1. 青春群像
《ネタバレ》 フェリーニ初の成功作であり、あのキューブリックが“マイ・ベスト・フェバリット”に選んだことでも有名。フェリーニの作風もまだネオレアリズモの影響が色濃く、後の強烈なフェリーニ的世界観からすると淡白なストーリーでもある。北イタリアの海岸沿いに位置する田舎町で気ままな生活を送っている五人の若者たちのエピソードを繋いでゆく構成は、後の『アマルコルド』で再構築されます。五人のリーダー(なのかな?)格のファウストは仲間のモラルドの妹を孕ませて出来ちゃった結婚、演じたフランコ・ファブリーツィは髭を蓄えたところなんかは若き日の宝田明になんか似ている。五人の中で唯一インテリで劇作家志望のレオポルドは、『ニュー・シネマ・パラダイス』で神父を演じたレオポルド・トリエステの若き日の姿。そう言えば劇中でアルベルト・ソルディが労働者を侮辱するシーンも、『ニュー・シネマ・パラダイス』での上映映画として使われていましたね。まだ“フェリーニがフェリーニになる前”の作品とは言っても、カーニバルのシーンにはその片鱗が伺えます。けっきょくモラトリアム生活にどっぷり浸かっていた五人の中でもモラルドだけが故郷から訣別するのがラストですけど、自伝的要素があるというこの脚本の中でフェリーニは自身の姿をモラルドに投影していたのかな? 観終わってみれば、真底の悪人はこの映画の中には一人も出てこなかった感じがします。考えてみれば、これは後のフェリーニ作品群にも共通する傾向なのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2023-06-30 23:02:29) |
2. セックス発電
《ネタバレ》 えー、なんかこの映画の世界では80年代にエネルギー源の枯渇(石油を掘り尽くした?)と技術の退化(?)が起こって21世紀には世界は200年前と同程度の文明に逆戻りしてしまったそうです。でも『北斗の拳』みたいな荒廃してるわけでなく、ビルや道路や車といったかつての機械文明の製品はそのまま残っていて、ただ電気を発生させることが出来ないので使用できない単なるオブジェと化しているわけです。というわけで人々は移動手段は18世紀さながらの馬か馬由来乗りもので、タクシーなんか人力車なんですよ。 この様にプロットはもう徹底的におバカ、中坊の妄想みたいなもんです。そして展開されるストーリーがまたくだらない。ある医学教授が天才的なアイデアを思いつきました、「そうだ!セックスが生みだすエネルギーを電力に転換できるんじゃないか!」。どうもこの世界の人類は、技術だけじゃなくて頭の中身まで退化してしまったみたいです(笑)。この教授は精力絶倫のホテル支配人と同僚教授の淫乱妻を無理矢理に怪我させて同じ病室にほうり込み、実験のためにセックスさせようとします。つうか、普通に事情を説明してやってもらえばいいのに、というよりもなんでセックスが電力を生むのかが意味不明。この絶倫男を演じるのが名匠ヴィットリオの息子クリスチャン・デ・シーカで、たしかに若き頃の親父に面影が似てますね。実験はもちろん成功するわけですが、このセックス発電で電気機関車を走らせるバカバカしさには抱腹絶倒です。そしてもっと大量に発電するためにホテルにカップルを何百組も詰め込み(なぜか同性愛のカップルまで)アレしまくるんですから、こんなバカなお話し考えついた監督にはもう開いた口がふさがりません。そしてこの巨大ラブホが産み出す電力に満足した政府高官いわく「これでイタリアは世界一の超大国だ!」、そりゃイタリア男の精力は世界屈指ですからねえ(笑)。 結末はかなり皮肉が効いています。電力増産のためにセックスが国民の義務になってしまい、誰とヤッても許される社会になってしまい夫婦制度は半ば崩壊です。でもセックスの妨げになるというよく理解できない理屈で恋愛はご法度になってしまいます。配偶者が他人と励んでいるのを観ても、恋愛感情が無ければ安心しておれるということみたいです。ディストピア映画は数あれど、こんな地獄ならひょっとしていいかも(笑)、でも人口が爆発的に増えることは容易に想像がつき、イタリア政府はどうするつもりなんでしょうか(笑)。 余談ですけど、この映画は日本公開時に地方では『ブレードランナー』との二本立てだったそうです。いまや伝説の傑作と崇められている『ブレードランナー』が、公開時にいかに低評価だったかを教えてくれるエピソードです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2015-12-21 20:54:38) |
3. セルピコ
《ネタバレ》 アメリカでも賄賂を取らない警官の方が多数派だと思いたいけど、フランク・セルピコほど執拗にそれを糾弾した警官は稀有かもしれません。セルピコと言う名前は今や清廉潔白の代名詞みたいになっていますが、この映画では良く言えば変人、どちらかと言えば偏執狂的なセルピコの姿を包み隠さず描いていると思います。プライベートで交際している女性にエゴイスティックな態度を見せるところなんか、名匠S・ルメットの冷徹な映画の撮り方に感服してしまいます。この頃のA・パチーノは、男の眼から見てもほれぼれとする様な美貌でして、この美顔と鼻にかかった独特の声が何で今みたいなとてつもなく深い皺顔とだみ声になってしまったのか、人生とは残酷なものですね。 最近のハリウッド警察映画に登場する内部監察の刑事は、たいていはヒーローの邪魔をする嫌な悪役というパターンが多いのは興味深いところです。この映画のように真正面から警察の不正を告発するのは今じゃ受けないのでしょうかね。 [映画館(字幕)] 8点(2012-11-03 12:07:17) |
4. セントアンナの奇跡
《ネタバレ》 イーストウッドに「なんで『硫黄島』に黒人兵士が出てこないんだよ」とマジで喧嘩を売って物議をかもしたスパイク・リーなので、黒人兵士を主人公にした戦争映画には力が入ってます。冒頭、孤独な元兵士へクターがTVに見入っているのは『史上最大の作戦』のジョン・ウェイン登場シーンというところからしてリーの思い入れが感じられます。戦闘シーンは『プライベート・ライアン』を意識した凄惨さで、ドイツ兵の描き方も兵士たちのやり取りがリアルで良かったかと思います。ただ肝心のプロットにはちょっと無理があるうえに脚本が詰め込み過ぎで、そのため上映時間がえらく長く感じられました。私には結局なにが「セント・アンナの奇跡」だったのか、「眠る男」の意味が何だったのか、最後まで理解不能でした。イタリア人が大量虐殺されるところもなんか淡泊な印象で、意地の悪い言い方をすると、スパイク・リーという人は「白人」の虐殺には「黒人」の虐待ほどには憤慨しないと感じちゃいました。 [DVD(字幕)] 6点(2011-02-06 23:41:16) |
5. セブン・ビューティーズ
《ネタバレ》 パスカリーノ役のジャンカルロ・ジャンニーニの色男ぶりがすごかったです。イタリア映画らしく顔のアップ映像が多用されているので、余計に印象が強かったのかもしれませんが。パスカリーノの家族や女収容所長など、やたら太い女性ばかり出てきた印象がありましたが、なるほどこの監督はフェリーニ映画の脚本家だったのですね。女性監督ながら女性の描き方にフェリーニ的なタッチだったような気がしました。確かにこの主人公は生き残るためにとことん卑劣になりますが、人間の生への執着本能として肯定する描き方がされていて、それは自分としては納得できると思いました。 [ビデオ(字幕)] 7点(2009-05-02 18:57:09) |