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ゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 615
性別 男性
自己紹介  洋画は字幕版も吹き替え版も両方観た上で感想を書くようにしています。
 ネタバレが多い為、未見映画の情報集めには役立てないかも知れませんが……
 自分と好みが合う人がいたら、点数などを基準に映画選びの参考にしてもらえたら嬉しいです。

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101.  顔(1999) 《ネタバレ》 
 喪服のままで強姦されて、純潔を散らす事となった主人公の正子。  そんな彼女が相手の男に対し「これ、あげる」と香典を渡すシーンが印象的でしたね。  流石に気味が悪かったのか、突き返そうとする男を罵倒するように「取っとけ!」と啖呵を切る姿なんかも、妙に格好良くて、惚れ惚れする思い。  美しい妹を殺してしまったがゆえに、逃亡犯としての旅に出る事となった正子だけど、本当の意味で「生まれ変わった」「旅する決意をした」のは、この瞬間であったように感じられました。   その妹との確執に関しても、短い尺の中で巧く描いており「お姉ちゃんの存在が恥ずかしかった」と言わせた辺りなんかは、大いに感心。  他人ならば何ともないのに、家族だからこそ「その存在が恥ずかしい」という感情が湧き出てくる訳で、それを的確に表現している台詞ですよね。   全体的に、暗い作風とも明るい作風とも言い難いものがあって、暗いというにはあっけらかんとしているし、明るいというには陰鬱過ぎるという、不思議なバランス。  この独特の空気感を心地良く感じる人もいそうですが、自分としては、ちょっと苦手だったりもしました。   妹殺害のシーンなども「直接殺した光景は描かないで、まず主人公が風呂場で自殺未遂を起こす姿を描く」→「その後に旅支度を始める主人公の足元で、妹が死体となって倒れているのを、サラッと映し出す」という演出になっており、上手いなぁと感心する気持ちと、ちょっと回りくどいよなと思う気持ちが半々になったりして、どうも素直に褒められない、肌に合わない部分が目に付いてしまったのです。  作中で最も悲劇的に描かれていた「流産」に関しても、主人公が信じる「輪廻転生」に共感が持てなかったりしたもので「あぁ、彼女なりに妹を愛していたんだなぁ……」と冷静に考える程度で終わってしまい、感動にまでは至らず、残念でした。   その代わりのように、主人公が成長するロードムービーとしての魅力は感じ取る事が出来て、そちらに関しての満足度は高め。  旅の中で、周りの人達と交流し、自転車の乗り方を習い、泳ぎ方を習い、それが結果的に「土壇場で逮捕の手を逃れる手段」に繋がるストーリーが、実に皮肉で面白いんですよね。  主人公のモデルになった、ホステス殺人事件の犯人と思しき女性と、喫茶店で会話を交わしていたと判明する瞬間なども、観ていて驚かされ、印象的な場面でした。   また、本作においては、実際の事件と違って「整形」という要素を用いなかった辺りも、良い判断だったかと。  何せ主演の女優さんが演技巧者なものだから、最初は生気を失った顔だった主人公が、段々と生き生きして魅力的になり、まるで別人のような「顔」に変わっていく様を、説得力満点に演じてくれているのですよね。  全体のストーリーラインをなぞれば、非常に胡散臭い話であるはずなのに、不思議なくらい真実味を帯びて感じられたのは、やはり彼女の存在が大きかったからなのだろうな、と思えます。   お世話になった女性の律子さんに電話を掛け 「ごめんなさい」「ありがとう」  という想いを伝える件なんかも、凄く良かったですね。 「死ぬぐらいやったら、逃げて」「お腹が減ったら、ご飯食べて」  という励ましの言葉を、手首に傷のある律子さんが口にするのだから、何とも切なくて、情感溢れる名場面。   恐らく、本作の主人公は「逮捕されてしまえば罪悪感に耐え切れず、留置場や刑務所で自殺してしまう」と分かっているからこそ、懸命に逃げ続けているのだと思われます。  そんな事情を加味したとしても、現実逃避、罪から逃れるという行いは、間違いなく悪い事なのでしょう。  それでも、たとえ悪だとしても死よりはマシだ、前を向いて走って、逃げ続けて生きるべきなんだ、というメッセージが窺える、味わい深い映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-08-01 09:04:31)(良:1票)
102.  戦後猟奇犯罪史 《ネタバレ》 
 若き日の泉ピン子の喋りが、とにかく過激で気風が良くて、圧倒される思い。  バラバラ事件の加害者を指して「学校の先生だったみたいだけど、工作の先生だったんじゃないか」暴行を受けて殺された七歳の女の子を指して「被害者は私と同い年だったから、犯人が私のところに来てくれれば玉蹴りをしてやったのに」などと言い出すのだから、恐れ入ります。   当時人気だったバラエティ番組が元ネタの映画であるそうですが、その悪趣味さに辟易すると同時に、どことなく(これを毎週観たくなる気持ちも分かる)と思えたりもしましたね。  文句を言いつつもTVを点けちゃう、嫌な話でも聞きたくなってしまうという、人間の好奇心を巧みに突いた番組だったのではないか、と推測する次第です。   肝心の映画本編なのですが、三つの事件を扱わっているにも拘わらず、その全てにおいて濡れ場が用意されているのだから、サービス豊かというか何というか、ちょっぴり呆れる思い。  最初の「西本明事件」では、犯人逮捕のキッカケが十歳の女の子の通報であった件など、オチもコメディタッチとなっており、この映画らしい題材であったのですが、残りの二つは、少々異質。   「風見のぼる事件」に関しては、当時まだモデルとなった犯人が有罪確定していなかった為か、尺も短く、中途半端な作りなのですよね。  不倫相手に刃物で襲われた末の正当防衛のようになっていたり、作中で犯人がファンに土下座するシーンを交えたりと、妙に同情的に描いているものだから、何だか観ていて醒めるものがありました。   そして「久保清一事件」は、作中の半分以上を占める長尺となっており、明らかにバランスが悪い。  ただ、それゆえに力が込められているのも事実で、これ一本だけでも映画として成立しそうなクオリティがありましたね。  とにかく犯人を演じた川谷拓三の存在感が凄くて、本当に(うへぇ、気持ち悪い……)と思わされるのだから、お見事です。   女性を絞殺した時の事を思い出して自慰に耽る姿なんて、良く引き受けたなと感心しちゃいましたし、逮捕後、面会に訪れた社会評論家に入れ知恵されて、自分の行いは横暴な国家権力との闘いだと言い出す件なんて、本当に憎たらしい。 「権力と闘うんだったら、どうして総理大臣を殺さなかった!」 「罪の無い娘さんを、何故殺した!」 「お前は単なる助平な強姦殺人犯じゃねぇか!」  と激昂する刑事の言葉も、至極もっともでしたね。  その後に犯人は、暴力を交えた尋問を受けたり、民衆に石を投げられて血まみれになったりもするのだけど、全く同情出来ませんでした。   かくして、すっかりシリアスな実録犯罪映画と化したところで、唐突に画面は「泉ピン子ショウ」へと切り替わり「強姦した奴はチン斬りの刑にしよう」と客席の笑いを取って終幕となる訳ですが、このギャップの激しさに関しては、評価の分かれそうなところ。  自分としては、なんだかんだで最後まで楽しめたりもしたのですが(眉をひそめる人も多そうだなぁ……)と、完全に他人事感覚で思えた映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-31 13:14:45)
103.  愛と誠(2012) 《ネタバレ》 
 実際にコミックスを手にした事は無いという自分ですら「タイトル」「あらすじ」「主要人物」「名台詞」「ラストシーン」くらいなら聞きかじりで知っているという、有名漫画の実写化。   まさかまさかのミュージカル構成には驚いて、主人公の誠が唄いながら喧嘩を始めた時には「これは傑作か!?」と、大いに興奮させられましたね。  けれど、もう一人の主人公である愛が唄う「あの素晴しい愛をもう一度」の時点で(もういいよ……)と、食傷気味になってしまい、後はひたすら満腹状態。   我ながら飽きるのが早過ぎるよなぁ……とは思うのですが、そのくらい「濃い」味付け、演出だったのですよね。  「君の為なら死ねる」などの名言が飛び出した時には「おっ」と身を乗り出しましたし、格闘シーンが同じ三池監督の「クローズZERO」を彷彿とさせる辺りは嬉しかったのですが、それも一過性の感覚。  「ガムコは可愛いけど、大筋に絡んでこないなぁ」 「由紀の生い立ちの件だけが陰鬱過ぎて、バランス悪い」  等々、見方を変えれば長所と言えそうな部分まで短所に思えてしまったりして、どうにも相性が悪かったみたいです。   それでも、終盤の台詞「気が変わっちまったよ、おふくろ」からの、一気にシリアスな結末へと向かう流れには、流石と思わせるものがありましたね。  やっぱり、決めるべきところは決めてくれるんだなと、監督の力量を改めて感じさせてもらいました。
[DVD(邦画)] 5点(2016-07-27 10:54:10)
104.  気球クラブ、その後 《ネタバレ》 
 青春の「その後」といっても、続きではなく終りの話であった訳ですね。   気球クラブ「うわの空」にて、情熱を抱いて気球を飛ばしているのはクラブの創設者である村上しかいない。  その他のメンバーは、主人公の二郎を含めて「本当は、気球なんかどうだって良い」と考えているような奴ばかり。  序盤は、この設定に対し(それって、村上以外のメンバーは楽しいの?)と疑問を抱いてしまい、今一つ映画に入り込めずにいたのですが「花見」という喩えが出てきた場面で、ようやく納得する事が出来ました。   頭上に美しい桜が咲いていても、集まった連中は殆ど見ていない。  ただ酒を飲んで、騒ぐ口実が欲しいだけ。  気球を飛ばす事に「夢」を見出している村上の存在は、酒の肴であり、宴の名目であり、単なるシンボル以外の何物でもなかったのだなと、微かな寂しさと共に理解させられました。  「気球クラブの部屋に一人でいる時に、誰かが入って来て、こう言うの」 「なんだ、まだ誰も来てないのって……私がいるじゃん」  という台詞なんかは、凄く印象深かったです。  クラブのメンバーが求めるのは「個人」ではなく「集団」であった事が窺えるのですが、それよりも何よりも、単純に発言者の女性が可哀想で仕方ない。  そういう場合は、せめて「他の皆は来ていないの?」と言ってあげたいものですね。   村上の死を契機に、気球クラブのメンバーは再び集まって、昔のように気球の中で、最後の宴会を開く事になる。  そこで「もう二度と会わないから」と、互いの携帯番号やメールアドレスを抹消する訳ですが、それが非常に爽やかに、明るく描かれているのも驚き。  けれど、その明るさは決して前向きなものではなくて、どこか後ろ向きであるように感じられるのです。  この映画の主人公が、夢追い人の村上ではなく、傍観者の二郎である点も含め、伝えたかったテーマとしては「夢を抱き、追い続ける事の素晴らしさ」ではなく「夢を抱かない人間の虚しさ、夢を諦めてしまった人間の切なさ」であるのかな、と思わされました。   その後の「ボクは社会人の振りをして生きるのがうまくなった」という独白。  忙しない日常の中で、空飛ぶ気球を見つめて、淡い笑みを浮かべる登場人物達の姿。  ここで終わっていれば「爽やかな青春映画」と評する事も出来たのですが、そうさせてくれない辺りが、園子温監督。  時間軸を巻き戻して「村上と、彼の恋人である美津子が、気球クラブを作った頃の話」を描き、映画に深みと苦みを与えてくれているのですよね。   このエピローグによって「誰が電話しても繋がらなかった美津子が、二郎の恋人からの電話は受けた理由」が明かされる形となっており、それには感心させられたのですが、最後の最後で「村上が風船に託した手紙の中身」を明らかにしなかった事は、大いに不満。  こういった謎を残す形の方が、余韻が生まれて良くなる場合もあるのは分かりますが、完璧に謎のまま終わらせた訳ではなく「主人公の二郎は手紙を読んだのに、観客に内容は明かさないまま」というのが、何とも意地悪に思えたのですよね。  それなら手紙を拾っても開封しないまま、秘密は秘密のままで、再び空に浮かべてあげる形にして欲しかったなぁ、と。   仕方ないので、以下は自分なりの推理。   気球で二人きり、空を飛びながら村上に求婚された際「地上で、これ(指輪)を渡して欲しい」と応えた美津子の台詞からは「もっと地に足を付けて、立派な社会人となってから求婚して欲しい」というメッセージが窺えます。  そんな美津子の提案を、村上は受け入れられず、地上で指輪を渡す事は出来ないままで、二人は別れてしまいました。  そして「僕の気持ちは変わらない」という村上の台詞。  別れた後でさえも村上が「手紙の中身」を明かせなかった理由。  二郎が手紙を読んだ際の、全く驚きが窺えない表情。  他の誰にも内容を明かさず、再び手紙を空に浮かべるという選択。  以上の判断材料からするに、そこに書かれていたのは「既に皆が知っている事」「今更明かす必要も無い事」であったと考えられます。   つまり、手紙の内容とは「いつか空の上でプロポーズさせて下さい」だったのではないか、と推測する次第です。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-27 07:30:09)
105.  夢の中へ 《ネタバレ》 
 観賞中「酔っている」感覚を味わったのは、手持ちカメラの画面ブレだけが原因ではなく、この映画そのものに酩酊感が漂っているからなのでしょうね。   性病に掛かった主人公が「おしっこ痛ぇ~っ!」と絶叫する絵面なんて、何だか全く現実感が無かったりして、作中世界のどれか一つが現実なのではなく、全ての世界が夢であるように思えてきます。   こういった映画であれば、同じ酔うにしても心地良い酔いを提供してくれたら楽しめるのですが、本作には「悪酔い」に近いものを感じてしまったりして、残念。  主張が独り善がりであるとか、ストーリーが難解だとか、それ以前の問題として、自分はどうも手ブレ映像が苦手だったりするので、それで参ってしまったみたいです。   とはいえ、園子温監督作品で何度か扱われている「現実と虚構の境目が曖昧になる感覚」「走るという行為の快感」などの要素が、本作でも見受けられる辺りは、不思議な安心感があり、嬉しかったですね。  オリジナリティが無いと主人公が責められる件も併せ「排尿に伴う苦しみ」=「監督自身の創作の苦しみ」と受け取る事も出来そうですが、それよりはもっとシンプルで、普遍的な 「生きていれば綺麗事だけじゃ済まない」 「他者との触れ合いが、厄介な痛みに繋がる事もある」 「それでも、走って、叫んで、唄って、生きなければいけない」  というメッセージが込められた映画なのではないか、と解釈したいところです。   正直に告白すると「楽しめた」「面白かった」とは、とても言えない内容な本作。  けれど、力強く前向きなメッセージは、確かに感じ取る事が出来た為、不思議と嫌いになれない一本でした。
[DVD(邦画)] 4点(2016-07-25 11:34:55)(良:1票)
106.  Strange Circus 奇妙なサーカス 《ネタバレ》 
 これはもう、凄い映画というか、怖い映画というか、どちらの表現が適切なのだろうと迷ってしまう一品ですね。   何せ劇中にて、十二歳の女の子を演じる子役が「私は父とのセックスを気持ち良く思えるようになった」なんて台詞を口にするのだから、実にインモラル。  幼児虐待、近親相姦、四肢切断と、何とも非道徳的な内容であるのですが、それでも猥雑さや下品さは然程感じさせず、何処となく上品で詩的に纏めているようにすら思えるのだから、全く以て不思議。  この辺りのバランス取りというか、独特な雰囲気作りの上手さは、やはり詩人であり音楽家でもある園子温監督の、芸術的な感性の成せる業、といった感じがします。   小説家の女性が登場した辺りから、現実(過去)と虚構(小説)の境目が曖昧となり、観ているコチラとしても夢心地になるのですが、そんな中でも「娘」の正体が明らかになるシーンでは、ハッと目が覚めるような衝撃がありましたね。  (実は娘ではなく、女装させられた息子が父親に犯されていたのか?)と思っていたのですが、それを否定するかのように「娘」が胸元を開き、乳房を抉り取った傷跡を見せる件なんて、そこまでやるかと呆れてしまいます。  その「人体改造」が「父と母の四肢を切断して達磨にする」という結末に繋がっている訳なのですが、クライマックスでは脚本の妙に感心する冷静さなんて吹き飛んでしまい、観ている間は、とにかくもうドキドキしっぱなしでしたね。   ちょっと「種明かし」のシーンが長過ぎるように思えたのですが、これに関しては短所というよりも、長所と呼べそうな感じ。  もっと断片的な情報だけを残し、観賞後にアレコレと推理させるような作りにする方が簡単だったろうに、そこでキッチリと「答え合わせ」を済ませる監督さんの誠実さが伝わってきました。   「壁を赤く塗られた校舎」「チェロケースから覗き見た光景」などの、視覚的な演出も鮮やかでしたし、シニカルな笑いかと思われた「ランドセルを背負って小学校に登校する母の姿」が、歪んだ現実の代物だったと判明する二段仕掛けの構成も、お見事。  その他、転落事故で入院した娘が意識を取り戻した際に、真っ先に確かめたのが「(性的虐待されていると)誰かに話したのか?」だったりする親父さんの最低っぷりなんかも徹底していて、ここまで「醜い人間」を描けるって凄いなぁ、と感心しちゃいます。   結局ラストにて、主人公は「どっちが夢なのか」判別がつかないまま、奇妙なサーカスの見世物として、首を斬られて終わる。  全ては、死刑台の上の女性が、斬首の間際に見た幻だったのかも知れないとも思わされ、不思議な爽やかさを伴った、悪夢のような余韻を残してくれました。
[DVD(邦画)] 8点(2016-07-24 07:12:48)(良:1票)
107.  くちびるに歌を 《ネタバレ》 
 合唱のシーンは、素晴らしいの一言。  ただ唄うだけではなくて、スポーツと同じように身体を鍛える必要もあると示す練習シーンを、事前に積み重ねておいた辺りも上手かったですね。  皆の努力の成果である歌声に、純粋に感動する事が出来ました。   その他にも、色々と「泣かせる」要素の多い映画であり、それに対して感心すると同時に「ちょっと、詰め込み過ぎたんじゃないか?」と思えたりもして、そこは残念。  特に気になったのが「柏木先生がピアノを弾けなくなった理由」で、どうも納得出来ない。  「私のピアノは誰も幸せにしない」って、誰かを幸せにする為じゃないとピアノを弾きたくないの? と思えてしまったのですよね。  終盤、その台詞が伏線となり「出産が無事に済む」=「音楽は誰かを幸せにする力がある」という形で昇華される訳ですが、ちょっとその辺りの流れも唐突。  世間話の中で「実は先生は心臓が弱い」という情報が明らかになってから、僅か三分程度で容態が急変する展開ですからね。  これには流石に「無理矢理過ぎるよ……」と気持ちが醒めてしまいました。  「マイバラード」を他の学校の合唱部まで唄い出すというのも、場所やら何やらを考えると、少し不自然かと。   個人的には、音楽というものは存在自体が美しくて素晴らしいのだから「音楽は素晴らしい」だけで完結させずに「……何故なら、人の命を救うから」という実利的な面を付け足すような真似は、必要無かったんじゃないかな、と思う次第です。  終盤の合唱シーンは、ただそれだけでも感動させる力があったと思うので、もっと歌本来の力を信じて、シンプルな演出にしてもらいたかったところ。   主人公を複数用意し、群像劇として描いているのは、とても良かったですね。  合唱というテーマとの相性の良さを感じさせてくれました。  特に印象深いのが、自閉症の兄を持つ少年の存在。  彼が「天使の歌声」の持ち主である事が判明する場面では「才能を発見する喜び」を味わえましたし、内気な彼が少しずつクラスメイトと仲良くなっていく姿も、実に微笑ましかったです。  「兄が自閉症だったお蔭で、僕は生まれてくる事が出来た」という独白も、強烈なインパクトを備えており、色々と考えさせられるものがありました。  欲を言えば「アンタもおって良かった」という優しい言葉を、彼にも聞かせてあげて欲しかったですね。   ストーリーを彩る長崎弁は、耳に心地良く、のどかな島の風景と併せて、何だか懐かしい気分に浸らせてくれます。  細かな部分が気になったりもしたけれど、それを差し引いても「良い映画だった」と、しみじみ思える一品でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-21 06:40:21)(良:2票)
108.  ぼんち 《ネタバレ》 
 「しきたり」「世間体」という言葉が出てくる度に、ちょっとした違和感というか、浮世離れした感覚を味わえましたね。  主な舞台となるのは戦前の日本なのですが、どこかもっと遠い国、遠い昔の出来事であるようにも感じられました。   何せ「妾を持つ事」ではなく「妾を養わない事」が世間からの非難の対象となるというのだから、現代の一般庶民からすると、眩暈がするようなお話。  お妾さんを何人も囲って、何人も孕ませて、主人公は良い身分だなぁ……と皮肉げに感じる一方、男性の本能としては羨ましく思えたりもして、何だか複雑でした。    終盤、戦争によって主人公は没落していく訳ですが、その尺が二十分程度しかなく、ちょっとバランスが悪いようにも感じられましたね。  もう少し苦労した事を示す描写が多かった方が、ラストの「まだまだ一旗あげてみせる」と気骨を失っていない主人公の姿を、素直に応援する事が出来たかも。   監督と主演俳優の名前を挙げるまでもなく、作り手の力量が確かなのは疑う余地が無いのですが、正直、少し物足りなさを感じる内容だったりもして、残念。  オチとして衝撃的に描かれている「男に囲われているだけと思われた女たちが、実は男よりもずっと強かだった」というメッセージに対しても(そんなの、もう分かり切った事だしなぁ……)と思えてしまい、今一つ盛り上がれない。  撮影技術が云々ではなく、こういった感性というか、価値観の違いによって、昔の作品である事を実感させられてしまった形ですね。   軽妙な関西弁での会話を聞いているだけで楽しくて、退屈するという事は全く無かったのですが、もう一押し何か欲しかったなと、勿体無く感じてしまう映画でした。
[DVD(邦画)] 5点(2016-07-20 19:46:12)
109.  百万円と苦虫女 《ネタバレ》 
 作中人物に「えっ? 何で?」と思わされる事が多く、残念ながら肌に合わない映画だったみたいです。   まず、主人公の弟が「僕は逃げない」「だから受験はしません」と言い出す理由が分からない。  怪我させた相手に許してもらうまで諦めないというなら、別に中学が変わっても会いに行けば良い話だし、結局は事件を起こして問題児となったから受験を諦めたという、後ろ向きな結論に思えてしまいます。  主人公の彼氏が「彼女にお金を使わせていた理由」を言えなかった事も不自然で、男の見栄がそうさせていたというなら、どう考えても食事を奢ってもらったり借金したりする方が、情けなくて恥ずかしいのではないかなと。  極め付けがラストの主人公の行動で、結局また引っ越すって、どうしても理解出来ない。  「色んな人から逃げていた」と反省したはずなのに「今度こそ次の街で、自分の足で立って歩こうと思います」って、それ典型的な「明日から頑張る」な先送り思考じゃないかと、盛大にツッコんでしまいました。   これまで「自分探し」という行いからも逃げていた主人公が、今度こそ自分探しの旅を始めるという事なのかな……とも思ったのですが「今回は引っ越すけど、次の街では定住してみせる」なんて考えているようなので、そんな解釈すらも不可能。  泣いてスッキリしたら、またまた仕事を辞めて旅立ち「引っ越さずに、この場所で頑張ってみる」「彼氏を信じて待つ」という事さえも出来なかった姿からは、どうにも成長を感じ取る事が出来ません。  そもそも物語の合間に挟まれる「弟がイジメられる光景」が、実に胸糞悪くて、そちらの方が主人公の悩みなんかよりも余程深刻に感じられる辺り、物語の軸がブレているようにも思えました。   監督さんとしては、あの「男女が再会出来ずに、すれ違ってしまう切ないラストシーン」を描きたかったがゆえに、多少の不自然さには目を瞑ってでも、こういうストーリー展開にしたのかなぁ……と推測する次第ですが、真相や如何に。   そんな本作の良かった点としては「かき氷を作るのが上手い」「桃を採るのが上手い」と褒められるシーンにて、こちらも嬉しくなるような、独特の爽やかさがあった事が挙げられますね。  こういった形で「働く喜び」のようなものを描いている映画は、とても貴重だと思います。   同僚の女性に「良いんですか? 誤解されたままじゃないですか」と、長台詞で「不器用な彼氏の真意」を種明かしさせた件に関しても、今になって考えてみると、良かったように思えますね。  当初は(ちょっと分かり易過ぎるよなぁ……)とゲンナリしていたのですが、曖昧なまま「もしかしたら、愛情ゆえにお金を使わせていたのか?」と含みを持たせるだけで終わるよりは、ずっと誠実だったかと。  主人公に「来る訳ないか」と言わせた点も含め、両者の恋愛模様に対し、はっきりと答えを出してみせた姿勢には、好感が持てました。
[DVD(邦画)] 3点(2016-07-20 06:37:06)(良:2票)
110.  ひとり狼 《ネタバレ》 
 市川雷蔵、良いですねぇ。  正直に告白すると、これまで観賞してきた彼の主演作にはあまり「当たり」が無かったりもしたのですが、これは間違いなく「面白かった」と言える一品。  主演俳優のカリスマ性の高さに、映画全体のクオリティが追い付いているように感じられました。   オープニング曲で映画のあらすじを語ってみせるかのような手法からして、何だか愛嬌があって憎めないのですが、本作の一番面白いところは「理想的な博徒とは、こういうものだよ」と、懇切丁寧に描いてみせた点にあるのでしょうね。  賭場で儲けても、勝ち逃げはしないで、最後はキッチリ負けてみせて相手方の面目を立たせる。  出された食事は、魚の骨に至るまで全て頂き、おかわりなどは望まない。  たとえ殺し合っている最中でも、出入りが片付いたと聞かされれば「無駄働きはしない」とばかりに、刀を収めてみせる。  一つ一つを抜き出せば、それほど衝撃的な事柄でも無かったりするのですが、映画全体に亘って、この「博徒の作法」とも言うべき美意識が徹底して描かれている為、そういうものなんだろうなと、思わず納得させられてしまうのです。   数少ない不満点は、主人公の伊三蔵が「卒塔婆が云々」と、声に出して呟いてしまう演出くらいですね。  これには流石に(気障だなぁ……)と、少々距離を感じてしまいました。  その他、ヒロイン格であるはずの由乃の言動が、ちょっと酷いんじゃないかなとも思いますが、まぁ武家の娘なら仕方ないかと、ギリギリで納得出来る範囲内。    そんな由乃から、手切れ金のように小判を渡され、一人で逃げるようにと伝えられる場面。  そこで、雨の中に小判を投げ捨て、啖呵を切って走り去る主人公の姿なんかも、妙に恰好良かったりして、痺れちゃいましたね。  たとえ本心では無かったとしても、ここで自棄になって「堕胎」を仄めかしてしまったからこそ、最後まで伊三蔵は我が子から「おじちゃん」呼ばわりされるまま、親子として向き合う事は出来なかったのだな……と思えば、何とも切ない。  「父上は亡くなられた」「立派なお侍だった」と語る我が子を見つめる際の、寂し気な笑顔のような表情も、実に味わい深いものがありました。   そして、それらの因縁が積み重なった末に発せられる「これが人間の屑のするこった」「しっかりと見ているんだぞ」からの立ち回りは、本当に息を飲む凄さ。  同時期の俳優、勝新太郎などに比べると、市川雷蔵の殺陣の動きは、少々見劣りする印象もあったりしたのですが、それを逆手に取るように「傷付いた身体で、みっともなく足掻きながら敵と戦う主人公の、泥臭い格好良さ」を描いているのですよね。  その姿は、傷一つ負わない無敵の剣客なんかよりも、ずっと気高く美しいものであるように感じられました。    終局にて発せられる「縁と命があったら、また会おうぜ」という別れの台詞も、完璧なまでの格好良さ。  市川雷蔵ここにあり! と歓声をあげたくなるような、見事な映画でありました。
[DVD(邦画)] 8点(2016-07-20 01:21:28)
111.  リンダ リンダ リンダ 《ネタバレ》 
 途中までは退屈で仕方なくて (リアルな高校生活を描きたいのかも知れないけど、そのせいで山場の無い映画になっているよなぁ……)  などと意地悪に考えていたのですが、いざ本番での演奏シーンには圧倒されましたね。  それまでがテンションだだ下がりであっただけに、揺れ幅の大きさを感じられました。  演奏開始前に、主人公の女の子達が「どうだった?」「言えなかった……」と笑顔で会話を交わす辺りも良かったです。   上述のように、ラスト十分ほどは楽しめた作品なのですが、気になる点も幾つか。  まず、主人公達が遅刻したせいで色んな人に迷惑が掛かっているはずなのに、謝罪する姿が殆ど描かれていない事。  そして観客である自分としては、映画冒頭にて、ぎこちなく「リンダリンダ」を歌っていた留学生の少女が、きちんと歌えるようになったというギャップに感動させられたけれど、映画の中の人々まであんなに熱狂しているのは不自然に思えた事。  ユニコーンの「すばらしい日々」などが、あまりにもブツギリな編集となっており(ちゃんと区切りの良いところまで聴かせて欲しいな)と思わされた事。  一番キツかったのが、エンドロールにて本物のThe Blue Heartsによる「終わらない歌」を流した事で、これはもう何と言うか、残酷です。   せっかく(女の子達が頑張って演奏する姿、良いなぁ……)と思っていたところだったのに(やっぱり本物は違う!)と唸らされ、先程までの演奏が、完全に霞んでしまったのですよね。  せめて劇中で彼女達が「終わらない歌」を唄っていなければ何とかなったかも知れませんが、ご丁寧に連続して聴かされたものだから、たまらない。   全体的には嫌いな作風ではありませんし、監督さんの「溜めて溜めて、クライマックスで解き放つ」上手さは凄いと思うのですが、最後の最後で(何も本物を流さなくても……)と、嘆息させられた形。  一度は感動したはずなのに、それを上書きされてしまったという、貴重な体験を味わえた映画でした。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-12 05:22:29)(良:2票)
112.  ラブ&ピース 《ネタバレ》 
 二十五年以上前、まだ無名であった監督自身が書き上げた脚本を基に「夢見る若者」について描いた一品。    序盤に関しては、ハッキリ言って、観ているのが辛い内容。  主人公は「冴えない若者」どころの話じゃなくて、さながら精神的な病でも抱えているかのような、酷い描かれ方をしているのですよね。  トイレの個室の落書きが、そのまま主人公の強迫観念を描き出している演出と「炬燵に隠れる主人公の姿」が「亀」を連想させる演出などには、クスっとさせられましたが、精々それくらい。   怪獣みたいで良い名前だ、という理由でペットの亀に「ピカドン」と名付けるシーン。  そして、そんなピカドンに、人生ゲームのマップや、野球盤の上を歩かせて遊ぶシーンにて(おぉ、怪獣映画みたい!)と思わされた辺りから、ようやく面白くなってきて、後は右肩上がり。   いくら会社で揶揄われたのが原因とはいえ、ピカドンを主人公が自らトイレに流してしまう展開には疑問も残りましたが「皆に笑われて、自ら夢を諦めてしまった若者」を暗示している描写の為、仕方なかったのだろうなと、何とか納得出来る範疇でした。  その後に、ピカドンを想って作った曲を路上で熱唱し、主人公がスター街道を駆け上っていく展開は、本当に痛快で面白かったですね。  映画「地獄でなぜ悪い」の劇中曲が、本作で使われているファンサービスにも、思わずニヤリ。   また、サイドストーリーも秀逸であり、視点が主人公から離れる場面でも、全く飽きさせない作りとなっていましたね。  謎の老人の正体が判明する件には「サンタクロースだったの!?」と本当に吃驚。  作中にて彼に浴びせられる「どうせ来年も、アンタの配った夢が、ここに戻ってくるんだ……」という台詞にも、独特の情感があって、非常に良かったです。  サンタさんは皆に夢を与えている訳ではなく、皆が捨てた夢を配り直しているだけなのだという、哀しい世界観。  それが、実に味わい深い魅力を、作品に与えてくれていました。   予見していた通り、怪獣映画そのものなクライマックスが訪れた瞬間には、もう大興奮。  そして主人公が「過去の自分」「恥ずかしい夢を抱えていた頃の自分そのもの」であるピカドンと向き合い、耐え切れずに、震え出してしまう件では、こちらも固唾を飲んで、画面を見つめる事になりました。  誰だって、他人に知られたら恥ずかしいような夢を抱いていた事はあるはずですが、この映画は、そんな過去の自分を、否応無く思い出させてくれる。  そして、夢を叶えてみせたはずの主人公が、段々と嫌な奴へと化してしまった事も併せて描き「夢を抱く事って、そんなに素晴らしいか? 夢を叶えたら幸せになれるのか?」という、極めて難しい問いかけを投げかけてくるのです。   ピカドンが消えたのを目にし、呆然としたまま元いた家に帰っていく主人公の姿に、RCサクセションの「スローバラード」が重なる演出に関しては、もう反則。  名曲というだけでなく、非常に思い入れ深い曲でもあったりする為に、それだけで満点を付けたい気持ちに襲われました。   ただ、最後の最後、主人公がピカドンと再会して「カメ」と呼んだ事に関しては、大いに不満。  「スローバラード」曲中にて「カメ」と言っているように聞こえる部分があるからと、無理やり重ねたように思えてしまい「空耳アワーかよ!」とツッコんでしまいましたね。  「僕ら、夢を見たのさ」「とっても、良く似た夢を……」というフレーズに関しては、主人公とピカドンに似合っていただけに、そこだけが残念で仕方ない。  他にも、家具をそのままにしておいたという発言など「最終的に主人公は、この家に帰ってくる」伏線が分かり易過ぎた辺りは、欠点と言えそうです。   監督の特色である血みどろバイオレス描写、フェティッシュな性描写が無くとも、しっかり面白かった辺りは、嬉しかったですね。  上述の「夢」に関する問い掛けについても 「夢を抱く姿は滑稽で、馬鹿にされたりするかも知れないが、きっと分かってくれる人がいる」 「夢を叶える為に自分を見失うくらいなら、叶わなくても構わない」  という、優しい答えが示されているように思えて、じんわり胸が温かくなりました。   結局、この作品のラストにて主人公は、夢が叶う前の、ピカドンに夢を語り聞かせていた頃の、恥ずかしい自分に戻ってしまいます。  何の進歩もしていないと、馬鹿にして笑い飛ばす事だって出来てしまいそうな、寂しいエンディング。  だけど、今度こそは自分を見失わないまま、ピカドンを見失わないままで、夢を叶えてみせて欲しいと、全力で応援したくなる。  そんな、素敵な映画でした。
[DVD(邦画)] 8点(2016-07-07 23:01:17)
113.  ヤッターマン(2008) 《ネタバレ》 
 元々アニメ版においてもドロンジョ達が主役だった印象があるのですが、実写映画版では、それが更に顕著な作りとなっていますね。   ではヤッターマン達の出番はどうするのか、という問題に対し「ドロンジョが一号に恋をする」という設定を持ち出して、三角関係という形で解決してみせた辺りが上手い。  深田恭子さんは意外な程のハマり役で、当初こそ「おばさんっぽい色気が足りないのでは?」と思っていたはずなのに、終盤に至る頃には、完全に心奪われていました。  ちょっとロリータな魅力も秘めていたりして、背伸びして悪役ぶっているような感じが、実に可愛らしかったのですよね。  「夢は、お嫁さんになる事」と判明するシーンなんかは、特に素晴らしくて、思えばあそこから画面に釘付けになっていたような気がします。   作中のギャグに関しては「うわぁ、下らない……」と笑ってしまうか、呆れてしまうか、半々といったところ。  ラストにて親子が山を降りていくシーンや、ヤッターキングを大きく作り過ぎてしまったシーンは前者。  バージンローダーが攻撃に悶えたり、消えてはならないものが消えたりする件が後者でしょうか。  「助けるだけが正義じゃない。誰だって自分の力で乗り越えなければいけない時がある」などの台詞はシリアスで良かったと思うのですが、その後にあからさまなギャグ(阿部サダヲの一人芝居)に繋がる辺りは、ちょっと好みとは違っていたかも。  シリアスで決めるところは決めて欲しかったなぁ、と思わされました。   アニメで印象的だった「三人組が解散し、それぞれ別の道を歩いていくも、結局その道は再び一つに合流するようになっている」場面が再現されていたのは、嬉しい限り。  エンドロール後に流れる次回予告も、中々に興味深い内容でしたね。  観客に楽しんでもらおうという気持ちが伝わってくる、サービス豊かな映画でありました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-06 08:16:15)
114.  みなさん、さようなら(2012) 《ネタバレ》 
 作中にて「そういう嘘は虚しくなるだけだぞ」という台詞がありますが、正に虚しくなる嘘のような映画。   それは何も主人公が劇的に喧嘩が強い事とか、常に女性と絡む人生を送っているとか、そんな些末な部分ではなくて、もっと根本的なキッカケの部分。  主人公が団地の中に引き籠る理由が「小学校の教室で殺傷事件に巻き込まれたから」というのが、どうしても受け入れられなかったのですよね。  作中にて、何度も「俺が団地の皆を守る」と言っているのだから、団地の中で事件が発生したというのなら「離れた隙に事件が起こらないように」という事で、まだ納得出来るのです。  でも、この主人公に対しては「学校で事件が起こり、クラスメイトが殺されたんだから、皆を守りたいなら学校に行くベきだろう?」と思ってしまう。  逆に、恐怖ゆえのトラウマだというなら「学校に行けなくなった」までは納得出来るけど、それは「団地を離れられない」という固執には繋がらない。  これなら、学校から離れられなくなり、用務員として住み込みで働く事になった主人公という話の方が、まだ自然だったかと。   実際の精神的な病状だって、そういうもんなんだよって事なのかも知れませんが、これは実話ネタではありませんし、フィクションだからこそ必要なリアリティが欠けていたように思えます。  恐らくは、実際に起こった校内侵入事件やら何やらと関連付けようとした結果、こんなチグハグな図式になってしまったのだと推測。  そういった現実と虚構とのシンクロによって、ストーリーに真実味が増す事も多いのは確かですが、本作に関しては失敗しているように感じられました。   そんな風に、大前提の時点で興醒めしてしまい、あまり熱中出来なかった本作品。  けれど、ディテールの演出が非常に丁寧であり、退屈さは覚えなかったのだから、これは作り手さんの凄さなのでしょうね。   特に好きなのが「私、普通が良い」という理由で婚約者の女性に振られた後、男三人で集まって、慰めパーティーを開いてもらう件。  それまでは、あまり優しい印象は無かったりしたケーキ屋の店長が、ここで凄く親身になって言葉を掛けてくれるのです。  「主人公が団地から巣立つ」という結末以外は有り得ない作風なのに「団地の中で一生を終える。広い世の中、そんな奴が一人ぐらいいたって、面白ぇじゃねぇか」と言い放つ姿は、意外性もあって、本当に良かったと思います。  船の中で生まれ、ずっと船から出ないで死んだ男の映画なんかも連想したりしましたね。  「普通じゃない」という理由で拒否される事が嫌いな人間としては、この「普通じゃなくても良い」という肯定の台詞には、大いに心慰められるものがありました。   パーティーに参加してくれた、もう一人。  男友達の顛末に関しては、何とも後味が悪くて、実に残念。  恐らくは同性愛者であるがゆえに悩んで精神を病んでしまったのでしょうが、彼が健常であれば、宅配サービスも兼ねたケーキ屋さんとして、団地の中で暮らし続ける事も可能だったように思えるのですよね。  それだけに、その発狂が「主人公を団地の中で安住させない為の無理矢理な措置」と感じられたりして、ちょっと受け入れ難いものがありました。   トラウマを乗り越える為、刃物を持った悪漢に立ち向かい、見事に倒してみせる主人公というクライマックスに関しては、非常に分かり易く、かつ爽快感もあって、好印象。  そして母親との死別が、主人公の旅立ちのキッカケとなる訳ですが、その前段階。  団地の中と外を結ぶ架け橋として、象徴的に描かれていた階段を、母親を心配する主人公が一気に駆け下りていくシークエンスに関しては、大いに評価したいところです。  ここは安易に「母親の死」→「初めて主人公が階段を降り切ってエンド」としてしまいそうなところなのに、その前に「階段を降りる」という儀式を済ませておく。  母が死んで、もう生活出来なくなったから仕方なく階段を降りるのではなく、母を想う愛情が長年の障壁を突破させたという形にしてくれたのは、本当に嬉しかったですね。  母の遺骨を故郷の海に撒く為に、一時的に団地を離れた訳ではなく、きちんと巣立って戻ってこない事を「団地に残っている卒業生=0人」という形で表現してみせた思い切りの良さにも感心。  最後の最後で「逃げ」の姿勢を見せず、きちんと答えを出してみせる、作り手の真摯さが窺えました。   観賞後「ちゃんと団地の外でも暮らしていけるの?」と不安になるような気持ちは全く無くて、劇中の母親さながらに「この主人公ならば、きっと大丈夫」と確信させられたのだから、そこを考えると、やはり凄い映画なのかと思えます。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-06 04:09:29)
115.  映画 ビリギャル 《ネタバレ》 
 あらすじを知って(やれば出来る、の見本のような話だな……)と思っていただけに、劇中にて塾の講師が「やれば出来る、という言葉は良くない」と言い出した時には、驚かされました。  その後に「やっても出来なかった時に、挫折感を味わってしまうから」と説明してもらう形となっており「なるほど」と大いに得心。    実話が元ネタで無ければ「有り得ない」「大学受験を馬鹿にしている」と批判も受けてしまいそうな非現実的ストーリーゆえか、登場人物もステレオタイプな描き方。  塾の講師と、学校の先生の描き分けなんて、正に善と悪。  理想の教師と最低の教師という対比となっており(ここまでやっても良いの?)と最初こそ戸惑いましたが、結果的には思いっ切り極端化させた事が、成功に繋がっていたように思えますね。  主人公同様に、観客も余計な懸念は捨て去って、講師を全面的に信頼し、純粋に受験を応援する気持ちになれたかと。  また、上述の「最低の教師」を後半あまり登場させず「嫌な奴を見返してみせた」という陰湿な復讐の快感をズルズル引っ張らなかった事によって、終盤の爽やかな成長物語に繋げた辺りも、お見事でした。   母親が苦労して塾の費用を工面した件では(これは何としても頑張ってあげないと!)と思わされたし、父親の「野球馬鹿親父」っぷりなんかも、説得力があって良かったです。  私的な事ではあるのですが、身近にあの親父さんに良く似たタイプの人がいるもので、確信を持って「こういう人、いるよ」と言えたりするのですよね。  その父親も完璧な悪役にする事は無く、ちゃんと良い部分(困った人は見捨てられずに人助けする場面)も見せる辺りなんかは、不器用なやり方でしたが、何だか凄く嬉しかったです。   この作品に関しては、全体的に「実話ネタである」事が上手く作用していたみたいで、恋愛要素が極めて薄い辺りなんかも好印象でしたね。  これが完全な創作であれば、先生なり同じ塾の生徒なりと恋に落ちていたかも知れませんが、そういった要素は取っ払い、受験のみに専念してくれたので、安心して楽しむ事が出来ました。    野球映画を観た後に、キャッチボールをやりたくなる。  音楽映画を観た後に、歌い出したくなる。  それと同じように「ビリギャル」を観た後は、勉強してみたくなったのだから、間違いなく良い映画なのだと思います。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-04 10:09:11)
116.  パレード 《ネタバレ》 
 これは久々に「怖い」と思わされた映画です。   正直に言うと、終盤までは退屈で仕方ない。  夜の遊園地にて、女性が子供時代のトラウマを語るシーンの演出なんかはベタベタで、話の途中で相手の男が目を瞑っているのに気が付き「何だ、寝ちゃったのか」と呟く件なんて、もう観ているコッチが恥ずかしくなるくらい。  だた、このシーンにて「途中で寝ちゃった」はずの男性が、そっと目を開き、寝た振りをしていた事が明かされるのですよね。  (出会って間もないのに、いきなりヘビーな話されて困ったから、聞かなかった事にしたのかな……)と、軽く受け流していたのですが、まさかそれがラストの伏線とは、恐れ入りました。   連続通り魔の犯人が、ルームシェアしている若者達四人の中にいる事は、大体予見出来る範囲内だと思います。  その正体が、藤原竜也演じる直輝であったという点についても「一人だけ夜中に出歩いていて、アリバイが無い」という事を鑑みれば、意外とは言えない。  衝撃的な犯行シーンに差し掛かっても、観客であるこちらとしては(まぁ、そうだろうなぁ)という感じで、然程驚きは無かったのですが、そんな風に心が緩んだ隙を突くようにして、映画は「本当に怖い」ラストシーンに流れ込むのです。   偶々犯行を目撃してしまった、新たな入居者のサトル。  諦めきった表情で「警察に突き出される事」「自分を慕っていた同居人の皆にも犯行がバレてしまう事」を覚悟する直輝に対し、サトルは事も無げに、こう言い放ってみせる。 「もう、みんな知ってんじゃないの?」  この一言にはもう、完全に直輝と心境がシンクロしてしまって、心底から吃驚。  そして、何故知っているのに止めなかったのか、その理由が既に作中で明かされていた事に気付いて、二度驚く訳です。   恐らく彼らは「重い話を聞く事」が「面倒臭い」のだと思います。  だからトラウマを抱えた女性を相手にしても、寝た振りをしてやり過ごす。  同情したり、慰めたり、励ましたり、怒ったり、一緒に泣いてみせたりするのは、疲れるし、やりたくない。  同居人が殺人犯じゃないかと勘付いても、それが確定してしまったら面倒なので、踏み込まない。  観客が知りたいと願う「犯行の動機」に関しても、一切詮索したりはしない。  自分にとって「都合の良い人物」「皆の頼れる最年長者」でありさえすればいいという、怠惰な利己主義。  作中で長い時間を掛けて、彼らは「問題を抱えているけど、基本的には良い奴ら」として描かれていただけに、その衝撃は凄かったですね。   そんな人間関係の中で、直輝だけが一方的に「重い話を打ち明けられる事」が多い。  しかし、直輝にとっての悩みである「自分が殺人犯である事」は、誰にも打ち明けられない。  信頼出来る人格者として扱われている為、仲間から打ち明けられた秘密を、他の仲間に話す事も無い。  あまりにも便利な相談役。  だからこそ、他の住人にとっては直輝が必要だったのでしょう。   ラストシーンにて、泣き崩れる直輝に「皆で旅行に出掛けよう」と誘う一同の、冷たい表情。  そこからは、親しみに見せかけた究極の無関心というか「大切なのはアンタがどういう人間なのかじゃなくて、アンタが私の仲間として役に立ってくれるかどうかだ」という要求が窺い知れて、本当に背筋が寒くなりました。  日常にて何気なく使われる「空気を読めよ」という言葉なんかも、本質的には彼らの要求と同じではないかと思えたりして、何ともやりきれない。   全編に亘って楽しめる内容とは言い難いのですが、とにかくラストの衝撃に関しては、折り紙付き。  こういった事が起こり得るからこそ、途中まで退屈な映画でも、最後まで諦めずに観なきゃいけないんだな……と、再確認させてくれました。
[DVD(邦画)] 6点(2016-07-03 07:34:31)(良:1票)
117.  はじまりのみち 《ネタバレ》 
 アニメ畑の出身である人が監督した作品にしては、あまり非現実的な内容でない辺りは嬉しかったですね。  ちゃんと、こういう人情劇も撮れるんだぞ、と証明してもらったような感覚。   木下恵介監督の作品は「カルメン故郷に帰る」「楢山節考」「二十四の瞳」くらいしか観賞していないのですが、劇中にて主人公が後の創作のアイディアとなったであろう場面と遭遇する流れでは(おっ……)と思わされました。  正直、それまでは(別に木下恵介が主役じゃなくても良いよなぁ)と思っていただけに、失望が喜びへと変わる瞬間を味わえたという形。   終盤にて、上述の経験から生み出された木下映画の数々が、延々十分以上もダイジェストで流れる演出なのですが、それを踏まえて考えると、事前知識が一切無い方が(あぁっ、あれって伏線だったのか!)と感動出来そうな感じですね。  最後の1コマでは、原監督お気に入りの「青空侍」を連想させるような演出もあったりして、彼のファンならば作中の木下恵介を原恵一と重ね合わせて楽しむ事も出来るかも。   難点としては、原恵一監督が木下恵介を尊敬するがゆえなのか、作中人物が全員「木下監督の作品は素晴らしい」と主張する立場で固められており、少々胡散臭いというか、創作者にとって優し過ぎる世界だな、と感じられた事でしょうか。  結局、この映画の中で主人公に批判的な人物は、顔も見えず声も聞こえない「検閲を行う軍部」しか存在しておらず、映画会社も、家族も、庶民代表のような便利屋さえもが、全て主人公の映画を絶賛して、応援してくれているのです。  にも拘わらず作中では「不遇の天才」であるかのように主人公を同情的に描いているのだから、何とも妙なバランス。  主人公が不貞腐れる事になる冒頭のシーンでは「特攻隊の映画を撮ろうと思ったら中止になった」という障害しか発生していない訳で、可哀想は可哀想だけど大袈裟に嘆く程でもないよな……と感じられるのです。  監督をクビになった訳でもないし、映画会社の人は別の映画を撮ろうと優しく提案してくれているにも拘わらず、自分の映画に文句を付けられたのが気に食わなくて癇癪を起こしたかのように田舎に帰ってしまう。  そりゃあ自由に映画を撮らせてもらえないのが嫌なのは分かるけど、そのくらいの躓きで映画作りを諦めて監督辞めると言い出すだなんて、それは芸術家としての美点ではなく欠点ではないかと。  「木下恵介って人は、そんなに映画作りの情熱に欠けた人だったの?」 「周りが皆揃って自分の作品を絶賛して応援してくれないと映画を撮れない人なの?」  なんて思えてしまうのだから、伝記映画としては、ちょっと頂けない内容でした。   母親の顔をハンカチで拭う件など、感動的な場面でやたらと大袈裟なBGMが流れるのも気になるところ。  ここも、監督さんとしては「木下恵介の母想いな優しさ」を強調したいという、善意ゆえの演出だったのかも知れませんが、少々押し付けがましく感じられて、残念。   漬物屋で育ち、大の漬物嫌い。黒澤明とのライバル関係。同性愛疑惑があってスタッフに美青年を採用していた等々の、エキセントリックな要素は「故人の名声を傷付ける」とばかりに排して、優等生的に仕上げたのだとしたら、何とも寂しい限りですね。  作り手の誠意は伝わってくるだけに、何だか心苦しいのですが、自分としては違和感の大きい映画でした。
[DVD(邦画)] 3点(2016-07-03 00:53:11)
118.  ちゃんと伝える 《ネタバレ》 
 映画の最後にて表示されるメッセージから、本作が監督の実父に捧げられた品である事が分かります。   そういった経緯を踏まえて考えると、とても真面目に作られていた事には納得なのですが、園子温監督特有の力強い魅力が伝わって来なかったのは、何とも寂しいですね。  役者さんの演技に関しても、妙にわざとらしく感じられたりして、残念。   「余命幾ばくも無い父との別れを惜しんでいたら、実は自分の方が重度のガンであった」という設定は面白いのですが、今一つ効果的に作用していないようにも思えました。  結局、主人公の死までは描いていないし「ヒロインがプロポーズを受け入れてくれる事」くらいにしか影響が窺えません。  それにしたって、彼女に関しては「理想の恋人」以外の個性が窺えなかったりするものだから、短命なのを承知で結婚してくれても、それが当然の流れであるように思えてしまい、観ていて感情が揺さ振られないのです。   また、全体の流れを眺めてみても「父親の死と、約束の釣り」という泣かせ所の後に「主人公がガンである事を恋人に告白する」という泣かせ所が続いて、観ていて疲れてしまう形であり、しかも明らかに前者の方に比重を置いた構成だったりするものだから、どうにもチグハグな印象。   良かった部分としては、劇中の音楽が挙げられますね。  静かな旋律の中に、優しさを感じられます。  主人公の母を、いつも病院まで送り迎えする形となり、すっかり顔見知りになっていたバス運転手が、無人のバス停を見つめて、寂しそうにバスのドアを閉じるシーンなんかも印象的。   監督さんの力量は確かでしょうし「こういうタイプの映画も撮れるのか」と感心させられる気持ちはあったのですが、それが感動にまで繋がらなかった事が、寂しく思えてしまう一品でした。
[DVD(邦画)] 4点(2016-07-02 20:20:40)
119.  スタア 《ネタバレ》 
 元々が舞台劇ゆえか、演出のテンポが非常に良いですね。  物語の殆どが、マンションの一室の中で進行するという作りも好み。   ただし、筒井康隆が原作の為か、強烈な毒を孕んだ作品でもあり「赤ん坊を殺して調理し、客に食べさせる」という展開には、流石に気分が悪くなりました。  勿論、画面には血の一滴どころか、その赤ん坊の顔すらも映らないように配慮されているのですが、泣き声を聞かされただけでも、文字媒体より遥かに生々しく感じられたのですよね。  他にも複数の殺人が発生し、それらに対しては「実は生きていた」オチが付いたりするのに「赤ん坊は、本当に殺されて食べられていた」という徹底振りなのだから、もはや呆れ半分、感心半分といった気持ち。   中盤にて主人公が叫ぶ「芸能人とはかくあるべき論」に関しては、正に熱演と呼ぶに相応しく、一見の価値があるかと思います  「芸能人は、悪い事だってしなきゃいけないんだ」 「後ろ暗い体験が、芸のプラスになっている事だって多いんだ」 「面白くも可笑しくもない清廉潔白な人間が、ドラマを演じたり、失恋の悲しみや庶民の苦しみを謳った歌謡曲を唄えるものじゃないんだ」 「私生児を産んだって良いんだ」 「人を絞め殺したって良いんだ」 「芸の為なんだ」   主張の正しさはともかくとしても、非常に印象深い場面でした。  けれど、その辺りから徐々に暗雲が立ち込め始めたというか、SF的な要素が色濃くなって「何でもあり」な空気になってしまった事は、とても残念。  一応は主人公夫妻の殺人行為をメインに据えており、終盤にて彼らが逮捕されそうになる流れなのに、そこで「空間のひずみ」がどうの「冷蔵庫の中が北極になっている」だのと、新たな要素を付け足されても、話の展開を阻害しているようにしか思えなかったのですよね。   ラストにおける「後藤さんの来訪」も、不条理劇の代名詞である「ゴドーを待ちながら」のパロディであるのは分かるのですが(だから何? 来ないはずのゴドーが来ちゃうのが一番の不条理って事?)と、ひたすら疑問符が浮かぶばかり。   とはいえ、出演者は非常に豪華であり、次々に登場する有名人の顔を眺めるだけでも、それなりに楽しめたりするのだから、全く以て困り物です。  筒井康隆自身も「犬神博士」なるマッドサイエンティストを、楽し気に演じており、彼の小説のファンとしては、それだけでも「素敵な映画」と呼びたくなってしまう。  何とも評価の難しい、さながら「好き」と「嫌い」の境界さえをも捻じ曲げてしまうような、独特な一品でした。
[DVD(邦画)] 5点(2016-07-02 05:53:45)
120.  うた魂♪ 《ネタバレ》 
 「歌っている時の自分が好き」だったナルシストな主人公が「歌う事が好き」になるまでを描いた一品。   恋の妄想に耽り、興奮で鼻血を出してしまう女子高生という、ベタベタな演出を受け入れられるかどうかで、評価も変わってきそうですね。  コメディ映画というジャンルとも少し違っていて、コント映画という印象を受けました。  ゴリや間寛平といった面子が出演している事も、そんな雰囲気を濃くする効果があったように思えます。  そして、この二人がまた良い役どころを演じていたりするのだから、心憎い。   「必死になっている顔に疑問を持つような奴は、一生ダセェまんまだ」  という一言は、特に素晴らしくて、本作最大の名台詞でしょうね。  自らの歌う時の顔が、まるで鮭みたいだと悩む女子高生の孫娘に対し 「大きな口を開けて笑ったり、歌を唄ったりしている時の顔が、一番じゃ」  と話して、悩みを吹き飛ばしてくれる爺ちゃんも、これまた最高。   そんな具合に本作を「コント映画」として楽しんでいた自分としては、尾崎豊リスペクトである湯の川学院の合唱部を応援してしまう気持ちがあり、オオトリを飾るのが主人公達となる事を、残念に思っていたりもしたのですよね。  でも、クライマックスの「あなたに」を聴いた瞬間に、不満も吹き飛んじゃいました。   客席の皆も次々に立ち上がって歌い出す演出は、凄まじくベタで、観ていて恥ずかしいような気持ちになってくる。  それでも、そんなベタな王道演出を、しっかり正面から描いてみせたという作り手の熱意、勇気も伝わってきたりするものだから、自然に感動へと繋がってくれました。   あえて欠点を挙げるとすれば、ストーリーが王道の「部活もの」といった感じで、合唱を題材に選んでいるのに、特に目新しさは感じられない事。  主人公が恋している生徒会長の男子に、魅力というか、恋するに足る説得力を感じられなかった事。  そして、女性ディレクターに、生徒会副会長である恋敵の少女など、今一つ存在意義の薄い人物がいたりする事でしょうか。  全体的に、完成度が高いとは言い難いのですが、皆が楽しそうに合唱する姿を見れば、細かい点は気にならなくなりますね。   「必死になるのは、恥ずかしい事かも知れない」「でも、必死になる姿は間違いなく美しい」というメッセージが込められた、良い映画でした。
[DVD(邦画)] 7点(2016-07-01 05:46:05)(良:2票)
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