1. ゾンビ/ダリオ・アルジェント監修版
ゾンビの怖さとは何でしょうか。外見には馴れてしまいますし、伝染の危険もさほど深刻ではありません。SWAT隊員たちは、ゾンビを手玉に取るありとあらゆる手段を持っています。なのに彼らは恐れている――何故か。「死体が動いている」からです。ゾンビの本質そのものが怖いのです。ゾンビ映画というのは結構あるのですが、「死体が動く怖さ」という、考えてみれば当たり前のところに焦点を置いている作品は、皆無といっていいでしょう。ルキオ・フルチはじめ、ほとんどの監督はとにかくビジュアルに凝ります。そうして、単にゾンビを「気持ち悪い怪物」に仕立ててしまう。ジョージ・A・ロメロ一人が高みにいるのです。これは凄いことですよ。彼は作品全体を通じて、もう一つの恐怖を仕掛けました。ゾンビ自身の本質とも関係しているのですけど、それは「逃げられない」ということ。主人公たちはゾンビから逃亡しますが、何処に行っても奴らはうようよしている。夜が明けて、朝になっても消えません。空間・時間の両面で退路が塞がれています。ふつう人間には最後の逃避手段があるのですが、奴らはそれすらも許さない。自殺してもゾンビからは逃れられない。奴らの存在は、死が安らかな、永遠の眠りであることを否定するのです。だとしたら、ゾンビほど怖い怪物がおりましょうか。『ゾンビ』ほど怖い映画があるでしょうか。 10点(2004-10-16 04:16:03)(良:2票) |
2. 8 1/2
ミステリ(推理小説)の世界に、メタミステリというジャンルがあります。作中作などを利用した、ミステリそのものを対象にしたミステリのことです。その文脈で言いますと、本作などはさしずめ「メタ映画」と呼ぶことが出来ましょう。メタ的な視点でジャンルそのものを対象にする場合、構造や様式のあり方に自覚的にならざるを得ないわけで、本作もグイド(≒フェリーニ)の結論に向かって、一本筋の通った構造をしています。その意味では幻想はむしろ枝葉なのです。私はこの枝葉を全く楽しめなかったので、点数は低いですけど、難解すぎるということはないと思います。2回目以降はよく判るという現象は、フェリーニの結論を踏まえて見直すから起こるんじゃないでしょうか。 3点(2004-09-14 00:45:23)(良:1票) |
3. ジュブナイル
本作は子供映画ではなく、大人のための映画です。普遍的な魅力を持っていると言いたいのではありません。明らかに観客の対象が大人なのです。主題歌に「永遠のあの夏の日に戻るのさ」というくだりがありますが、これに象徴されるように、過ぎ去ってしまった子供の頃へのノスタルジイが全編を貫いています。主人公の少年たちが、プレステこそやっていますが、どこか80年代を思わせる町に住んでいるのはそのせいでしょう。本作はなかなか面白いですし、後味もよい佳作だと思います。しかし、大人が子供時代を振り返るという物語を、子供映画と銘打って子供たちに見せる、この主役不在の構図には少し疑問です。本作の一般的な評価は、率直に言って、実に中途半端なポジションにあると思います。子供映画にしてしまったことで、作り手のメッセージが、届けたいところへ届かなかったせいでしょう。いっそのこと真正面から、夢を忘れた大人に訴えた方がよかったのでは?プレステの『ぼくのなつやすみ』も大ヒットしたんですから。 5点(2004-09-11 16:19:42) |
4. グッドモーニング・バビロン!
D.W.グリフィスは実在の監督で、「アメリカ映画の父」と呼ばれた人物です。4つの物語に分かれている『イントレランス』中、最も力がかけられているのが、兄弟の関わっているバビロニア編。本作では触れられていませんが、この作品は難解すぎて興行的に惨敗、グリフィスは没落します。以上の事実を踏まえますと、「バビロン」とは「栄華を誇りながら、あっさりと壊れ去っていくもの」を表していることが判ります。劇中のバビロニアやグリフィスの王国同様、映画のセットも同じ性格を持っており、壮大に作られていることが強調されればされるほど、はかない運命の哀しさ(すぐに壊されてしまう)が漂うのです。この巧みなメタファーには感心しました。ただし、それがもう一方の主題である「兄弟の同等性」とうまく噛みあっておらず、全体の完成度という点では今ひとつです。 5点(2004-03-01 17:52:34) |
5. キャンディ(1968)
ブロンド美人のキャンディが、詩人、庭師、将軍、医者、その他もろもろの変人たちに、次から次へと襲われるというだけの話。ストーリーらしいストーリーはなく、ナンセンスな笑いが散りばめられています。これが本当に気持ちいいほど空を切っていってしまう。庭師役がリンゴ・スターであることからもわかるように、キャストはかなり豪華なのですが、いかんせん内容が・・・。まあ、キャンディは可愛らしいし、モチ肌で綺麗な身体をしているので、観て悪い気はしません。R15指定ですが露骨な裸はないです、参考までに。 3点(2004-02-14 00:32:01) |
6. 穴(1960)
この映画を観てから、ジョゼ・ジョヴァンニの原作を読んでみました。そしたら敗北感にうちひしがれた、ずいぶんうじうじした文章なんですね。映画では、囚人たちを粗暴に扱うことのない、ヒューマンな刑務所という印象が強かったので、正直意外でした。ジャック・ベッケルはサスペンスを前面に押し出すことで、この作品を、エンターテイメント性の強い脱獄映画に仕上げています。囚人たちの感情は、サスペンス性の下に抑圧されていて、最後の最後で大爆発します。傑作です。レンタル屋でベッケル監督の作品はあまり見つかりませんが、可能なかぎり探して観てみようと思います。 10点(2004-02-08 18:17:07)(良:1票) |
7. ゾンビ3
ヒット作にあやかった、邦題上での「続編」。やはりひどい出来です。作品の価値を決めるのは、よい脚本と丁寧な演出。ホラーも例外ではありません。役者が「襲われるのを待っている」「おとなしく遠巻きに見ている」と感じられては、すべてはぶち壊しです。まあB級ホラーですから、腹を抱えて笑いながら観るのがいいでしょう。恐ろしい老け顔の子役が出てますが、ある意味彼が一番こわいかも。 2点(2004-01-27 19:30:22) |
8. 墓地裏の家
ルチオ・フルチの「ゾンビ三部作」の一本。『ビヨンド』『サンゲリア』とはテイストが異なり、ヨーロッパ的な耽美な演出が目立ちます。もちろん殺害シーンは悪趣味ですが、ゾンビの数も少ないし、一番正統派ホラーっぽいのではないでしょうか(彼にしてはですが)。ストーリー的には破状していて、そもそも本筋がないうえに、洋館から見下ろす少女、謎のメイド、不気味なコウモリなど、思わせぶりな伏線(?)が収束せず、置き去りにされています。不思議にも「結局何だったの?」というそれらの断片が、ずっと印象に残ってたりしてます。ホラーとは「雰囲気勝ち」なのかもしれません。その意味ではタイトルは満点です――実際には、墓は家の中にありますけれど(!)。 5点(2004-01-27 19:15:13) |