1. 激動の昭和史 沖縄決戦
《ネタバレ》 岡本喜八と新藤兼人の組み合わせというのはこれ一本だけですが、『日本のいちばん長い日』『肉弾』を撮った監督と『原爆の子』の脚本を書いて監督した人の組み合わせですから、そりゃあ壮絶な映画になりますよ。戦後の日本映画としても太平洋戦争における一つのキャンペーンをじっくり描いた映画はそれまでなかったので(よく考えればその後も存在しません)、貴重です。 これだけ大掛かりなテーマであるにもかかわらず特撮のパートは必要最小限に抑えられており、そこは岡本喜八の好みが優先していたのかもしれません。そのために「敵船多数で海面が見えません!」と日本兵に叫ばせるだけの米軍上陸シーンは“昭和の日本映画のショボいシーン”の一つとして揶揄されたりしていますが、その分実際の火薬を大量に使った陸戦シーンは“爆発の中野”の異名を持つ特技監督・中野昭慶の本領発揮といえます。ストーリーも第三十二軍をメインとした大本営の陸軍高官から名もなき庶民まで網羅した大群像劇になっていて、これを手際よく見せる岡本の手腕が光ります。その中心となる牛島軍司令官・長参謀長・八原高級参謀の三人はそれぞれ絶妙なキャスティングで、その実際の記録に残る言動を新藤は巧みに脚本化しているのはさすがです。中でも長参謀長を演じる丹波哲郎が「お母さん、痛いよお」と寝言を言ってうなされるシーンがありますが、これは実際に司令部関係者の言に基づいているそうです。これは幼少期に母親に折檻された夢だったそうですが、若いころにクーデター計画に参画したり南京戦で中国兵捕虜を見て「さっさと殺っちまえ」と放言したりしていた人とは思えない意外な一面です。 休憩をはさんでの後半はもう涙を流さずには観ていられない辛い映像の連続です。そしてラストまでの約三十分はもうスプラッター映画の様相になってきます。この映画では血の色が、よく見受けられるオレンジっぽいペンキのような血ではなくて、リアルな赤にこだわっているところが凄惨さを増す効果を上げています。私はこの映画で初めていわゆる「血の海」というものを観て、子供心に強烈な衝撃を受けました。 前半の空襲で孤児になった女の子が戦場を一人でさまよい歩き、死体が散乱する海岸に無傷でたどり着くラストには新藤兼人脚本の真骨頂があったと思います。しかしこの後二か月も経たずに終戦とは、なんと無情なことでしょうか。 [映画館(邦画)] 7点(2019-06-26 00:10:43)(良:1票) |
2. 県警対組織暴力
《ネタバレ》 これはいろんな意味ですごい映画です。 まず製作当時の東映という会社が置かれていた状況ですよ。『山口組三代目』シリーズが兵庫県警の逆鱗に触れて本社やプロデューサーの自宅に家宅捜索が入っている最中に、社長の岡田茂が笠原和夫に大号令をかけて脚本を書かせて製作したのが、この映画ですからねえ。現在じゃあ絶対に考えられないことですし、東映というか東大卒のインテリとは思えない岡田茂の、反骨精神というかがめつさにはもう驚くしかありません。その反体制ぶりがウリだった深作欣二や笠原和夫でしたが、実は岡田茂の度はずれたアナーキー体質に引きずられていただけだったんじゃないかと思います。 そして笠原和夫が書いたストーリーが強烈、ここまで赤裸々に警察と暴力団の癒着を描いた映画はこれからも決して出現することはないでしょう。菅原文太と松方弘樹の広島弁のやり取り、そして警察や暴力団の内部での会話も、もう全編啖呵のぶつけ合いの様相を呈しています。有名な川谷拓三が取り調べられるシーンはもちろんですが、“こんにちは赤ちゃん”がTVから流れる部屋での刺殺劇がまた強烈な印象を残してくれます。金子信雄の狡猾なタヌキ市会議員はもう彼の伝統芸みたいなものですけど、風采に似合わず強面の佐野浅夫が演じる刑事もなかなかいい味出していました。という感じで、脇を固めるキャラが立ちまくっているわけです。そしてちっとも勧善懲悪(いや、この映画に“善”へ分類される登場人物はいなかったですね)とならないカタルシスのかけらもないラストも、日本映画としては珍しいといえます。 笠原和夫が「自分の書いたシナリオで最高傑作」と語っていたそうですが、それは納得します。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2018-06-18 23:36:16)(良:1票) |
3. 激動の昭和史 軍閥
《ネタバレ》 「軍閥」なんて大上段に構えたタイトルだけど、実質的には東條英機ひとりにスポットを当てた脚本構成になっています。「陸軍および東条悪役・海軍善玉」という当時の常識からはほとんど飛躍していない史観ではあるが、及川や嶋田といった海軍高官たちの無気力・無責任ぶりはしっかり描いています。山村聡の米内光政をはじめ、一部の配役が『日本のいちばん長い日』と同じであるところは面白い。 どうせ東條英機をメインにするなら、その器量は単なる木っ端役人に過ぎなかった東條が独裁的な権力者に変貌していった謎に迫って欲しかったところです。そして大新聞の戦争責任についても、これはいまだにマスコミのタブーとされていますが、もっと突っ込んで欲しかったね。 通史としては薄い内容ですが、本作の後に小林正樹の『東京裁判』を続けて観たらいいかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2013-08-04 19:48:51) |
4. 激突!<TVM>
《ネタバレ》 製作された71年はアメリカン・ニュー・シネマの最盛期でスピルバーグも本作ではどことなくニュー・シネマっぽい雰囲気をパクっていますが、後半はとくに独自のスタイルで押し通してエンドまで持ってゆきまったく新しいジャンルの映画を作り上げてしまったのはもう天才のなせる業です。最後まで腕しか見せないトラックの運転手、すでに処女作で『JAWS』のスタイルを完成させているというのはただ驚くほかありません。エンコしたスクール・バスを押して“いい人”ぶって主人公マンのウラをかくシーンでは、もう完全にトラックが擬人化されちゃって観ているこっちまで鳥肌が立つ恐怖です。日本でもかなり早い時期にTV放映されていますのでスピルバーグのことは知れ渡っていましたが、まさかその後ハリウッドのキングになろうとは誰が予想したでしょうか。 [地上波(吹替)] 8点(2011-07-02 20:31:42) |
5. ゲッタウェイ(1972)
この映画のガン・アクションは今観直しても色あせていませんね。初めて観たとき、「ショット・ガンってすげえー」とつくづく思いました。いまだに自分の中では、「ショット・ガンと言えばスティーブ・マックイーン」とすりこまれています。噂では、マッコイ夫妻がラストハチの巣になって殺されるバージョンがあるということですが、そんなの絶対観たくありません。 [映画館(字幕)] 8点(2009-07-20 20:23:52) |