1. トレマーズ
現代人は、自らの過剰さに対する幻想に囚われるものである。その顕著な例が青春時代に僕らが経験する様々な鬱屈や疎外感であるが、それらの幻想は大人への成長という物語によって回収されるのがこれまでの常であった。しかし、僕らはもう、そういう物語によって、自らの過剰さを制御できないのではないか。 現代のラディカルな心情というのは無根拠の内に潜んでいるのだ。そこには如何なる物語も届かない。共同性が壊れ、薄っぺらな幻想が崩れた地平に現われた無根拠の過剰さは、まるで映画『トレマーズ』の怪物のように突如として地上に亀裂を走らせ、人を襲うのである。僕らは何だか訳の分からない怪物を相手に戦っているのだろうか。そうであれば、セキュリティがいくら強化されても、僕ら自身で亀裂を抑えることはできない限り、それは自身の無力さを実感するしかないというものだろう。 この映画、怪物という存在の無根拠さに由来する恐怖、それと闘わざるを得ない徒労、壮大なメタファーの上に描かれた実に現代的な物語なのかもしれない。 【後記】これってモンスターと戦うゲームだったんだね。無根拠さに由来する壮大なメタファーって、要はゲーム的リアリティのことだったのか。ゲームだから単純に楽しめるんだね。。 [ビデオ(字幕)] 7点(2004-11-06 21:06:01)(良:1票) |
2. トパーズ(1992)
「トパーズ」は、村上龍の優れた連作小説である。そして映画は村上龍が監督した唯一魅せる作品でもある。「トパーズ」は、SM嬢やホテトル嬢など、僕らから見たらどん底と思える仕事に従事している少女達の語りを通して、人が人として在るべきポジティブな姿が垣間見える不思議な味わいのある小説だ。悲惨な待遇を受け入れ、時に恐怖と隣り合わせにありながら、彼女達の語りは、単純に絶望しているとは思えない、何か一筋の光を思わせる、まさに宝石の如きキラキラとした輝きをみせるのである。彼女たちのアブノーマルな性質の中に見る実にノーマルな人間的輝きは、世界から沈下した彼女たちが見上げるアッパーサイドの僕たちの世界への視線であり、それはいつの間にか彼女たちと僕たちの関係性を超えて、生きていくことそのものの本質的な視線を捉えていく。逆に僕たちこそがこの世界に希望を持つことが叶わない存在としてあるのではないか。この作品は僕らにそう問いかけているように感じる。その捩れた問いが僕らに奇妙だが深い感慨をもたらす、実に不思議な感覚の小説なのである。さて映画はどうかといえば、さすがに原作者が映画化しただけあって、そのモチーフはまた別の形をもって作品化されていると感じた。小説の特徴である少女たちの「語り」は確かに映画で表現できえるものではないが、語りが沈黙へと変化してもそのモチーフは十分に理解できたように思う。小説が「語り」を手段としたのに対し、映画は彼女たちと僕たちの「視線」そのものを描くことによって、この作品のモチーフを再構築してみせる。その視線はとても静かである。それがこの映画を「魅せる」作品と感じさせる所以なのだろう。 8点(2004-07-17 02:10:25) |
3. 東京兄妹
一見すると淡々としていて、ある種、客観的な映像に思えるかもしれない。しかし、ほんのさりげない仕草が画面の空気に微妙な色合いを与えているのが分かるだろうか。そんな登場人物たちの僅かに揺れ動く情動が、僕らの心の澱にもささやかな波紋を広がらせるのである。簡単に言えば、、、なんかミョーにしみじみしちゃうんだよなぁ。 10点(2004-02-14 01:54:05) |
4. ドアーズ
結構観れると思いますよ。ヴァルキルマーもわりと雰囲気があったし。ちなみに僕はドアーズ好きです。ロックファンなら1,2枚目とラストアルバムは必聴でしょう。ドアーズの音楽は30年以上経った今でも十分聴ける、普遍性のあるロックだと思いますけど。つまり本物ってこと。ボーカルのインパクトにも増して、演奏が素晴らしいし、曲もGoodです。まぁドアーズを知らないとか嫌いだとか言っている人は、この映画を観てもしょうがないのかもしれない。ただ60年代後半~70年代前半のロックが好きな人なら見て損はない。 8点(2003-09-07 23:26:18) |
5. トカレフ(1994)
ラストの乾いた銃声が妙に印象に残る映画でした。<ラストシーン自体もすごいけどね>佐藤浩市演じる男は実に現代的な殺人者だと思うけど、立ち向かう側の主人公もかなり奇妙です。それはそれである種のリアリティがある。でも最も乾いていたのはヒロインかな。 9点(2002-03-17 01:46:45) |
6. トリコロール/青の愛
青は孤独に美しい。この映画で表現されるビノシュの青は、哀しみです。画面の彼女が崩れ落ちるとき、青白い素肌が妖艶な炎のように、情景に広がる静謐から沸き立ちます。僕らは、ただひたすら、彼女の青に溶け込む透徹な美しさ、何ものをも受容しない絶望の美しさに酔うのみなのでしょう。フランス国旗のトリコロールの青は自由を表すといいますが、哀しみが何ものにも代えられない自分を抱えることと同義であるという意味において、この映画の青と象徴的な重なりをみせるのでしょう。 10点(2002-03-01 02:29:10) |
7. 東京夜曲
とても静かでいい映画です。静かだけど、揺れのある、振幅は狭いけれど、たえず微かに揺れている、そんな映画です。出ている人達は何故か皆な照れていて?!、とても微妙な表情をしている。(僕には生き生きして見えるんだなぁ。これが。) そんな微妙さの中に様々な情動が見え隠れして、それがなんとも言えないリアルな色気を感じさせるのです。結構ぐっときます。桃井かおりに長塚京三、そして倍賞美津子、キャスティングも秀逸。「東京兄妹」もよかったけど、こっちもかなりいいですね。 10点(2002-01-17 02:22:48) |