:22)(良:1票)
76.  八月の狂詩曲 《ネタバレ》 
 所謂「夏休み物」に分類されそうな一品。   とはいえ、劇中にて「原爆」の影響が色濃過ぎる為、素直に楽しむ事が難しい作りとなっていますね。  序盤にて子供達が、被爆地となった学校を見学したり、滝壺で弁当を食べたりしている辺りは、まだ遠足的な雰囲気を味わえたのですが、リチャード・ギア演じるクラークさんが登場して以降は、完全に反戦、反核映画といった感じ。   「アメリカは被爆地に慰霊碑を送っていない」という指摘だけで済ませず、日系とはいえアメリカ人であるクラークに「すいませんでした」と謝罪させるシーンまであるのだから、日本人としては、何だか居心地の悪さを覚えます。  後者の台詞に関しては「オジサンの事、知らなくて……」という前置きがあるのですが、その後に「私達、悪かった」という言葉まで続く為、どうしても「原爆を投下した事をアメリカ人に謝罪させている」というニュアンスを感じてしまうのですよね。   こういった内容の映画も必要だと思うし、学校の教材映画としても有効活用出来そうではあるのですが、純粋に娯楽作品として考えた場合「面白い」と思えるシーンが少なくて、何だか物足りないものがありました。   終盤、お婆ちゃんが錯乱してしまう展開に関しても「雷をピカ(=原爆)と勘違いして、子供達を守ろうとする姿」には心揺さぶられるものがありましたが、その後に関しては、唯々唖然。  「お婆ちゃんの頭の時計は、逆に回ってんだよ」「多分、あの日の事ば思い出して……いや、あの日の気になって」という説明的な台詞の数々にも (えっ、何で孫だけじゃなく近所の人まで、そんなに正確に分析出来るの?)  という違和感が生じてしまい、どうも納得出来ない。  童謡「野ばら」を流す演出に関しても、ちょっとシュール過ぎたと思いますし、そのままブツ切りのように終わる形だったのも、好みとは違っていて、残念でした。   そんな中で「河童」が窓から顔を覗かせるシーンは「いや、それどうやって扮装したんだよ!」と観客にツッコませてくれるの込みで、楽しかったですね。  この映画には、こういった「親戚の子供達が、お婆ちゃんの家に集まってワイワイ騒ぎながら素敵な夏休みを過ごしている」という空気が、確かに存在しており、そこは大いに評価したいところ。  また、家に泊まる事になったクラークさんが「片言の日本語」で、それを歓迎する子供達が「片言の英語」でと、それぞれ異なる言語で会話する場面なんかも、とても良かったと思います。   黒澤監督としては、反核というメッセージ性の強い作品を撮りたかったのかも知れませんが、自分としては、そんなメッセージとは関係ない部分の方が楽しめたという……  何だか擦れ違いを感じてしまう映画でありました。
[DVD(邦画)] 5点(2016-09-26 21:54:42)
77.  キングコングの逆襲 《ネタバレ》 
 「ゴジラ対メカゴジラ」(1974年)に先駆けて、劇中で「キングコング対メカニコング」を行っている事。  そして1976年版の「キングコング」に先駆けて「コングに同情的なヒロイン」を描いている事は、特筆に値しますね。  それらの要素は日米合作のテレビアニメ版(1967年)を基にしている為、単なる二番煎じとも言えそうなんですが……  見方を変えれば「アニメだからこそ許されるような展開を、実写でもやってみせた」という訳だし、本作の存在意義は大きかったように思えます。   個人的にお気に入りなのが、中盤におけるコングと恐竜との戦いの場面。  これは勿論、1933年版の展開をなぞっている訳なのですが「恐竜を倒した後に、顎をパカパカするシーンが無い」という違いがあったのです。 (あそこを再現するかと思ったのに、やらないんだなぁ……)  と寂しく思っていたところで、死んだのを確認しなかった報いとばかりに、実は生きていた恐竜がコングに噛み付く展開となり、これには (そうきたか!)  と嬉しくなっちゃいましたね。  倒された恐竜が泡を吹いてみせる姿は、現代目線だと間抜けに思えたりもするのですが、この辺りは古き良き特撮映画の愛嬌として、あたたかい目で見守ってあげたいところ。   クライマックスとなる東京タワー上での戦いも良かったですし、これまた1933年版の展開を逆手に取ったような「コングではなく、メカニコングが高所から落下する」という脚本でもってして、主役のコングを死なせずに、ハッピーエンドで終わらせた辺りも見事でした。   怪獣映画としては珍しく、人間ドラマの部分も退屈させないものとなっており、天本英世が演じるドクター・フーなんて、実に良い悪役っぷりだったと思います。  終盤、悪人であったはずのマダム・ピラニアが裏切って、味方になってくれる辺りは少し説得力に欠けますが、元々が謎の多い女性であった為「実は良い人だったんだ」と考えれば、何とか許容範囲内。   その他、当時の特撮邦画のお約束として、別の映画からの使い回し場面などもあり、色々と粗も見つかってしまう映画なのですが……  愛嬌の方が目立っていて、あまり気になりませんでしたね。   海を渡って故郷へと帰っていくコングの背中に「終」の字が重なって幕を引く演出にも、渋いなぁと唸らされました。  「キングコング」が愛される理由としては、ラストにてコングが死んでしまう悲劇性が大きいと思うのですが、それに対し本作では「コングが死なないハッピーエンドでも、これだけ面白い映画が撮れるんだぞ」と証明してみせた形になっており、大いに満足。  楽しい時間を過ごせた一本でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-09-23 01:19:12)(良:1票)
78.  二代目はクリスチャン 《ネタバレ》 
 主人公であるシスターの「相手役」となる男性が三人もいる為、やや忙しない印象を受ける本作。  そんな中、最もコミカルで情けない印象のあった神代が最後まで生き残り、オイシイところを持って行く辺りは、如何にもつかこうへいらしい作風だなと思えて、嬉しかったですね。  また、自分としては最初に画面に登場した晴彦が主役格になるだろうと予想していただけに、かなり早い段階(映画が始まって一時間ほど)で彼が死亡する展開にも吃驚でした。   ちょっと気になったのは、作中でシスターが賽の目を当てる才能を発揮する場面。  てっきり何かの伏線かなと思っていたのですが、終盤には全く出て来なかった為、何だか置いてけぼりな感じを受けたのですよね。  最初は「信仰心によって齎された超常的な力がある」と解釈していたのですが、今になって考えてみるに「父親も伝説的な侠客だった彼女には、極道の素質がある」という描写だったのでしょうか?  それならば、クライマックスにて敵対組織を壊滅させた強さにも一応納得なのですが、もう少し分かり易い形にしても良かったんじゃないかな、と。   終盤、教会を襲撃されて仲間達が次々に殺されていく展開は、迫力があり、ユーモアもあり、良かったですね。  敵がバズーカまで持ち出して、教会の中に撃ち込んだ際には、不謹慎ながらも「そこまでやるか!」と笑ってしまったくらい。  その一方で、復讐を訴える信徒が「父親殺し」の過去を告白するシーンは、非常にシリアスで、真に迫っていてと、演出の緩急が見事だったと思います。   とうとう刀を手にした主人公と、北大路欣也演じる英二との、雨の中での対話。  そして殴り込みをかけたシスターが 「悔い改めたい奴は、十字を切りやがれ!」  と啖呵を切る場面なんかも、忘れ難い味がありました。   神代が全ての罪を背負うという決着の付け方には (本当に、それで良いの?)  とも思ってしまうのですが、この辺りは「男が好きな女の為に、恰好を付けてみせる」という、つかこうへいイズム、独特の美学ゆえの結末だから、文句を付ける方が野暮なのでしょうね。   そういった諸々の価値観も含め、主人公が女性であるにも関わらず、非常に男性的な映画であったように思えました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-09-22 16:30:30)
79.  中学生円山 《ネタバレ》 
 これはつまり、正義の変身ヒーロー「中学生円山」が誕生するまでを描いた映画であった訳ですね。   彼はマスクを装着すると身体が柔らかくなり、さながら体操選手のような動きが出来るようになるという、何とも地味な能力の持ち主なのですが 「自らの性器を口に含んで自慰をしたい一心で、柔軟運動を続けてきた」  という背景を背負っていたりもして、一応は努力型のヒーローと呼ぶ事が出来そう。  その他「妄想を現実に変えてしまう」という便利な能力も備わっているみたいですが、こちらに関しては効力が曖昧で、何もかも自分の思い描いた通りに叶えてみせる事は出来ないみたいです。   構成としては「主人公円山の妄想」と「現実」が入り乱れる形となっており、観客によって「ここまでが現実」「ここからは妄想」といった具合に、解釈が分かれそうな感じ。  作中で起きる最も非現実的な出来事が「主人公が超人的な動きで弾丸を避けた事」ではなく「体育館で皆が主人公の自慰行為を応援してくれた事」だったりする辺りがユーモラスですが、恐らくは後者の体育館の件から、主人公の理解者である下井が撃たれて死ぬ件までが「妄想である」と解釈する人が、一番多いのではないでしょうか。  ご丁寧に「現実に負けるな」「妄想と向き合え」という台詞を重ね合わせる演出であった為、作り手側としても、それを想定していたのではないかな、と思えます。   ただ「下井が武器としている、ベビーカーを変形させた銃」が異様にスタイリッシュで、円山が妄想してきたレトロで分かり易いヒーローや悪役達と比べ、明らかに異質感があった辺りは気になりますね。  そもそも映画前半における、妄想の中で襲って来た「殺し屋下井」は、使用する銃のデザインもコロコロ変わるような適当さだったし、あの銃だけが浮いているというか「円山が妄想した代物にしては不自然」という意味で、妙に現実感がありました。  あれは円山ではなく下井の妄想の産物か、あるいは現実に作った代物なのか? と思えたりもして「もしかしたら終盤の戦いは、全て現実だったのかも知れない」という可能性を与えてくれる、良いアクセントになっていました。   個人的に残念だったのは、上述の体育館の件が非現実的過ぎて冷めてしまった事と「中学生円山」に初めて変身した時のデザインが、どう見ても単なる覆面レスラーみたいで、今一つ好みではなかった事。  下井の死後に届いたプレゼントのマスクは、ちゃんと恰好良かったので、意図的に「プロトタイプのマスク」として見劣りするデザインにしたのかも知れませんが、出来ればラストの「青い服に、赤いマスクとマフラー」という恰好で戦って欲しかったなぁ……と思わされましたね。   落ちぶれた韓国人俳優と、韓国ドラマに夢中になる人妻との不倫関係。  そして、老人の男性と小学生の女性との恋模様など、主人公の家族にまつわるエピソードも、しっかり面白かった辺りは、流石という感じ。  同じ宮藤官九郎脚本の「ゼブラーマン」と比べても、何処となくオシャレな感じが漂っていたのは、この二本のエピソードにて、色恋沙汰を扱っている事が大きかったように思えますね。  下井と円山の最後のやり取り「おめでとう」「ありがとう」には、感動を誘うものがありましたし 「正義っていうのは、人を殺しちゃいけない理由を、ちゃんと知ってる人の事だ」  という台詞も良かったです。  そして極め付けは「まだ早いって言われた」「もう遅いって言われた」「最初のキス」「最後のキス」の対比であり、年齢差のあり過ぎるカップルの悲恋が、何とも切ない余韻を与えてくれました。   主人公の円山だけでなく、その母親と、妹も 「韓国ドラマに夢中になっている」→「そのドラマに出演している俳優と出会う」 「同い年の男の子には興味ないけど彼氏が欲しい」→「素敵な老人の彼氏が出来る」  といった具合に、都合の良過ぎる出来事が起こっている為 (もしかしたら、この一家全員に妄想を現実に変える力があるの?)  とも思えるのですが、そんな中で、唯一妄想をしない父親の存在が、何とも良い味を出していましたね。  家族の中で、彼だけは現実に満足して、幸福を感じている為、妄想する必要が無いという形。  実に羨ましくなるし、それって、とても素晴らしい事なんじゃないかと思えます。 「何があっても、お父さんお前の味方だからな」  と言って、悩み多き息子を抱き締めてみせる姿なんかも、コミカルな演出なのに、妙に恰好良い。   妄想に耽る事の魅力だけでなく、きちんと現実と向き合って生きる事の魅力も感じられた、バランスの良い一品でした。
[DVD(邦画)] 6点(2016-09-20 22:57:14)(良:1票)
80.  息子(1991) 《ネタバレ》 
 何といっても、終盤における次男のアパートでのシーンが素晴らしかったですね。  息子が良い娘さんと結婚してくれるのが、もう嬉しくて嬉しくて眠れなくて、思わず唄い出してしまう老父の姿が、何とも微笑ましい。  それまでが結構「しんどい」描写も多かったりしただけに、あそこで一気に救われたというか、心が晴れやかになるのを感じられました。   息子達は「出来の良い長男」「出来の悪い次男」という対比になっている訳ですが、後者の方に同情的というか、真に父親想いなのは次男の方であると感じられる描き方にしている辺りは、如何にも寓話的。  長男だって父親や弟の為を思って、色々考えて行動しているのに、どうにも空回りしていたのは、ちょっと可哀想でしたね。  次男目線では非常に幸福な映画なのですが、長男の側にも、もう少しフォローが欲しかったところです。   そんな長男が、父親に対しては方言で話すのに、会社で同僚や部下に接する際には標準語に切り替わる描写を自然に挟んでいる辺りは、実に上手い。  中々方言が抜けなくて、その事にコンプレックスを抱いている様子な次男とも、良い対比になっていたと思います。  また、次男が鉄工所に務めるようになった後、お風呂場で気持ち良さそうに汗を洗い流し「働く喜び」を感じる描写なんかも良かったですね。  序盤にて「汗水垂らして働く事」を軽侮していた台詞があっただけに、余計に響いてくる形。   やれ「あの頃の方が良かった」だの「どうなるのかね、この国の将来は」だのと、こんな昔の映画の中でもオジサン連中が愚痴っている事には苦笑しちゃいますが、何時いかなる時代でも見受けられる風景なのだろうなと思えば、何だかほのぼの。  戦中は部下に対して厳しく接し、手を振るう事もあった伍長さんが、何十年振りかに部下と再会したら、ひたすら低姿勢で謝るだけというシーンなんかも、シニカルな笑いを感じられましたね。   上述のように、老父がアパートで眠れぬ夜を過ごすシーンは本当に大好きなのですが、ラストにて、実家へと帰り、誰もいない部屋で一人「家族みんなが、この家にいた頃」を懐かしんで終わる形だったのは、ちょっと受け入れ難いものもあったりして、残念。  「次男が孫を連れて、里帰りしてくる未来」を思い描き、父も生きる希望を取り戻した様子だったのに、結局は過去の出来事こそが最も幸せであったかのような描写で終わってしまったのが、何だか凄く寂しかったんですよね。   勿論、未来だけでなく、過去も大切にするのは良い事だと思います。  ただ、個人的な好みとしては、駅に着いた後の、地元の知人とのやり取り 「息子と会って来たか。幸せだな、おめぇは」「……あぁ、幸せだ」  という台詞で終わってくれた方が、より傑作に仕上がったのではないかな、と思えました。
[DVD(邦画)] 7点(2016-09-18 19:15:39)(良:1票)
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