21. シェフと素顔と、おいしい時間
《ネタバレ》 いい雰囲気の作品で好きです。ストレートではなくてちょっとひねくれているのがいい。一夜で成立する恋といったら「恋人までの距離」を思い出しますが、あちらは若者の、すがすがしくテンポのいい言葉のキャッチボール。こちらは、中年男女の皮肉とイヤミの入り混じったドロ~リとした疲れた会話。でも、それはそれでリアルっぽいし、これで恋におちるのも何となくわかるのが年取った証拠(汗。2人が盛り上がり始めると、航空機の都合や電話で何度も中断される。「え~い、もう」って、2人と同じように観ている私もいらだたしくなる。その中断の間合いが本当にいいですね。上手な演出です。携帯をトイレに流してしまったのがきっかけで恋が始まるって、世界初のシチュエーションですよね。昔の映画なら、航空機が離陸したらお別れなのに、その後ああいう方法があるんですね。う~ん、あれやられると絶対戻ってくるなあ。レノの疲れた感じがセクシーだし、ビノシュのコテコテメイクとスッピンメイクの変化も楽しめます。85分。もう少し長くても良かったかなと思います。 [DVD(吹替)] 7点(2006-06-10 10:30:46) |
22. めぐりあう時間たち
わかりにくいとはきいていたので、原作を読んで、2度鑑賞して、「ダロウェイ夫人」を読んで、やっと一つ一つのシーンの意味のいくつかがわかったかな、と言う程度の理解です。なので「これは素晴らしい作品だ」と言い切るだけ自信はありませんが、パズルを解くような楽しさがこの作品にはあるようですね。3人の女優さんの演技は素晴らしいし、ニコール・キッドマンのバージニア・ウルフはアカデミー賞にふさわしい凄みのある演技でした。これならいっそ、ニコール・キッドマン主演でバージニア・ウルフの伝記映画撮ったら良かったかもと密かに思ったりしますが、もうその機会はなくなってしまったんでしょうねえ。3人の中で一番理解しやすいのはローラかな。ヴァージニアウルフはもちろん、クラリッサも普通の女ではなさそうだから理解しにくいですね。それでも、また観たくなる、その時はまたちがった感想を持ちそうな作品です。 [DVD(字幕)] 8点(2006-06-10 10:29:10) |
23. 赤いアモーレ
《ネタバレ》 最初、現在と回想部分との区別がつきにくいのですが、そこのを乗り越えると物語を追っていけます。恋愛は、その場限りの甘言でもその一言一言、その一瞬一瞬が愛の真実であるのだから、こういうのもありかなと思います。エルザの妊婦姿を見て一瞬半狂乱になるけれどその後は平静。奪うだけじゃなくて、差し出す愛もあるはず。妻エルザの出産のあと、旅先のレストランのテーブルでティモーテオがイタリアに結婚の儀式をしてみせる。その場限りの戯れとわかっていても、イタリアのうれしそうな微笑み。この微笑みが忘れられません。ペネローペ・クルスはサブミッシブで献身的な愛人を好演しています。死後も、エルサとティモーテオの子供のアンジェラの無事を見守りにやって来たのにちがいない。ティモーテオとイタリアはレイプから入って純愛に陥るのだけれど、その過程をもう少し丁寧に描いてもらえたら、このあたりの必然性ももっと理解できると思います。イタリアの気持ちが、全部ではないけれども、よくわかるので8点です。ちなみに、主演のセルジオ・カステリットは「マーサの幸せレシピ」のイタリア人シェフですよね。また見てみたい俳優さんです。 [DVD(吹替)] 8点(2006-06-06 22:25:57) |
24. かげろう(2003)
《ネタバレ》 けだるい雰囲気と、停滞しているかのような時間、そして曖昧さ。とってもフランス映画を感じさせる作品。音楽も雰囲気にピッタリです。ストーリーよりも、けだるい時間を主人公たちと共有して楽しむ気になって見るといいかもしれません。オディールのプロファイルは劇中で語られるけれど、イヴァンについては最後まで謎。自信はないけれど、最後のシーンで下を向いて作業していた男性は、自殺したはずのイヴァンでは?そうなら、さらに謎は深まる。 [DVD(字幕)] 8点(2006-06-03 19:15:32) |
25. シルヴィア
《ネタバレ》 欧米ではシルヴィア・プラスは今でも人気のある詩人だそうですから、その半生はよく知られていることと思います。この作品も「シルヴィアはよく知られた詩人」という前提で作られたものだと思います。私はシルビアという詩人をこの映画を見て知りました。死の少し前に出版された彼女の自伝的小説「ベル・ジャー」も読んだことがありません。そういう環境で鑑賞したレビューになります。シルビアが夫となるテッドと出会ってから、出産、テッドとの別れ、そして自殺までの10年足らずを映画化したもの。それ以前の描写は映像としてはありませんから伝記とは言えない。彼女は双極性障害(躁鬱病)に悩まされたそうですから、多分自殺も病気のためでしょう。映画も躁のあと鬱状態になります。最初の30分ぐらい(テッドと結婚するぐらいまで)は映像も明るくて楽しい雰囲気。残りの80分は映像も薄暗く、重い空気に包まれています。見ていて「カミーユ・クローデル」を思い浮かべました。あちらは、統合失調症でロダンとの恋と仕事の間で悩み精神のバランスを乱してゆく姿を、アジャーニが激しく熱演していました。この作品でも、病気は異なりますが、シルヴィアが苦悩して次第に精神のバランスを欠いていく姿を、パルトローが静かに好演しています。シルヴィアの唐突な行動や、まわりとの不調和の描写も精神疾患を描くための演出だと思いますが、最後までその点をはっきり記述していないので、かえってわかりにくくなっている感が否めません。実話なので仕方のないことですが、暗いどんよりとした空気のまま救いようのないエンディングをむかえます。 [DVD(吹替)] 7点(2006-05-27 10:47:15)(良:1票) |
26. 抱擁(2002)
パッケージの解説が気に入って予備知識なしに借りてきた作品です。鑑賞前に、ここのレビューを読んだらいい感じ。レビュー通りの佳作でした。過去の詩人の二人と、現代の研究者の二人が交互に入れ替わるのですが、とても自然な感じです。タイムスリップものではないのですが、ちょっとそういうテイストがあるかなあ。地味だけれどもとっても上品な作品です。こういう映画、もっともっと見たいですね。 [DVD(字幕)] 8点(2006-05-12 21:29:09) |
27. ヴェニスの商人
この映画を「シェイクスピアの戯曲」と関連づけないで観ればとてもいい映画です。原作は喜劇でこの映画は悲劇になってますよね。なので、喜劇として観るとあてはずれ。今、ヴェニスの商人を映画化しようとすればこういう形でしかできないのでしょうね。それでも、映画としては大変良いできですし、台詞も設定も原作とほとんど変わらないのに、配役・演技や音楽・光などの効果で喜劇の戯曲も悲劇に変わってしまうんですね。映画というのはほんとうに奥が深いなあと、原作が有名なだけに感じてしまう作品でした。 [DVD(字幕)] 8点(2006-05-07 17:33:14)(良:1票) |
28. 王子と踊子
《ネタバレ》 舞台は1911年ジョージ5世の戴冠式。バルカンの狐と称されるカルパチアの摂政(大公)とショーガールの2夜の恋の物語。オリジナルはテレンス・ラティガンがローレンス・オリヴィエ、ヴィヴィアン・リー夫妻のために書いた戯曲(The Sleeping Prince:眠りの森の王子)。テレンス・ラティガン自身が駄作を書いてしまったと夫妻に詫びるも、公演はロングランとなり大成功したらしいです。映画化に際してヴィヴィアン・リーの役をマリリン・モンローが演じます。マリリン主演映画の中では私の一番好きな作品です。私はこの映画で演じたエルシー・マリーナこそ、マリリンの特長が十分生かされた役柄だと思っています。作品の中で、大公がエルシーのことを「小児を思わせるかと思うと、ボクサーのような筋肉を持ち、人生の機微を心得ておる」と評するシーンがありますが、こういう役を演じたときのマリリンは最高です。この後、ヨーロッパはバルカン戦争を経て第1次世界大戦に突入する。この時代背景を考えれば、別れのシーンにもリアリティーを感じてしまいます。マリリンの可愛さと別れの切なさに、9点つけさせていただきます。 [DVD(字幕)] 9点(2006-05-07 14:33:50)(良:1票) |