1. 日の名残り
《ネタバレ》 第一次大戦後から第二次世界大戦にかけての激動の時代を、英国上流階級の貴族に仕えるある執事の視点から描いたヒューマン・ドラマ。原作は、今や世界的な大作家となった日系英国人カズオ・イシグロ。主演を務めるのは、もうこれ以上ないくらいのまさに嵌まり役というしかない名優アンソニー・ホプキンス。もちろん本作のことはずっと前から知っていたのですが、以前読んだ原作があまりに素晴らしかったので、そのイメージが壊されるんじゃないかとの懸念が拭えず、ずっと未鑑賞のままでした(だって『わたしを離さないで』という前例があるしね)。でも、ネット配信サービスのラインナップの中に本作のタイトルがあったので、満を持して今回鑑賞してみました。率直な感想を述べさせてもらうと、いや、なかなか良かったんじゃないでしょうか。原作では、このスティーブンスという堅物の執事の「私」という一人称で話が進んでいくのだけど、もちろんこの執事は仕事一筋の超真面目人間なのでそこに一切個人的な感情は書かれていません。でも、読者は彼の同僚である女性への秘めたる想いをひしひしと感じとることが出来て、その切なさに誰もが胸打たれずにはいられないというまさに名作と呼ぶにふさわしい作品でした。映画では逆に、この主人公のモノローグを一切使わなかったのは英断だったと思います。それでもちゃんとこのスティーブンスの仕事第一主義に徹するあまり、自らの感情を二の次にしてきたことの後悔や孤独感をちゃんと感じ取れたのは凄いことですね。特に、この主人公と密かに想いを寄せるヒロインが暗い部屋の中でぐっと近づくシーンは出色の名シーンでした。「もしあの時、ほんのちょっと勇気を出して彼女にキスしていれば僕の人生は違ってたかもなぁ」なんて、誰もがふと思い出すような青臭い感情をビシバシ突いてきて、もう切ないのなんの(笑)。んでも確かに、この彼女が結婚を機に仕事を辞めることを決断した夜、思わず部屋で泣いてしまった彼女の元へとスティーブンスが入ってゆくというのはやり過ぎですね。ここは原作通り、スティーブンスが部屋のドアの前で彼女の泣き声を聞いたのにそれでも声を掛けられなかったとした方がより、後のこの主人公の悔恨がくっきりと際立ったと思うんですけどね。とはいえ、歴史の巨大なうねりの中でちっぽけに埋もれてゆく個人の感情という何処か日本的な〝もののあはれ〟もしっかりと描かれていたし、なかなか良い映画化作品だったんじゃないでしょうか。教訓。キスしなかったことを後悔するより、キスして後悔した方が絶対いい! [インターネット(字幕)] 8点(2020-11-14 01:17:20) |
2. ピースメーカー
《ネタバレ》 ボスニア紛争を背景にした社会派アクション映画。エンタメ映画として楽しめる要素をちゃんと押さえていながら、それでも当時の社会についても深く考えさせてくれる。冷戦以後、超大国の影響力が急速に薄れてしまった世界でまるでたがが外れたように頻発する地域紛争。試行錯誤する欧米社会が〝平和の使者〟面をして、行った軍事介入とそこから派生する憎しみの連鎖が果たして何を生み出してしまったのか。その後の911テロのことを考えれば、この映画がどれだけ深い問題を扱っていたかがよく分かる。ま、そんな堅苦しいことを抜きにしても、ジョージ・クルーニーの男らしい格好良さとか、ニコール・キッドマンの若々しい美しさとか、単純にアクション映画として観ても充分に楽しめる良質の娯楽作品。 [DVD(字幕)] 8点(2013-05-02 14:15:36) |
3. ヒート
《ネタバレ》 『ゴットファーザーⅡ』以来の、アル・パチーノ&ロバート・デ・ニーロという世界でも最高峰に位置するであろう二大俳優の競演という奇跡のキャスティングで撮られたハードボイルド・アクションの傑作。もう冒頭からの二人の円熟の演技合戦が最高です。思えば、このころが二人の俳優としての最後の頂点だったのではないだろうか。そしてまさにどんどんと〝ヒート〟していくストーリー、徐々に高まっていく緊張感、その臨界点に達したところで唐突に暴発する白昼の銃撃戦!もう、堪らないっす!!それ以外にも、まだ若手だったころの(そして太っていなかったころの)ヴァル・キルマーなどの脇役陣も素晴らしい。もう、男の男による男のための映画!大好きです。 [DVD(字幕)] 9点(2013-04-30 17:10:00) |
4. 羊たちの沈黙
《ネタバレ》 もう映画の神様が現場に舞い降りてきたんじゃないかってくらい、奇跡の完成度を誇るサイコ・サスペンスの古典的名作。それまでシュワちゃんやスタローンやインディジョーンズとかのアクションエンタメ、あるいはゾンビ系のホラー映画しか観てこなかった当時の僕に、ガツンと強烈な衝撃を与えてくれたことを今でも鮮烈に覚えています。主人公は、まだ幼さが残りながらもその心に抱えたトラウマから強い正義感を持ったFBI訓練生、クラリス。そんな彼女に、女性を次々とさらってきてはその皮を剥ぎ、死体を河に捨てるという残虐な猟奇殺人犯バッファロウビルの捜査の過程でとある指令が廻ってきます。それは、かつて自分の患者7人を無残にも殺しその肉を喰らったとして獄中にあるかつての天才精神科医レクター博士の意識調査をしてほしいというもの。軽い気持ちで引き受けたクラリスでしたが、暗鬱な地下牢の奥深くに待ち受けていたのは、社会のちっぽけなモラルや常識など一切通用しない恐るべきモンスターだった…。画面の端々にまで横溢する不穏な空気感がとにかく素晴らしく、おどろおどろしいそんなストーリーを見事に盛り上げてくれています。そして、何より特筆すべきは、やはり“クラリス=ジョディ・フォスター”“レクター博士=アンソニー・ホプキンス”という奇跡とも呼べる見事なキャスティングでしょう。特に、レクター博士という強烈な〝悪〟を体現してみせた、希代の殺人鬼を見事に演じきったホプキンスは映画史上屈指の名演!これ以降、似たようなサイコ・サスペンスが量産されるのですが、いまだレクター博士を超えるようなキャラクターは一向に出てきていません。この世の中には、世間では常識と信じられているモラルなど一切通用しない暗い世界が隠されていて、そこには必ずといっていいほど男の歪んだ性欲が絡んでくる。もしかしたらこの社会を形作る源泉なのかも知れないそんな男たちの性欲に決然と立ち向かうクラリス、彼女を父のように見守りながら勝利へと導く社会から超越した存在であるレクター博士…。正義と悪の定義を根底から覆してみせるその深いストーリーは、混迷する現代社会にあっても一向に色褪せることはありません。映画史に残る唯一無二の名作として語り継がれるのも納得の素晴らしい出来だとあらためて思います。 [DVD(字幕)] 9点(2013-03-29 14:39:31)(良:1票) |
5. ピアノ・レッスン
《ネタバレ》 もう、もろ17世紀のヨーロッパの小説だとか絵画だとか音楽だとかの持つ雰囲気を奇跡なまでに二時間の映画に纏め上げた秀作。それでいて画面には一向に古さが感じられない。それが監督のセンスなんだろう。特に、指を切られたあと、一人森に佇む主人公の姿は印象派の絵画のように素晴らしい。あと、マイケル・ナイマンの繊細で美しいサントラも忘れられない。 [DVD(字幕)] 8点(2013-03-27 13:41:56) |