1. 淑女は何を忘れたか
《ネタバレ》 先日観賞した「秋刀魚の味」が面白かったもので (これはいよいよ、自分にも小津映画を楽しめる器量が備わったのか?) と調子に乗って手を出してみた本作。 で、結果はといえば……やっぱり、まだ早かったみたいですね。 監督さんの個性である独特のカメラワークだとか、演出だとか、会話の間だとかが、どうも退屈に感じられてしまう。 テーマとしては女性というか、主婦に対する皮肉なのかなと思いきや、最終的には「色々あるけど夫婦は仲良く」という結論に落ち着いてしまったみたいで、それが妙に物足りず、中途半端な印象を受けてしまいました。 「奥さんには花を持たせんきゃいかんよ」 「子供を叱る時にね、逆にこう褒めるだろ? あれだよ。つまり逆手だね」 などの台詞によって、一見すると尻に敷かれていた夫の方が、実は巧妙に妻を手懐けていると判明する件は面白かったけど、ちょっと女性を男性より下に捉え過ぎているようにも思えます。 夫に頬を打たれた妻が、その事を喜び、茶飲み仲間に話して羨ましがらせるというのも、何だか都合の良過ぎる話。 この辺りは、監督の価値観がどうこうというより、制作当時の時代性が大きいのでしょうか。 そんな風に、今一つ乗り切れない映画であったのですが、そこかしこに散らばるユーモアのセンスには、流石と思わせるものがありましたね。 特にお気に入りなのは、地球儀を使った地名当てクイズにて、周る地球儀の天辺を指差して「北極」と答えてみせる件。 その手があったかと、大いに感心させられました。 「バカ」「カバ」というやり取りに関しても、初出の場面では子供っぽさに呆れていたはずなのに、二度目に使われた際には(えっ? また使うの?)という意外性も相まって、思わずクスっと笑みが零れたのだから、不思議なもの。 ラストシーンに関しても、少しずつ部屋の灯りが消えていく様が幻想的で、好みの演出だったりするんですよね。 観賞中は退屈な時間の方が長かったはずなのに、この終わり方を目にするだけでも(良い映画だったなぁ……)と思えてくるのだから、全く困った話です。 小津安二郎という人は、今後も自分にとって評価の難しい監督さんであり続ける気がします。 [DVD(邦画)] 5点(2023-10-25 02:50:31) |
2. 知らなすぎた男
《ネタバレ》 主人公が有能なヒーローであると勘違いされる映画、好きですね。 「サボテン・ブラザース」然り「ギャラクシー・クエスト」然り。 そういった訳で、上述の作品を愛する身としては 「何時、主人公が真実に気付いて、慌てふためく事になるのかな?」 なんて思いながら観賞していたのですが…… 結局、最後まで周りを勘違いさせたままエンディングを迎えたんだから、もう吃驚です。 さながら「刑事コロンボ」で犯人が捕まらずに、そのまま逃げ切ってみせたかのような衝撃。 でも、決して「裏切られた」という印象は受けず、完走し切ってくれた事に、心地良い満足感を味わえましたね。 途中で主人公が真実に気付いた方が、そこから二転三転させてのストーリーを展開させ易いだろうに、あえて初志貫徹してみせたかのような作りは、本当に天晴だと思います。 ラストのキスシーンの背後で、悪役を乗せたヘリが爆発するんだけど、その事にも主人公は気が付かないまま。 何かが爆発したかと思うくらいに衝撃的なキスだった、と呑気にヒロインに話す辺りなんて、実に微笑ましい。 他にも、自白剤を飲まされた主人公が「今日は誕生日だ」という情報を口にした途端、悪役達が反射的に「ハッピーバースディ」と声を揃えて祝福してみせる場面なんかも、お気に入りですね。 この映画が備えている「愛嬌」を、如実に示したワンシーンだと思います。 そんな中で、あえて不満点を挙げるとしたら…… 「最後は弟と一緒に葉巻を吸って欲しかった」と、それくらいになるでしょうか。 序盤にて、葉巻を吸う事が誕生日のゴールであるかのように描かれていたので、その予想が正解であって欲しかったんですよね。 あとは、主人公である兄に比べると、弟の扱いが不憫だったので、兄弟仲良くハッピーエンドを迎えて欲しかったなと、そう思えちゃいました。 映画が終わった後も、主人公は周りを勘違いさせたまま、敏腕エージェントとして活躍し続けるのか。 はたまた正体がバレてしまい、無事に結ばれたはずのヒロインとの仲も危うくなってしまうのか。 そんな後日談について考えるだけでも、楽しい気分にさせられる一品でした。 [DVD(吹替)] 7点(2023-01-15 02:57:39)(良:2票) |
3. シャーク・ナイト
《ネタバレ》 傑作映画「セルラー」(2004年)の監督が撮ったサメ映画という事で、非常に楽しみにしていた一本。 序盤の段階から「Aと思わせておいて、実はB」(鮫に襲われたかと思いきや、実は人間による悪戯だったと判明する、など)という展開が何度もあって、ゲンナリさせられたりと、欠点も目立ってしまうのですが、総合的には面白い映画でしたね。 「何故こんな湖にサメがいる?」「それは人喰いシーンを撮影して金儲けする為、意図的に放流した悪人がいるから」って形で、スナッフ要素をサメ映画に取り入れたのも斬新であり、そう来たかという感じ。 この手の映画では嫌な奴として描かれがちなアメフト部員が、凄く良い奴として描かれているんだけど、結局死んじゃったりとか、愛嬌のある保安官が実は悪人だったとか、適度に意外性を盛り込んでいるのも良かったです。 それと、個人的に本作の白眉は、サメが出て来てからの展開ではなく、その前の段階にあるようにも思えましたね。 「若者達が湖畔の別荘に出掛ける」→「そこでサメに襲われる」というお約束な流れなんですが、前半のパートの方が面白かったんです。 狭っ苦しい車に皆で乗り込み、夜を徹して走り続けるシーンなんかも、早回しや音楽によってスタイリッシュに決めているし、湖をボートで移動しながら皆で乾杯するシーンも、本当に楽しそうで良い。 91分の内、実に20分以上も尺を取って「皆でバカンスを満喫する」様を描いているので、この手の「モンスターが出てくる前の、皆で楽しく騒いでいる場面」が好きな自分としては、もう大満足。 サメ映画って「肝心のサメが出てくるまでが退屈」な作りの品が多い印象があるのですが、本作に関しては「このままサメに襲われないで、普通の青春映画として終わって欲しい」と思わされたくらいです。 勿論、サメ映画としても一定以上のクオリティはあるので安心。 怪我人をボートで運ぶ際に、水面に落ちる血液を映し出すカットなんかは、特に印象深いですね。 (あぁ、サメ来ちゃう! サメ来ちゃうよ!)とドキドキ出来るのが楽しい。 正直、ちょっと中盤はダレ気味だったりもするのですが、要所要所でそういった見せ場が用意されている為、退屈さにまでは至らなかったです。 主人公のニックが、医者志望でガリ勉と揶揄われる割には鍛えられた身体をしており、ミスキャストじゃないかと思っていたら、終盤で筋肉に見合った大活躍をしてくれるのも良いですね。 特に、椅子に縛られた状態からの逆転劇は痛快であり「死に際に聴きたい曲はあるか?」「ガンズ・アンド・ローゼズ」というやり取りなんて、もう痺れちゃいました。 そこで、ヘヴィメタ好きの敵が機嫌を良くし、曲を変える為に背を向けた一瞬の隙を突いて反撃というのが、凄く恰好良い。 終わってみれば、主人公とヒロインだけが生き残る王道エンドであった本作。 でも観賞中は、重苦しく陰鬱な「殺されエンド」も有り得るんじゃないかと身構えていた為、あの終わり方には、ホッとさせられましたね。 最後にサメのアップで終わる為「まだ惨劇は終わっていない」とも解釈出来そうなんですが、主人公達の乗っている船とは距離があったし、まぁ大丈夫だろうなと思えます。 正統派なサメ映画ではなく「人喰いザメを利用する悪人達との対決を描いた映画」という側面が強い為「サメ映画を観たい!」という欲求を叶えるには不適切かも知れませんが…… 自分としては満足度の高い一品でした。 [DVD(吹替)] 7点(2022-11-05 17:47:38)(良:2票) |
4. 就職戦線異状なし
《ネタバレ》 ナレーションも相まって、学校の授業で見せられる教材ビデオみたいでしたね。 実際に「面接の作法」なども作中で語られているし、そういう意味では「為になる映画」と言えるかも。 バブル期は就職し易くて良かったという以上に「残業を嫌がる事」「有給めいっぱい取る事」が悪徳のように語られてるのも印象的であり、そういった具合に「今との違い」を感じられる内容なのは、史料的価値があるように思えます。 ただ、面白い映画とは言えそうになくて…… 根本的に「なんだかんだで就職は上手くいきました」「ヒロインとも結ばれました」ってだけの粗筋でしかないので、どうも盛り上がりに欠けるんですよね。 こういう場合、せめて登場人物が魅力的であれば(彼らが頑張る姿を眺めてるだけでも楽しい)って気持ちに浸れるんですが、本作はそうじゃない。 織田裕二が好きな自分ですら(傍迷惑な奴だなぁ)と思えちゃう主人公だったし、かなりキツかったです。 酔って喧嘩した相手が就職の面接官だったとか、そういう王道な魅力はあるし「自分探しならぬ職場探しを通して若者達の絆が深まる青春物語」って雰囲気自体は、決して悪くなかったんですけどね。 ただ、そんな美味しいキャラである面接官の雨宮に関しても、終盤で主人公にネクタイを貸す場面とか(何で急に良い奴になったの?)って戸惑っちゃうんです。 友人である北町との別れも同じ調子であり、感動的な場面として描いてるけど、それまでに北町との友情を感じさせる描写が希薄だから、心に響かない。 なんていうか「こういう感動的な場面をやろう」っていう意思は伝わるし、その場面だけ観れば、それなりに決まってるんだけど…… 「その場面に至るまでの過程」が描けてないから感動出来ないってパターンが多いんですよね、この映画。 金子修介監督の品は好きな映画が多いのですが、本作を撮った当時は未熟だったのかな、と思ってしまいます。 最後はスポーツメーカーに勤める結末だったけど、それならいっそ高校野球の監督を目指す結末の方が良かったのでは? と思えちゃう辺りとか、細かい不満点も多いですね。 いつもタクシーが捕まらない主人公が、十数台ものタクシーを一度に止められるようになるとか、いきなり飛んできた謎のボールを投げ返すとか、漫画的な場面が続出して終わるのも、何か無理してるというか「主人公の不運さや、野球のトラウマに対して無理やり決着を付けた」って感じであり、ハッピーエンドなのに褒めるのが難しいです。 上述の通り、主演俳優は大好きな織田裕二だし、エンディングに流れる「どんなときも。」は名曲だしで、色々と「好きになれる」要素は揃っていただけに、惜しい出来栄えですね。 この後、金子監督と織田裕二が再びタッグを組んだ「卒業旅行 ニホンから来ました」(1993年)は自分好みの傑作だった訳だし、何かもう一つでも違う方向に転んでいれば、本作も好きになれたかも知れません。 [ビデオ(邦画)] 4点(2022-11-01 19:22:39) |
5. 七人のおたく cult seven
《ネタバレ》 これは七人のおたくを描いた映画……というより「内村光良のアクション映画」ってイメージが強かったりしますね。 そのくらい終盤の格闘シーンが衝撃的だったし、実に痛快。 ウッチャン演じる近藤に対し、それまで散々「弱いぞコイツ」って印象を与えておいて、それがいざ本気で戦ったら強かったっていう、そのカタルシスが半端無いんです。 本作はメインとなる七人全員、ちゃんとキャラが立っているし、群像劇と呼べる構成なんですが…… それでもなお「ウッチャンが全部オイシイとこ持っていってる」って、そんな風に感じちゃいます。 監督や脚本家が苦心して整えたであろうバランスを、一人の演者さんのパワーが引っ繰り返してみせた形であり、ここまで来るともう、その「バランスの悪さ」が気持ち良いし、天晴と拍手を送りたいですね。 そんな訳で「ウッチャンのアクションが楽しめるだけで満足」「それ以外の場面は、正直微妙」って評価になっちゃいそうな作品なのですが…… 一応「おたく達が仲良くなって、夢を叶える青春映画」としての魅力もあるし、全体のストーリーや雰囲気も、決して嫌いじゃなかったです。 とにかく作りが粗くて、脚本のツッコミ所も多いんだけど、何となく庇いたくなるような愛嬌があるんですよね。 例えば、山口智子演じる湯川リサは、設定上はレジャーおたくって事になってるけど、明らかに「普通の人」であり、この時点で「七人のおたく」って看板に偽り有りじゃないかって話になるんですけど…… 劇中にて、主人公の星が「キミも同じ目になろう」とリサに計画書を渡す場面があるし、今回の冒険を通して「彼女も、おたくの仲間入りを果たした」って事なんだろうなと、好意的に捉えたくなっちゃうんです。 他にも、ダンさんの秘密基地で模型作りする場面とか、皆で竹筒の皿を使って食事する場面とかも、妙に好きなんですよね。 「仲間で集まって、ワイワイ遊ぶ楽しさ」が、しっかり描かれてたと思います。 飛行機の玩具で始まり、玩具のような飛行機で終わる構成も綺麗だったし、空から見た島の景色が、ダンさんと作った模型そっくりだった事にも感動。 最後に「皆、同じ目になった……」と満足気に呟く星に対し、他のメンバーが「そんな目はしてない」とツッコんで終わるのも、仲良しな雰囲気が伝わってきて好きですね。 自分にとっての映画もそうなんですが、おたく趣味の持ち主って「それが面白いから」というより「それが好きだから」ハマってしまい、おたくになったってパターンが多いでしょうし…… 本作も「おたく映画」らしく「面白い」って言葉よりも「好き」って言葉が似合うような、そんな一本に仕上がってると思います。 [DVD(邦画)] 7点(2022-10-21 20:54:12)(良:1票) |
6. 失踪(1993)
《ネタバレ》 「ザ・バニシング-消失-」(1988年)は以前に一度観たっきりなのですが「後味が悪い」「殺人鬼を美化してる感じが苦手」という印象が残ってます。 そんな本作は過去作とは対照的に「ちょっと強引なくらいのハッピーエンド」「殺人鬼を美化したりせず、ちゃんと悪役として描いてる」って内容になっており、自分としては嬉しかったですね。 1988年版が好きな人にとっては「あの独特の絶望感、魅力が消え失せて凡庸な映画になってしまった」という事になるんでしょうけど…… 自分にとっては「凡庸な、在り来たりで面白い映画」という形であり、意外と満足出来ちゃいました。 監督は1988年版と同じジョルジュ・シュルイツァーであり(同じ人が同じ原作小説から、こうも異なる映画を撮ってみせたのか……)って事にも感心しちゃいましたね。 そんな二つの映画、最大の違いは、ヒロインのリタの存在にあると思います。 一応1988年版にも彼女に相当するキャラはいるんですが、もはや別人と言って良いくらいに変わっていますし、1993年版の「失踪」は、彼女が主人公と言えそうなくらい。 被害者であるジェフも、犯人であるバーニーも、どちらも異常者という歪んだ世界の中で、彼女だけが唯一まともであり「何を馬鹿な事やってんのよ」とばかりに乱入してきて事件を解決しちゃうのが、凄く痛快なんですよね。 ジェフのようにリタも言い包めてやろうとする犯人を、問答無用で角材で殴り黙らせる姿とか、もう最高。 陰鬱なバッドエンドだった過去作を、一人のキャラクターがハッピーエンドに変えてみせたという形であり、自分としては断然、彼女が存在するハッピーエンド版を支持したいです。 そもそも1988年版にて「計画も杜撰で不器用で、頭も悪い犯人」を、さも「特別なカリスマを備えたキャラクター」であるかのように描いてるのが、無理があったと思うんですよね。 腕にギブスを付けて女性を騙そうとする手口とか、恐らくはテッド・バンディが元ネタなんでしょうけど、模倣犯というより劣化版って感じ。 この犯人って、誘拐犯としても殺人犯としても徹底的に無能であり「偶々目撃者がいなかったから犯行がバレなかっただけ」というんだから、自分としては(何だ、そりゃ)としか思えなかったんです。 こんな奴を主人公格に据えて「殺人犯の勝ち逃げエンド」見せられても困っちゃうし、ちゃんと最後には負ける悪役に据えた本作の方が、ずっと自分好みなんですよね。 終盤にて、ジェフと格闘になったらアッサリ負けちゃう犯人の姿にも(そりゃそうだ、元々か弱い女性を狙って殺そうとしてた卑怯者だもん)と納得出来るし、大いに溜飲が下がりました。 正直、ジェフが地中に埋められるまでの展開は(1988年版の方が、丁寧に作ってあるな)と思っちゃいましたが…… ラスト二十分ほどで、一気に評価を逆転させてくれたと思います。 それと、犯人の不気味さという意味では1988年版に及ばないかも知れませんけど、被害者側のジェフが狂気に陥っていく様は、本作の方が上だなって思えた辺りも、忘れちゃいけないポイント。 「失踪したダイアンを助けたい」ではなく「ダイアンがどうなったのかを知りたい」という歪んだ好奇心に囚われた男を、決して観客から遠ざける事無く、適度に感情移入出来る存在として演じていましたからね。 流石はキーファー・サザーランドだなって、大いに感心させられました。 最後の最後「コーヒーは遠慮するわ」がオチというのは、ちょっと弱いんじゃないかと気になりましたけど…… まぁ、事件をネタにしたジョークを言って笑えるくらいに、主人公二人が「平和な日常」を取り戻したって事なんでしょうね、きっと。 あと、自分は1988年版を先に観てバッドエンドに落胆し、その後にコレを観て追加要素に驚いたって形だったので好印象だったけど、観る順番が逆だった場合は、また違う印象になってたかも知れません。 その場合、本作終盤の展開にカタルシスを感じる事も無く(何この無理矢理な逆転劇)と白けてた可能性もあるでしょうし…… 「映画を観る順番」「タイミング」「巡り合わせ」って大切だよなって、しみじみ思えた一本でした。 [DVD(吹替)] 6点(2022-09-21 21:34:33) |
7. 6デイズ/7ナイツ
《ネタバレ》 映画「ファンボーイズ」(2008年)にて本作が「失敗作」ではないかと揶揄するような場面があったのを思い出し「そんなに酷い出来だったかな?」と考えて、此度再観賞。 結論からいうと、確かに「傑作」とは言い難い内容でしたが、自分としては好きなタイプの映画でしたね。 お気楽な無人島ロマンス映画として、しっかり楽しめるように作ってあるし、娯楽作として一定の基準は満たしているんじゃないかな、と感じました。 「エボリューション」(2001年)や「ドラフト・デイ」(2014年)を手掛けたアイヴァン・ライトマン監督だし、元々この監督の作風が好みに合ってるんだと思います。 「この島から多分ずっと出られない」と言っていたはずの主人公が、その後「無線用の信号機のスイッチを切れば、修理班が島にやって来るはず」と言い出すのは一貫性に欠けるとか、敵役となる海賊が間抜け過ぎて(せめて服をロープ代わりにして手を縛るとかしろよ。そんなんじゃ逃げられて当然だろ)と呆れちゃうとか、脚本にはツッコミどころが多いけど、何となく笑って許せちゃう。 無人島の雄大な自然を捉えた上空からのカットとか、崖から飛び降りるシーンでのスローモーション演出だとか、そういう細かい部分がしっかりしているからこそ「脚本の粗を気にせず、何も考えずに観ている分には楽しい」って気分になれる訳で、そこは素直に凄いと思います。 五十歳を越えているだろう主人公と、若々しい金髪美女のロマンスって時点で、結構トンデモない内容のはずなのに、男側をハリソン・フォードが演じる事によって(まぁ、これなら有り得るかも……)と思わせてくれる辺りも嬉しいですね。 男にとって都合の良い、妄想を具現化したような映画だからこそ、最低限の説得力は欲しくなる訳ですし、その点でもこの映画は合格だったように思えます。 でも、上述の通り「傑作」とは言い難いのも確かであって……やっぱり欠点も多いんですよね、この映画。 そもそも「妻を親友に奪われた」って過去がある主人公なのに、最終的には「婚約済みであるヒロインを主人公が奪う」って展開になる訳だから、実は凄く後味が悪い話なんです。 「主人公とヒロインだけでなく、婚約者も浮気していた」「お互いに浮気していたから無罪」みたいな展開になるのも、ちょっと都合が良過ぎるかと。 アン・ヘッシュ演じるヒロインが「乳首の形が透けて見える恰好」だったり「胸の谷間が丸見えな恰好」だったりと、あまりにも扇情的なファッションな点も、観ていて気恥ずかしいものがありましたね。 好みの女優さんだし、サービスシーンがある事自体は喜ばしいのですが、あからさま過ぎて面食らうという形。 (どうせ胸をアピールするなら、もうちょっと控えめな形にしてくれた方が嬉しいなぁ……)なんて、つい思っちゃいました。 水場も簡単に見つかるし、壊れた飛行機も簡単に直せちゃうしで、漂流難易度が低過ぎるのも気になるし「タヒチに運ぶ貨物」がサバイバル生活にて役立つかなと思ったら、そうでもなかった辺りも残念。 特に後者に関しては「キャスト・アウェイ」(2000年)において「一見すると役に立たないような貨物を、何とか利用して生き延びてみせる」様が見事であった為に、どうしても比べたくなっちゃいます。 調味料以外にも明確に「貨物が無人島生活に役立った」と思える描写があれば「この映画はキャスト・アウェイの元ネタになっているのでは?」なんて推論も書けたでしょうし、実に惜しい。 最後はお約束通り「文明社会に帰って来た二人が、無事に結ばれる」ハッピーエンドだし、エンディング曲も好みだったしで、ある程度の満足感は得られるんですが「本当にそれで良いのか?」ってツッコみたくなる部分が多過ぎるんですよね。 良かった部分と、悪かった部分とで、差し引きゼロみたいな形になるんだから、つくづく勿体無い。 「恋愛の69%はレストランで終わる」「砂糖にくるんだ嘘」など、印象深い台詞もありましたし、好きか嫌いかと問われたら好きな映画になるんだけど、高得点を付けるのは憚れる…… もどかしい一品でありました。 [DVD(字幕)] 5点(2022-09-16 19:57:48)(良:2票) |
8. 幸せがおカネで買えるワケ
《ネタバレ》 「ユニークで愉快な宣伝家族」を描いた品かと思いきや、死者まで発生する陰鬱な展開に吃驚。 とはいえ、急転直下に作品の空気が変わる訳ではなく、少しずつ悲劇を予兆させるのが上手かったもので、違和感は無かったですね。 序盤にて (この家族、なんか変だぞ?) と観客に思わせる描写も丁寧であり、すっかり映画の中に惹き込まれちゃいました。 「偽りの家族の中で、主人公のスティーヴだけは本当の家族になりたがっている」という設定も絶妙であり、自分としては大いに感情移入。 チームが崩壊しかけた時「家族に問題は付き物さ」と場を繕おうとするも「家族じゃないわよ」と、妻役のケイトに素っ気なくされる場面なんか、凄く切なかったですね。 単純に「ケイトを愛しているから、本当の夫婦になりたい」というだけでなく「皆で本当の家族になりたい」と願っているのが、絶妙なバランスだったと思います。 それだけに、好成績を認められて他のチームと組むよう上司に命じられても、それを拒否して「今の家族と一緒に頑張る事」を選ぶ場面が、凄く痛快。 スティーヴとケイトが、失恋した娘を慰め「家に帰ろう」と促す場面も (偽物なんかじゃなくて、立派な家族じゃないか……) と思えて好きです。 終盤にて、隣人のラリーが自殺する場面もショッキングだったし、そこからスティーヴが「ご近所さん」に真相を告げる流れも、不思議なカタルシスがあって良かったんですが…… そこが最高潮で、その後に失速しちゃったというか、ラストの纏め方が強引だったのが残念ですね。 「スティーヴとケイトが結ばれ、前々から話してたアリゾナ行きを実現させる」って形なので、この二人にとってはハッピーエンドなんだけど (……で、息子と娘は置いてくの?) って事が気になっちゃうんです。 息子と「父子のような抱擁を交わして」別れる場面は良かったんですが、その分だけ (娘とはロクに会話もしてないけど、寂しくないのか) って疑問も湧いてくる。 他にも「同性愛者な息子の恋人ナオミ」についても放ったらかしで終わってるし、どうも風呂敷の畳み方が拙かった気がします。 エンドロールにて「まだまだ他にも宣伝家族は沢山いる」って示すのも、後味が悪くなっただけなんじゃないかと。 個人的には「夫婦」ではなく、四人揃って「家族」としてハッピーエンドを迎えて欲しかったですね。 総評としては「隠れた良作」って感じで、充分楽しめたんですが…… 一抹の寂しさが残ってしまう映画でした。 [DVD(吹替)] 7点(2022-09-10 12:58:06)(良:1票) |
9. Gガール/破壊的な彼女
《ネタバレ》 これは……「設定は好みだけど、結末が好みじゃなかった」ってパターンの品ですね、残念ながら。 メインヒロインかと思われたジェニーではなく、女友達のハンナと主人公が結ばれる形となっており、どうもスッキリしない。 この手の「女友達と結ばれるラブコメ」って好きな映画が多いはずなのに、本作に限っては違和感が大きくて楽しめなかったんだから、自分でも不思議です。 理由を考えてみるに、根本的にハンナの魅力が不足していて「メインヒロインではなく、この子と結ばれて欲しい」と思えなかったのが痛いんですよね。 ジェニーは性格に難ありの美女ってタイプなんだから、対比としてハンナの方は性格が良くて優しい子にすべきだったと思うんだけど、何かそれが中途半端というか……作り手の考える「優しい子」の定義が自分とズレてる気がして、魅力を感じなかったんです。 例えば「主人公のマットにだけ優しくて、男友達のヴォーンには素っ気無い」っていう態度があからさまな辺りとか、それで嬉しくなっちゃう人もいるんだろうけど、個人的には興醒めしちゃいます。 これって根本的には「優しい女性」というより「主人公にとって都合の良い女性」ってだけですからね。 (見た目は美人だけど、性格美人って訳じゃないんだな)って、つい思っちゃいました。 そもそも主人公のマットにも魅力を感じなくて、主人公カップルの片方ではなく、両方を好きになれないってなると、流石に褒めるのは難しいです。 ジェニーの陰口を言うマットの姿とか「身勝手で性格が悪い、嫌な奴」としか思えないんですよね。 にも拘わらず「貴方みたいに優しい人は初めて」だの何だのと、作中で女性陣に絶賛されてるんだから、観ているこっちが恥ずかしくなっちゃう。 マットの代わりにジェニーと結ばれる事になるバリーも「家の中にジェニーの写真や服を飾った神殿がある」っていうストーカーとしか思えない男なのに、ジェニーはそれを聞いて拒否感を示すどころか、感激しちゃう始末だし…… 男にとって都合の良い映画は嫌いじゃないけど、本作に関しては「性格が悪い男」でも「ストーカー」でも美女と結ばれるんだって形になっており、流石に感情移入出来ませんでした。 何だか、こうやって分析してみると「結末」以外にも好みじゃない部分の方が多いなって気付いちゃう訳ですが…… 一応、監督はアイヴァン・ライトマンだし、演出や音楽の使い方も良かったので、観ていて退屈はしなかったんですよね。 アメコミのスーパーガールやパワーガール好きにとっては、夢のような映画ってのは間違いないと思うし、コスチューム姿でエッチする場面がある辺りなんかは(分かってるなぁ)と嬉しくなっちゃいます。 2006年制作である事を考えれば、もっと自然な飛ばせ方も出来るだろうに、あえて冒頭の場面にて「スーパーマン」(1978年)っぽい飛ばせ方をしているのにも、拘りを感じました。 そして何より、主人公と結ばれたハンナも超人的なヒロインとなるオチであり「スーパーヒロインを恋人にする」という男の夢を裏切らないまま終わった事には、素直に感心しちゃいましたね。 物語の面白さや整合性よりも「夢」を優先させた映画……と考えれば、素敵な一品だと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2022-03-30 19:00:48)(良:1票) |
10. 地獄のデビル・トラック
《ネタバレ》 監督と脚本をスティーブン・キングが担当したという、それだけで映画史に残ってしまいそうな一本。 こういう場合、いっそ「破滅的に酷い出来栄え」であれば、カルト映画として人気になってたかも知れませんが…… 本作は「一応そこそこ楽しめる」ってタイプの品なので、評価に困っちゃいますね。 勿論、粗は多いです。 例えば冒頭にて、機械が勝手に動き出す場面も、映像だけ見れば不気味なのにBGMがロックなAC/DCなので、何かチグハグなんですよね。 キング当人がAC/DCのファンであるがゆえの選曲なのでしょうが、ミスマッチとしか思えなかったです。 男がトラックに轢かれる場面でも「止まってる車に男の方からぶつかってる」としか思えない撮り方してるし、演出の拙さが目立ちます。 脚本に関しても「新婚夫婦の車だけは暴走しておらず、人間が自由に動かせる」って事が伏線だろうと思ってたのに、全然そんな事は無くて、理由が説明されないまま終わっちゃうんだから、もう吃驚です。 主人公達が籠城するガソリンスタンドの地下には、武器がたんまり秘蔵されており、戦力的に主人公側の方が有利っていうのも、ちょっと歪なバランス。 わりと序盤の段階から「バズーカあるから勝てるじゃん」って思えちゃうし、途中で出てきたマシンガン搭載の車に対しても、わざわざ主人公が近付いて手榴弾で爆破なんかしなくても「バズーカ使えばいいじゃん」ってなってしまう。 そんな感想が間違ってなかった証のように、最後は普通にバズーカ撃って、敵の親玉トラックを倒して終わりだし…… 観客に違和感を抱かせない為には「切り札であるバズーカを中々使えない理由」を、ちゃんと描いておくべきだったと思います。 本業は小説家のキングだから、演出は拙くとも脚本には光るものがあるだろうと期待していたのに、それさえも裏切られた気分。 そんなこんなで、欠点を論ったらキリが無いんだけど、ちゃんと良い所もあるというか…… 「長所」っていうよりは「愛嬌」を備えてるタイプの映画だったので、不思議と憎めないんですよね。 まず、予算は問題無く確保出来たようで、トラックが破壊される場面はキチンと描いているっていうのが嬉しい。 「玩具の車を口に突っ込み死んでる犬」とか、同じキング作品の「クリスティーン」や「クジョー」を知ってるとニヤリと出来ちゃう場面があるのも、程好いファンサービスって感じがしましたね。 他にも「芝刈り機は襲ってくる」し「下水パイプの中を移動する」しで、さながらキング作品のオールスター状態。 それらの「元ネタ当てクイズ」をするだけでも楽しめちゃうし、ちゃんと「スティーブン・キングが脚本を書き、監督を務めた事」に、意義のある作品だったと思います。 キング作品ではお約束の「可愛らしい子供」も登場しているし、キング当人も冒頭にカメオ出演しているしで、嫌々撮った訳ではなく、きっと楽しんで撮ったんだろうなって思えるような、微笑ましさがあるんですよね。 最後の気象衛星オチも、非常に馬鹿々々しくて「何じゃそりゃ!」と、呆れながら、笑いながらツッコむ事が出来ました。 面白かった……とは言い難いんだけど、それなりの満足感は得られたし、また何時か気が向いたら、観返したくなっちゃいそうですね。 話のタネになるという意味でも、観ておいて損は無い映画だと思います。 [DVD(吹替)] 5点(2022-02-02 11:50:11)(良:1票) |
11. シックスヘッド・ジョーズ<TVM>
《ネタバレ》 まず、ヒトデのような六つ首鮫のデザインは面白いです。 死んだ頭を他の頭が食い千切り、それを投げつけて攻撃するって場面もあるし、呆気に取られるような「地上歩行シーン」もあるしで、奇抜なデザインをきちんと作中で活かしてる点も好印象。 前作の不満点だった「せっかく良いデザインなのに、それを活かせず普通のサメ映画になってる」って部分を克服しているし、これに関しては見事だったと思います。 ただ、映画全体の面白さって意味では…… 残念ながら、傑作とも良作とも呼べない感じ。 上述のサメ描写はコミカルだし、カップルセラピーキャンプって設定もラブコメ的だしで、如何にも「明るく楽しいノリ」が似合いそうなのに、何故か「ヘッド・ジョーズ」シリーズの中でも一番シリアスってくらいのストーリーなんですよね、これ。 主人公もムサい髭面のオジサンで、過去作に比べると一気に年齢上がってると思いますし、良くも悪くも「真面目」で「大人向け」って感じ。 人が死ぬ場面で感動的な音楽を流し、悲劇を煽ってみせる演出もクドい感じがして、ノリ切れませんでした。 「問題のあるカップルが命の危機に瀕し、絆を取り戻していく」っていう王道ストーリーを扱ってるにも拘らず「カップルの絆が蘇った途端にサメに喰われてしまう」ってのをお約束にしてる辺りも、何とも悪趣味。 結局、作中で復縁した上で生き残ったカップルは一組も無く、生き残った主人公とヒロインも、本来の恋人と呼べる存在は殺された後なので、どうもハッピーエンド感が薄いんですよね。 そもそも主人公グループが全然「良い人達」に思えないんだから、これはモンスターパニック物として、致命的な欠点。 主人公のウィルも「嵐が来るのを承知の上で、それを客に隠してた」とか、流石にそれはどうなのって設定のせいで感情移入出来ないし、客の皆も「アンタを訴える」ってウィルを責めてる連中ばかりだしで、観ていて「生き残って欲しい」って思えるキャラがいないんです。 なので、どんな展開になろうとも「どうでもいいや」って心境になっちゃう訳で…… 良い部分も色々ある映画なんですけど、そういう根本的な部分が拙かった気がします。 六つ首サメを生み出したはずのラボが、どう見ても「海に浮かぶバラック小屋」程度の規模なのも笑っちゃったし、あからさまな低予算映画なので、あんまり厳しい目で見るのも可哀想なんですけどね。 「水に入ると危険(=水に入らなければ安全)」というイメージを与えておいた上で、サメが地上を歩いて襲ってくるという場面に繋げるのには感心させられたし、頑張って「良い映画」「面白い映画」を撮ろうという、スタッフの意気込みは伝わってきました。 そんなこんなで、総合的に評価するなら5点くらいになっちゃう訳ですが…… 「サメ映画を観たい」って気持ちには、しっかり応えてくれる内容だった為、満足度としては悪くないですね。 ちゃんとサメが暴れて、退治されてと、ツボは押さえた作りでしたし。 鑑賞後に残念な気持ちになるのまで含めて「サメ映画の醍醐味」と言えない事も無いですし。 色んな意味で、サメ映画らしいサメ映画だったと思います。 [ブルーレイ(吹替)] 5点(2021-11-30 20:02:01)(良:1票) |
12. ショーガール
《ネタバレ》 何処となく「イヴの総て」(1950年)や「哀愁の花びら」(1967年)を連想させる内容。 女性のショービジネスにおける若手とベテランの確執を描いており、既視感は否めないんだけど、その分だけ王道の魅力もあるって感じですね。 上記二作に比べると女優陣が露出度高めで、エロティックな要素濃い目なのも、結果的には程好い「個性」になってた気がします。 それと、主人公ノエミ(=若手)とクリスタル(=ベテラン)の関係に、何やらレズビアンな匂いが漂ってるのも、興味深いポイント。 別れのキスの場面なんて、明らかに友情を越えた愛情というか「性愛」の匂いが感じられますし。 しかもノエミが出会う男は最低な奴ばかりで、女性にだけ優しい眼差しが注がれてる作りなんですよね。 この辺りの歪さは、オタク女子が描く「美男子だらけの同性愛世界」の性別逆転バージョンって感じにも思えました。 本作に不思議な魅力を感じてしまうのって、案外この「男にとって都合の良いレズビアン世界」っぽさにあるのかも知れません。 そんなこんなで、自分としては「女優陣の性的な魅力」「レズ要素」を好意的に捉えた訳だけど、それがそのまま「下品で低俗」「あざとくて幼稚」と欠点に感じる人もいるでしょうし、評価が分かれやすい映画だと思います。 正直言って、脚本の筋運びも雑であり(女友達のモリーがノエミを許す流れが唐突、など)完成度という意味では、決して高くないですからね。 ノエミが麻薬に手を出す場面や、クリスタルを階段で突き落とす場面を妙にアッサリ描いたりとか、監督の手腕にも疑問を抱いちゃう場面が多いです。 それでも、自分としては「好き」か「嫌い」かと考えたら前者になっちゃうというか…… なんか憎めない映画なんですよね。 観客どころか、脚本家のジョー・エスターハスにすら自虐ネタにされ「アラン・スミシー・フィルム」(1998年)で笑いものにされてるのを観た時も(もっと自分の作品に愛情持ってやれよ)って思えて、寂しくなっちゃったくらい。 その他にも、色んな映画で「最低の出来」と揶揄されてるし「ショーガール」ならどれだけ馬鹿にして笑っても構わないって扱い受けてるけど、ちゃんと良い所もあると思うんですよね。 終盤、モリーを傷付けた男に復讐するノエミの姿には、スッとしたし…… 階段で突き落とされたクリスタルが、ノエミを責めようとせず「私も昔、同じ事をしたから」と淡々と語るのも、彼女が背負ってきたドラマを窺わせるものがあり、味わい深い場面でした。 ヒッチハイクで始まり、ヒッチハイクで終わる構成も、綺麗でしたね。 ノエミが出会った男の中では、この最初と最後に出会う「スーツケースを盗んだ男」が一番マシだったんじゃないかと思えちゃうのも、皮肉な魅力があって良かったです。 本作を世間が絶賛してたら(そうかぁ?)とは思うけど、まぁ反発はしないだろうし、逆に嘲笑の対象にされてたら「そこまで悪くないだろ」と庇いたくなる。 そんな距離感の、不思議な映画です。 [DVD(吹替)] 6点(2021-11-25 22:55:14)(良:1票) |
13. SHRIEK(シュリーク) 最低絶叫計画 !?
《ネタバレ》 同じパロディ映画の「最終絶叫計画」では「スクリーム」を「最低」と貶して笑いを取ろうとしていたのに対し、本作では「最高」と絶賛してるのが印象的。 だからって訳じゃないけど、同じ「スクリーム」好きとしては好感を抱いちゃう作りでしたね。 最初から最後まで「スクリーム」をなぞる作りだから、話の芯がブレておらず、落ち着いて楽しめるのも嬉しい。 矢継ぎ早に色んな小ネタを挟み「質より量」ってスタイルにしたのも、正解だったんじゃないかと。 たとえ打率は低くても、とにかく打席数が多いもんだから、ヒットの数もそれなりになってるんですよね。 個人的には「メンタルズ」の歌や、クライマックスの追いかけっこで「ドーソン役は高所恐怖症」「監督は酒を飲ませてやらせた」などの注釈を挟むネタが、特にお気に入りです。 「去年の夏」に関しても、思い出す人によって情景が全く違う辺りには感心しちゃったし、他のネタに比べ「グリース」だけ(やたら古い作品を引っ張ってきたな……)と思っていたら、ちゃんとその後に「登場人物が元ネタを分からず、白ける」ってオチが付く辺りも、何か気持ち良かったですね。 「クリスティーン」もパロってみせてるし、作り手側と自分とで「好きな映画」が同じなんだなって思えて、嬉しくなっちゃいました。 序盤に出てきた「チャイルド・プレイ」のチャッキーも、やたら可愛いコスプレだったりして、その後に出てこないのが勿体無く思えたくらいです。 恐らくは予算でも、監督の才気という意味でも「最終絶叫計画」には及ばないのでしょうが…… 個人的には、結構好きな映画でした。 [DVD(吹替)] 6点(2021-11-05 02:28:33) |
14. 幸せになるための27のドレス
《ネタバレ》 オチの良さありきというか、それがやりたい一心で映画撮ったんじゃないかと思えるような品なんですが…… 自分としては、過程も含めて楽しめましたね。 例えば、話の流れとしては冒頭の「タクシー運転手とのやり取り」が面白くて、もしや彼が恋人候補かとも思える感じなのですが、ちゃんと配役や演出でケビンこそが「ヒロインと結ばれる王子様」だと分かるよう作ってあるんです。 上司のジョージを(良い人だけど、何か違う……)と観客に思わせる辺りも絶妙で、たとえヒロインが彼に恋い焦がれていても、最終的に結ばれるのはケビンの方なんだろうなと、予想も出来るし、納得も出来ちゃう。 「先が読める展開」「安易な脚本」ではあるんだけど、ちゃんと丁寧に作られていたと思います。 主人公カップルに「結婚式が大好きな女性」と「結婚式が嫌いな男性」を据えて「相性最悪かと思われた相手が、実は運命の相手だった」というラブコメ王道の魅力を描いている点も良い。 それと「ドレスを着たままおしっこする際は、誰かの補助が必要」とか、男性からすると(そうなんだ)と思える場面があるのも良いですね。 女性向けのラブコメ映画だからこその、意外な魅力って感じです。 「要領が良くて、周りに愛される妹」「それに対する、姉としての複雑な感情」を描いている点も、女性主人公ならではって感じがして、これまた楽しめちゃいました。 終盤、主人公が妹の結婚をぶち壊して憎まれ役になる訳だけど、そこで親友がキチンと「こんなの間違ってる」と諭してくれるのも良いですね。 観客が主人公から心を離してしまうのを繋ぎ止める効果があり、ラブコメの親友キャラとして、良い仕事したなって思えました。 アン・フレッチャー監督は「あなたは私の婿になる」(2009年)も良作でしたし、こういう細かい部分の作り込みが自分好みなんでしょうね、きっと。 そんな本作の欠点は…… 「姉妹が仲直りする場面に、無理がある」って事でしょうか。 ここに関しては、些細な部分ではなく、映画の中で重要な部分だと思うので、ちょっと看過出来ないです。 妹のベスは、彼女なりに色々考えて「ジョージに相応しい女性になろうとした」と告白するんだけど、具体的に何か努力したという訳じゃないので、説得力に欠けるんですよね。 その辺に関しては、作り手側も気になったのか「実は仕事をクビになったばかりだし、元カレに振られていたりで、妹も挫折を経験していた」「妹は妹で、姉にコンプレックスを抱いていた」と、様々な要素を用意してはいるんですが、どれも和解に至る決定的な材料とは思えず、残念でした。 せめて「喧嘩の切っ掛けになった母親のドレスについて、妹が謝る」って場面があれば、印象も変わったかも。 とはいえ、冒頭にて述べた通り「ブライズメイドを務めてあげた友達27人が、ドレスを着て結婚式に来てくれた」というオチが凄く良かったもので、鑑賞後の満足度は高め。 (これまでの主人公の行いは、無駄じゃなかったんだ……)って感慨を抱けるし、映画のクライマックスと共に完結する構成が美しかったです。 新聞記事に擬したエンドロールも御洒落だし、ラスト数分で一気に評価を高めてくれた一本でした。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2021-03-16 22:55:50)(良:2票) |
15. ジャスト・マリッジ
《ネタバレ》 「愛し合ってるだけで充分幸せだったのに、なんで俺達、結婚なんてしちまったんだろう?」 という台詞が印象的。 実家の経済格差やら何やらが原因となり、愛し合っていた新婚夫婦が破局を迎えそうになる話……と書くと、何やらシリアスな恋愛映画のようにも思えますが、基本的には「トラブル続きの新婚旅行」を面白可笑しく描く事に終始しており、リラックスして楽しむ事が出来ましたね。 旅行パートが始まる前の「二人の出会い」終わった後の「二人の和解」も非常にシンプルな描き方で、手短に纏めている辺りも好印象。 そこを長々やられるとダレてしまいそうだし、変に凝った内容にしたりせず、ラブコメ映画の王道的な「良くある出会い方」「良くある和解の仕方」にして時間短縮してみせたのは、正解だったんじゃないかなと思います。 それと、元々自分は主演のアシュトン・カッチャーが好きなので、そういう意味でも満足度は高めでしたね。 セクシーな美男子なのに、不思議と親しみやすい雰囲気があって「等身大の、どこにでもいそうな兄ちゃん」に思わせてくれるという彼の魅力が、如何無く発揮されており、自然と感情移入する事が出来ました。 妻が他の男とキスした現場を目撃し「落ち付け、俺に怒る権利は無い……」と自分に言い聞かせていたのに、いざ妻と会ったら「このアバズレ!」と我を忘れて怒鳴っちゃう場面なんかは、特に可笑しくって、お気に入り。 相方となるブリタニー・マーフィも、お嬢様ヒロインなサラを嫌味なく演じており、もし女性が観たら、自分がアシュトン・カッチャーに抱くのと同じような親近感を彼女に対して抱くのではないかな、と思えました。 ・主人公のトムがラジオ局で働いているって設定を活かし切れていない。 ・妻の「酔った勢いで一度だけ浮気した」という秘密に対し、夫の秘密が「飼い犬の死に責任がある」ってのは後者の方が酷くて、バランスが悪い。 ・英語を「アメリカ語」と言っちゃうとか「本場中国のカラテをマスターしてる」発言とかの国際的なギャグは、ちょっと微妙。 等々、不満点も多い映画なのですが…… それが然程気にならなかったのは「散々な新婚旅行だったけど、それでもやっぱり彼(彼女)が好き」という主人公達の気持ちと、映画を観ている自分との気持ちが、上手くシンクロしてくれたのが大きいんでしょうね。 観ている間は、物凄く面白かったという訳じゃないのに、今思い出すと「雪に埋もれた車から抜け出せた場面の爽快感が良かった」とか「飛行機の中で二人が痴話喧嘩を終えると同時に、機内の客が揃って拍手する場面が良かった」とか、そんな「良い思い出」ばかりが鮮明に蘇ってくるんだから、不思議なものです。 「サラを幸せにする為には、分厚い財布なんか必要無いんだ」と我が子を諭すトムの父親に、最初は「負け犬」呼ばわりしていたトムの事を何だかんだで認めてくれるサラの父親の存在なども、良い味出していましたね。 彼らを「夫側の家族の代表」「妻側の家族の代表」として分かり易く描き、二人の仲が家族からも認められ、祝福される事になるハッピーエンドに、最短距離で繋げてみせた辺りも、お見事でした。 そんな「分かり易さ」と「手短さ」を重視した結果なのか、ラストシーンは少しアッサリ気味に感じられ(もうちょっと長く「寄り添う二人の姿」を見たかったな)と思ったりもした訳だけど…… そんな風に思う時点で、自分はこの映画と、この映画の主人公達に魅了されちゃったって事なんでしょうね。 色んな不満もあったりするけれど、なんだかんだで好きな映画です。 [DVD(吹替)] 7点(2020-09-27 07:11:22) |
16. シモーヌ
《ネタバレ》 こんな映画、シモーヌを演じる女優さん次第では観ていられない代物になりそうなのに、ちゃんと「世界中が熱狂するほどの美女」としての説得力があって、立派に作品として成立しているんだから凄いですよね。 シモーヌ役のレイチェル・ロバーツは、現在アンドリュー・ニコル監督の妻となっているそうで、結果的に親馬鹿ならぬ「旦那馬鹿」的な映画となっているのも、何だか面白い。 撮影当時から恋仲だったかどうかは分かりませんが、そんな関係性の二人だからこそ、監督側は「シモーヌ」を魅力的に描き、女優側は艶やかに「シモーヌ」を演じる事が出来たんじゃないかな、と思いました。 勿論、主演のアル・パチーノも良い味を出しており、実在しない女優に振り回される映画監督の役を、見事に演じ切っていましたね。 特に終盤、シモーヌ殺害容疑で警察の尋問を受ける件なんて、演技一つで作品のカラーをがらりと変えてしまったかのような迫力があり、流石だなと感心。 個人的には、ここの主人公が追い詰められる件は無理矢理過ぎるというか(ハッピーエンドの前振りとはいえ、悲壮感を出し過ぎたんじゃない?)と、少々気持ちが冷めてしまったりもしたんですが…… それでも決定的な違和感を抱くに至らなかったのは、やはりアル・パチーノの演技力あってこそ、なのだと思います。 あとは、ラストの「政治家を目指す」オチが微妙に思えた事。 シモーヌに黒子(?)を付け足す場面が伏線かと思ったら、そうでもなかった事。 日本の新聞記事だと「シモン」になってたのが気になる事とか、難点はそのくらいでしょうか。 ニコル監督の作品らしく、ビジュアルセンスも光っていたし、脚本についても御洒落な笑いが散りばめられていて、面白かったですね。 シモーヌを消去する場面での「主人公が泣いているからこそ、シモーヌも泣いている」場面にはグッと来るものがあったし「たった一人より、十万人を騙す方が簡単だ」という台詞や、シモーヌが唄う曲の歌詞なんかも、皮肉が効いていて素敵。 また、このストーリーの場合「シモーヌの元々の開発者はハンクなのに、主人公は手柄を一人占めにした」という印象を抱いてしまいそうなのですが、ちゃんと随所に「ハンクに感謝する場面」が挟まれており、反発を抱かずに済むよう配慮されているのも嬉しかったです。 こういう「主人公を嫌な奴にしない」バランス感覚って、映画作りではとても大切だと思いますからね。 自らが生み出した存在に、段々と恐怖を抱いていく「フランケンシュタイン・コンプレックス」も丁寧に描かれていて説得力があったし、皆がシモーヌに夢中になる中「シモーヌよりもパパの方が好き」というスタンスだった娘が、最後の最後で主人公を救ってくれる展開なんかも、実に気持ち良い。 (ラストシーンの後は、シモーヌの可愛い「坊や」が成長し、子役や男優になって世界を虜にするのかな?) (父親がシモーヌを演じたように、娘が彼を演じてみせるのかな?) なんて妄想まで出来ちゃう、楽しい映画でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2020-07-28 07:02:14)(良:1票) |
17. 女子高生チェーンソー
《ネタバレ》 犯人の正体が意外過ぎて 「あれ? もしかして伏線を見落としていたかな?」 と思って、二度観賞してみたのですが、やっぱり伏線など無かった……そんな思い出がある映画ですね。 犯人のマスクを取ったら、美人女子高生が中年のオジサンに変貌。 しかも何故か顔だけでなく、首から下の体型まで変わっていたのだから、もう笑うしかありません。 超常的な兵器に関わっていた校長さんなので、もしかしたあのマスクも特別性で、体型を自由に操れる効果があったのかも知れませんが、そんな解釈を行う事すら野暮に思えてきます。 今になって考えてみるに、製作者側も「どうぞ笑って下さい」「どうぞツッコんで下さい」という姿勢で用意した、確信犯的オチだったのではないでしょうか? こういった「狙って作った馬鹿映画」は初体験だったという事もあり、色々と印象深いものがありました。 映画単品として面白かったとは言い難いのですが、新鮮な衝撃を与えてくれた事、色々と話のタネになってくれた事を考えると、自分は死ぬまでこの映画のタイトルを覚えていそうで、ちょっと憂鬱になったりもしますね。 そんな諸々を含めて、愛すべき映画……とまではいかないけれど、どうも嫌いになれない映画です。 [DVD(字幕)] 2点(2020-06-18 12:23:25) |
18. 市民ケーン
《ネタバレ》 本屋に置かれている廉価版ソフトの帯に「映画史上ベスト1の名作」なんて書かれていたりする本作。 そこまで堂々とされてしまうと、ついつい天邪鬼根性を起こしそうになるものですが、やはり素晴らしい品だなぁ、と感嘆せずにはいられない一品でしたね。 作中人物達が知り得る事が敵わなかった秘密「バラのつぼみ」が何であったのかを、観客だけが知る事になるラストシーンが特に秀逸。 また、終盤にてケーンが邸内を彷徨う際に、合わせ鏡の中にケーンの像が無数に移り出される場面なども「結局、自分一人だけしかいないのだ」という、主人公の孤独を台詞無しに伝えてくれる映像表現として、背筋が震えるような感動を覚えました。 色々と曰く付きの問題作でもあり、そういった事が後世の評価に影響を与えているのかも知れませんが、背景情報などを考慮せずとも、充分に楽しめる品であると思います。 [DVD(字幕)] 10点(2020-06-13 19:15:04) |
19. ジョーズ'87/復讐篇
《ネタバレ》 初代「JAWS/ジョーズ」では夫であるマーティン・ブロディにスポットが当たり、二作目では次男であるショーンに、三作目では長男であるマイクに、そして四作目では妻であるエレンにスポットが当たっている。 即ち、このシリーズは巨大鮫とブロディ一家との戦いの歴史を描いた一大抒情詩なのである……と言いたいところなのですが、ちょっと無理がある気がしますね(主に次男) いずれにしても、過去作においてさほど存在感を発揮していなかったエレンなので、四作目にて主人公に抜擢されても「消去法で、仕方なく」という理由にしか思えないのが、寂しいところです。 前作で水中遊園地を舞台にし、娯楽色を強めていたのと比べると、海を舞台にしたシリアスな作りとし、原点回帰を目指したのが窺える本作品。 でも、それにしてはジョン・ウィリアムズの音楽を使用していなかったりして、何だか片手落ちな印象が強いですね。 エレンの恋愛要素にスポットを当てたのは原作小説からの引用とも考えられるのですが、それならそれで、原作通りのリアルなサメの描き方も再現して欲しかったなぁ……なんて、つい思っちゃいます。 サメの造形も、シリーズ中で一番酷いんじゃなかろうかと思える出来栄えだし、おまけに模型をプカプカと水に浮かべているだけなシーンまである始末。 終盤にエレンが襲われる件でも、口の開け方が同じままガーっと斜めに突き出しているだけって感じの描き方であり、これにはガッカリしちゃいました。 何というか「チャチな作りを誤魔化そう」とか「なるべく本物っぽく見えるようにしよう」とか、そういう意思が伝わってこないんですよね。 たとえ特撮技術のレベルが低くとも、作り手の熱意が感じられたら「愛嬌」として笑って楽しむ事も出来るんですが、本作に関しては「手抜き」「やる気が無い」という印象だけが残りました。 それと、本作はシリーズ中で最も恋愛色が濃い作品なのですが、それが未亡人エレンの老いらくの恋というのも(何だかなぁ……)とゲンナリしちゃいましたね。 中年や老人をテーマとした恋愛映画も悪くないとは思うんですが、本作に限っては「初代の主人公であるブロディ署長が、心臓麻痺で死んだ事にされている」「未亡人のエレンがポッと出の中年男にアプローチをかけられ、嬉しそうにしている」って図式の為、どうしても二人の恋を応援する気持ちになれなかったです。 また、本作には二通りのエンディングが存在しており、DVDに収録されていた使い回し爆発エンドに比べると、劇場公開版(自分が観たのは、そちらを地上波で放送したバージョン)は多少は現実的な倒し方になっているのですが、いずれにしてもカタルシスを得られるとは言い難い内容。 劇場公開版に点数を付けるとしても、DVD版と同じ点数になってしまいそうです。 長所としては、舞台となるバハマの海が綺麗であった事。 そして、サメは歴代でも一番大きいと思われるサイズの為、迫力を感じるシーンも幾つかはあったと、その辺りが挙げられそうですね。 何にも増して、シリーズ最終作がハッピーエンドを迎えてくれた事に関しては、素直に喜びたいところです。 [DVD(字幕)] 3点(2020-05-12 15:01:50)(良:1票) |
20. 四十七人の刺客
《ネタバレ》 とにかく展開が早い早い。 なんせ冒頭いきなり「大石内蔵助は既に藤沢を出て、鎌倉に潜入していた」とナレーションで語られるくらいですからね。 大石内蔵助とは何者なのか、何故鎌倉に潜入したのか、などの説明は放ったらかしにして、どんどんストーリーが進行していくという形。 忠臣蔵映画には上下巻に分かれている代物も珍しくない為、もしや下巻に相当するディスクから再生してしまったのだろうかと、確認してしまったくらいです。 全体的に「観客の皆は、忠臣蔵のストーリーくらい当然知っているよね?」という前提で作られているようであり、予備知識が備わっていない人にとっては不親切な作りにも思えましたね。 せっかくナレーションで色々と説明してくれているのに、それも「コレはこういう役職であり、この人はこういう人で~」と理解を促すような内容ではなく、あくまでも状況説明に留まっている感じ。 大石側と色部側の謀略戦にスポットが当てられているのは面白かったのですが、どちらかといえば宮沢りえ演じるヒロインとの恋模様が中心となっているのも、ちょっぴり不満。 幾らなんでも男女の年齢差があり過ぎて、アンバランスな組み合わせに思えるのに、描き方はといえば「普通の男と女」といった感じでスタンダートに仕上げられているのが、観ていて居心地が悪かったのですよね。 ラストシーンといい、ともすれば宮沢りえのアイドル映画と言えそうなくらいの登場比率なのですが、自分としては彼女は脇役に留めておいた方が良かったんじゃないか、と思えてしまいました。 その一方で「襲撃者に足音を消されぬよう、屋敷の周りに貝殻を敷き詰めておいたりして、入念な準備を整えた上で敵を返り討ちにする大石親子」などの場面は、実に良かったですね。 切り裂く時の音が空振りしているようにしか聞こえない点など「えっ?」と思わされる瞬間もありましたが、ハードボイルドな高倉内蔵助の魅力が堪能出来たワンシーンでした。 終盤にて、黒尽くめの刺客が吉良邸の門前に集い「四十七人」と総数を読み上げられる場面もテンションが上がりましたし「握り飯と水を補給する」「刃毀れに備えて替えの刀を用意しておく」といった兵站面を重視した描写も良い。 吉良屋敷に迷路が拵えてある点などは、冒頭で知らされた際には「えっ、何それ」「そんなコミカルな忠臣蔵だったの?」という戸惑いの方が大きかったのですが、それも実際に戦う場面では、予想していたよりもシリアスな見せ方で「殺し合い」という空気を決定的に損なってはおらず、上手いなぁと感心。 いざ討ち入りになってから、唐突に「実は吉良屋敷は迷路になっていたのだ」と種明かしされる形だったら、流石に「なんだそりゃ!」と衝撃を受けてしまい、テンションだだ下がりになっていたでしょうけど、この場合は映画が始まってすぐに「迷路になっているよ」と観客に教えておく事により、自然と消化されるのを待つというテクニックが用いられているのですよね。 それが効果を発揮してくれたみたいです。 ラストの大石の一言「知りとうない」に関しては、色々と解釈の分かれそうなところ。 「武士の意地を見せる為に決起したのだから、本当は真相など、どうでも良い」 「最初は真相を知りたいという気持ちもあったが、もはや自らの死も覚悟して討ち入りした以上、真相究明などは些事に過ぎない」 などと考える事も出来そうな感じでしたね。 以下は、自分なりの解釈。 「討たれる覚えはない」「いきなり浅野が喚いて、儂に切り掛かってきたのだ」「二人の間に遺恨などあろうはずがない」という吉良側の証言を信じるなら、恐らく真相は「浅野が乱心した」というものであり、吉良を含めた幕府側が口を噤んでいたのも、浅野の名誉を慮っての事だったのではないでしょうか。 つまり、大石が「知りとうない」と言い放ったのは「真相に興味がない」ではなく「真相を知りたくない」という意思表明。 吉良の口を永遠に塞ぐ事こそが、討ち入りの目的の一つだったのではないかな、と。 そもそも大石は情報戦の一環として「浅野内匠頭は賄賂を行わなかった正義の人である」という噂を流すなど、主君を美化しようとする意志が窺える男です。 内心では薄々「殿は乱心めされたのだ」と勘付きつつも、序盤で仲間に語り聞かせた通りの「優しい殿」であって欲しかったという願いゆえに、吉良の口から真相を聞かされる事を拒み、浅野のように派手に刀を振り下ろす事なく、冷静に突き殺してみせたのではないか、と感じられました。 もし、本当にそうであったとすれば、何とも切ない映画だと思います。 [DVD(邦画)] 6点(2020-03-01 22:15:16)(良:1票) |